一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます

Teko

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高等部 1年生

“前の世界”ではそれをストーカーと呼びます(後編)

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リーセさんの言葉を遮り、早口で自己紹介する。

間違いだったら、ごめんなさい!
この方はちょっと、いや、かなりヤバイ感じがしたので嘘をついちゃいました。
もしリーセさんもタユモさんに好意を持っているなら、後で平謝りします!!!

「う、嘘ですよね? こんな子と!?」

タユモさんの声が明らかに動揺している。
言ってしまった手前、どうしようかと隣に目を向けると、突然、リーセさんが私の肩を軽く引き寄せた。

「本当です。こちらの可愛らしい人は、私が好意を持っている方です」

タユモさんがこの世の終わりみたいな顔へと変わっていく。

「私からアプローチしている所なので、まだ婚約はしていません。皆さんには恥ずかしいので、内緒にしておいてくださいね。……それでは失礼します。行こうか、アリア」

リーセさんが私の肩を抱いたまま歩き始めた。
しばらくして、タユモさんの姿が完全に見えなくなる。
それを確認してから、リーセさんが吐息交じりに口を開いた。

「ごめんね、アリア。助かったよ。あの方──タユモさんといって、さっき紹介したように仕事場が一緒の人なんだ。『偶然会った』って言ってたけど、きっと偶然じゃないんだ」

えっ! そうなの!? それは予想していませんでした。

「いつもどこかに出掛けると『偶然ですね』と言って現れるんだ。初めて偶然会った時──今となっては本当に偶然だったのか分からないんだけど、せっかく会ったならと一緒にお昼を食べてね。そこから勘違いしてしまったのか……」

リーセさんが悩ましげに話し続ける。

「それにハンカチが汚れたと言っていた話だけど、別な人としていた会話なんだ」

リーセさんの表情を見る限り、たまたまタユモさんの耳に会話が入ってきた……とかじゃなさそうだ。
今までに何回も同じような事があったんだろうなぁ。

「その他にも身に覚えのない物が置いてあったり、仕事帰りに待ち伏せされたりしてね。職場の人にも仲がいいと誤解されてしまって……正直困ってるんだ」

これは……! 間違いない!! ストーカーだ!!!
そうか、モテる人はちょっとした行動でも誤解されてしまうのね。

「巻き込んでしまってごめんね」
「いえ、“自分から巻き込まれにいった”が正しいので気にしないでください」

私が答えると、リーセさんが「はは」と笑った。
今度は、から笑いじゃない。

「巻き込まれにいったって……面白いね、アリアは」

面白い、と言われてしまった。でも、リーセさんが元気になったようで良かった。
そういえば、いつもよりリーセさんとの距離が近いな~と思っていたら、ずっと肩を抱かれたままだった。

「あの~、肩はいつまで?」
「ごめん、アリア。……実はずっとつけられてる。多分、タユモさんだ。私とアリアの関係を疑ってるんだと思う」

──!!!
さすがストーカー! 一筋縄ではいかないか。
そちらがそう来るなら……!!

「リーセさん! 買い物したり、一緒に食事をして楽しみましょう!」
「えっ?」
「私では若干の力不足はいなめないですが、仲がいい所を見せつけて諦めてもらいましょう!」

リーセさんがぽかんとした顔で私を見た。そして、ふっと頬を緩める。

「……いや、アリアで良かったよ。他の人だったら演技だってバレてたと思うから」

えっと、今のはどういう……?
私が聞く前にリーセさんが肩から手を離した。そして、少し茶目っ気のある笑顔で腕をくの字に曲げる。

「よろしければ、どうぞ?」

えっと、腕を組むでいいんだよね?
リーセさんの腕にそっと自分の腕を絡ませる。

「では、アリアの言う通り、楽しもうか!」


それからはリーセさんと会話しつつ、思いきり買い物を楽しんだ。
ひと段落した後は、休憩がてら、近くの広場まで行きベンチに荷物を置く。

私もさっき気がついたけど、まだついてきてるな。なかなか、しつこい。
当然、リーセさんも分かってるんだろうな。

「アリア、ちょっとごめんね」

リーセさんがそっと私の身体を抱き寄せる。

えー! えー!! 急にどうしたの!?
動揺していると、リーセさんがこっそり耳打ちしてくる。

「もうすぐルナも合流すると思う。その前に諦めさせたくて」

そうか! ルナが来たら、私とリーセさんの関係が嘘だったってバレるかもしれない。
それにルナには余計な心配を掛けたくないよね!

『これは人助け、人助け』と自分自身に暗示をかける。
背中に手を回し、私もリーセさんを抱きしめた。

「アリア、緊張してる?」
「……当たり前です」

リーセさんの声がたのしげだ。
エレともよくギュッと抱き合うけど、同じ男性でも違うもんだなぁ。

「エレとは違うなぁ」

ぼそっとつぶやくと、リーセさんが「エレ?」と聞き返した。

「あっ、ああ、よく弟とスキンシップでハグするんですけど、抱き心地が違うものだなぁと思って」

……今の発言って、変態っぽかったかな?

「う~ん。こんな時に弟とはいえ、他の男性のことを考えられるとは……私もまだまだだな。アリアに意識してもらえるよう頑張らないとね」

リーセさんが冗談まじりにとびきりの笑顔で言う。
…………今の笑顔は反則です!!


「いやぁぁーー! リーセさんから離れてーー!!」

突如、ストーカー女──タユモさんが悲鳴とともに走って来た。
息は乱れ、まるで悪魔のような表情でこちらを見ている。

こ、怖い。私、一人になった時に刺されるんじゃ……。
いやいや、今日で諦めてらもう為にもひるんだらダメだ。
リーセさんからぱっと離れると、つかつかと速足でタユモさんに歩み寄る。

「私! 負けませんからね!!」

ストーカー女に挑むつもりで、敢えて怖い顔をしてにらみつけた。

「それに私、結構強いですよ!?」

腰に差し、護身用に持ち歩いている小さめの剣をチラッと見せる。

「ひっ!」

ストーカー女がたじろんだ。
これはイケるのでは!? もうひと押し!!


……と、その時、背後から「うわっ」とリーセさんの声がした。

ストーカー女とほぼ同時に振り向くと、ルナがリーセさんに横から抱きついている。
その姿を見たストーカー女が今日一番の叫び声をあげた。

「ひ、ひどい!! リーセさんが暴力女とそこの女、2人同時に付き合ってるなんてー!!!」

2人同時? 付き合い?? それを人は二股という。
……じゃなかった。私は暴力はしてないぞ。思い込みも激しいな。

でもこれは、チャンスなのでは!?
リーセさん的には不本意かもしれないけど、ここは否定しないよう必死に目で訴え掛ける。

「どちらも同じくらい私の大切な人なんだ」

私の訴えに気がついたのかな? リーセさんが悪びれもなく言った。
よほど衝撃的だったのか、ストーカー女がよろよろと後ずさる。

「こ、こんなの全然、理想の王子様じゃなーーい!!」

盛大な捨てゼリフを吐くと、ストーカー女は泣きながら去っていった。


……なんか撃退できたみたい!?  思い込みの激しい、想像力豊かな人で良かった。
そのままリーセさんとルナの元へ駆け寄り、声を掛ける。

「なんだかんだで解決? したみたいで良かったですね。リーセさんの機転は完璧でした」

リーセさんも安心したような表情を浮かべている。

「そうみたいだね。本当に助かったよ、ありがとう」
「いえ、ルナの来たタイミングも良かったよ!」

状況を理解していないルナを褒めるべく、頭をでる。あ、嬉しそう。
落ち着いたところで、今度は3人で買い物しようと歩き出す。
すると、私に近づいてきたリーセさんが内緒話でもするようにささやいた。

「同じくらい私の大切な人、という言葉に嘘はないからね?」
「へっ!?」

リーセさんが愛嬌のある顔でくしゃっと笑う。
──あっ! ルナと同じ笑顔!

「やっぱり兄妹ですね。笑顔がそっくりでステキです」

驚いたように目を見開いたリーセさんが、斜め下へと顔を向ける。

「初めて言われたな」

口元を手で覆い、独り言のように呟く。
そんなに変な事を言ったかな? と首をかしげていると、リーセさんがゆっくりと顔を上げた。

いつもの大人っぽい表情とはまるで違う。
今まで見たことのないような、はにかんだ笑顔。


「まいったなぁ。……うん、私も負けないからね?」 
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