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高等部 1年生
マイヤの作る“マイヤ”(4/4)
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次の日の朝、たまたまアリアちゃんとカウイくんが話しているのを見かけた。
「じゃあ、放課後に」
そう言って手を振って別れている。
放課後? 会う約束をしたのかな? 何を話すのかな? ……気になる。
だけど、2人の会話を盗み聞きするのは“マイヤ”じゃない。
そうだ! 同じクラスにカウイくんの事を好きな子がいる。“親切なマイヤ”は教えてあげよう。
「アリアちゃんが放課後にカウイくんと会うみたい。……なんかカウイくん、深刻そうな顔をしてたな。大丈夫かな?」
「前から思ってたのですけれど……アリアさんはカウイ様を脅してるのかもしれないわ。あの2人が婚約者なんておかしいですもの! 私がカウイ様を助けてあげなくては!」
うふふ。そうそう、助けてあげてね。
『深刻そうな顔をしてた』って言っただけなのにすごい想像力。
そして予想していた通り、その子はカウイくんとアリアちゃんの後をつけて会話を盗み聞きしたみたい。
「よりにもよって、アリアさんからカウイ様に婚約解消を言い出したのです! 全ては聞こえなかったのですけれど、好きな人がどうとかって……言ってましたわ」
えっ! 2人が婚約解消!?
好きな人? まさかあの日──オーンくんがアリアちゃんに告白した!?
だから婚約を解消したの?
ま、まずい! アリアちゃんとオーンくんが付き合ってしまうかも!!
『どうしよう』と悩んでいると、カウイくんから「放課後に話がしたい」と声を掛けられた。
誘われたのは私だけじゃなく、幼なじみ全員。
話の内容は、カウイくんの従兄弟の話。
みんなが命を狙われてるアリアちゃんを心配している。
……なんだか頭がぼーっとする。会話が全然頭に入っていかないな。
ただ、1つだけ。
ミネルくんがカウイくんの従兄弟を探すと伝えた時、アリアちゃんが無鉄砲な事を言い出した。
「そ、そうだよね。私も調べてみる!」
えっ! 女の子だし、狙われてるんだよ? 危ないじゃない!!
「危ないよ。アリアちゃん」
咄嗟に口から出た言葉。
……今言ったのは“私”? それとも“マイヤ”?
そんなのどちらでもいいか。
帰り際、エウロくんとアリアちゃんが話している。
その姿を見て気づく。
……そっか、エウロくんもアリアちゃんが好きなんだ。
自分には関係ないのに『カウイくんの従兄弟を探し出す』と言ったミネルくんも、きっとアリアちゃんが好きなんだろうな。
なんでかなぁ? なんでアリアちゃんばっかり?
圧倒的に優れているのは私なのに。
……そうだ!
アリアちゃんとカウイくんが婚約を解消したなら、このタイミングで私も婚約を解消しよう。
嘘は言わない形でちょっと周りに伝えれば、今までアリアちゃんに不満を思ってた人たちは話を倍にしてくれる!!
でも、どうやってエウロくんと婚約を解消しよう?
私から言ってはダメだ。それは“マイヤ”じゃない。
2日後、エウロくんに「話がしたいんだ」と声を掛けた。
事前に『エウロくんはアリアちゃんが好きかも』って、噂好きなクラスメイトの子に伝えておいたから、準備は万全!!
「エウロくん……間違ってたらごめんね? 好きな子がいるんじゃないかな?」
私の一言をきっかけに、エウロくんから婚約解消の話をしてきた。
エウロくんは必死に謝ってくれた。
最後まで、婚約解消の理由は教えてくれなかった。言ってくれれば、“アリアちゃんを悪者”にできて好都合だったんだけど、な。
その代わり、何度も何度も頭を下げてくれた。
なんでかな? 思惑通りなのに胸が痛む。
後日、私がエウロくんと婚約解消した事をクラスメイトの子に伝え、予想していた通りに噂が広まった。
みんな、話を大きくするのがうまいなぁ。
私は嘘はついてないもの。みんなが勝手に話を大きくしただけ。
それから数日経ったある日、アリアちゃんが嫌がらせを受けているのを見かけた。
これでアリアちゃんはクラスでも仲間外れのはず。
今のアリアちゃんはきっと孤独だ。
これが私の望んだ結果……望んだ結果のはずなのに頭がズキズキする。
痛みが消えないどころか、日に日に強くなっていく。
色々と考えた末、アリアちゃんと改めて話をする事にした。
声を掛け、私の部屋へ誘う。
アリアちゃんに『私はオーンくんが好き』と伝えて協力を仰ごう。
多分、アリアちゃんは協力してくれる。これで少なくともオーンくんとアリアちゃんが付き合うことはない。
付き合う事がないなら大丈夫。後はオーンくんに私を好きになってもらえばいい。
私の方が可愛いんだから、きっとすぐに心変わりをするはず。
まずは噂話から切り出した。
『噂話の原因は私かもしれない』と伝えた。
私は『悪気があったわけではない』、『事実を話した』だけ。
……だからアリアちゃんは責めないはず。
より反省していると思わせる為、顔を下に向けハンカチに目を当てた。
これでアリアちゃんは『泣いてる?』って勘違いするよね?
実際、アリアちゃんは許してくれた。
「マイヤは事実を話しただけだから、なにも悪くないよ。それに噂を払拭したくて言ってくれたんだし、本当にマイヤが原因かも分からないし、ね。だから気にする必要ないよ!」
万が一、噂の出どころが私だと分かっても、すでに私はアリアちゃんに説明をしている。
良かった。これで何があっても大丈夫。
安心したのも束の間、アリアちゃんが耳を疑うような言葉を口にした。
「同じクラスの人たちは、噂話を信じてないし……それに噂を鵜吞みにした人たちに取り囲まれた事もあったけど、ミネルが助けてくれたんだ。だから大丈夫だよ!」
──えっ!?
アリアちゃんのクラスメイトは噂を信じてないの? さらにミネルくんが助けたの!?
アリアちゃんは私の予想に反して、仲間外れでも孤独でもなかった。……また、頭がズキリと痛む。
すると、アリアちゃんが心配そうに尋ねてきた。
「マイヤは嫌がらせ受けてない? 大丈夫??」
……本気で心配してるの?
もしそうだとしたら……いや、もしそうだとしたらはない。一瞬浮かんだ甘い考えを捨てた。
信頼できる友人なんていない。アリアちゃんだって──そうだ。
本題に……入らなきゃ。
アリアちゃんに『オーンくんが好き』と伝え、協力をお願いした。
単純なアリアちゃんは『協力する』って答えるでしょ? ……と思っていたのに。
アリアちゃんの出した答えは違った。
「せっかく勇気を出して言ってくれたのに……協力できない。本当にごめん!!」
──えっ!?
『オーンくんが好きなの?』と尋ねれば、『違う』と答える。
「……それじゃあ、なんで?」
「な、なんで……そうだよね。そう思うよね。具体的には伝えづらいんだけど、敢えて言うならマイヤとオーン、どちらも大切な幼なじみだからかな。ごめん、意味分からないよね」
大切な幼なじみだって思ってるなら、協力するじゃない!!
さっきよりも頭が痛む。アリアちゃんの言葉にイライラする。
でも、イライラした顔を“マイヤ”は見せちゃいけない。顔を下に伏せ、表情を隠した。
「オーンくんの気持ちって、それってオーンくんには既に好きな子がいるみたいな言い方だよね?」
「あっ、いや、ごめん。そういう意味じゃなくて。オーンがそういう事を望むタイプだったら、協力したかもしれない。でもオーンはそういうのを望まないんじゃないかなぁ~と思って」
そんなのキレイごとよ!
アリアちゃんはやっぱりオーンくんと付き合おうとしてるんだ。
好きではないと言ったのも嘘なんだ。
怒りで身体が震えだす。気づけばイライラは最高潮に達し、必死に抑えていた感情が爆発した。
我を忘れて叫ぶと、衝動のまま、抱えていた気持ちをアリアちゃんへとぶつける。
「私はね……はぁ、アリアちゃんなんかに負けちゃダメなの。はぁ、はぁ、一番じゃないといけないの」
胸が苦しい。なぜか上手に呼吸ができない。
……呼吸ってどうやってするんだっけ??
──く、苦しい。
本当はずっとずっと苦しいの。誰か助けて!!
「ゆっくり息を吸って」
誰かの必死な声が聞こえてくる。何度も何度も繰り返し声が聞こえてくる。
その人の声を聞いていたら、段々と苦しさが消えてきた。
正常に呼吸が出来るようになり、心も身体も落ち着いてくる。
私を助けてくれたのは“アリアちゃんの声”だった。
なぜだか急に、涙が溢れてくる。
私……どこで間違えたのかな?
──小さい頃。
甘えっ子の私は一人では寝られなくて、眠りにつくまでの間、お母様が一緒にいて私の背中をさすってくれてたな。懐かしい。
……どこからか歌声が聞こえてくる。なんか心地いいな。
目が覚めると、そこにはアリアちゃんがいた。
私……寝てたの!? さらにアリアちゃんの膝の上で??
アリアちゃんが安心したように声を掛けてくる。
「あっ、目が覚めた?」
ゆっくりと身体を起き上がらせる。どのくらい寝てたのかな?
その横で、アリアちゃんが「うぅ~」っと苦しそうに立ち上がっている。
「今日は遅いから部屋に帰るね。マイヤも疲れてるみたいだから、飲み物でも飲んでゆっくり休んで」
そう言うと、アリアちゃんは笑顔で帰って行った。
なんか……歩き方が変だけど??
アリアちゃんが帰った後、時間を確認する。
えっ! もう23時!? 2時間近く寝てたの!!?
アリアちゃん、ずっと膝枕してくれてたんだ……。
──って!!!
私……素の自分を見せちゃったよね? アリアちゃんに口止めしてない!!
どうしよう? ……こうなったら、朝アリアちゃんを待ち伏せして、黙っててもらうように頼むしかない!!
次の日の朝早く、私はアリアちゃんの部屋の扉をノックした。
すぐにメイドさんが部屋から出てきてくれる。
「アリアちゃんいますか?」
「アリアお嬢様なら、今日はいつもより早く学校に行かれましたが?」
「──!!」
アリアちゃん、言いふらす気なんだ……。昨日アリアちゃんを責めたから、仕返しするつもりなんだ。
どうしよう。きっと幼なじみ達はアリアちゃんを信じて味方する。
胸に不安を抱えながらも、普段通りに登校する。
いつもと変わらない学校。
クラスメイトが、いつもと変わらず話し掛けてくれる。
……あれ?
そっか。幼なじみ達にしか伝えてないのかな?
そう考えてオーンくん達の様子をうかがっていると、いつも通り挨拶してくれた。
あれ??
まだ朝早いから……言ってないのかな?
昼休み? 午後?? 放課後??
……1日中、周りに注意を払っていたけれど、結局のところ何も起こらなかった。
そのまま学校が終わり、女子寮までの道をとぼとぼ歩く。
昨日は思い切り泣いたからか、久しぶりに頭がスッキリしていた。
……でも、今日はまた頭がズキズキする。
「マイヤ!」
ふいに名前を呼ばれて振り返る。そこには真剣な顔をしたアリアちゃんが立っていた。
怒って……る?
「今日は私が誘うよ!! 夕食後、少し話せない?」
「じゃあ、放課後に」
そう言って手を振って別れている。
放課後? 会う約束をしたのかな? 何を話すのかな? ……気になる。
だけど、2人の会話を盗み聞きするのは“マイヤ”じゃない。
そうだ! 同じクラスにカウイくんの事を好きな子がいる。“親切なマイヤ”は教えてあげよう。
「アリアちゃんが放課後にカウイくんと会うみたい。……なんかカウイくん、深刻そうな顔をしてたな。大丈夫かな?」
「前から思ってたのですけれど……アリアさんはカウイ様を脅してるのかもしれないわ。あの2人が婚約者なんておかしいですもの! 私がカウイ様を助けてあげなくては!」
うふふ。そうそう、助けてあげてね。
『深刻そうな顔をしてた』って言っただけなのにすごい想像力。
そして予想していた通り、その子はカウイくんとアリアちゃんの後をつけて会話を盗み聞きしたみたい。
「よりにもよって、アリアさんからカウイ様に婚約解消を言い出したのです! 全ては聞こえなかったのですけれど、好きな人がどうとかって……言ってましたわ」
えっ! 2人が婚約解消!?
好きな人? まさかあの日──オーンくんがアリアちゃんに告白した!?
だから婚約を解消したの?
ま、まずい! アリアちゃんとオーンくんが付き合ってしまうかも!!
『どうしよう』と悩んでいると、カウイくんから「放課後に話がしたい」と声を掛けられた。
誘われたのは私だけじゃなく、幼なじみ全員。
話の内容は、カウイくんの従兄弟の話。
みんなが命を狙われてるアリアちゃんを心配している。
……なんだか頭がぼーっとする。会話が全然頭に入っていかないな。
ただ、1つだけ。
ミネルくんがカウイくんの従兄弟を探すと伝えた時、アリアちゃんが無鉄砲な事を言い出した。
「そ、そうだよね。私も調べてみる!」
えっ! 女の子だし、狙われてるんだよ? 危ないじゃない!!
「危ないよ。アリアちゃん」
咄嗟に口から出た言葉。
……今言ったのは“私”? それとも“マイヤ”?
そんなのどちらでもいいか。
帰り際、エウロくんとアリアちゃんが話している。
その姿を見て気づく。
……そっか、エウロくんもアリアちゃんが好きなんだ。
自分には関係ないのに『カウイくんの従兄弟を探し出す』と言ったミネルくんも、きっとアリアちゃんが好きなんだろうな。
なんでかなぁ? なんでアリアちゃんばっかり?
圧倒的に優れているのは私なのに。
……そうだ!
アリアちゃんとカウイくんが婚約を解消したなら、このタイミングで私も婚約を解消しよう。
嘘は言わない形でちょっと周りに伝えれば、今までアリアちゃんに不満を思ってた人たちは話を倍にしてくれる!!
でも、どうやってエウロくんと婚約を解消しよう?
私から言ってはダメだ。それは“マイヤ”じゃない。
2日後、エウロくんに「話がしたいんだ」と声を掛けた。
事前に『エウロくんはアリアちゃんが好きかも』って、噂好きなクラスメイトの子に伝えておいたから、準備は万全!!
「エウロくん……間違ってたらごめんね? 好きな子がいるんじゃないかな?」
私の一言をきっかけに、エウロくんから婚約解消の話をしてきた。
エウロくんは必死に謝ってくれた。
最後まで、婚約解消の理由は教えてくれなかった。言ってくれれば、“アリアちゃんを悪者”にできて好都合だったんだけど、な。
その代わり、何度も何度も頭を下げてくれた。
なんでかな? 思惑通りなのに胸が痛む。
後日、私がエウロくんと婚約解消した事をクラスメイトの子に伝え、予想していた通りに噂が広まった。
みんな、話を大きくするのがうまいなぁ。
私は嘘はついてないもの。みんなが勝手に話を大きくしただけ。
それから数日経ったある日、アリアちゃんが嫌がらせを受けているのを見かけた。
これでアリアちゃんはクラスでも仲間外れのはず。
今のアリアちゃんはきっと孤独だ。
これが私の望んだ結果……望んだ結果のはずなのに頭がズキズキする。
痛みが消えないどころか、日に日に強くなっていく。
色々と考えた末、アリアちゃんと改めて話をする事にした。
声を掛け、私の部屋へ誘う。
アリアちゃんに『私はオーンくんが好き』と伝えて協力を仰ごう。
多分、アリアちゃんは協力してくれる。これで少なくともオーンくんとアリアちゃんが付き合うことはない。
付き合う事がないなら大丈夫。後はオーンくんに私を好きになってもらえばいい。
私の方が可愛いんだから、きっとすぐに心変わりをするはず。
まずは噂話から切り出した。
『噂話の原因は私かもしれない』と伝えた。
私は『悪気があったわけではない』、『事実を話した』だけ。
……だからアリアちゃんは責めないはず。
より反省していると思わせる為、顔を下に向けハンカチに目を当てた。
これでアリアちゃんは『泣いてる?』って勘違いするよね?
実際、アリアちゃんは許してくれた。
「マイヤは事実を話しただけだから、なにも悪くないよ。それに噂を払拭したくて言ってくれたんだし、本当にマイヤが原因かも分からないし、ね。だから気にする必要ないよ!」
万が一、噂の出どころが私だと分かっても、すでに私はアリアちゃんに説明をしている。
良かった。これで何があっても大丈夫。
安心したのも束の間、アリアちゃんが耳を疑うような言葉を口にした。
「同じクラスの人たちは、噂話を信じてないし……それに噂を鵜吞みにした人たちに取り囲まれた事もあったけど、ミネルが助けてくれたんだ。だから大丈夫だよ!」
──えっ!?
アリアちゃんのクラスメイトは噂を信じてないの? さらにミネルくんが助けたの!?
アリアちゃんは私の予想に反して、仲間外れでも孤独でもなかった。……また、頭がズキリと痛む。
すると、アリアちゃんが心配そうに尋ねてきた。
「マイヤは嫌がらせ受けてない? 大丈夫??」
……本気で心配してるの?
もしそうだとしたら……いや、もしそうだとしたらはない。一瞬浮かんだ甘い考えを捨てた。
信頼できる友人なんていない。アリアちゃんだって──そうだ。
本題に……入らなきゃ。
アリアちゃんに『オーンくんが好き』と伝え、協力をお願いした。
単純なアリアちゃんは『協力する』って答えるでしょ? ……と思っていたのに。
アリアちゃんの出した答えは違った。
「せっかく勇気を出して言ってくれたのに……協力できない。本当にごめん!!」
──えっ!?
『オーンくんが好きなの?』と尋ねれば、『違う』と答える。
「……それじゃあ、なんで?」
「な、なんで……そうだよね。そう思うよね。具体的には伝えづらいんだけど、敢えて言うならマイヤとオーン、どちらも大切な幼なじみだからかな。ごめん、意味分からないよね」
大切な幼なじみだって思ってるなら、協力するじゃない!!
さっきよりも頭が痛む。アリアちゃんの言葉にイライラする。
でも、イライラした顔を“マイヤ”は見せちゃいけない。顔を下に伏せ、表情を隠した。
「オーンくんの気持ちって、それってオーンくんには既に好きな子がいるみたいな言い方だよね?」
「あっ、いや、ごめん。そういう意味じゃなくて。オーンがそういう事を望むタイプだったら、協力したかもしれない。でもオーンはそういうのを望まないんじゃないかなぁ~と思って」
そんなのキレイごとよ!
アリアちゃんはやっぱりオーンくんと付き合おうとしてるんだ。
好きではないと言ったのも嘘なんだ。
怒りで身体が震えだす。気づけばイライラは最高潮に達し、必死に抑えていた感情が爆発した。
我を忘れて叫ぶと、衝動のまま、抱えていた気持ちをアリアちゃんへとぶつける。
「私はね……はぁ、アリアちゃんなんかに負けちゃダメなの。はぁ、はぁ、一番じゃないといけないの」
胸が苦しい。なぜか上手に呼吸ができない。
……呼吸ってどうやってするんだっけ??
──く、苦しい。
本当はずっとずっと苦しいの。誰か助けて!!
「ゆっくり息を吸って」
誰かの必死な声が聞こえてくる。何度も何度も繰り返し声が聞こえてくる。
その人の声を聞いていたら、段々と苦しさが消えてきた。
正常に呼吸が出来るようになり、心も身体も落ち着いてくる。
私を助けてくれたのは“アリアちゃんの声”だった。
なぜだか急に、涙が溢れてくる。
私……どこで間違えたのかな?
──小さい頃。
甘えっ子の私は一人では寝られなくて、眠りにつくまでの間、お母様が一緒にいて私の背中をさすってくれてたな。懐かしい。
……どこからか歌声が聞こえてくる。なんか心地いいな。
目が覚めると、そこにはアリアちゃんがいた。
私……寝てたの!? さらにアリアちゃんの膝の上で??
アリアちゃんが安心したように声を掛けてくる。
「あっ、目が覚めた?」
ゆっくりと身体を起き上がらせる。どのくらい寝てたのかな?
その横で、アリアちゃんが「うぅ~」っと苦しそうに立ち上がっている。
「今日は遅いから部屋に帰るね。マイヤも疲れてるみたいだから、飲み物でも飲んでゆっくり休んで」
そう言うと、アリアちゃんは笑顔で帰って行った。
なんか……歩き方が変だけど??
アリアちゃんが帰った後、時間を確認する。
えっ! もう23時!? 2時間近く寝てたの!!?
アリアちゃん、ずっと膝枕してくれてたんだ……。
──って!!!
私……素の自分を見せちゃったよね? アリアちゃんに口止めしてない!!
どうしよう? ……こうなったら、朝アリアちゃんを待ち伏せして、黙っててもらうように頼むしかない!!
次の日の朝早く、私はアリアちゃんの部屋の扉をノックした。
すぐにメイドさんが部屋から出てきてくれる。
「アリアちゃんいますか?」
「アリアお嬢様なら、今日はいつもより早く学校に行かれましたが?」
「──!!」
アリアちゃん、言いふらす気なんだ……。昨日アリアちゃんを責めたから、仕返しするつもりなんだ。
どうしよう。きっと幼なじみ達はアリアちゃんを信じて味方する。
胸に不安を抱えながらも、普段通りに登校する。
いつもと変わらない学校。
クラスメイトが、いつもと変わらず話し掛けてくれる。
……あれ?
そっか。幼なじみ達にしか伝えてないのかな?
そう考えてオーンくん達の様子をうかがっていると、いつも通り挨拶してくれた。
あれ??
まだ朝早いから……言ってないのかな?
昼休み? 午後?? 放課後??
……1日中、周りに注意を払っていたけれど、結局のところ何も起こらなかった。
そのまま学校が終わり、女子寮までの道をとぼとぼ歩く。
昨日は思い切り泣いたからか、久しぶりに頭がスッキリしていた。
……でも、今日はまた頭がズキズキする。
「マイヤ!」
ふいに名前を呼ばれて振り返る。そこには真剣な顔をしたアリアちゃんが立っていた。
怒って……る?
「今日は私が誘うよ!! 夕食後、少し話せない?」
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