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中等部 編

14歳、中等部 卒業

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ついに中等部を卒業する日がやって来た。

まぁ、卒業式といってもね。
そのまま高等部に持ち上がるだけだからね。
高等部の卒業式みたいに、大々的なパーティーとかがある訳じゃないらしいけど……。

それでも、会場内には立食用の小さなテーブルがいくつも置かれており、中央には豪華な料理がビュッフェ形式で並んでいる。

飲み物も色々な種類が用意されていて、私が想像していた卒業式とは明らかに違う。

私からすると十分、派手なパーティーに思えるんだけどなぁ。
高等部の卒業式って……どれだけ凄いんだろう?

今から学校長や理事長の話があるんだっけ?
その後、先生や同級生たちと軽食を楽しみつつ、歓談して式が終わるって担任の先生が説明してたな。


思えば、この卒業式を迎えるまでにさまざまな事があった。

学校も無事に建ち、経営者からは1ヶ月後には本格的に運営を開始していくと聞いた。
どんな学校になっていくのかな? これから楽しみだなぁ。

それにしても思ってたより、建つのが早かった!
ミネルを筆頭に沢山の人たちが協力してくれたからだろうな。
この1年は一番忙しい日々だったけど、最後の最後でやり切った気分。


そういえば、ミネルとルナから『婚約解消した』と聞いた時は驚いた!

2人共、いつもと変わらないテンションで淡々と話してたなぁ。
詮索するのは失礼かなーと思って聞いてないけど、解消する理由でもあったのかなぁ?

セレスとルナが婚約解消したという事は、やっぱりヒロインはマイヤ?
そして、なんだかんだ“乙女ゲーム”通りに話が進んでるんじゃ……?


──いや、違う!!

今の今まで忘れていたけど、ヒロイン達の恋愛は高等部からのはず。
ということは、中等部での婚約解消って、実際の“乙女ゲーム”よりも早く話が進んでる!?

……んー、分からない。
どうして、展開が早くなってしまったんだろう?


まぁ、いっか。
もうすぐマイヤも帰ってくるし、時機に答えが分かるよね。

そもそも、マイヤってどんな子なのかな?
可愛くて優しいとか断片的な事は知ってるけど、実はちゃんと話した事がないんだよねぇ。

留学中に何通か手紙のやり取りはあったものの、なんていうか……当たり障りのない話しかしてないしなぁ。

一人で考え込んでいると、突然、背後から声を掛けられた。

「卒業式だっていうのに何をボーッとしてるのよ?」

この声は……。
やっぱり! セレスだ。

「ちょっとマイヤの事を考えてて……。元気かなぁ? って」
「ああ、それなら──」

セレスが何かを言いかけたタイミングで、今度は後ろから男性の声が聞こえてくる。

「マイヤかぁ……俺の事も少しは考えてくれた?」


──ん? 誰??

聞き覚えのない声に反応して振り向くと、真っ先に誰かの肩が目に入った。
そのまま見上げると──

「カ、カウイ!?」
「久しぶり、アリア。会いたかったよ」

えー!! なんで、ここに!?
まだ留学中じゃなかったっけ??

っていうか、カウイだよね??

身長が高くなってるし、声も低くなってて、昔の面影がほぼない!
何よりお母さんに似た色気のある妖艶さが際立ってる!!

あまりの変わり具合にボーッと立ち尽くしていると、カウイの後ろからひょこっと可愛い顔が現れた。

「久しぶりだね。セレスちゃん、アリアちゃん」


──マイヤ!!

えっ! マイヤまで!?
な、なんで??

「元気そうじゃない。カウイ、マイヤ」

……あれっ? セレスが普通に返事してる。

なんで驚いてないの??
半ばパニック状態になっていると、こちらにやって来たミネルが呆れ気味に口を開いた。

「アリア、挙動不審になってるぞ」
「へっ? あっ、ミネル! カウイとマイヤがいるの!!」

興奮気味の私に対し、ミネルは微塵も驚いていない。

「ああ、そうだろうな。卒業式には帰ってくるって言ってたからな」

えっ! そうなの!?
この前、届いたカウイの手紙には『帰ってくる』って一言も書いてなかったけど……。

「アリアは知らなかったの? ……久しぶりだね。2人とも元気そうで何よりだよ」

遅れて現れたオーンが、2人と挨拶を交わしている。
「知らなかったの?」って聞くって事は……オーンも知ってたんだ。

「おはよう、アリア」
「おお、久しぶりだなー! カウイ、マイヤ!」

あっ! ルナ。それにエウロも来て、普通に2人に挨拶している。
これは……もしや知らなかったのは私だけ??

「ルナもカウイとマイヤが帰って来てたの知ってたんだね」
「カウイ? マイヤ? ……あっ、ほんとだ」

あれ? ルナは知らなかったの??
何が何だか分からない。

私の気持ちを察してくれたのか、マイヤがにっこり笑った。

「私は両親と、手紙のやり取りをしていたオーンくんには伝えてたよ。みんなはご両親から聞いたんじゃないかな?」

セレスが「その通りよ」と、みんなを代表するかのように話し始めた。

「私はお父様から聞いてたわ。アリアは、てっきりカウイから聞いてると思ってたから……あえて言わなかったわ(そもそも興味もなかったし)」

なるほど……。
私が話を聞いてなかっただけで、実はお父様やお母様は教えてくれてたのかもしれない。

1人だけ……あっ、ルナも知らなかったのか。
私を見て、カウイが申し訳なさそうに微笑んだ。

「驚かそうと思って伝えてなかったんだ。ごめんね、アリア」

うっ、色気が……。
でも背も高くなって変わったように見えたけど、優しいところは何も変わってない。

うん。カウイのままだ。

「ビックリしたけど、久しぶりに2人に会えて嬉しい。お帰りなさい!」
「ただいま」
「ありがとう、アリアちゃん」

私の言葉にカウイとマイヤが笑顔で返してくれた。
しばらくして、周りを見渡したマイヤが、可愛らしく尋ねてくる。

「久しぶりに学校に来たけど、なんか雰囲気が変わったよね? 女生徒が特に……」
「確かにそう言われればそうかも。前よりは服装も堅っ苦しくないというか、髪の短い子も増えてね。私も過ごしやすくなったんだよねぇ」

「うんうん」と同意していると、セレスが呆れような表情を浮かべる。

「アリア……今の口調からして、誰の影響で変わったとか気づいてないわね?」
「えっ、ん? 何が?」

私の横にいたルナが呟くように答えた。

「アリアの影響だと思うよ」
「えっ!! 私!?」

ルナがこくんと頷いた。

「私は(みんなと違って)目立つ存在じゃないから、そんな影響力はないと思うけど……」
「アリアは可愛い。誰よりも輝いてるよ」

……ルナ。
それ、どう見てもひいき目が入ってるよ。

ルナに対抗するかのように、セレスが大きなため息をついた。

「私の方が当然! 輝いてはいるけど、少なからずアリアの影響を受けている後輩の子たちがいるのは確かよ」
「いや、セレスは輝いてないし。少なからずじゃないし。沢山いるし」

ルナが即座に否定した事で、またしても2人が言い合いを始めてしまった。

うーん……この2人は最後の最後まで……。


それにしても──
そうなの!? 私って、いつの間にか憧れられる先輩になってたの!? なんか嬉しい!!!
魔法は使えないけど……魔法以外の事を頑張ってた甲斐があったなぁ。

ひっそりと喜ぶ私に対し、オーンが何か考え込んでいる。

「……ずっと気になってたんだけど、アリアって自分で思ってるほど目立たない存在じゃないよ?」
「まあ、そうね。正直、最初の頃は私の後ろに映る影のような存在だったとは思うけど」

どうやら言い合いを終えたらしいセレスも、オーンに同意している。

うん……今のセレスは一言多かったね。
でも、ちょっとはハイスペックな幼なじみ達に近づけたような気がして嬉しいかも。

「そうだな。アリアは誰よりも可愛……いや、大会とかでも活躍してたしな。尊敬している後輩は多いんじゃないか?」

エウロの言葉は、いつも私に元気をくれる。
……けど、なんか照れてる? どうしたのかな??

「貢献度はさておき、一応“学校を作る計画”の中心人物でもあったからな」

ミネル……そんなハッキリ言わなくてもいいじゃん。

確かにみんなの活躍が大きかったのは事実だけど、さ。

せっかくエウロの言葉で嬉しくなってたのに……。
へこんでる私に、ミネルが少しからかうように言葉を続ける。

「今の顔、面白かったぞ。それに、僕を巻き込んだ貢献度は高かったんじゃないか? ……アリアじゃないと手伝わなかったからな」

私じゃないと手伝わなかった? それってどういう……?
戸惑う私を見ながら、ミネルはクスクスと笑いだした。

あっ! そうか!
そもそも私が賭けに勝ったから、手伝ってくれたんだった!

うぅー! くやしいー!! 
からかわれただけだったんだ!!

一連のやり取りを横で見ていたカウイが、私に聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟く。

「なるほど、ね。アリアの手紙には書いてなかったから知らなかったな」
「うん? カウイどうしたの?」

私の質問に、カウイは静かに顔を横に振って微笑んだ。

「ううん。アリアがさらに可愛くなったなって思って」

カウイって……こういう事がさらっと言えちゃうのが凄いよな。
にじみでる妖艶さも相まって、照れくさくなる。

ホント、幼なじみ以外の子たちが聞いたら誤解しちゃうよ?

「あはは。ありがとう」

動揺しつつも、カウイにお礼を伝える。
なんか照れたせいか、体が熱くなってきた。飲み物でも取ってこよう。

一旦その場を離れ、飲み物を取りに行く事にした。
テーブルの前で何を飲もうか悩んでいると、横からそっと声を掛けられる。

「アリアも何か取りに来たの?」
「あっ、オーン! うん、喉が乾いたから飲み物を、ね」
「一緒だね」

そういうと、オーンが持っていた飲み物を見せて笑う。
一緒にみんながいる場所へと戻る途中、オーンが質問してきた。

「アリアは高等部を卒業するまでは、カウイと婚約したまま?」

オーン、急にどうしたんだろう?
急な質問に少し戸惑いながらも答える。

「うーん……ちょっと悩んでる。大体の人って、高等部で婚約するんでしょ? だからカウイと婚約したままだと、カウイが正式な婚約者を見つけられないなーって思って」
「カウイはそう思ってないと思うけど……そっか」

オーンがクスっと笑いながら、私の顔をジッと見つめてくる。

「なんか今のセリフって、アリア自身は婚約者を作ろうとは思ってないよね。他人事というか……」
「あっ、バレた(笑)? 」

私もオーンにつられて笑う。

「さすがに好きな人ができたら考えるけど……。でもさ、十分楽しい日々を過ごしてるから、婚約者作らなきゃ! っていう気持ちに縛られたくなくて、ね。それに一生独身でも楽しく過ごせる自信がある!」

お父様、お母様には申し訳ないけど……。
私が力強く答えると「なるほど」とオーンが微笑んだ。

「やっぱりアリアは“いい意味”で変わってるね。常識にとらわれてないというか。それが人を惹きつけるのかな?」

常識にとらわれてないかぁ。
そういえば、ヤン爺ちゃんにも『普通じゃありえん』って言われたなぁ。

「でも、アリアは一生独身はないと思うよ? ……僕の希望としては、好きな人は作ってもらいたいな」

一生独身はない? 好きな人は作ってほしい?
なんでだろう? オーンの言う事はたまに難しいなぁ。

「なんでそう思うの?」
「答えは、高等部に入ってから教えるよ」

含みを持たせたように告げると、オーンがドキっとするような笑みを浮かべた。


この時の私は、久しぶりに揃った幼なじみ達への喜びと、高等部に上がる事への期待に胸を躍らせていた。
──まさか自分が恋愛の中心人物になるだなんて、夢にも思っていなかった。
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