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中等部 編
14歳、波乱の幕開け(3/4)
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「うわぁぁぁ!!」
モハズさんの苦しそうな声が辺りに響き渡る。
祈るような気持ちでその光景を見つめていると、モハズさんを包み込んでいた光が徐々に薄くなってきた。
数分後、光が完全に消え、縛られているモハズさんの首がカクッと下に落ちる。
……気絶したの?
と思ったら、すぐにむくっと顔を上げた。
「……あれ? みんな怖い顔してるけど、どうしたの? って、えっ! なんで縛られてるの??」
オーンとサウロさんが顔を見合わせ、 安堵の表情を浮かべる。
よかった! いつものモハズさんに戻った!!
「すまんが、町に戻るまでほどく訳にはいかないんだ」
動揺するモハズさんに、サウロさんが事の一部始終を説明する。
話が進むにつれ、モハズさんの表情がどんどんと曇っていくのが分かった。
2人の様子をうかがいつつも、私は圧迫された時についた首の痣と、引っ張られた時に挫いた足の治療を受ける。
話を聞き終えた後、モハズさんの顔は暗闇の中でも見えるくらいに青ざめていた。
サウロさんは冷静に言葉を選びながら、操られた時の状況についてモハズさんに確認し始める。
「そこで、だ。あの道を確認しに行った時の事を覚えているか?」
「あの時……飛んで視察をしていたら、真っ黒なフードを被った人が立っていて……。何か知ってるかもしれないと思って、話を聞こうと下に降りた。その人に近づいた瞬間、後ろから誰にか襲われて……そこから意識がない」
「意識を失っている間に《闇の魔法》を掛けられてたってことか……」
サウロさんの言葉にモハズさんが「多分……」と言って、こくりと頷く。
「薄れていく意識の中で声が聞こえてきたんだけど、たぶん2人じゃなかった。少なくとも3人、いや、4人はいたんじゃないかな」
「そうか……。何の目的かは分からんが、《禁断の魔法》を使った時点でいい集団ではなさそうだ」
空を見上げたサウロさんが、おもむろに深呼吸する。
一瞬、寂しげな表情をしたような……?
「さてと、今日はもう遅いから寝るとしよう。悪いが、モハズは手を縛ったまま、俺とビアンで交代で監視させてもらう。アリアは……1人で寝るのは不安だろう。オーンと同じテントで寝てくれ」
「はい、ありがとうございます」
モハズさんも「分かった」と小さい声で返事をする。
見ているこっちも辛くなるくらい、モハズさんが苦しそうだ……。
サウロさんに言われた通り、テントに入って寝る準備をしたものの、さっきの事を思い出して目をつぶるのが怖い。
また襲われたら……って思ってしまう。
私の気持ちを察したオーンが「手を繋いで寝ようか?」と手を差し出してくれた。
「いや、大丈夫。ありがとう」
「アリアは頑なだね。セレスだって事情を話せば分かってくれるよ」
さすがオーンだな。セレスに悪いと思って、手を繋がなかった事にすぐ気がついたんだ。
「服の裾だけでも掴んだら?」
「……ありがとう。そうする」
迷った結果、オーンの服の裾をそっと掴ませてもらい、そのまま目を閉じる。
モハズさんへの魔法も解け、もう大丈夫だと思っても、あの時の恐怖が蘇ってしまう。
結局、あまり寝つく事ができずに朝を迎える羽目になった。
他のみんなも、ぐっすりと休んだような顔はしていなかった。
特に、あんなに元気だったモハズさんは憔悴しきった顔をしている。
朝食を済ませると、すぐに最初の合流地点である“ルリラッサ”の町へと出発した。
「ビアンとオーンが先頭で、俺とモハズがその後ろを歩く。一番後ろはリーセとアリアで……行こう」
指示を出した後、サウロさんはモハズさんの両手を縛っている紐を自分の片手へと結んだ。
いざとなった時、モハズさんが逃げ出さないようする為なんだろうな……。
最後尾を歩きながら、小声でリーセさんに心配事について尋ねる。
「モハズさんは、この後どうなるんですか?」
「過去の事例でいうと《闇の魔法》で操られた人は、その人自身に過失はないから、基本、罰則はないはずだよ。“負の心”って誰にでもあるものだからね。ただ今回の場合、モハズさんは勝手な行動をとってしまったという落ち度もあるからね……。良くて、罰則か注意。最悪、調査チームを外れることになるだろうね」
調査チームを外れる──要するに、辞めなければいけないって事!?
「そんな……」
「モハズさん自身もそれは分かっていると思うよ。あとは上がどういう判断を下すかだね。こればかりは私も分からないな」
調査に出発した最初の夜、モハズさんとテントの中で色々な話をした。
その際、モハズさんは調査チームへ入った経緯についても教えてくれた。
『私ね、本当に普通の家で生まれたの。15歳で学校に通えなくなっちゃって、当時は魔法も使えなかったから親の跡を継ぐしかなかったんだぁ。野菜を売る仕事をしてたんだけど、魔法が使える最後の年、18歳の時に奇跡が起きたの! ある日ね、パッと野菜を運びたいーって思ったら、突然、自分の体が宙に浮いたの!! 魔法を使える人は国で特別に訓練が受けられるから、それで魔法も扱えるようになったの。このまま頑張れば調査チームに入れるかも! っていう夢もできて、本格的に武術を学んで、20歳の時に調査チームの試験に受かったんだぁ。自分の人生が変わった瞬間だったんだよね』
ものすごく嬉しそうに、キラキラした目で話してくれた事を覚えてる。
良いとはいえない環境の中、一生懸命に努力して受かったモハズさんの事を考えると、いたたまれない気持ちになる。
昨日サウロさんが一瞬寂しそうな表情したのは、モハズさんを思っての事かもしれないな。
夕方、“ルリラッサ”の町へ着いた。
最初に泊まった宿屋の前まで行ったところで、サウロさんが私とオーンの方を見る。
「2人はここに泊まって、明日“ヴェント”で帰ってくれ。俺たちは別な宿屋に泊まり、明日モハズを診てもらう。今回は3日間という短い期間で終わってしまってすまない。その代わりと言ってはなんだが、今回の“あの道”について、何か情報が分かれば必ず教える」
サウロさんの言葉に、モハズさんが黙ったまま頭を下げる。
下げる前、申し訳なさそうな、何か言いたそうな表情をしていたように見えた。
オーンが返事をするよりも早く、サウロさんにダメ元で頼んでみる。
「すいません! モハズさんと2人きりでお話をさせてもらえませんか?」
モハズさんの苦しそうな声が辺りに響き渡る。
祈るような気持ちでその光景を見つめていると、モハズさんを包み込んでいた光が徐々に薄くなってきた。
数分後、光が完全に消え、縛られているモハズさんの首がカクッと下に落ちる。
……気絶したの?
と思ったら、すぐにむくっと顔を上げた。
「……あれ? みんな怖い顔してるけど、どうしたの? って、えっ! なんで縛られてるの??」
オーンとサウロさんが顔を見合わせ、 安堵の表情を浮かべる。
よかった! いつものモハズさんに戻った!!
「すまんが、町に戻るまでほどく訳にはいかないんだ」
動揺するモハズさんに、サウロさんが事の一部始終を説明する。
話が進むにつれ、モハズさんの表情がどんどんと曇っていくのが分かった。
2人の様子をうかがいつつも、私は圧迫された時についた首の痣と、引っ張られた時に挫いた足の治療を受ける。
話を聞き終えた後、モハズさんの顔は暗闇の中でも見えるくらいに青ざめていた。
サウロさんは冷静に言葉を選びながら、操られた時の状況についてモハズさんに確認し始める。
「そこで、だ。あの道を確認しに行った時の事を覚えているか?」
「あの時……飛んで視察をしていたら、真っ黒なフードを被った人が立っていて……。何か知ってるかもしれないと思って、話を聞こうと下に降りた。その人に近づいた瞬間、後ろから誰にか襲われて……そこから意識がない」
「意識を失っている間に《闇の魔法》を掛けられてたってことか……」
サウロさんの言葉にモハズさんが「多分……」と言って、こくりと頷く。
「薄れていく意識の中で声が聞こえてきたんだけど、たぶん2人じゃなかった。少なくとも3人、いや、4人はいたんじゃないかな」
「そうか……。何の目的かは分からんが、《禁断の魔法》を使った時点でいい集団ではなさそうだ」
空を見上げたサウロさんが、おもむろに深呼吸する。
一瞬、寂しげな表情をしたような……?
「さてと、今日はもう遅いから寝るとしよう。悪いが、モハズは手を縛ったまま、俺とビアンで交代で監視させてもらう。アリアは……1人で寝るのは不安だろう。オーンと同じテントで寝てくれ」
「はい、ありがとうございます」
モハズさんも「分かった」と小さい声で返事をする。
見ているこっちも辛くなるくらい、モハズさんが苦しそうだ……。
サウロさんに言われた通り、テントに入って寝る準備をしたものの、さっきの事を思い出して目をつぶるのが怖い。
また襲われたら……って思ってしまう。
私の気持ちを察したオーンが「手を繋いで寝ようか?」と手を差し出してくれた。
「いや、大丈夫。ありがとう」
「アリアは頑なだね。セレスだって事情を話せば分かってくれるよ」
さすがオーンだな。セレスに悪いと思って、手を繋がなかった事にすぐ気がついたんだ。
「服の裾だけでも掴んだら?」
「……ありがとう。そうする」
迷った結果、オーンの服の裾をそっと掴ませてもらい、そのまま目を閉じる。
モハズさんへの魔法も解け、もう大丈夫だと思っても、あの時の恐怖が蘇ってしまう。
結局、あまり寝つく事ができずに朝を迎える羽目になった。
他のみんなも、ぐっすりと休んだような顔はしていなかった。
特に、あんなに元気だったモハズさんは憔悴しきった顔をしている。
朝食を済ませると、すぐに最初の合流地点である“ルリラッサ”の町へと出発した。
「ビアンとオーンが先頭で、俺とモハズがその後ろを歩く。一番後ろはリーセとアリアで……行こう」
指示を出した後、サウロさんはモハズさんの両手を縛っている紐を自分の片手へと結んだ。
いざとなった時、モハズさんが逃げ出さないようする為なんだろうな……。
最後尾を歩きながら、小声でリーセさんに心配事について尋ねる。
「モハズさんは、この後どうなるんですか?」
「過去の事例でいうと《闇の魔法》で操られた人は、その人自身に過失はないから、基本、罰則はないはずだよ。“負の心”って誰にでもあるものだからね。ただ今回の場合、モハズさんは勝手な行動をとってしまったという落ち度もあるからね……。良くて、罰則か注意。最悪、調査チームを外れることになるだろうね」
調査チームを外れる──要するに、辞めなければいけないって事!?
「そんな……」
「モハズさん自身もそれは分かっていると思うよ。あとは上がどういう判断を下すかだね。こればかりは私も分からないな」
調査に出発した最初の夜、モハズさんとテントの中で色々な話をした。
その際、モハズさんは調査チームへ入った経緯についても教えてくれた。
『私ね、本当に普通の家で生まれたの。15歳で学校に通えなくなっちゃって、当時は魔法も使えなかったから親の跡を継ぐしかなかったんだぁ。野菜を売る仕事をしてたんだけど、魔法が使える最後の年、18歳の時に奇跡が起きたの! ある日ね、パッと野菜を運びたいーって思ったら、突然、自分の体が宙に浮いたの!! 魔法を使える人は国で特別に訓練が受けられるから、それで魔法も扱えるようになったの。このまま頑張れば調査チームに入れるかも! っていう夢もできて、本格的に武術を学んで、20歳の時に調査チームの試験に受かったんだぁ。自分の人生が変わった瞬間だったんだよね』
ものすごく嬉しそうに、キラキラした目で話してくれた事を覚えてる。
良いとはいえない環境の中、一生懸命に努力して受かったモハズさんの事を考えると、いたたまれない気持ちになる。
昨日サウロさんが一瞬寂しそうな表情したのは、モハズさんを思っての事かもしれないな。
夕方、“ルリラッサ”の町へ着いた。
最初に泊まった宿屋の前まで行ったところで、サウロさんが私とオーンの方を見る。
「2人はここに泊まって、明日“ヴェント”で帰ってくれ。俺たちは別な宿屋に泊まり、明日モハズを診てもらう。今回は3日間という短い期間で終わってしまってすまない。その代わりと言ってはなんだが、今回の“あの道”について、何か情報が分かれば必ず教える」
サウロさんの言葉に、モハズさんが黙ったまま頭を下げる。
下げる前、申し訳なさそうな、何か言いたそうな表情をしていたように見えた。
オーンが返事をするよりも早く、サウロさんにダメ元で頼んでみる。
「すいません! モハズさんと2人きりでお話をさせてもらえませんか?」
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