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高等部 1年生

ちょっと遅めの反抗期(後編)

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「はっ!!?」

マイヤを救うにはこれしかない!
いや、救うというのはおこがましいか。変わるキッカケを作れるのはこれしかない!!
ちょっと遅めの反抗期だ!!!

「あと2週間で学校も夏季休暇に入る。その期間、私の家においでよ! 夏季休暇前も『学校の課題で忙しい』と言って一切帰らない!!」

私の突拍子もない提案に、マイヤが明らかに戸惑っている。

「な、何のために?」
「マイヤが自分の考えで行動して楽しく過ごせるように。マイヤはお母さんの代わりじゃないという事を、マイヤのお母さんに分かってもらう為に」

あと、パンナさん(マイヤの父)はこの状況を知ってるのかな? 知っているなら『何を考えてるんだ!』という事を伝える為にも!!

「む、無理よ。そんな事をしたら……お母様が怒るわ」
「そりゃそうだよ! 親に反抗するんだから!!」
「何よ! その他人事の言い方は!!」

よし、いいぞ。マイヤの口調が少し元気になった。
それに無理な理由が“お母様が怒る”なら、マイヤ自身も今の状況を変えたいと思ってるんだ。

「当たり前だよ。他人だからね」
「自分から提案しといて、む、無責任よ」
「でも、この計画に乗るなら全面的に協力する! 全て解決したら、私も一緒に怒られるし、一緒に謝るから!」

もし、お父様とお母様に反対された場合には……セレスかルナの家に駆け込もう(笑)

「……なんでそこまでしてくれるの?」

ん? なんで? と言われると……なんでだろう? 

「んー、分からない」
「わ、分からない!?」
「うん。マイヤを大切な幼なじみと思ってはいるけど、なんか理由としては違うような……?」

これといった理由がすぐに浮かばず、少しの間、沈黙が走る。

「……ああ、そうか。マイヤのお母さんに腹が立ったからかな? うん、そっちの方が理由としてはしっくりくるな」

一人で納得している私とは裏腹に、マイヤがきょとんとした顔をしている。
どうしたのかな? なんか変な事を言ったかな??
首をかしげていると、マイヤが小さな声でつぶやいた。

「大切な友人とか、幼なじみだから……じゃないんだ」

あっ! 失敗? そう言うべきだった!?
焦る私を、マイヤがジッと見つめてくる。

「今の私には、アリアちゃんの言った理由の方が信じられるわ。ただ……」

そこでマイヤが言葉を濁した。

「私、アリアちゃんに助けてもらう資格なんてないの」

──えっ!! なに!?  まだ何か問題があるの??

「……話すわ」

意を決したようにマイヤが口を開く。

私の悪い噂が広がる事を想定した上で“噂の原因”をクラスメイトに話したこと。
私が嫌がらせを受けている事を知っていたこと。
オーンから告白された事も気がついていた上で『協力してほしい』と言ったこと。

話し終えてからも、マイヤは罪悪感のようなものを発してはいたけれど、わりとスッキリした顔をしている。

驚いたけど、したたかなマイヤの一面を知っちゃったからかな?
昨日から驚きっぱなしだからかな??
怒るべきなんだろうけど、思ってたより冷静に話を聞けたな。

最後に、マイヤがそっと私に聞いてきた。

「アリアちゃん、私みたいな性格嫌いでしょ?」
「……んー、分からない」

咄嗟に出た私の答えに、マイヤの可愛い顔が歪んだ。

「わ、分からない!?」
「うん、分かんない。いつも可愛いマイヤもマイヤだと思うし、ちょっと口が悪くてしたたかな性格もマイヤだと思うし……どちらのマイヤも嫌いじゃないよ。ただ人をおとしいれようとするマイヤは好きじゃない」
「……嫌いじゃない、好きじゃないって……結局どっちなのよ?」

んー、どっちかぁ。本来なら嫌いになるのが正解?
でもなぁ……。

「それが分からないんだけど、なんかマイヤって憎めないいんだよねぇ。なんでだろ?」
「私に聞かれても分からないわよ」

まぁ、そうだよね。
私自身が分かっていない事をマイヤが分かるはずないよね。

──あっ! ああ!! 分かった!!!

「マイヤってエレに似てるんだ!」

理由が分かり、思わず声が大きくなる。
ああ、スッキリした!

「エレ……って弟くん?」
「そうそう! まぁ、エレは物凄くいい子だから……そこはマイヤと違うんだけど、ね。可愛さとか繊細さとか、なんか所々に共通点があるんだよね! そう考えると、マイヤじゃなかったら嫌いだったかもね」

エレに似てる部分があるから嫌いになれないんだろうな。
それに、嘘の部分があったとしても、私はマイヤのいい所も知ってるから。

「アリアちゃんって……正直ね」

嘘ついても顔に出ちゃうらしいからね。そりゃ、正直にもなるよ。

「マイヤどうする? いや、どうしたい?? 私はお母さんを通した意見じゃなく、マイヤ自身の気持ちを知りたい。もちろん断ったっていいんだよ?」

マイヤが断ったとしても、それもまたマイヤの意思だ。
これ以上、口を挟むのはよそう。

「……今の話を聞いてもやってくれるの?」
「ああ、そうか。お互いにわだかまりはなくしておきたいよね」

夏季休暇の約1ヶ月間、一緒に住むかもしれないしね。

「きちんと謝罪してくれたらいいかな?」

……言い方が軽かったかな?
マイヤがせっかく、一大決心をして話してくれたのに。

「……アリアちゃんって悩みあるの?」
「失礼な! あるよ! これでも最近は悩み事が多いんだから!!」

今日初めてマイヤが笑った。
だけど、その表情は今にも泣きそうに見える。

「自分は悪くない、嘘はついていないと思いながらも、ずっと心のどこかに引っかかってた。傷つけてごめんなさい」

マイヤが深々と頭を下げた。
涙をこらえているのかな? 身体が少し震えている。

「うん。自分も辛くなるようなこと、もうやめてね」

しばらくして、マイヤが顔を上げた。少しだけ目が赤い。
それと同時に、何かを決意したような強い眼差しをしている。

「私は自分を取り戻したい……アリアちゃんの計画にのるわ」

よし! マイヤが自分で考えて決めた。
これだけでも一歩前進だ! 仮に家出が失敗に終わったとしても無駄にはならない。

さっそく、マイヤと一緒にこれからどうするか作戦を立てる。
私はまず、夏季休暇へ入る前に自分の両親とエレに事情を説明し、了承を得ないと!
どうやって親に伝えるか悩んでいると、マイヤの方から声を掛けてくれた。

「お母様は自分の失態を人に知られたくないとは思うけど、隠さずに事情を説明して」
「……いいの?」

私が聞くとマイヤがパッと目を逸らした。

「一緒に叱られてくれるんでしょ?」

あれ? もしかして照れてる??
今までのマイヤも可愛かったけど、ツンデレのマイヤも結構可愛いかも。

それにしても、わりと何も考えずに「もちろん」って言っちゃったけど、良かったんだろうか。
よーく考えるとケイアさん(マイヤの母)って怒ると怖そうなんだよぁ。
でも、マイヤを助けるって決めた以上、私も覚悟を決めよう。怒られる覚悟を……。

話がある程度まとまると、その日はそのまま部屋に戻った。


──そして、週末。
家に帰り、両親とエレに事情を話した。もちろん、私が嫌がらせを受けた事などは省いて。

お父様とお母様は難しい顔をしている。
ケイアさんは、2人にとって友人でもあるから複雑な気持ちなんだろうな。

腕を組みながら、お父様が言葉を選ぶように話す。

「……そうか。気づいてあげれなかったな。……うん、分かった。休暇中、家に連れておいで」

お父様がはっきりとした口調で許可をくれる。隣にいるお母様も、肯定するように頷いている。

「さすがお父様! お母様! ありがとうございます!!」

お父様が「ただし……」と条件をつけた。

「夏季休暇に入ったら、マイヤちゃんのいる場所は私からパンナ(マイヤの父)に伝えさせてもらうよ」
「えっ! それじゃあ、すぐに迎えに来てしまうかもしれませんよ?」
「迎えに来てもマイヤちゃんが『帰りたい』と言わない限り帰らせなくていい。私がそう言っていたと伝えてくれて構わない」

結局は両親を巻き込む形になってしまったな。申し訳ない。
一人反省していると、お父様が優しく微笑んでくれた。

「アリアは気にする必要はない。気づけなかった大人達に責任があるから」

お父様の言葉に感謝し、再度お礼を伝える。
それから、ずーっと視線を送ってきている人物──エレの方を見た。
あっ、ちょっと拗ねてる。

「夏季休暇中、遊ぶ約束したよね?」
「もちろん! 3人で遊ぼう!!」

可愛いマイヤも加わるし、それで大丈夫だと思って言ったけど……不満そうだな。
エレが小さくため息をつく。

「マイヤさんかぁ~」

あれ?  あれれ? マイヤとエレってお茶会以外で接点ないはずだよね? なにかあったのかな?
んー、エレが不満なのにマイヤを家に呼ぶのもなぁ。
どうしようかな……と悩んでいると、エレがにっこり笑った。

「分かった。アリアの他人をほっとけない所も好きだから。ただ僕と2人だけの時間も作ってね!」
「もちろん!」
「絶っ対、だよ?」
「は、はい」

いつもの可愛い“お願い”のはずなんだけど、なんか圧のようなものを感じた気がする。
……絶対に約束は守ろう。


こうして、“家族公認”のマイヤの家出が始まった。
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