上 下
114 / 261
高等部 1年生

ドキッとした宣戦布告(後編)

しおりを挟む
「アリア! 行くぞ!!」

ミネルがこの場に居たくなかったのか、足早に自分の部屋へと歩き出した。
私も後を追い、ミネルの部屋へ入る。

「メーテさんどうしたのかな? なんかいつもと違ったよね?」
「……ああ、気にしなくていいぞ。面白がってるだけだから」

面白がってる? 何を??

「それより……」

ミネルが突如、真面目な表情に変わった。

「カウイの従兄弟──オリュンについて、少しだけ進展があったぞ」
「えっ! 本当!?」
「ああ」

ミネルが椅子に腰を掛けた。

「今までの調査で分かった事を伝える」

私も椅子に座り、話を聞く体勢をとる。

「オリュンを含め“魔法更生院”を脱走した人数は──38名。で、手引きした人物だが……1年以上前から多発している行方不明者の事件を覚えているか?」

──ああ!

「魔法を使える人が行方不明になってる事件だよね? 最近、聞かなくなったけど」
「そうだ。その事件の首謀者が手引きした可能性が高い」

──!!!

「脱走を手引きしたメンバーの中に、その行方不明者がいたとの話だ。ここからは推測になるが……行方不明者は操られていて、脱走の手引きをしたと考えるのが妥当だろう」

確かにそうかも。
行方不明者が自分の意思で脱走の手引きをするとは思えない。

“魔法更生院”を狙った理由も納得がいくな。“魔法更生院”は魔法を使える人しか収監されていない。
それに操らなくても“魔法更生院”を出る事ができるなら、従う人たちもいそう。
魔法を使えて、仲間になってくれる人たちを一度に集めるには、適している場所ではあるよね。

「なんで仲間を集めてるんだろうね?」
「さあな。この国、もしくは他国の人間が、この国を支配したいのか……想像だけならいくらでもできるが、まだ目的は見えてないな」

ミネルが「それと……」と話を続ける。

「脱走したメンバー全員、すでにこの国を出ている可能性が高い」
「えっ! それってどういう……」

他国にいるかもしれないってこと?

「これは裏ルートで調べてもらった話だ。数週間前、大金を貰って数十名ほど、出国の手伝いをしたと言っていた人物がいる。こちらもそれなりのお金を払ったら口を割った」

裏ルートって。ミネルは淡々と話しているけど……。

「本当かは分からないが、どの国に行ったかまでは知らないと言っているらしい」
「ミネル! そんな事よりも裏ルートって大丈夫なの? ミネルに危険はないの!?」

話の途中だと分かっていても、我慢しきれずミネルに尋ねる。

「ん? ああ、自分自身で聞きに言ったわけではないからな。それに足はつかないようにしている」

はぁ~、良かったぁ。

「なんだ? 心配したのか?」
「当たり前だよ! これでミネルにまで危険が及んだら本末転倒だよ!!」

なんか急に心配になってきた。もしかして、心配掛けないよう嘘ついたりしてないかな?
いまいち信用できずにジーっと見つめていると、ミネルがニヤニヤと笑いだした。

「心配されるのも悪くないな」
「えっ?」
「まぁ、今回に関しては大丈夫だ。それに、この国を出たとなれば、今後の調査自体が厳しくなる。ただ、本当に出国したかどうかまでは分かっていないし、全員が移動したのかも分かっていない」

話すうちに、ミネルがいつものポーカーフェイスへと戻っていく。

「他国と繋がってる可能性も考慮した方がいいかもな。とりあえず、アリアに心配掛けない程度に調査は続ける予定だ」
「……本当の本当に大丈夫?」

念を押すように確認する。

「大丈夫だ」

ミネルって心配させるような事は言わなそうだからなぁ。

「嘘ついてたら……」

咄嗟とっさに出てきた言葉がなぜかこれだった。

「ミネルとは口をききません!」

……私の語彙力ごいりょく
ウィズちゃんに分けてもらいたい。

いや、待てよ。もし嘘をついていたとしたら、ミネルに危険が及ぶって事だ! 
それなのに口をきかないとか言ってる場合じゃなかった!!
何より、口を聞かなくなったとしてもミネルにはノーダメージだろうし。


「それは困るな」

バカにされるかと思いきや、優しい表情でミネルが笑う。
……前より表情が柔らかくなる時が多くなったなぁ。なんか普段のミネルと違うから、返事に困ってしまう。

「──ああ、そうだ。もし本当に大丈夫だった場合、アリアに言う事でも聞いてもらうか」

途端にミネルが意地悪な表情を浮かべる。
前言てっかーーーい!! いつものミネルだった。



しばらく話をしていると、トントンと扉をノックする音が聞こえてきた。
ミネルが声を掛け、メイドさんが扉を開ける。ウィズちゃんが笑顔で部屋に入ってきた。

「あーちゃーん、あそぼう」

ウィズちゃん! 目が覚めたんだ!!

「いいよ! 何して遊ぶの?」

聞いてはみたものの“取り調べごっこ”以外がいいなぁ。

「あーちゃんに教えてもらった“かくれんぼ”!」

断然そっちの方がいい!! 速攻で「やろう!」と了承する。

「兄さまもね?」

ウィズちゃんの誘いに、ミネルが分かりやすいくらい嫌そうな顔をしている。

「……1回だけだぞ」

『やらない』とは言わないんだ(笑)
ウィズちゃんのお願いだからかな? まさかミネルと“かくれんぼ”をする日が来るとは……ウィズちゃんって最強かも!!

お屋敷だと広すぎるので、ミネルの部屋で隠れるというルールを決め、私が鬼になった。

ウィズちゃんから「100まで数えたら、何も言わずに部屋に入ってきてね」と言われ、一旦部屋を出る。
ミネルはともかく、相手はウィズちゃんだし、ゆっくり数えた方がいいよね。
聞こえるように声を出しながら、1から順番に数え始める。

「……、99、100」

よし! ──本気で探すぞっ!!
気合いを入れ、部屋の中に入る。

ミネルの部屋は、全部で3部屋。
まずは一番手前の本がたくさんある部屋から探そう。

んー、ミネルは本気で隠れそうもないからなぁ。すぐに見つかると思うけど。
テーブルの下やソファの裏側を確認する。
……いない。隣の部屋かな?

よーく見ると、窓際にある左側のカーテン。
少しだけ膨らんでない??

膨らみ方から見て……きっとミネルだ!
そーっとカーテンに近づく。

「みーつけた」

タッチしようとした瞬間、勢い余ってバランスを崩してしまい、ミネルの上へと覆いかぶさるように倒れ込んでしまった。

「うわぁっ」
「おいっ! アリア」

……やってしまった。

「ごめん、ミネル」

あれ? この体勢って……私がミネルを押し倒してない!?

「まさかアリアに押し倒されるとはな」

怒られると思ってたけど、ミネルの声が楽しそう??
……とか考えている場合じゃない! 否定しないと!!

「これは違うの! 不可抗力というか……」

必死に言い訳していると、ミネルが突然、くるりと体勢を入れ替えた。
気がつけば、今度は私がミネルを見上げる状況になっている。

「合意とみなすぞ?」

…………えっ? これって、いつもの意地悪な冗談だよね!?
少しの間、無言で見つめ合う。
反応に戸惑っていると、ミネルがそっと口を開いた。

「なぜこんな事をするか、分かるか?」


なぜ? ……なぜ??

いつもの意地悪かなと思ってたけど、違うのかな?
んー、やり返したかった? いや、それも違うような。

はっ! 今日、ミネルの家族がいつもと違っておかしかった。
エイプリルフール的な? いや、“こっちの世界”にそんな概念はないか。


「…………本当に少しも分からないんだな」

少しだけ呆れたような声で、ミネルがゆっくりと身体を起こした。

「お前に少しでも期待した僕がバカだった」
「???」

同じように身体を起こし、その場に座り込んでいると、ミネルが再び近づいてくる。
何か怒ってる!? と思っていたら、ふっと笑う声がした。

「こんな事、誰にでもするわけじゃないんだぞ?」

これは……ま、まずい。怒ってるというよりも、意地悪モードに入っている。

「今までどういう方法でいこうか考えていたが──やめだ」

何? 何の話?? そんな事より、距離が……ち、近いって!! 
焦る私の姿など気にするそぶりも見せず、ミネルが耳元へとさらに顔を近づけてきた。

「今ので分かった。アリアには正攻法でいく。覚悟しろよ」


宣戦布告とも取れる言葉だったけど、ドキドキしたのはなんで??
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

処理中です...