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高等部 1年生
アリア覚醒(前編)
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「ついにジュリア選手が魔法攻撃を始めたー!」
ジュリアが小さな水球を作り出し、私に向かって次々と射出してくる。
誰も止めない所を見ると、水球はルール内での攻撃のようだ。
水の塊だから触る分には柔らかいけど、あのスピードで当たればさすがにダメージは免れない。
普通であれば焦るところだろう。
だけど私は、お母様が訓練をつけてくれたお陰で、《水の魔法》の攻撃パターンを大体把握している。
……だからかな?
ジュリアの攻撃が手に取るように分かる。
『手に取るように分かる』なんて。ちょっとかっこいいな、私。
……じゃなかった。
でもジュリアの魔力が強いなら、この攻撃が途切れる事もないだろう。
長期戦の場合、避けてるだけが精一杯の状態では、確実に不利だ。
勝てると思って、ジュリアが手加減をしている今の内に何か仕掛けないと!
何かいい方法はないかと悩んでいると、急に攻撃が止んだ。
「なるほど。魔法を受ける訓練はしてきたみたいね。でも……これなら、どうかしら?」
余裕たっぷりの笑みを浮かべながら、ジュリアが魔法を唱える。
──形態が変わった!
水に混ざって、氷の飛礫の攻撃も加わってきた。
飛礫の方が水球よりもずっと細かくて、何より数が多い。
まずい! さすがに全ては避けきれない!!
……避けきれない以上はせめて魔法に集中できないよう、私からも積極的に攻めていくしかない。
とはいえ、攻めると今よりも攻撃が当たってしまうし……どうしたものか。
んー、そうだ!
単純だけど、話し掛けて動揺させよう!!
「警護を招集したのは、ジュリア……さんと聞きました。試合後に、貴方の行った事を包み隠さず報告しますから」
私の言葉を聞いたジュリアの動きが止まる。
何の問題もないと言わんばかりにほくそ笑むと、ゆっくりと口を開いた。
「……どうぞご自由──」
いまだ!
答えも聞かず、ジュリアの元へ一目散に走る。
「なっ」
お母様に鍛えてもらった体術を使い、間合いに入ると同時に攻撃を仕掛けた。
多少の魔法は受ける覚悟で、蹴りや突きといった技を休む事なくジュリアに浴びせる。
容姿に絶対の自信を持っているジュリアの性格からして、きっと顔に怪我をしたくないはずだ。
魔法を唱えさせない為にも、重点的に顔を狙おう!
私の攻撃を必死に避けながら、ジュリアが魔法を唱える。
けれど、躱す方に集中しているせいで、うまく詠唱できていない。
よし! 予想通り!!
……そして、ソフィーさんが話していた通りかも。
今のジュリアが本気だとしたら、体術や剣術だけなら私でも勝てる気がする。
さっきまで見せていた余裕の笑みがジュリアから完全に消えた。
代わりに、心底不快そうな表情へと変わっている。
「し、しつこいわね!」
そんなの当たり前!
じゃないと、魔法使うじゃん。
『アリアは魔法が使えない分、相手に魔法を使わせないだけ攻撃を続けられる体力をつけますよ』
そう笑顔で告げられたこの日から、私はお母様の地獄の訓練を受けてきた。
本っ当につらかった!
何度も『なんで私こんな事をしているんだろう』って思った。
だからこそ、体力にはかなり自信がある!!
ペースを落とす事なく、ただひたすらに攻撃を続ける。
すると、先に体力が切れてきたのか、ジュリアが足を滑らせた。
その瞬間──私の蹴りがジュリアの左頬にクリーンヒットした。
まさか当たるとは……!
その衝撃でジュリアが大きくよろける。
これはチャンスだ! 悪いけど、さらに攻撃して降参してもらうよ。
追い打ちをかけるように、ジュリアの目の前まで素早く移動する。
攻撃しようと構えたところで、ふいに荒々しい顔つきをしたジュリアが、私に向かって手の平を広げた。
──えっ!?
驚く私の前に、突如として巨大な水の壁ができる。
今、ジュリアは魔法を唱えてた?
確実に体はよろけていたから、唱える暇なんてなかったはず……。
「ジュリア選手、巨大な水の壁で防御したー! アリア選手、これは攻撃できなーい!」
メロウさんの実況が聞こえてくる。
周りの人は、ジュリアが防御魔法を唱えたと思っているのかもしれない。
今はそんな事よりも……困った。
カウイのようにジュリアも水の形を自由自在に変えれるなら、壁を作ったまま攻撃できるかもしれない。
少しだけ距離を取り、油断する事なくジュリアの動きを待つ。
すると、水の壁越しにジュリアの怒号が聞こえてきた。
「血がぁ、血が出ているわ!」
……もしや、蹴った時に怪我でもしたのかな?
「よくも私の顔に傷をつけたわね! 絶対に許さない! 貴方の顔を人前では見られないくらい傷つけてやるわ!!」
とても怒ってらっしゃる。
「……そうね、いい事を教えてあげるわ」
……こういう時に言う事は、多分、いい事じゃないんだろうなぁ。
「私は『誰にも負けないくらい強い魔力を持っている』と言ったでしょう? それがどういう事か分かる?」
んー、『“アリア”なんて、簡単に傷つけられるのよ!』ということ?
「この水の壁、魔法を唱えずに作ったの」
やっぱり! 魔法を唱えてなかったんだ!!
そんな事ができるんだ……。
「ふふ。この事はお父様以外、誰も知らないわ。私は魔法を唱えなくても魔法での攻撃、防御が自由自在にできるのよ。……多分、転生者の特権ね」
そうなると、私も魔法を唱えなくても魔法が使える事になるのですが。
「つまり、あたかもルール内で攻撃しているように見せかけて、誰にも疑われる事なく“水の槍”であなたの体を突き刺す事もできるのよ」
──!!!
今のセリフで思い出した。
『貴方とはこの試合が“最後”だもの』という言葉。
ジュリアは……きっと私を殺す気だ。
今? いや、たくさんの観客が見ているから試合中じゃないかもしれない。
でも遅かれ早かれ、自分の思い通りにならなかった私を消す気だ。
「なんて、さすがに“水の槍”はバレちゃうわね。ふふ、違う攻撃を考えないと」
楽しそうに笑うジュリアの声が聞こえてくる。
人を“水の槍”で刺す話をして、笑ってるなんて……やばい人だな。
「さて、“終わり”にしましょうか」
余裕が戻ってきたのか、ジュリアが魔法を唱え始めた。
必要ないのにわざわざ詠唱するって事は、現状はあくまで秘密にしておきたいって事なんだろうな。
もしくは通常よりも魔力の消費量が激しいとか……。
多分、さっき攻撃されたように“水球”か“氷の飛礫”での攻撃がくる、と思う。
この2つは誰も止めないところ見ると、ルール内のはず。
たださっきの発言から、誰にも気づかれない形で私に致命傷を与える攻撃も……来る可能性がある!
「さようなら、“アリア”」
ジュリアが小さな水球を作り出し、私に向かって次々と射出してくる。
誰も止めない所を見ると、水球はルール内での攻撃のようだ。
水の塊だから触る分には柔らかいけど、あのスピードで当たればさすがにダメージは免れない。
普通であれば焦るところだろう。
だけど私は、お母様が訓練をつけてくれたお陰で、《水の魔法》の攻撃パターンを大体把握している。
……だからかな?
ジュリアの攻撃が手に取るように分かる。
『手に取るように分かる』なんて。ちょっとかっこいいな、私。
……じゃなかった。
でもジュリアの魔力が強いなら、この攻撃が途切れる事もないだろう。
長期戦の場合、避けてるだけが精一杯の状態では、確実に不利だ。
勝てると思って、ジュリアが手加減をしている今の内に何か仕掛けないと!
何かいい方法はないかと悩んでいると、急に攻撃が止んだ。
「なるほど。魔法を受ける訓練はしてきたみたいね。でも……これなら、どうかしら?」
余裕たっぷりの笑みを浮かべながら、ジュリアが魔法を唱える。
──形態が変わった!
水に混ざって、氷の飛礫の攻撃も加わってきた。
飛礫の方が水球よりもずっと細かくて、何より数が多い。
まずい! さすがに全ては避けきれない!!
……避けきれない以上はせめて魔法に集中できないよう、私からも積極的に攻めていくしかない。
とはいえ、攻めると今よりも攻撃が当たってしまうし……どうしたものか。
んー、そうだ!
単純だけど、話し掛けて動揺させよう!!
「警護を招集したのは、ジュリア……さんと聞きました。試合後に、貴方の行った事を包み隠さず報告しますから」
私の言葉を聞いたジュリアの動きが止まる。
何の問題もないと言わんばかりにほくそ笑むと、ゆっくりと口を開いた。
「……どうぞご自由──」
いまだ!
答えも聞かず、ジュリアの元へ一目散に走る。
「なっ」
お母様に鍛えてもらった体術を使い、間合いに入ると同時に攻撃を仕掛けた。
多少の魔法は受ける覚悟で、蹴りや突きといった技を休む事なくジュリアに浴びせる。
容姿に絶対の自信を持っているジュリアの性格からして、きっと顔に怪我をしたくないはずだ。
魔法を唱えさせない為にも、重点的に顔を狙おう!
私の攻撃を必死に避けながら、ジュリアが魔法を唱える。
けれど、躱す方に集中しているせいで、うまく詠唱できていない。
よし! 予想通り!!
……そして、ソフィーさんが話していた通りかも。
今のジュリアが本気だとしたら、体術や剣術だけなら私でも勝てる気がする。
さっきまで見せていた余裕の笑みがジュリアから完全に消えた。
代わりに、心底不快そうな表情へと変わっている。
「し、しつこいわね!」
そんなの当たり前!
じゃないと、魔法使うじゃん。
『アリアは魔法が使えない分、相手に魔法を使わせないだけ攻撃を続けられる体力をつけますよ』
そう笑顔で告げられたこの日から、私はお母様の地獄の訓練を受けてきた。
本っ当につらかった!
何度も『なんで私こんな事をしているんだろう』って思った。
だからこそ、体力にはかなり自信がある!!
ペースを落とす事なく、ただひたすらに攻撃を続ける。
すると、先に体力が切れてきたのか、ジュリアが足を滑らせた。
その瞬間──私の蹴りがジュリアの左頬にクリーンヒットした。
まさか当たるとは……!
その衝撃でジュリアが大きくよろける。
これはチャンスだ! 悪いけど、さらに攻撃して降参してもらうよ。
追い打ちをかけるように、ジュリアの目の前まで素早く移動する。
攻撃しようと構えたところで、ふいに荒々しい顔つきをしたジュリアが、私に向かって手の平を広げた。
──えっ!?
驚く私の前に、突如として巨大な水の壁ができる。
今、ジュリアは魔法を唱えてた?
確実に体はよろけていたから、唱える暇なんてなかったはず……。
「ジュリア選手、巨大な水の壁で防御したー! アリア選手、これは攻撃できなーい!」
メロウさんの実況が聞こえてくる。
周りの人は、ジュリアが防御魔法を唱えたと思っているのかもしれない。
今はそんな事よりも……困った。
カウイのようにジュリアも水の形を自由自在に変えれるなら、壁を作ったまま攻撃できるかもしれない。
少しだけ距離を取り、油断する事なくジュリアの動きを待つ。
すると、水の壁越しにジュリアの怒号が聞こえてきた。
「血がぁ、血が出ているわ!」
……もしや、蹴った時に怪我でもしたのかな?
「よくも私の顔に傷をつけたわね! 絶対に許さない! 貴方の顔を人前では見られないくらい傷つけてやるわ!!」
とても怒ってらっしゃる。
「……そうね、いい事を教えてあげるわ」
……こういう時に言う事は、多分、いい事じゃないんだろうなぁ。
「私は『誰にも負けないくらい強い魔力を持っている』と言ったでしょう? それがどういう事か分かる?」
んー、『“アリア”なんて、簡単に傷つけられるのよ!』ということ?
「この水の壁、魔法を唱えずに作ったの」
やっぱり! 魔法を唱えてなかったんだ!!
そんな事ができるんだ……。
「ふふ。この事はお父様以外、誰も知らないわ。私は魔法を唱えなくても魔法での攻撃、防御が自由自在にできるのよ。……多分、転生者の特権ね」
そうなると、私も魔法を唱えなくても魔法が使える事になるのですが。
「つまり、あたかもルール内で攻撃しているように見せかけて、誰にも疑われる事なく“水の槍”であなたの体を突き刺す事もできるのよ」
──!!!
今のセリフで思い出した。
『貴方とはこの試合が“最後”だもの』という言葉。
ジュリアは……きっと私を殺す気だ。
今? いや、たくさんの観客が見ているから試合中じゃないかもしれない。
でも遅かれ早かれ、自分の思い通りにならなかった私を消す気だ。
「なんて、さすがに“水の槍”はバレちゃうわね。ふふ、違う攻撃を考えないと」
楽しそうに笑うジュリアの声が聞こえてくる。
人を“水の槍”で刺す話をして、笑ってるなんて……やばい人だな。
「さて、“終わり”にしましょうか」
余裕が戻ってきたのか、ジュリアが魔法を唱え始めた。
必要ないのにわざわざ詠唱するって事は、現状はあくまで秘密にしておきたいって事なんだろうな。
もしくは通常よりも魔力の消費量が激しいとか……。
多分、さっき攻撃されたように“水球”か“氷の飛礫”での攻撃がくる、と思う。
この2つは誰も止めないところ見ると、ルール内のはず。
たださっきの発言から、誰にも気づかれない形で私に致命傷を与える攻撃も……来る可能性がある!
「さようなら、“アリア”」
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