上 下
91 / 261
高等部 1年生

勝負の行方はAクラスのみぞ知る(後編)

しおりを挟む
……へっ!!!?

あのゆるキャラのような風貌は……担任の“コーサ”先生!?
どうしてここへ? というか、『授業が始まった』って言った??

みんなで一斉に時計を確認する。

口々に「うわぁ、本当だ」「もうこんな時間?」と焦りだし、剣術場が騒然としている。

思った以上に試合が長引き、試合後みんなで盛り上がって会話をしていたら、いつの間にか昼休みは終わっていたらしい。

初日から……やってしまった!!

「教室へ行ったら誰もいなくて……こんなこと、教師人生で初めてです!」

口調が敬語に変わった事で、少し怒りを感じる。

「さらに! 無断で剣術場を使用までして……ここで何をしていたんですか!?」

む、無断!? 空いてるからって許可なく、使用しちゃダメなんだ!!

焦っている私をよそにコーサ先生の前に1人の男性が立った。
剣術場を探し、審判を務めたクラスメイトだ。

「私が……この場所を指定しました。申し訳ございませんでした」

深々と頭を下げ、謝っている。
いやいやいや、そもそも悪いのは私と(特に)二ティだし。

「先生! すいません。そもそもの発端は私(と、ニティ)です。剣術の試合をする為に場所を見つけてもらったんです」

急いで、コーサ先生の元へ駆け寄り説明をした。

「し、試合!? アリアさん!!」
「は、はい?」
「剣術の試合は大怪我に繋がることもあるので、校内で行う場合、学校側の許可、又は、審判の資格のある人が立ち会うことが学校の規則なんですよ!!」

えー!!! そうなの!?

私は無断で剣術場を使用し、許可なく試合をしてしまったという……。
知らなかったとはいえ、ダブルで規則を破ってしまってたのー!!?

「処罰は追って伝えます。とりあえず、皆さん教室へ戻って!!」

コーサ先生が、生徒たちを教室へ促した。

処罰かぁ……やってしまったよ。これって親にも報告いっちゃうのかな~?

クラスメイトが教室へ戻っていく中、二ティが先生の所まで行き、話をした。

「あの……俺も試合しました」

二ティ! 逃げずにきちんと白状した!!

「アリアさんの相手は二ティさんだったんですね?」
「……はい」
「分かりました。2人も一度教室へ戻ってください」


全員が教室へと戻った後、教壇に立ったコーサ先生が話し始める。

少し時間が空いたからかな? 
さっきより落ち着いた表情になっているようにも見える。

「学校の規則や1年間の予定などを今の時間で説明する予定だったのですが、まさか初日……それもこんなにすぐ規則が破られるとは思っていなかったので、驚いています」

ですよね。授業に来たら教室に誰もいないなんて、驚き以外の何物でもないと思う。
本当すいません。

「アリアさんと二ティさんには、追って学校側の処罰を伝える事にして──本来、行うはずだった学校についての説明を始めます」

コーサ先生が少し疲れた様子(本当に本当にすいません)で説明を始める。

それからは昼休みの件については一斉触れず、午後の授業は滞りなく進められた。
最後のホームルーム前、ついに先生が私と二ティを呼んだ。

「二ティさん、アリアさん」

ついに処罰が下されるのか……。

自分が悪い事をしたとはいえ、重い面持ちで先生の元へと向かう。
二ティと一緒に先生の前へと立った。

「……休み時間の度、クラスメイトが取っ替え引っ替え、私の所へ来ました。『自分たちも一緒にいたから同罪だ』、『2人だけが悪いわけじゃない』と」

!? 本当に!!?
みんな、ありがとう!!

「正直、こんなにもクラス全員が一丸となって2人を庇い……嬉しく……うっ」

……えっ! まさか泣いてる? 熱血で涙もろい先生なのかな??
まさか泣きだすとは思っていなかったからビックリ!

私の横に立っている二ティも驚いている。
というか、二ティは少し引いている。

ハンカチで涙を拭い、少し赤い目で先生が私たちを見た。
コーサ先生が本題へと入る。

「今回は規則を知らなかったという事、また運良く怪我人も出なかった事を考慮し、特別に……特別にですよ? この後、残って反省文を書いてもらうだけで大丈夫です」

そもそも本来であればどんな罰則があるのかすら知らないけど、ひとまず反省文だけで良かった! 

「ありがとうございます! ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」

処罰が軽めだった事に安堵したと同時に、迷惑を掛けたであろうコーサ先生へ勢いよく頭を下げた。

クラスメイトのみんなありがとう!!
多分、学校側にフォローしてくれた先生もありがとうございます!!

ニティは「反省文~!?」と、反省文を書く事すら不服そうだ。

ホント、こいつは!! 
すかさず、ニティにだけ聞こえるくらいの声でこそっと伝えた。

「反省文以上の処罰になってもいいの? よく考えてよ」

ホント、頼むよ!!
おそらくはよく考えた結果、二ティがしぶしぶ承諾した。

「……分かりました」



──放課後

ルナとセレスが会いに来てくれた。
昼休みも私に会いに来たけど、教室に誰もいなかったので不思議に思っていたらしい。

2人には『諸事情により、反省文を書く事になったんだけど今度詳しく説明するね』と伝えた。

クラスメイトにも別れを告げ、ニティと2人、教室に残って反省文を書き始める。

忙しない1日だったけど、クラスメイトと仲良くなれたなぁ。
それに試合の後、審判を務めたクラスメイトの“テト”くんが話し掛けに来てくれた。(その時に名前も聞けた)

『小柄なアリアさんが二ティさんと互角に試合しているのを見て、勇気をもらいました』

そう言ってもらえて嬉しかったなぁ。
感動に浸っていると、二ティが「おい」と声を掛けてきた。

「なに?」
「お前の父親って《水の魔法》を使う中でもトップの人間だったんだな。さらに“上院”なんだろ。上流中の上流じゃないか。なんで言わなかった? その時点で俺を黙らす事も出来ただろう?」

誰に聞いたんだろう? 
ユラちゃんかサイネちゃんかな?

どちらにせよ、まだそんな事を言ってるのか。
横柄な態度を改めろって言ったのに全然直ってないし。

……まぁ、すぐには変わらないか。

「はぁ~、あのね……」

私がため息をつき、呆れながら話をする。

「二ティの『俺が誰だか分かってるのか?』って言った時にも思ったんだけど、すごいのは親なの。私や二ティじゃないの。分かる? 親がすごいと尊敬したり、褒める事は素晴らしいけど、親の力で自分もすごいと勘違いしているのは、自分は無能だって言ってるようなものだからね。恥ずかしいよ」

あっ。言い過ぎた? 怒っちゃうかな?
チラッと二ティの様子を見ると、怒ってはいない?

どちらかというと、不思議そうな顔をしている。

「そう……なのか? 俺って恥ずかしいのか!?」

なんだろう? 試合後から、やけに素直だな。

「こういう事を話したり、注意する人はいなかったの?」
「……いない。中等部の時は俺より階級の高い奴はいなかったから」

階級、階級って……。
そういう学校だったのか。それで二ティはこんな考え方になっちゃったのね。

そして、威張り散らしていたと。
この様子だと親も相当甘やかしてるな。

「二ティ! この1年で一緒に成長していこう!」
「お、おう? ……その」

急に二ティの歯切れが悪くなった。

「試合後、アリアが『力は守る事に使った方が断然モテると思う』と言ってたけど」
「うん? 言ったよ?」
「アリアの友人もそういう人を好きになるって言ってたのは本当か!?」

二ティが真剣な目で聞いてきた。
ん? そんな事を言うって事は──

「気になる人がいるの?」

突然、二ティの顔が真っ赤になった。
うわっ、思わず私も照れてしまう。

「な、なんで分かった?」

な、なんでバレないと思った?

「アリア……入学式の時に抱きつかれてただろ?」
「んん??」


──ああ! ルナ!!
確かにバッグハグされた!!

なるほど。あの時、近くにニティもいたのね。
という事は……ルナに一目惚れしたのかなぁ?

もしかして私にケンカを売ってきたのも……ヤキモチ!?
なんて、なんて、可愛くないヤキモチなんだ。

ルナかぁ……完璧なリーセさんというお兄さんがいるからなぁ。

なかなかハードル高いよ?
それにルナの友人としては、“今の二ティ”はオススメしたくないしなぁ。

「うん。まぁ、とりあえず反省文を書こうか」
「おい! なんで話をそらしたんだ!?」
「まぁ、まぁ。ほら書かないと帰れないよ?」

二ティがぶつぶつ文句を言いながらも、再び反省文を書き始める。
それから30分と掛からずに反省文を書き終えると、2人揃ってコーサ先生に提出した。

高等部の門で二ティと挨拶を交わし、寮の方へと足を進める。
ボーッとしながら歩いていると「アリア」と声を掛けられた。

誰か呼んだ??
声が聞こえた方に顔を向けると、そこにはオーンが立っていた。

「あれ? オーン?」
「人伝えで聞いたけど、今日は大変だったみたいだね」
「あはは、聞いたんだ。……ところで、どうしたの?」

何事かと尋ねれば、オーンがにっこりと微笑んだ。

「実はアリアを待ってたんだ。疲れてるところ悪いんだけど、これから少し話せないかな?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

処理中です...