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中等部 編

大会2日目~ エウロが得たもの~ (後編)

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会話する時間すらも惜しみ、ただただ、一心不乱にゴールを目指す。

徐々に見えてきた“第5グラウンド”には、立派なフィニッシュ用のアーチが飾られていた。
よしっ! 俺たちの考えは間違えてなかった!

ふと、前方へ目をやると、 ゴールに向かって走っているオーンとセレスがいた。

2人の方が暗号の解読が早かったのか、それとも“第5グラウンド”から近い場所にいたのか……今はそんな事はどうでもいい!
頑張れば追いつける距離だ!!

「アリアっ!」

斜め後ろを走っているアリアの方へ手を伸ばす。
アリアが俺の手をぎゅっと握り返し、2人で懸命に走った。

距離は確実に近くなってきている。
あと少し、あと、もう少し……というところで、オーンとセレスが先にアーチをくぐった。

「ほぼ、同時にフィニッシュ!! 優勝はオーン&セレスペア!!! 準優勝はエウロ&アリアペア!!!」

ま、負けた……負けちゃったか……。
それでも、まあ、準優勝なら想像よりもずっといい結果だ。さらに僅差だったし。

自分でもよくやったと思う。本来なら、間違いなく嬉しいはずだ。
……だけど、なぜかつらい。

複雑な気持ちで横にいるアリアへと視線を動かす。
負けた事が悔しかったのか、涙がそっとアリアの頬を伝っていた。
なんとなく涙を見せたくないんじゃないかと思い、アリアをそっと抱き寄せる。

そうか、やっとわかった。
俺もアリアに感化されて、いつの間にか口だけじゃなく、本当に優勝を狙ってたんだ。
だから、嬉しさよりも悔しさが優っているのか……。

諦める事には慣れていたつもりだったけど、俺にもちゃんと悔しいって思える気持ちが残ってたんだな。

しばらくすると、アリアは手で乱暴に涙を拭い、やっと顔を上げたかと思えばニコッと微笑んだ。

「ありがとね、エウロ。もう大丈夫!」
「そうか」
「うん! 十分悔しがったから……次は準優勝した事を喜ぶよ」
「……ははっ、まいったな。さすがアリアだ」

2人でひとしきり笑い合った後、オーンとセレスの元へ向かった。
まずは、2人の優勝を称えなきゃな。

「オーン、セレス。優勝おめでとう!」
「ありがとう。正直、追いついて来てるのは分かってたから、もう少しゴールが遠かったら危なかったよ」

オーンも笑ってはいるけど、さすがにこの大会は疲れたみたいだな。
俺も疲れたけど、こんなに充実した気分は久しぶり……いや、初めてかもしれない。

「あなた達も頑張ったじゃない。本当に2位になるとは思わなかったわ」
「うぅ、悔しいよ~! でも、オーンもセレスも本当におめでとう!」

冗談っぽく悔しい顔を見せたアリアも、すぐに笑顔になり、セレスと楽しそうに会話をしている。

「おぉっと! 今、ミネル&ルナペアがゴールしました! 6位入賞ですね。今年は本当にすごい! 前回大会までは、4年生が1組入賞できるだけでも十分すごかったのですが……今年はなんと3組もいます。それも優勝、準優勝ともに4年生ですし……まさに前代未聞ですね!!」

歴史的瞬間に立ち会えたのが嬉しかったのか、メロウさんがテンション高めに叫んでいる。
ミネルとルナもゴールしたのか。

……ん? 何か言い合いしているような……?

「もう二度とルナとは組まない!」
「それはこっちのセリフ」

あの2人はもう、何ていうか……相変わらずだな。というか、どんどん仲が悪くなってないか!?

こんなに言い争っているのに、それでも6位に入るなんてすごいな。仲が良ければ優勝もできたかもしれない。

口論し続ける2人を眺めているうちに、時計の針が16時を回る。
メロウさんの終了の合図とともに、テスタコーポ大会は終了した。

「みなさん、お疲れ様でした! これより表彰式を行います。優勝、準優勝ペアの他、8位までに入賞したペアはステージへ登壇してください」

幼なじみ達と一緒にステージへ上がり、名前を呼ばれるのを待つ。
8位から順に名前が呼ばれ、理事長が労いの言葉とともに表彰メダルを生徒の首に掛けていく。

そして──ついに俺たちの名前が呼ばれた。

「準優勝、エウロとアリアペア!」

少し緊張しながらも、2人で理事長の前まで進む。

「お互いを思い遣るだけでなく、ピッタリと息の合った連携は見ていた上級生達も圧倒されたと聞いています。本当におめでとう!」

理事長が優しく微笑み、表彰メダルを俺とアリアの首に掛けてくれた。

「ありがとうございます!」
「楽しい大会でした。来年は優勝したいです。ありがとうございます」

フッと笑いそうになった。アリアらしいセリフだな。

理事長に一礼し、元の場所へと戻る。
優勝したオーンとセレスの表彰が終わると、今度は今大会のリーダーであるリーセさんがステージに登壇した。

「みなさん、本当にお疲れ様でした。年々、出場者のレベルが上がっている事を実感しています。それに相応しく、大会の内容も難しくしているつもりなんですが……去年と変わらないクリア率だったようなので、嬉しい反面、少し悔しい気持ちもありますね」

本当にルナのお兄さんなのか!? と疑うくらいに愛想がいいな。
冗談めかして笑いを取りながらも、リーセさんの話は続いていく。

「残念ながら入賞できなかったみなさんにも、他の賞を用意していますので後日改めて発表します。それでは最後に……審査員特別賞を発表します!」

審査員特別賞……? ああ、確かリーセさんとか大会実行委員の人達が決める賞だったっけ?

「今年は満場一致でエウロ&アリアペアになりました! 各ステージでのやり取りや戦略など、担当した上級生達からの評価は非常に高く、私たちも見習う点が多かったように思います。本当におめでとう!」

へー、俺とアリアか…………って、俺とアリア!?

思わず、俺と同じく驚いた表情をしたアリアと顔を見合わせる。
急な展開に動揺しながらも、少しずつ湧いてきた実感に我慢ができず、アリアとハイタッチを交わした。

「やったね!」
「やったな!」

喜びを分かち合う俺達に、隣にいたオーンが拍手を送ってくれた。

「おめでとう。ダブル受賞はすごいね」
「優勝した私たち以上に目立つなんて。まあ、さすが私の親友ね!」
「アリアおめでとう」

なんだかんだ言って嬉しそうなセレスと、変わらず無表情なルナもお祝いの言葉を掛けてくれる。

……って、2人ともアリアにだけかよ!
ミネルも複雑そうな表情ではありつつも拍手で祝ってくれた。


──こうして、初参加の第48回 テスタコーポ大会は無事に幕を閉じた。



閉会式も終わり、ステージから降りると「アリアー」と名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

声の聞こえる方へ振り返ると、アリアの弟である“エレ”がこちらに向かって手を振っている。
エレは俺たちの元へ走ってくるなり、勢いよくアリアに抱きついた。

よく見るいつもの光景のはずなんだけど……なんか面白くないな。
いやいや、仲のいい姉弟なんだから、面白くないというのはおかしいよな。

……ん? よく見るとアリアのお父さんとお母さんも来てないか!?

「アリア、エウロくん、凄かったね。おめでとう!」

アリアのお父さんが自分の事のように喜びながら、お祝いの言葉を掛けてくれた。

「見に来てたんですね」
「ああ、中盤あたりからだけどね。それに、来てたのは私たちだけじゃないよ」
「えっ?」

そう言って、アリアのお父さんが後ろへと視線を動かす。
つられて見てみると、そこには俺の両親がいた。

「エウロー! すごいじゃなーい!!」
「ああ、さすが俺の息子だ!」
「あら、私の息子でもあるわよー」

えっ! な、なんで2人が!?

「ど、どうして?」
「リオーン(アリアの父)に誘われたんだ。『アリアが“優勝するから見ないと後悔するよ”って言ってたから、一緒に見に行かないか?』ってな。観覧席で叫んで応援してたんだぞ! ほんとーっに惜しかったな!」
「そうよー。最後はハラハラドキドキしたけど、見に来てよかったわー」

2人とも興奮しているのか会話が止まらず、嬉しそうに俺の事を語り合っている。
そんな両親を見ていたら、自然と笑みがこぼれていた。

「……俺ってすごいだろ?」

完全に無意識だった。気づけば声に出していた。
俺はどうも大会までの1ヶ月間で、アリアの影響をかなり受けてしまったようだ。

でも、悪い気分じゃない。むしろ、それが心地良い。

──そうか。俺にとってアリアは特別な存在になってたんだな。

「アリア!」

エレと話しているアリアに声を掛けると、きょとんとした顔でこちらを見た。

「どうしたの?」
「俺の中でアリアは特別な存在っぽい」
「……えっ? 特別って?」

素直な気持ちをぶつけると、アリアが不思議そうに尋ねてくる。
俺の両親やアリアの家族は俺のセリフに驚いてるようだ。

「えーと……俺もよく分からないんだけど、そう思ったから伝えておきたくて」
「何それ(笑)」

アリアが屈託のない笑顔で俺に応える。
その横でエレが……え!? 睨まれた!? ……いや、にっこりと笑ってた。気のせい……か?

「初めてできた異性の友人って意味で、アリアの事が特別なんじゃないですか?」

俺のセリフに対し、エレが自分なりの見解を示す。
何だろう? 表情は穏やかなんだけど、さっきから微妙に圧を感じる……。

「なるほど……な。確かにそういう事なのかもしれない」
「私もエウロとはいい友人になれると思ってたから、そう言ってくれて嬉しいな」

言葉に出してはみたものの、なんかスッキリしないなぁ。
でもまあ、アリアが嬉しそうに笑ってるから、今はそれでいいか! 
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