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高等部 1年生
オーン先生による《光の魔法》講座(前編)
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「私は魔法を使えるようになりますかね? 先生」
「…………」
オーン先生が斜め下を向き、黙っている。
まっ、まさか!
「もう手遅れなんですか? 先生! 何とか言ってください!!」
オーン先生の肩がプルプルと震えている。
──ああ、私はもう魔法を使えない体質なんだ。
「分かりました。これで私も諦めがつきます……」
そっと天井を見上げる。
悲しくなんかない。そう自分に言い聞かせる。
「……満足した? アリア?」
オーンが若干の戸惑いを見せつつも、笑いながら私に聞いてきた。
はい、しました。とんだ茶番劇に付き合わせてしまいました。
すいません。
「急に分かりやすいくらい下手……いや、演技をし出したから、どうしたのかと思ったよ」
今、確実に下手って言ったよね。
「ごめん。オーンの《光の魔法》を使って、私の眠っているかもしれない、いや、眠っていてほしい魔法を引き出せなかった時の予行練習を事前にしておきたくて。心構えというか」
これで魔法が使えない事が判明してしまったら、心のどこかで『いずれは使えるだろう』と思っていた分、ショックが大きい。
少しでもショックを減らすべく、ついついふざけた事をしてしまった。
この前、エレから魔法の事で『オーンさんに相談したら?』という天才的なアドバイスをもらった。
納得した私は、“善は急げ”とばかりにオーンと会う約束を取りつけた。
そして今、私の家のオープンテラスで、オーンとテーブル越しに向かい合わせで座っている。
席についてすぐ、《光の魔法》を使って私が魔法を使えるようになれるのか、オーンに相談してみた。
だけど、結果を聞く前に『使えないね』と言われた時の恐怖が頭をよぎり、さっきの悪ふざけをしてしまったという……。
変な時間につき合わせてごめんね、オーン。
「事情は分かったけど……」
落ち着いたタイミングで、オーンがゆっくりと話しだす。
……この間はなに? 怖いんですけど!!
「てっきり、僕に会いたくなって連絡をくれたのだと思ってたから……残念だよ」
オーンが寂しげな顔をする。
うっ! それを言われてしまうと……返答に困ってしまう。
オロオロしていると、オーンがくすっと笑った。
「ごめん、ごめん。冗談だよ」
オーンさん、それは心臓に悪い冗談だよ。
「本題に戻るけど……」
つ、ついに来た。ゴクリと唾を飲み込む。
「人間の奥底で眠っている力を引き出す魔法は、何度か試した事があるよ」
おぉー!
「実際にそれで魔法を使えるようになった人もいたのは事実だ」
お、おぉー!!
「もちろん、魔法を使えないままの人もいるけれど、だからといって魔力がないと断言する事はできない。仮に《光の魔法》を使ってアリアが魔法を使えなかったとしても、アリアが魔法が使えない体質という事にはならないんだ」
お、おぉー? ……そうなの!?
「どういうこと?」
私の疑問について、オーンが丁寧に説明し始める。
「例えば、10歳の子が本来は15歳で魔法が使えるとする。その場合、13歳……または14歳ぐらいの時期に《光の魔法》を使うと、魔法が使えるようになる可能性が高い」
ふむふむ。
「だけど、10歳の時に《光の魔法》を使ったとしたら、魔法は使えないままだと思う。要は、魔力がまだ芽生えてすらいない場合には魔法が効かないんだ」
なるほど!
「という事は、オーンが魔法を使っても私の魔力が目覚めなかった場合、魔法を使えない体質なのか、もしくは当分魔法が使えないだけなのかが分かるのね」
オーンが頷いている。
仮に魔法が使えなかったとしても、まだ魔法が使えるかもしれないという望みは消えないのか。
「エレが言った通り、今のアリアの立場を考えると、身を守る意味でも使えた方がいいのは確かだね」
そうだよね!
「それって、すぐにできる魔法なの?」
「ああ、うん。さっそく試してみようか」
オーンが席を立ち、テーブルの横へと移動する。
「アリアは、僕の前に立ってもらえるかな?」
言われた通りに私も席を離れ、オーンの目の前に立つ。
オーンが魔法を唱え始め、私の額をそっと触った。
額から温かい気のようなものが流れ込んでくるのを感じる。
時間の経過と共に、額、正確にはオーンの手から出ている光が徐々に大きくなっていく。
──その瞬間
バチッ!!! という大きな音がした。オーンが額から、ぱっと手を離す。
な、何があったの?
これで魔法が終わった?……感じには見えないけど?
額には静電気が走ったかのようにビリッとした痛みがある。
オーンも全く予期していなかったのか、心底驚いたような表情をしている。
「オーン? 大丈夫??」
「あっ、ああ」
オーンが我に返り、私の額に手を当てた。
「アリア、大丈夫だった?」
心配そうに私を見つめる。
「少しだけ痛みが走ったけど、私は大丈夫」
「そうか。良かった」
オーンが安堵の表情を見せた。率直に思った事を伝えてみる。
「魔法は終わった……ようには見えなかったけど?」
「アリアの言う通り……魔法は終わっていない。弾かれたんだ」
「…………」
オーン先生が斜め下を向き、黙っている。
まっ、まさか!
「もう手遅れなんですか? 先生! 何とか言ってください!!」
オーン先生の肩がプルプルと震えている。
──ああ、私はもう魔法を使えない体質なんだ。
「分かりました。これで私も諦めがつきます……」
そっと天井を見上げる。
悲しくなんかない。そう自分に言い聞かせる。
「……満足した? アリア?」
オーンが若干の戸惑いを見せつつも、笑いながら私に聞いてきた。
はい、しました。とんだ茶番劇に付き合わせてしまいました。
すいません。
「急に分かりやすいくらい下手……いや、演技をし出したから、どうしたのかと思ったよ」
今、確実に下手って言ったよね。
「ごめん。オーンの《光の魔法》を使って、私の眠っているかもしれない、いや、眠っていてほしい魔法を引き出せなかった時の予行練習を事前にしておきたくて。心構えというか」
これで魔法が使えない事が判明してしまったら、心のどこかで『いずれは使えるだろう』と思っていた分、ショックが大きい。
少しでもショックを減らすべく、ついついふざけた事をしてしまった。
この前、エレから魔法の事で『オーンさんに相談したら?』という天才的なアドバイスをもらった。
納得した私は、“善は急げ”とばかりにオーンと会う約束を取りつけた。
そして今、私の家のオープンテラスで、オーンとテーブル越しに向かい合わせで座っている。
席についてすぐ、《光の魔法》を使って私が魔法を使えるようになれるのか、オーンに相談してみた。
だけど、結果を聞く前に『使えないね』と言われた時の恐怖が頭をよぎり、さっきの悪ふざけをしてしまったという……。
変な時間につき合わせてごめんね、オーン。
「事情は分かったけど……」
落ち着いたタイミングで、オーンがゆっくりと話しだす。
……この間はなに? 怖いんですけど!!
「てっきり、僕に会いたくなって連絡をくれたのだと思ってたから……残念だよ」
オーンが寂しげな顔をする。
うっ! それを言われてしまうと……返答に困ってしまう。
オロオロしていると、オーンがくすっと笑った。
「ごめん、ごめん。冗談だよ」
オーンさん、それは心臓に悪い冗談だよ。
「本題に戻るけど……」
つ、ついに来た。ゴクリと唾を飲み込む。
「人間の奥底で眠っている力を引き出す魔法は、何度か試した事があるよ」
おぉー!
「実際にそれで魔法を使えるようになった人もいたのは事実だ」
お、おぉー!!
「もちろん、魔法を使えないままの人もいるけれど、だからといって魔力がないと断言する事はできない。仮に《光の魔法》を使ってアリアが魔法を使えなかったとしても、アリアが魔法が使えない体質という事にはならないんだ」
お、おぉー? ……そうなの!?
「どういうこと?」
私の疑問について、オーンが丁寧に説明し始める。
「例えば、10歳の子が本来は15歳で魔法が使えるとする。その場合、13歳……または14歳ぐらいの時期に《光の魔法》を使うと、魔法が使えるようになる可能性が高い」
ふむふむ。
「だけど、10歳の時に《光の魔法》を使ったとしたら、魔法は使えないままだと思う。要は、魔力がまだ芽生えてすらいない場合には魔法が効かないんだ」
なるほど!
「という事は、オーンが魔法を使っても私の魔力が目覚めなかった場合、魔法を使えない体質なのか、もしくは当分魔法が使えないだけなのかが分かるのね」
オーンが頷いている。
仮に魔法が使えなかったとしても、まだ魔法が使えるかもしれないという望みは消えないのか。
「エレが言った通り、今のアリアの立場を考えると、身を守る意味でも使えた方がいいのは確かだね」
そうだよね!
「それって、すぐにできる魔法なの?」
「ああ、うん。さっそく試してみようか」
オーンが席を立ち、テーブルの横へと移動する。
「アリアは、僕の前に立ってもらえるかな?」
言われた通りに私も席を離れ、オーンの目の前に立つ。
オーンが魔法を唱え始め、私の額をそっと触った。
額から温かい気のようなものが流れ込んでくるのを感じる。
時間の経過と共に、額、正確にはオーンの手から出ている光が徐々に大きくなっていく。
──その瞬間
バチッ!!! という大きな音がした。オーンが額から、ぱっと手を離す。
な、何があったの?
これで魔法が終わった?……感じには見えないけど?
額には静電気が走ったかのようにビリッとした痛みがある。
オーンも全く予期していなかったのか、心底驚いたような表情をしている。
「オーン? 大丈夫??」
「あっ、ああ」
オーンが我に返り、私の額に手を当てた。
「アリア、大丈夫だった?」
心配そうに私を見つめる。
「少しだけ痛みが走ったけど、私は大丈夫」
「そうか。良かった」
オーンが安堵の表情を見せた。率直に思った事を伝えてみる。
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