一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます

Teko

文字の大きさ
上 下
68 / 261
中等部 編

14歳、ミネルと人探し(後編)

しおりを挟む
署名の話で盛り上がっている内に目的地へと到着した。
”ヴェント”を降りると同時に、建物の近くに1人の男性が立っている事に気づく。

ミネルがボソッと耳打ちしてくる。

「多分、この仕事場の棟梁だ。今日行く事は事前に話しておいた」

かなり威圧的な顔をしているけど……人を見かけで判断しちゃ失礼だよね。

「お待ちしておりました。ミネル様……それと?」
「はじめまして、アリアです。本日は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます」
「これはこれは……ご丁寧にありがとうございます。随分としっかりされたお嬢様ですね。改めて、棟梁のシジクです。よろしくお願い致します」

シジクさんは、威圧的な表情とは裏腹に屈託のない表情で笑った。

「すいません。後ろにある建物は仕事場で、お客様が来た時にお話する場所は……ちょっと先にある建物になるんですがよろしいですか?」
「はい、構いません」

そう言うと、シジクさんは私達のペースに合わせ、ゆっくりと歩き出した。
ミネルと一緒にシジクさんの後をついて行く。

5分程度歩いたところで、裏通り沿いにある簡易な小屋へと案内された。

「どうぞ、お入りください」
「失礼します」

中へ入ると、シジクさんに勧められるままに椅子へと腰を下ろした。

「すいません。普段お客様が来ることがほとんどないので、こんな場所しかなくて……」
「いえ。突然のお声掛けにもかかわらず、このような場を設けていただき、本当にありがとうございます。さっそく本題なんですが──」

まずはミネルが簡単に経緯を説明する。

状況を把握してもらったところで、今度は学校を建てるのに必要な知識があり、かつ、現場を管理できるようなレベルの人たちを数名雇う事ができないか相談を持ちかけた。

「……そういう事なら、喜んで協力しましょう。ちゃんとした賃金が発生する仕事のようですしね。こちらが損しない程度にお値段もお安くしますよ!」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます。契約書、金額などについては、後ほど届けさせます」

棟梁が頷き「一緒に頑張りましょう」と力強く言ってくれた。
交渉も順調に進み「時間は無駄にできない。すぐに(学校に)戻るぞ」とミネルが言った。

同意し、慌ただしくシジクさんへの挨拶をすませる。
小屋を出ると、元来た道を歩き、ミネルと一緒に乗ってきた“ヴェント”の所まで戻った。

「……ん? おかしいな。ここで待ってもらうよう言っておいたんだが……」
「いないね?」

そこには“ヴェント”も、運転手さんもいなかった。
2人で周りを見渡して探したけど、離れた場所に移動した訳でもなさそうだ。

見送りに来てくれたのか、シジクさんが戸惑う私たちの様子に気づき、声を掛けてくれた。

「どうしました?」
「いや、待たせていた“ヴェント”が見つからなくて……」

シジクさんも一緒になって近くを探してくれる。
……それでも見つからない。

「よければ、うちの奴(部下)に送らせましょうか?」
「いえ、それは申し訳ないです」

見かねたシジクさんが気を利かせてくれる。
私が遠慮して断ると、シジクさんが笑った。

「構いませんよ。あとで買い物を頼もうと思っていたんで、そのついでだと思ってください」
「ミネル、どうしようか? "ヴェント”もそうだけど、待っていてくれるはずの運転手さんの方も気になるよね?」
「……そうだな。少し待たせてもらって、それでも帰ってこなければお願いしよう。その場合、一旦戻ってから運転手を探してもらった方がいいな」

ミネルの提案通り、しばらくの間、運転手さんが戻るのを待つ事にした。
私たちを心配したのか、シジクさんも一緒に待っていてくれた。


──20分が経過した。

一向に戻ってくる気配がない……。
諦めたように「はぁ~」と溜息をついたミネルが、シジクさんの方へと顔を向ける。

「やはり、一旦戻ろう。……シジクさん、すいませんが中心街の方までお願いできますか?」
「分かりました。部下を呼んできますので、少し待っていてください」

シジクさんが笑顔で手を上げ、小走りに去って行った。
待っている間、ミネルとシジクさんについて話をする。

「いい人そうでよかったね」
「……そうだな」
「私、大工さん? というか、そういう仕事をしてる人たちって、もっと手がゴツゴツしているイメージがあったんだけど、シジクさんの手ってキレイだよね」

私の何気ない一言に、ミネルが顎に手をあてて考え込む。

「……話があまりにもスムーズに行き過ぎたのがずっと引っかかっていた。あの人は、本物の“シジク”さんなのか?」
「えっ!?」
「僕たちが案内されたあの小屋、あまりにも殺風景だった。仕事の打合せをするような場所なら、資料になるような物を置いたり、それこそ客人をもてなすような用意をしておくのが普通だ。だが、あそこには何もなかった」

ミネルの発言に驚くと同時に、さっきまで自分がいた小屋の状況を思い出す。

言われてみると、確かに目立った物は何も置いてなかった。
外観はわりと古い作りだったのに、部屋の中はキレイ過ぎるというか……まるでレンタルでもしたみたいに……。

「このタイミングで“ヴェント”がいなくなっている事も気になる。雇い主の指示を無視し、勝手に移動するなんて余程の事がない限りは有り得ない」
「余程の事って……」
「お前の言う通り、あの“シジク”さんの手には少なからず違和感がある。体つきはがっしりとしていたが、外にいる事が多い仕事にもかかわらず、ほとんど日焼けもしていなかった」

考えるほどに思い当たる事がどんどんと出てきて、体中にぞわっと鳥肌が立つ。
ドクドクと鳴る心臓を押さえるように、手で胸元を覆った。

「それって、やっぱり……」
「ああ。まだ断言はできないが、おそらくは──」


ふいに影が落ちる。
その正体を確かめる間もなく、背後から低い声が聞こえてきた。

「せいかーい」

2人でバッと後ろを振り返ると、木の棒を片手に持った‟シジク”さんが立っていた。
そしてすぐさま、木の棒を私たちに向かって振り下ろした。

強い衝撃に、ミネルと2人、その場へと倒れ込む。
次の攻撃に備える余裕すらなかったけれど、予想に反し、それ以上は何もしてこなかった。

他にも仲間がいたのか、「危なかったな」、「ああ。でも仕事は果たせた」という声と共に足音が遠ざかっていく。

完全にいなくなった事を確認してから、そっと体を動かす。


……あれ?
倒れた時の打ち身的な痛さはあるけど、意識もはっきりしてるし、何より痛くない!?


ひとまず起き上がろうとしたところで、私に覆いかぶさっていたミネルの様子がおかしい事に気がつく。
そこには目を閉じ、頭から血を流しているミネルがいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

異世界転生~目指せ!内乱を防いで、みんな幸せ♪

紅子
ファンタジー
いつの間にかこの国の王子に転生していた俺。物語の世界にいるなんて、想定外だ。このままでは、この国は近い未来に内乱の末、乗っ取られてしまう。俺、まだ4歳。誰がこんな途方もない話を信じてくれるだろうか?既に物語と差異が発生しちゃってるし。俺自身もバグり始めてる。 4歳から始まる俺の奮闘記?物語に逆らって、みんな幸せを目指してみよう♪ 毎日00:00に更新します。 完結済み R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

処理中です...