上 下
117 / 261
高等部 1年生

オーン先生による《光の魔法》講座(前編)

しおりを挟む
「私は魔法を使えるようになりますかね? 先生」
「…………」

オーン先生が斜め下を向き、黙っている。
まっ、まさか!

「もう手遅れなんですか? 先生! 何とか言ってください!!」

オーン先生の肩がプルプルと震えている。
──ああ、私はもう魔法を使えない体質なんだ。

「分かりました。これで私も諦めがつきます……」

そっと天井を見上げる。
悲しくなんかない。そう自分に言い聞かせる。



「……満足した? アリア?」

オーンが若干の戸惑いを見せつつも、笑いながら私に聞いてきた。
はい、しました。とんだ茶番劇に付き合わせてしまいました。
すいません。

「急に分かりやすいくらい下手……いや、演技をし出したから、どうしたのかと思ったよ」

今、確実に下手って言ったよね。

「ごめん。オーンの《光の魔法》を使って、私の眠っているかもしれない、いや、眠っていてほしい魔法を引き出せなかった時の予行練習を事前にしておきたくて。心構えというか」

これで魔法が使えない事が判明してしまったら、心のどこかで『いずれは使えるだろう』と思っていた分、ショックが大きい。
少しでもショックを減らすべく、ついついふざけた事をしてしまった。


この前、エレから魔法の事で『オーンさんに相談したら?』という天才的なアドバイスをもらった。
納得した私は、“善は急げ”とばかりにオーンと会う約束を取りつけた。

そして今、私の家のオープンテラスで、オーンとテーブル越しに向かい合わせで座っている。
席についてすぐ、《光の魔法》を使って私が魔法を使えるようになれるのか、オーンに相談してみた。
だけど、結果を聞く前に『使えないね』と言われた時の恐怖が頭をよぎり、さっきの悪ふざけをしてしまったという……。
変な時間につき合わせてごめんね、オーン。


「事情は分かったけど……」

落ち着いたタイミングで、オーンがゆっくりと話しだす。
……この間はなに? 怖いんですけど!!

「てっきり、僕に会いたくなって連絡をくれたのだと思ってたから……残念だよ」

オーンが寂しげな顔をする。
うっ! それを言われてしまうと……返答に困ってしまう。
オロオロしていると、オーンがくすっと笑った。

「ごめん、ごめん。冗談だよ」

オーンさん、それは心臓に悪い冗談だよ。

「本題に戻るけど……」

つ、ついに来た。ゴクリと唾を飲み込む。

「人間の奥底で眠っている力を引き出す魔法は、何度か試した事があるよ」

おぉー!

「実際にそれで魔法を使えるようになった人もいたのは事実だ」

お、おぉー!!

「もちろん、魔法を使えないままの人もいるけれど、だからといって魔力がないと断言する事はできない。仮に《光の魔法》を使ってアリアが魔法を使えなかったとしても、アリアが魔法が使えない体質という事にはならないんだ」

お、おぉー? ……そうなの!?

「どういうこと?」

私の疑問について、オーンが丁寧に説明し始める。

「例えば、10歳の子が本来は15歳で魔法が使えるとする。その場合、13歳……または14歳ぐらいの時期に《光の魔法》を使うと、魔法が使えるようになる可能性が高い」

ふむふむ。

「だけど、10歳の時に《光の魔法》を使ったとしたら、魔法は使えないままだと思う。要は、魔力がまだ芽生えてすらいない場合には魔法が効かないんだ」

なるほど!

「という事は、オーンが魔法を使っても私の魔力が目覚めなかった場合、魔法を使えない体質なのか、もしくは当分魔法が使えないだけなのかが分かるのね」

オーンが頷いている。
仮に魔法が使えなかったとしても、まだ魔法が使えるかもしれないという望みは消えないのか。

「エレが言った通り、今のアリアの立場を考えると、身を守る意味でも使えた方がいいのは確かだね」

そうだよね!

「それって、すぐにできる魔法なの?」
「ああ、うん。さっそく試してみようか」

オーンが席を立ち、テーブルの横へと移動する。

「アリアは、僕の前に立ってもらえるかな?」

言われた通りに私も席を離れ、オーンの目の前に立つ。

オーンが魔法を唱え始め、私のひたいをそっと触った。
ひたいから温かい気のようなものが流れ込んでくるのを感じる。
時間の経過と共に、ひたい、正確にはオーンの手から出ている光が徐々に大きくなっていく。



──その瞬間

バチッ!!! という大きな音がした。オーンがひたいから、ぱっと手を離す。

な、何があったの?
これで魔法が終わった?……感じには見えないけど?
ひたいには静電気が走ったかのようにビリッとした痛みがある。

オーンも全く予期していなかったのか、心底驚いたような表情をしている。

「オーン? 大丈夫??」
「あっ、ああ」

オーンが我に返り、私のひたいに手を当てた。

「アリア、大丈夫だった?」

心配そうに私を見つめる。

「少しだけ痛みが走ったけど、私は大丈夫」
「そうか。良かった」

オーンが安堵の表情を見せた。率直に思った事を伝えてみる。

「魔法は終わった……ようには見えなかったけど?」
「アリアの言う通り……魔法は終わっていない。はじかれたんだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄!? ならわかっているよね?

Giovenassi
恋愛
突然の理不尽な婚約破棄などゆるされるわけがないっ!

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されたやり直し令嬢は立派な魔女を目指します!

古森きり
ファンタジー
幼くして隣国に嫁いだ侯爵令嬢、ディーヴィア・ルージェー。 24時間片時も一人きりにならない隣国の王家文化に疲れ果て、その挙句に「王家の財産を私情で使い果たした」と濡れ衣を賭けられ処刑されてしまった。 しかし処刑の直後、ディーヴィアにやり直す機会を与えるという魔女の声。 目を開けると隣国に嫁ぐ五年前――7歳の頃の姿に若返っていた。 あんな生活二度と嫌! 私は立派な魔女になります! カクヨム、小説家になろう、アルファポリス、ベリカフェに掲載しています。

【完結】大好きな婚約者の運命の“赤い糸”の相手は、どうやら私ではないみたいです

Rohdea
恋愛
子爵令嬢のフランシスカには、10歳の時から婚約している大好きな婚約者のマーカスがいる。 マーカスは公爵家の令息で、子爵令嬢の自分とは何もかも釣り合っていなかったけれど、 とある理由により結ばれた婚約だった。 それでもマーカスは優しい人で婚約者として仲良く過ごして来た。 だけど、最近のフランシスカは不安を抱えていた。 その原因はマーカスが会長を務める生徒会に新たに加わった、元平民の男爵令嬢。 彼女の存在がフランシスカの胸をざわつかせていた。 そんなある日、酷いめまいを起こし倒れたフランシスカ。 目覚めた時、自分の前世とこの世界の事を思い出す。 ──ここは乙女ゲームの世界で、大好きな婚約者は攻略対象者だった…… そして、それとは別にフランシスカは何故かこの時から、ゲームの設定にもあった、 運命で結ばれる男女の中で繋がっているという“赤い糸”が見えるようになっていた。 しかし、フランシスカとマーカスの赤い糸は……

あなたが幸せになれるなら婚約破棄を受け入れます

神村結美
恋愛
貴族の子息令嬢が通うエスポワール学園の入学式。 アイリス・コルベール公爵令嬢は、前世の記憶を思い出した。 そして、前世で大好きだった乙女ゲーム『マ・シェリ〜運命の出逢い〜』に登場する悪役令嬢に転生している事に気付く。 エスポワール学園の生徒会長であり、ヴィクトール国第一王子であるジェラルド・アルベール・ヴィクトールはアイリスの婚約者であり、『マ・シェリ』でのメイン攻略対象。 ゲームのシナリオでは、一年後、ジェラルドが卒業する日の夜会にて、婚約破棄を言い渡され、ジェラルドが心惹かれたヒロインであるアンナ・バジュー男爵令嬢を虐めた罪で国外追放されるーーそんな未来は嫌だっ! でも、愛するジェラルド様の幸せのためなら……

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

【完結】あなたが妹を選んだのです…後悔しても遅いですよ?

なか
恋愛
「ローザ!!お前との結婚は取り消しさせてもらう!!」 結婚式の前日に彼は大きな声でそう言った 「なぜでしょうか?ライアン様」 尋ねる私に彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべ 私の妹マリアの名前を呼んだ 「ごめんなさいお姉様~」 「俺は真実の愛を見つけたのだ!」 真実の愛? 妹の大きな胸を見ながら言うあなたに説得力の欠片も 理性も感じられません 怒りで拳を握る 明日に控える結婚式がキャンセルとなればどれだけの方々に迷惑がかかるか けど息を吐いて冷静さを取り戻す 落ち着いて これでいい……ようやく終わるのだ 「本当によろしいのですね?」 私の問いかけに彼は頷く では離縁いたしまししょう 後悔しても遅いですよ? これは全てあなたが選んだ選択なのですから

婚約者はわたしよりも、病弱で可憐な実の妹の方が大事なようです。

ふまさ
恋愛
「ごめん、リア。出かける直前に、アビーの具合が急に悪くなって」  これが、公爵家令嬢リアの婚約者である、公爵家令息モーガンがデートに遅刻したときにする、お決まりの言い訳である。  モーガンは病弱な妹のアビーを異常なまでにかわいがっており、その言葉を決して疑ったりはしない。  リアが怒っていなくても、アビーが怒っていると泣けば、モーガンはそれを信じてリアを責める。それでもリアはモーガンを愛していたから、ぐっとたえていた。  けれど。ある出来事がきっかけとなり、リアは、モーガンに対する愛情が一気に冷めてしまう。 「──わたし、どうしてあんな人を愛していたのかしら」  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

ヒロインが迫ってくるのですが俺は悪役令嬢が好きなので迷惑です!

さらさ
恋愛
俺は妹が大好きだった小説の世界に転生したようだ。しかも、主人公の相手の王子とか・・・俺はそんな位置いらねー! 何故なら、俺は婚約破棄される悪役令嬢の子が本命だから! あ、でも、俺が婚約破棄するんじゃん! 俺は絶対にしないよ! だから、小説の中での主人公ちゃん、ごめんなさい。俺はあなたを好きになれません。 っていう王子様が主人公の甘々勘違い恋愛モノです。

処理中です...