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高等部 1年生

ラスボス登場

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──その夜、お父様が私の部屋に来て、女子会中にマイヤの両親が訪ねてきたと教えてくれた。

「娘の為を思って言った事だろうけど、それがマイヤちゃんの負担になっていたのではないか? と伝えたよ。パンナ(マイヤの父)は思うところがあったのだろう。マイヤちゃんが、そこまで追い詰められているとは思わなかったようで……反省していたよ」

パンナさん、やっぱり気がついてはいたんだ。

「そうですか。ケイアさんは?」

途端に、お父様が困ったような表情を浮かべる。

「それが、ね。『マイヤちゃんに会わせて』の一点張りで大変だったよ」

苦笑してる。……本当に大変だったんだな。

「残念だけど、理解はしてもらえなかったかな。『こんな事をしていたら学業に遅れをとってしまう』と言ってたから、また近いうちに来ると思うよ」
「……そうですか。今度いらっしゃったら、私も会わせてもらっていいですか?」

今日、お母さんの話題が出ただけで、マイヤの顔が強張っていた。
そう考えると、マイヤとお母さんを会わせるのはまだ早い気がする。

だからこそ、マイヤの代わりに少しでも気持ちを伝えたい!

「そうだね。ケイアさんが今日みたいな感じだとしたら、あまりアリアに会わせたくないけど……」

躊躇ちゅうちょするほど、怒ってたのかな!? ちょっと怖いな。

「最終的にはマイヤがきちんとご両親とお話して、理解してもらえる事が1番だと思っています。それが少しでも早く実現できるよう、私からもケイアさんにお伝えしたいです!」

お父様に頭を下げ「お願いします」と頼み込む。

「分かったよ。次来た時はアリアにも声を掛けよう」

……少しでも分かってもられるといいのだけれでも。



──1週間後、ケイアさんが1人でやって来た。
お父様が仕事でいなかったので、お母様と私、ケイアさんの3人で話す事になった。

ケイアさんに会う前、マイヤにもお母さんが来ている事は伝えておいた。
前ほどではないにせよ、やっぱり表情が硬い。

「大丈夫。きっとうまく行くから!」

根拠のない自信をマイヤに伝え、ケイアさんの元へ向かった。
ようやくケイアさんと話せる!!


扉をノックし、ケイアさんが待つ客間へと入る。

うっ!! ピリピリした雰囲気。
キツ目な顔立ちだからかな? すでに怒ってるように見える。

「さっそくで申し訳ないけど、マイヤを連れてきてもらえるかしら?」

本当にさっそくですね。

「まずは話をさせて?」

ケイアさんとは対照的にお母様の口調は穏やかだ。

「マイヤの事はいつも一番に考えてきたつもりです」

んー、なんとも言えない威圧感。
こんな感じで言われたら、反抗しにくいよなぁ。でも私は言っちゃうけど。

「……本当に?」
「えっ?」
「本当にマイヤの為だけを思って、今まで言ってきましたか?」

ケイアさんに質問を投げかける。

「当たり前です」
「マイヤの気持ちは確認しましたか? ちゃんとマイヤと会話をしていますか?」
「親子なんですから聞かなくても分かります」

聞かなくても分かるって……。

「例え親子でも自分ではないんです。全てを理解してあげるのは難しいと思います。その為に会話が必要なんです」

ケイアさんが明らかに不快な顔をしている。

「今までのマイヤだったら、こんな事をする子じゃなかったわ。アリアさんが私の娘にこんなくだらない事を吹き込んだのかしら? 」

く、くだらない!? 
マイヤが悩んで、苦しんで決心した事をくだらないって言ったの!?
怒りと悔しさで頭が沸騰しそうになる。

「つまりケイアさんは、王妃になっててもおかしくないくらい、さぞかし完璧な人間なんですね!」
「なっ!」

ケイアさんの顔色が変わった。

「アリア、言い方に気をつけてね」

この部屋で唯一冷静なお母様から軽めの忠告を受ける。
確かに、今のは少し言いすぎたかもしれない。

「すいません、マイヤが一大決心した事をくだらないで片付けられたのが悔しくて……嫌味を言いました。でも、マイヤの気持ちをきちんと聞いてあげてください。マイヤはケイアさんが大好きなんです。大好きだからこそ、お母さんの期待に応えたいと思って、今までずっと頑張ってきたと思うんです」

手をギュッと握りしめ、怒りを抑える。
“和解させる事が目的”だから……私が怒ってはダメだ。

「マイヤはケイアさんの代わりじゃないんです。ケイアさんが成し得なかった事を、マイヤに押し付けようとするのは止めてあげてください」
「……マイヤがそう言ったの?」

ケイアさんが不機嫌そうに尋ねてくる。

「……いえ。でも過呼吸を起こすまで悩んでいたのは事実です」
「過呼吸? あの子は昔から精神的に弱い所があるから」

えっ! 以前も過呼吸になった事があったの?

「知ってたなら、どうして過呼吸が起きたか考えた事がありますか? 精神的に弱いで終わらせないでください。もう少しマイヤに寄り添ってあげるべきです!」
「先ほどからアリアさんはマイヤを分かってあげているかのように話してますけど、勝手な想像じゃないのかしら? ねぇ、メルアさん」

ケイアさんがお母様の方へと顔を向ける。

「昔からの付き合いだと思って我慢していましたが、今後、マイヤの為にもアリアさんとのお付き合いは控えさせてもらいますね。アリアさんの教育方法を見直した方がいいんじゃないかしら?」

──!! 私のせいでお母様が嫌味を言われてしまった。
私が『お母様は関係ありません』と反論する前に、お母様が「んー」と指をあごに当てた。

「そうねぇ。確かにアリアは落ち着かない子だから心配な面はたくさんあるのよねぇ」

そこ、ま、まさかの肯定なんだ!!

「でも人として大切なことは何か、きちんと分かっている子だと思っています。そして、アリアとの付き合いはやめたいかしら? マイヤちゃん??」

お母様が席を立ち、客間に繋がっている隣の部屋の扉を開けた。

──マイヤだ! 
お母様、マイヤを呼んで会話を聞かせてたんだ。

「マイヤ!!」

ケイアさんが席を立ち上がる。

「何をやってるの? 帰りますよ!」

ケイアさんがマイヤの方へと歩き出した。

「お母様、私……」

うつむき加減に立つマイヤの声に、ケイアさんが足を止める。

「なに?」
「わ、私……」

マイヤに必要なのは、ほんの少しの勇気だ。
私はマイヤと一緒に叱られて謝るって約束した。“一緒だよ”と伝える為にマイヤの横に移動し、ギュッと手を握る。
マイヤが私の方に顔を向けたので、『大丈夫だよ』という気持ちを込めて頷いた。

……握った手が少しだけ震えてる。
マイヤが顔を上げ、真っ直ぐにケイアさんを見つめた。

「私は……お母様を尊敬しています。尊敬しているお母様の期待に応えたいってずっと思ってました」
「じゃあ、問題ないじゃない?」

ケイアさんがマイヤに問いかける。

「でも応えようとすればするほど、つらくて、苦しくて……。ごめんなさい、私はお母様の望みは叶えられません。私は自分の好きになった人と結婚したいです」

マイヤの目から涙がこぼれた。

「私を助けてくれたアリアちゃんとは、これからも付き合っていきたいです。そして、本当の友人になりたいと思ってます!」

マイヤが私の手を強く握り返した。
ケイアさんを見ると衝撃を受けた表情をしている。マイヤに言い返された事がなかったのかな? 

「……マイヤ? それは本心なの? アリアさんに言わされてないの??」

マイヤが勇気を振り絞って伝えた言葉を『言わされてない?』って思うなんて。
お母様がすくっと立ち上がり、ケイアさんに近づいた。

「ケイアさんには、まだ時間が必要そうね。今日の所はお帰りになってください。そして、マイヤちゃんが一生懸命伝えたかった事を考えてあげてくださいね。もし……」

……もし??

「今日のような答えがまた出るようでしたら、マイヤちゃんは私が引き取ります!!」

えーー! お母様!? そこは和解させる為に頑張るんじゃないの!?
さすがに今の発言は、私もだけど、マイヤもケイアさんも驚いている。

「マイヤは私の大切な娘です! 絶対に渡しません!!」
「わ、私もお母様以外の人をお母様になんて考えたこともないです!」

お母様がクスッと笑った。

「お互いがそう思ってるなら良かったですわ。夏季休暇中、マイヤちゃんは家で預からせていただきます。まずは自分自身の事をもう一度、見つめ直してみてくださいね」

──ああ、そうか。
お母様はちゃんとお互いが想い合っていると言う事を再認識させたかったんだ。



結局、マイヤに初めて意見を言われたこともあったのか、ケイアさんは1人で帰る事になった。
帰り際、マイヤには席を外してもらった。ケイアさんにダメ元で1つの質問をする。

「ケイアさんは今の記憶が残ったまま昔に戻れるとしたら、国王陛下と結婚しますか?」
「なに? その質問は?」
「できれば、答えて頂きたいです」

さすがに答えてくれないかな?
少しの間、考えるように黙った後、ケイアさんがゆっくりと口を開いた。

「……しないわ。マイヤと会えなくなるじゃない」

最後の最後で100点満点の答えをもらえた。
良かった。きっと時間が掛かってもマイヤとケイアさんは分かり合える。

「今日は失礼な事を言ってしまい、申し訳ありませんでした」

深々と謝罪し、ケイアさんを見送った。


ケイアさんが帰った事をマイヤに伝えに行く。部屋へ入るなり、マイヤがまるで自分に問い掛けるように言った。

「私、どうしたらいいかな?」

んー、そうだなぁ。

「休暇中、手紙を書いて自分の思っている事を伝えたら?」

手紙なら、マイヤはきちんと自分の気持ちを伝える事ができるんじゃないかな?
それに多分だけど、今のケイアさんなら少しだけ耳を傾けてくれるかもしれない。

「そうね。そうしようかな」

マイヤが少しだけ嬉しそうに頷いている。


──そうだ!
マイヤに聞く事があった!!

「私とマイヤって友人じゃなかったの?」

マイヤが『本当の友人になりたい』ってというのが気になってたんだよねぇ。
私の素朴な疑問にマイヤが言葉を詰まらせている。

「……さぁ? アリアちゃんが友人だと思ってるなら友人なんじゃない?」


ツンデレ全開のマイヤが照れながらも、今まで見せた事のない一番いい笑顔で笑った。
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