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高等部 1年生
カウイの成長と強い想い(後編)
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「そんな事はないですよ」
ヌワさんに一言返すと同時に、ぐっと気を引き締める。
──ここからは一切、気を抜けない。
勝負は一瞬だ。失敗はできない。
炎の壁の大きさを保ちながら、瞬時に炎の形を変えた。
中央に自分だけが通れるだけのスペースを開けると、そこに向かって全力で走り出す。
壁を通り抜けた瞬間、呆然と立っているヌワさんの姿が目に入った。
俺が炎の壁を通って攻撃してくるとは思っていなかったようだ。
「……油断しすぎです」
反応の遅れたヌワさんの足を、後ろから払うように蹴り上げる。
予想通り、転んだヌワさんは地面に尻を打ちつけた。
──今だ!
すぐさま腰に差していた剣を抜き、ヌワさんの眼前に突きつけた。
状況が理解できていないのか、ヌワさんは何とも言えないような顔をしている。
「おおっーと! カウイ選手の剣先がヌワ選手の目の前にー!! ヌワ選手、絶体絶命かー!? このピンチを切り抜ける事ができるのかー!?」
観客以上に熱狂的なメロウさんの実況が続く中、そっと背後を振り返る。
この間もあえて消さずに残していた炎の壁へと視線を動かすと、ヌワさんに見せつけるように消した。
放心状態だったヌワさんが、ゆっくりと口を開く。
「はっ……はは。全然魔力が違う……」
「……まだ試合を続行しますか?」
俺の問いにヌワさんの表情が少し変わった。
戦意が喪失したから? 試合開始前の表情に戻った気がする。
「いや……参った」
ヌワさんの言葉を聞き、メロウさんが大声で叫んだ。
「ヌワ選手の降参により、カウイ選手の勝利でーーーす!!」
はぁ……さすがに疲れた。
……いや、今はそれよりも。
ヌワさんに一礼すると、急いで試合の舞台を下りる。
そして、一目散にアリアの元へと走った。
アリアがこちらに向かって手を振るように喜んでいる。
「カウイー! おめで──」
アリアが言い終える前に思い切り抱きしめた。
「無事で……よかった」
「……心配掛けてごめんね」
アリアが静かにつぶやいた。
抱きしめた途端、また涙が出そうな自分に気がつく。
……全然、強くなれていないな。
無事に戻ってきた事を改めて実感していると、突如、「どーん」という言葉と共に両手で体を押された。
その勢いに体が横によろけ、アリアから手が離れる。
誰が……?
不思議に思い、押された方を見ると無表情のルナちゃんが立っていた。
「アリアに抱きついていいのは、私と兄さまだけだから」
「ルナ、よくやった」
ルナちゃんの行動をミネルが褒めている。
「ケ、ケガをしているのに何を!?」
アリアの焦った声が聞こえ、反射的に顔を向ける。
声は焦っているけど、顔は……赤い。
今までとは違うアリアの表情の変化を見て、とっさに気づく。
もしかして……想いが伝わった?
以前『アリアの事が好きだからだよ』と伝えたことがあった。
その時、アリアの中で“俺の好きがどういう好きなのか”迷っているように見えた。
もちろん、アリアから聞かれたらすぐに『恋愛感情として、アリアを想ってる』事を伝えるつもりではあった。
だけど何も言われなかったので、俺からもそれ以上の事は言わなかった。
その想いが今、この瞬間にアリアに伝わったんだ。
想いが伝わっただけ。たったそれだけの事が、こんなにも嬉しい。
今まで味わった事のない喜びに自然と表情が緩む。
「ルナに押されて転びそうになったのに笑ってるっておかしいわよ、カウイ」
赤い目をしたセレスちゃんが少し呆れたようにこちらを見ている。
……セレスちゃん、泣いていたのかな?
よくよく見ると、ルナちゃんとマイヤちゃんも目が赤い。
「……さて、ルナ! もうすぐ私たちの出番よ」
「うん。(アリアに格好いい所を見せる。そして褒めてもらうから)足を引っ張らないでね」
「こっちのセリフよ!!」
ルナちゃんとセレスちゃんが言い合いながら、試合前の準備運動を始めた。
オーンとエウロ、ミネルの3人は試合の関係者かな? と真剣な表情で話している。
アリアが無事に帰ってきたから、今まで起きた事を伝えてるのかもしれない。
……そういえば、ジュリアさんは?
さすがにアリアが戻ってきた事に気がついているはずだ。
別館の人たちの出場エリアに目を向ける。
遠目からでも分かるほどにジュリアさんが怒っていて、ユーテルさん達が懸命になだめている。
そうはいっても、向こうはすでに3勝している。
ジュリアさんの性格上、怒ってはいるものの、残り1勝すればいいだけだから勝てるとでも思っているだろう。
そんな事を考えていると、マイヤちゃんが俺の隣へとやって来た。
「カウイくん、本当に強くなったんだね」
「…………」
《癒しの魔法》で、マイヤちゃんが治療を開始する。
どうかな? アリアの隣にいてもいいと思えるくらい変われたかな?
「相手は怪我をしていないのに降参させるなんて……カウイくんらしいなぁって思ったよ」
「…………」
オリュンくんとのシミュレートと言いつつ、このような試合の仕方でよかったのかと、今更ながらに思ってしまう。
「……って、カウイくん、ルナちゃんの次くらいに全っ然話さないね」
……マイヤちゃんの口調が少し変わった。
なんとなく気になって、マイヤちゃんの顔をジッと見つめる。
「なに?」
「ううん。ごめん、話すのが得意じゃなくて」
マイヤちゃんが「ふぅ~ん」と言いながら、俺の顔をのぞき込んでくる。
「得意じゃないね~。まぁ、分かりやすくていいんじゃない? ようやくアリアちゃんもカウイくんの気持ちに気がついたみたいだし」
「……マイヤちゃん、気がついてたんだ」
「オーンくんとミネルくんも気づいてたんじゃないかな? 面白くなさそうな顔をしてたし(それが面白かったし)」
アリアが困る状況にさえならなければ、俺自身は気がつかれて困る事はないけど……。
治療を受けている間に警護の人達が駆けつけ、アリアに対し何度も何度も頭を下げていた。
さっきまで照れて赤い表情をしていたアリアの顔も真剣なものへと変り、今は警護の人達と何か話し込んでいる。
アリアの方もオーンと同様、今回の事を説明しているのかもしれない。
それからすぐ、話を終えたアリアが俺の元へやって来た。
またしても少しだけ照れた表情をしている。
「ケガ……大丈夫?」
「うん。マイヤちゃんに治してもらったから大丈夫だよ」
アリアが安心した表情を見せる。
「カウイの試合中、みんなにも話したんだけど、試合を中止せずに最後まで続けてもいいかな?」
「えっ?」
「もちろん、今回ジュリアのやった事は報告するつもりだよ」
……それなのに試合は続ける?
「私のね、気がすまないの!」
力強い声でアリアが言う。
「このまま試合をしなかったら、私自身の手でジュリアを殴れず、人の手で裁いてもらう事になっちゃう。それじゃあ、悔しいから!!」
……殴るって。思わず笑ってしまった。
多分、みんなもこの話を聞いた時、笑ったんじゃないかな。
「……アリアがそれを望んでいるなら、俺は止めるつもりはないよ」
「ありがとう。心配掛けた上に我がまま言ってごめんね」
こういうところが本当にアリアらしい。
……ただ、もしもジュリアさんが試合中にルールを破るような事があれば、必ず止めて、“今度こそ”守るけどね。
ヌワさんに一言返すと同時に、ぐっと気を引き締める。
──ここからは一切、気を抜けない。
勝負は一瞬だ。失敗はできない。
炎の壁の大きさを保ちながら、瞬時に炎の形を変えた。
中央に自分だけが通れるだけのスペースを開けると、そこに向かって全力で走り出す。
壁を通り抜けた瞬間、呆然と立っているヌワさんの姿が目に入った。
俺が炎の壁を通って攻撃してくるとは思っていなかったようだ。
「……油断しすぎです」
反応の遅れたヌワさんの足を、後ろから払うように蹴り上げる。
予想通り、転んだヌワさんは地面に尻を打ちつけた。
──今だ!
すぐさま腰に差していた剣を抜き、ヌワさんの眼前に突きつけた。
状況が理解できていないのか、ヌワさんは何とも言えないような顔をしている。
「おおっーと! カウイ選手の剣先がヌワ選手の目の前にー!! ヌワ選手、絶体絶命かー!? このピンチを切り抜ける事ができるのかー!?」
観客以上に熱狂的なメロウさんの実況が続く中、そっと背後を振り返る。
この間もあえて消さずに残していた炎の壁へと視線を動かすと、ヌワさんに見せつけるように消した。
放心状態だったヌワさんが、ゆっくりと口を開く。
「はっ……はは。全然魔力が違う……」
「……まだ試合を続行しますか?」
俺の問いにヌワさんの表情が少し変わった。
戦意が喪失したから? 試合開始前の表情に戻った気がする。
「いや……参った」
ヌワさんの言葉を聞き、メロウさんが大声で叫んだ。
「ヌワ選手の降参により、カウイ選手の勝利でーーーす!!」
はぁ……さすがに疲れた。
……いや、今はそれよりも。
ヌワさんに一礼すると、急いで試合の舞台を下りる。
そして、一目散にアリアの元へと走った。
アリアがこちらに向かって手を振るように喜んでいる。
「カウイー! おめで──」
アリアが言い終える前に思い切り抱きしめた。
「無事で……よかった」
「……心配掛けてごめんね」
アリアが静かにつぶやいた。
抱きしめた途端、また涙が出そうな自分に気がつく。
……全然、強くなれていないな。
無事に戻ってきた事を改めて実感していると、突如、「どーん」という言葉と共に両手で体を押された。
その勢いに体が横によろけ、アリアから手が離れる。
誰が……?
不思議に思い、押された方を見ると無表情のルナちゃんが立っていた。
「アリアに抱きついていいのは、私と兄さまだけだから」
「ルナ、よくやった」
ルナちゃんの行動をミネルが褒めている。
「ケ、ケガをしているのに何を!?」
アリアの焦った声が聞こえ、反射的に顔を向ける。
声は焦っているけど、顔は……赤い。
今までとは違うアリアの表情の変化を見て、とっさに気づく。
もしかして……想いが伝わった?
以前『アリアの事が好きだからだよ』と伝えたことがあった。
その時、アリアの中で“俺の好きがどういう好きなのか”迷っているように見えた。
もちろん、アリアから聞かれたらすぐに『恋愛感情として、アリアを想ってる』事を伝えるつもりではあった。
だけど何も言われなかったので、俺からもそれ以上の事は言わなかった。
その想いが今、この瞬間にアリアに伝わったんだ。
想いが伝わっただけ。たったそれだけの事が、こんなにも嬉しい。
今まで味わった事のない喜びに自然と表情が緩む。
「ルナに押されて転びそうになったのに笑ってるっておかしいわよ、カウイ」
赤い目をしたセレスちゃんが少し呆れたようにこちらを見ている。
……セレスちゃん、泣いていたのかな?
よくよく見ると、ルナちゃんとマイヤちゃんも目が赤い。
「……さて、ルナ! もうすぐ私たちの出番よ」
「うん。(アリアに格好いい所を見せる。そして褒めてもらうから)足を引っ張らないでね」
「こっちのセリフよ!!」
ルナちゃんとセレスちゃんが言い合いながら、試合前の準備運動を始めた。
オーンとエウロ、ミネルの3人は試合の関係者かな? と真剣な表情で話している。
アリアが無事に帰ってきたから、今まで起きた事を伝えてるのかもしれない。
……そういえば、ジュリアさんは?
さすがにアリアが戻ってきた事に気がついているはずだ。
別館の人たちの出場エリアに目を向ける。
遠目からでも分かるほどにジュリアさんが怒っていて、ユーテルさん達が懸命になだめている。
そうはいっても、向こうはすでに3勝している。
ジュリアさんの性格上、怒ってはいるものの、残り1勝すればいいだけだから勝てるとでも思っているだろう。
そんな事を考えていると、マイヤちゃんが俺の隣へとやって来た。
「カウイくん、本当に強くなったんだね」
「…………」
《癒しの魔法》で、マイヤちゃんが治療を開始する。
どうかな? アリアの隣にいてもいいと思えるくらい変われたかな?
「相手は怪我をしていないのに降参させるなんて……カウイくんらしいなぁって思ったよ」
「…………」
オリュンくんとのシミュレートと言いつつ、このような試合の仕方でよかったのかと、今更ながらに思ってしまう。
「……って、カウイくん、ルナちゃんの次くらいに全っ然話さないね」
……マイヤちゃんの口調が少し変わった。
なんとなく気になって、マイヤちゃんの顔をジッと見つめる。
「なに?」
「ううん。ごめん、話すのが得意じゃなくて」
マイヤちゃんが「ふぅ~ん」と言いながら、俺の顔をのぞき込んでくる。
「得意じゃないね~。まぁ、分かりやすくていいんじゃない? ようやくアリアちゃんもカウイくんの気持ちに気がついたみたいだし」
「……マイヤちゃん、気がついてたんだ」
「オーンくんとミネルくんも気づいてたんじゃないかな? 面白くなさそうな顔をしてたし(それが面白かったし)」
アリアが困る状況にさえならなければ、俺自身は気がつかれて困る事はないけど……。
治療を受けている間に警護の人達が駆けつけ、アリアに対し何度も何度も頭を下げていた。
さっきまで照れて赤い表情をしていたアリアの顔も真剣なものへと変り、今は警護の人達と何か話し込んでいる。
アリアの方もオーンと同様、今回の事を説明しているのかもしれない。
それからすぐ、話を終えたアリアが俺の元へやって来た。
またしても少しだけ照れた表情をしている。
「ケガ……大丈夫?」
「うん。マイヤちゃんに治してもらったから大丈夫だよ」
アリアが安心した表情を見せる。
「カウイの試合中、みんなにも話したんだけど、試合を中止せずに最後まで続けてもいいかな?」
「えっ?」
「もちろん、今回ジュリアのやった事は報告するつもりだよ」
……それなのに試合は続ける?
「私のね、気がすまないの!」
力強い声でアリアが言う。
「このまま試合をしなかったら、私自身の手でジュリアを殴れず、人の手で裁いてもらう事になっちゃう。それじゃあ、悔しいから!!」
……殴るって。思わず笑ってしまった。
多分、みんなもこの話を聞いた時、笑ったんじゃないかな。
「……アリアがそれを望んでいるなら、俺は止めるつもりはないよ」
「ありがとう。心配掛けた上に我がまま言ってごめんね」
こういうところが本当にアリアらしい。
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