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高等部 1年生

オーンの厳しい対決(後編)

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──始まった。

すると、ユーテルさんがいきなり剣を抜いた。

「前半は観客を楽しませる為に少し剣で戦いませんか?」
「…………」

返答に迷っていると、ユーテルさんがさらに話を続ける。

「少しお話もしたいと思いまして……」
「……いいでしょう」

応援している女性達がいる手前、卑怯な真似はしないだろう。
頷くと、腰に差していた剣を抜く。

「おおー! お互いに剣を抜いたー! 最初は剣術対決のようです!!」

快活なメロウさんの声が試合会場に響いた。

ユーテルさんがまるで小手調べとでもいうように攻撃を仕掛けてくる。
半歩下がり、右斜めから振り下ろしてきたユーテルさんの剣を受け止めると、今度はこちらから剣を振るう。
その後もお互い探り合うように剣を交えていく。

「弟がお世話になったようですね」
「いえ、お世話になったのはこちらの方です」

ふっとユーテルさんが微笑んだ。

「恥ずかしながら、弟から私との仲を聞きましたよね?」
「はい、聞きました」

当たり障りのない、必要最低限の言葉だけを返す。

「弟は分かっていない」

…………?

「なるべく多くの女性の好意に応える。それが、唯一無二の才色兼備な男性に生まれてしまった……私の使命だと思っています」
「……自分に自信がお有りなようですね」

もしや『少し話がしたい』と言ったのはこの為なんだろうか?

「ええ、私に見つめらえて惚れない女性はいないと思っています」
「そうですか。少なくとも当てはまらない女性が4人はいるようですが?」

剣を交えながら、ユーテルさんが『まさか』とでも言うような表情をした。
その後、4人という言葉に僕が何を言いたいか気がついたようだ。

「なるほど。オーン殿下の幼なじみの事ですね……まぁ、今はそうでしょう」

……会話が難しい人だな。

「考え方が合いませんね。私はたった1人の、大切な人にさえ想ってもらえれば……それだけで十分満たされます」
「オーン殿下ほどの人がそう思うなんて……もったいない」

もったいない……?
僕はアリアと出会うまで、人を本気で好きになる事はないだろうと思って生きてきた。
だからこそ、そんな事を考えた事すらなかったな。

「オーン殿下が望めば、手に入らないものなんてないじゃないですか」

そう思われる事は多いが……。

「そんな事はないですよ。……話したい事とはそれだけですか?」
「ああ、申し訳ない。では、本題へ。ジュリアについてです」

ジュリアさん?

「数日前から……私たちに対する態度が変わりまして。そちら側が何かジュリアを惑わすような話をしたのかと……」

態度が変わった……?

「そのような事は、言った覚えはありません」

むしろ、こちらがジュリアさんに“された側”だ。

「そうですか。それは失礼しました。なんとなくですが……私たちに対して冷めたような態度を取るようになったので、何かあったのかと勘ぐってしまいました」

冷めたような態度? 何かあったのか?

そもそもジュリアさんの行動は謎が多すぎる。
向こうから試合を申し込んできて、アリアを人質にとり、負けるよう脅す……もはや何をしたいのか分からない。

「では、そろそろ本気で試合をしましょうか」

そう言うとユーテルさんが僕から距離を取り、腰に剣をしまった。
僕も剣をしまい、魔法を唱え始める。

小さい雷球を大量に作り出たユーテルさんが、僕に向け、時間差で次々と射出してくる。

かわせそうな雷球は身をひねってかわす。
かわしきれない攻撃は、小さい光壁を作り出し防御する。

なるほど。僕に攻撃を出させない、休ませない作戦か。
ずっと攻撃を出し続けられるという事は……随分と魔力に自信があるようだ。

それにしても……ステップを踏みながらの攻撃。魔法を使う時も使わない時も、常に身振り手振りが大きい人だな。

ステップでの攻撃に合わせながら、雷球を払い除けていく。
舞台上を移動する内に、いつの間にかユーテルさんと僕の場所が入れ替わった。
その瞬間、ユーテルさんがニヤリとほくそ笑んだ。

「いけ!」

突如、足下から一斉に雷球の束が上がってくる。

──下にも攻撃を仕掛けていたのか! 
まずい! 避けきれない!!

回避する暇もなく、複数の雷球を全身で受ける。
勝利を確信したのか、得意げに声を立てて笑うユーテルさんの姿が目に入った。

……そう、普通に考えれば彼が勝ったと思うのは当然の事だ。
けれど、この程度の攻撃は元々想定済みだ。事前に対策だって練ってある。

「……? 上着の色が、ほとんど変化していない……? 何かで防御したのか?」

ユーテルさんが不思議そうな表情を見せる。
良かった。何で防御をしたかまでは、気づいていないようだ。

ユーテルさんの考えは正しい。
彼が言っていた通り、僕は《光の魔法》で防御をした。

ただそれは光壁ではない。
本来、攻撃で使用される光線で防御したのだ。

これがミネルの提案していた『新しいスキル』。
通常は真っすぐにしか射出できない光線を、自由自在に変形させる魔法。
大変ではあったけれど、何とか身につける事に成功したのだ。

その魔法を使い、身体全体を光線で覆う事でユーテルさんの攻撃から身を守る事ができた。
いきなり大量の魔力を消費する羽目にはなったが……まだ大丈夫だ。
ユーテルさんが気づく前に、こちらから攻撃を仕掛け、勝たせてもらう。

僕が魔法を唱え始めると同時に、またしてもユーテルさんが雷撃を仕掛けてきた。

……楽には勝てそうにないな。
身を守るにしても、上着の色が多少は変わる事……要は攻撃を受ける覚悟はしないと勝てなさそうだ。

光線を全身にまとい、ユーテルさんの攻撃に怯む事なく向かっていく。

「な、なぜ当たっているのに色が変わらない?」

少し焦りの見えるユーテルさんに近づきつつ、光線で攻撃する。
ユーテルさんは動揺を見せながらも次々と避け、雷撃を続けている。

少しでも怯んだら負けだ。
ある一定の場所まで距離を縮めると、光線に見せ掛けて閃光を放った。

急な事に対処の遅れたユーテルさんが閃光のまぶしさに目を閉じる。
その隙を見逃さず、避けられないように光線を使い、両方向から攻撃を繰り出した。

目を開けたユーテルさんが、とっさに雷壁を作ろうと魔法を唱える。

「さすがに避けきれないですよ」
「……そ、そんな事はない!」

雷壁の隙間を見つけ、放った光線を屈折させる。

「なんと光線が曲がったー! 光線を曲げる事ができる事は聞いたことがありますが……これは上級魔法です! 学生で出来る人がいるとはー!!」
「えっ……曲がった?」

メロウさんの実況とユーテルさんの驚いた声が重なる。
両方向からの光線と、雷癖の隙間を縫った光線。
三方向からの攻撃を全て受けたユーテルさんは、その場へと倒れこんだ。

「ユーテルさん、ダウーーン!! 大丈夫か? 上着の色はー?」

審判員が倒れたユーテルさんの上着の色を確認する。
そして、メロウさんに目配せをした。

「第6試合、オーン選手の勝利でーす!」

メロウさんの声が会場全体に響き渡る。
ふぅ~、良かった。
思っていたよりユーテルさんの魔力は強かったけど、どうにか勝てた。

「これはこれは、面白くなってきました。お互いに3勝! 勝負は最終戦に持ち越されました!!」

止まる事のないメロウさんの実況を聞きながら、倒れているユーテルさんに手を差し伸べる。
ユーテルさんが僕の手を取り、ゆっくりと立ち上がった。

「後半……カウイさんの試合から、明らかに本館の方たちの動きがよくなりました。1~3試合目は手を抜いてたのですか?」

初めて見せるユーテルさんの真剣な表情。
……話を聞いたらプライドが引き裂かれるかもしれない。だけど、彼らは今回の事を把握しておくべきだろう。

「アリアとジュリアさんの試合が始まったら……ソフィーさんに話を聞いてください」

僕の口から意外な名前が出てきた事にユーテルさんが驚いている。

「ソ、ソフィーに? 何をですか?」
「全ての試合が終わるまでは……私の口からは何も言えません。私の大切な人が“今は望んでいない”ので」

挨拶としてユーテルさんに一礼し、舞台を後にする。

ジュリアさんは、何としても勝ちにいくだろう。
……もう今回のような胸が引き裂かれるような思いはたくさんだ。注意して試合を見届けなければいけないな。

待機エリアに向かって歩いていると、喜んでいるアリアの姿が一番に目に入る。
わき目もふらずにアリアへの元に行き、ギュッと抱きしめてみた。

「……へっ!?」
「カウイばかりずるいなって思って、ね」

硬直しているアリアを見て、にっこりと微笑む。うん、可愛い。
──その瞬間、横から思い切り体当たりされ、すぐさまアリアと引き離されてしまった。

「わっ」
「『わっ』じゃ、ありません!!」

そこには両手を腰に当て、ものすごい形相で立っているセレスがいた。

「大勢の観衆がいる前でそのような行動を起こした場合、周りからアリアがどういう目で見られるのか、きちんと、きちんと考えてください!!!」

……僕に対してこんなにも怒っているセレスを見るのは初めてだな。
新鮮な気持ちで眺めている間も、彼女の怒りは収まる事なく続いている。

「──ごめん。嬉しすぎて、そこまで考えてなかったよ」

苦笑しつつ答えると、セレスが再び僕を叱り始めた。

「そうでしょう、そうでしょうとも。何も考えていないからこそ、そのような行動をとったのでしょう!」

説教するセレスの横で、ルナが僕をジーっと見ている。
そして、珍しくもニヤッと笑ってみせた。……僕が怒られている事が嬉しいらしい。
少し離れたところでは、マイヤもニヤニヤと笑みを浮かべている。マイヤは……面白がっているな。

「王子だからって、何をしても許されると思うなよ」

ミネルが僕の頭をこぶしでぐりぐりと押してくる。
その行為を止めようともせず、カウイは黙ったまま僕を冷めた目で見ている。自分もしていたのに……。
エウロも少し困った表情をしてはいるが、止めに入らない事が全てを物語っている。


みんなから怒られているというのに、なぜか笑ってしまう僕がいた。
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