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中等部 編
13歳、エウロとペアになりました
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学校生活もついに4年目へ突入!!
今日は新学期初日、クラス発表がある日だ。
校舎へと続く道を歩きながら、ふと、これからの2年間はカウイやマイヤがいないのだと実感した。
癒し系の2人がいないのは寂しいなぁ……。
一緒に登校していたエレとは校舎に入ると同時に別れ、私は4年生の教室へと向かった。
例年通り、新しいクラスは教室の近くに貼り出されているはずだ。
確認しようと廊下を進んでいると、目の前によく知る幼なじみの姿を見つけた。
「ルナー!」
大きな声で名前を呼ぶ。
ぱっと振り向くと、ルナは歩みを止め、私が追いつくまで待っていてくれた。
「おはよう、ルナ」
「おはよう」
「クラス替えだね。今年も一緒のクラスになれるといいね!」
「うん……なりたい」
去年ルナと仲良くなった事で、素顔が分かってきたからかな?
私と同じクラスになりたいっていう気持ちが痛いほど伝わってきて、可愛く思える。
自分に見向きもしなかったネコがなついてくれたような感覚に似てるかも。
例えとして正しいのかは分からないけど……。
ルナと他愛もない話をしながら歩いていると、隣から慣れ親しんだ声が聞こえてくる。
「アリアは前に僕から『一緒のクラスになれるといいね』って言われて困ってたのに」
予想だにしなかった言葉に驚き、勢いよく顔を向けると、そこにはオーンがいた。
そういえば、以前オーンに『一緒のクラスになれるといいね』と言われて、返答に困った事があったっけ。
うーん……多分、その事を言ってるよね……。
「おはよう、オーン。……よく覚えてるね」
「おはよう。あっ、ルナもおはよう」
オーンがルナに気がつき、声を掛ける。ルナは一言も話さず、ぺこっと会釈だけを返した。
えっ! 今ので挨拶終わり!?
あまりにもあっさりとした対応に衝撃を受ける私とは違い、オーンはルナの態度を気にする事もなく話し続ける。
「そうだね、ショックだったからかな? 覚えているよ」
こちらを見てにっこりと笑う。全然ショックを受けている顔じゃない。
出会った頃のオーンは、誰にでも平等に優しくて周りに気を遣う人っていうイメージだったけど、いざ仲良くなってみると──
「オーンって、意外にいじわるだよね」
「えっ? 僕が?」
「うん。人をからかうのが好きというか、困らせるのが好きというか……」
「…………」
……? どうしたんだろう?
急にオーンが黙り込んでしまった。
何か考え込んでいる? いや、驚いてる??
「どうかした?」
「……いや、自分でも気がついていなかったな」
「???」
な、何に!? と不思議に思っていたら、いつの間にか普段と変わらぬ穏やかなオーンに戻ってる。
さっきのは一体、何だったんだろう……? 気になるなぁ。
疑問に思いつつ、そのまま3人でクラスを確認しに行くと、掲示場所にはすでにセレスとミネルがいた。
声を掛けようと2人に近づいた瞬間、セレスがこの世の終わりみたいな表情で叫びだした。
……去年も見たな、この顔。
「ま、また今年もアリアとクラスが離れたわぁぁ。私ほど優秀な人はアリアと同じクラスがちょうどいいはずなのに……」
「おーい、セレス。本人を目の前に失礼だよー。素直に同じクラスになりたかったって言えばいいのに……。私はセレスと同じクラスになりたかったよ」
「それは……まあ、当然ね」
セレスの顔が、急に得意げな表情へと変わる。相変わらず、表情豊かだなぁ。
私達の横ではミネルとオーンが挨拶を交わしている。
ルナは……ここでも会釈だけなんだ。一応、ミネルって婚約者のはずなんだけど……。
「ところで、セレスは誰と一緒のクラスになったの?」
「私」
私とセレスのやり取りを見ていたルナが静かに答える。
セレスとルナが一緒のクラス!
いいなぁ、私も2人と同じクラスになりたかった。
「同じクラスになれなくて残念だったね」
ルナが“こくん”と小さくうなずいた。
他の人から見たら無表情に感じると思うんだけど、私にはルナの表情がどこか寂しそうに見える。
セレスの分かりやすい感情豊かな表情も可愛いけど、ルナの分かりづらい表情も可愛らしいなぁ。
それにしても性格が正反対の2人が同じクラスか……。
どんな会話をするんだろう? とか考えるだけで面白いな。
ところで、私は誰と同じクラスなんだろう?
クラス替えの掲示に目を向けると、そこに書かれていたのは……エウロと同じDクラス!
ミネルはBクラスで、オーンはCクラスかぁ。
それにしても、これは友人を増やすチャンスなんじゃ!?
なんだかんだで幼なじみ達以外、友人が出来ていないからなぁ。
是非ともエウロのコミュニュケーション能力の高さを真似て、友人を作るコツを教えてもらいたい!!
ついでに、留学に行ってしまったマイヤと進展があるのかもちょっと知りたいな。
「今年はアリアと一緒のクラスか。よろしくな」
「うん! よろしくね」
遅れてやって来たエウロが私の近くまで来て、爽やかに笑ってみせる。
エウロはいつも明るいなぁ。
これがたくさん友人が出来る秘訣なのかもしれない。
話している間に始業時間となった為、その場でみんなと別れ、私とエウロは一緒に教室へと向かった。
「俺アリアとは同じクラスになってみたかったんだ」
「な、なんで?」
思いもよらないエウロの言葉に驚く。
「そうだなぁ。色々あるけど、ミネルとのケンカやカウイの従兄弟との事で一目置いたっていうか、興味を持ったというか……仲良くなってみたいなって思ってたんだよな」
……私の事をそういう風に思ってくれてたんだ。
出会った時から、エウロとはいい友人になれそうだなぁって思ってたから嬉しいかも。
「そういえば、アリアってもう髪伸ばさないのか?」
そう、私は“カウイの従兄弟との事件”で髪が短くなって以来、ミディアムヘアが楽すぎて伸ばすのをやめてしまったのだ。
最初は注目を浴びていたけど、時間が経つにつれ、誰も気にしなくなったし……。
今では入学したばかりの新入生から「えっ!?」というビックリした顔や白い目で見られる事もあるけど、毎年の事なので慣れてきた。数ヶ月後には何も言われなくなるし。
「うん、当分は伸ばさなくてもいいかなーって思ってる。楽だし、エレも“アリアに似合ってる”って言ってくれてるから」
「俺でも分かる事だけど、エレはアリアに関してはなんでも褒めるから、あまり信用しない方がいいぞ」
「えっ! エレに気を遣わせてたの!?」
「いや、そういうわけではないけど……。多分本心だとは思うけど、エレって、かなりのシスコンだろ?」
“シスコン”かぁ……。嬉しい気持ちになる反面、直接言われるとちょっと照れちゃうな。
明らかにエウロは苦笑しているけど。
「いや、アリアが嬉しいならそれでいいけどさ……。うん、やっぱりマイヤ達と話すときは気を遣うというかちょっと緊張するんだけど、なぜかアリアは大丈夫なんだよなー」
エウロが何かを確信したように「あはは」と悪気のない笑顔を見せる。
……それって、暗に私を女扱いしていないだけなのでは?
そう考えると女としてちょっと微妙な気持ちにはなるけど、話しやすいと思ってくれてるなら嬉しい……かな?
「俺たち4年になったから、今年からは“例の大会”があるなー」
エウロがぼそっと呟く。
……ん? 今、大会って言った?
1週間後、エウロの言っていた大会の意味が分かった。
朝のホームルームで担任の先生が、大会について話し始めたからだ。
「我が校では、4年生、5年生のみ出場する“テスタコーポ”という大会を毎年行っている! 今まで授業で習った問題や武術、剣術の技術を生かした競技など、知力、体力、協力、そして、時の運を競い合う大会だ!!」
明らかにいつもよりテンションが高いというか、張り切った口調だ。
3年間学校に通っていたけど、そんな大会があるなんて今まで知らなかった。
……これって魔法を使える人が有利なんじゃ!? と思っていると、先生がタイミングよく、詳しいルールについても説明してくれる。
「この大会では平等を期すため、魔法は一切使わない事がルールの1つになっている。またもう1つのルールとして、2人一組の男女ペアで参加してもらう。開催は1ヶ月後! 2日間に渡って行う大会だ!!」
魔法は使わないと聞いて、ひとまず私の不安は払拭された。良かった……。
生徒の1人が手を挙げ、先生に質問する。
「男女ペアはどうやって決めるんですか?」
「クラスに関係なく、好きな人とペアになってくれ。学年も関係ないので、5年生とペアになっても構わないぞ」
「学校で行うんですか?」
「“テスタコーポ”は、高等部の敷地を使って行う。大会の2日間は敷地内にテントを張って泊まり込むんだ。高等部の先輩方も、大会中は運営側として手伝ってもらう」
と、泊まり込み!
サバイバル的な大会なのかな?
過去の大会はどうだったのか、あとでエウロに聞いてみよう。
それにしても、高等部の先輩方が手伝ってくれるなら、ルナのお兄さん、リーセさんもいるはずだ。
ルナ喜んでるだろうな。
……あれ? なんか、クラスの女子たちがざわざわとしているような……。
周りを見渡すと、女子たちがみんなエウロをチラチラと見ている。
そうか! 好きな人とペアって先生が言ってたから、みんなエウロとペアになりたいんだ。
婚約者のマイヤは留学中だし、幼なじみ達の中でも必然的にエウロは誘いやすいのかもしれない。
「ペアが決まり次第、大会参加の登録を行ってもらう。不参加でもいいが、その場合、5年生になった時には必ず参加してもらうからな! みんな、特に俺のクラスは、上位入賞8位以内を目指して頑張れよ!!」
8位以内が上位入賞なんだ。
5年生はどれくらい参加するんだろう? なかなか厳しい戦いになりそうだな。
でもテントを張って泊まり込みとか、ちょっと楽しみかも。
ホームルームが終わり、先生がドアの方へと歩き出す。すると、何かを思い出したようにぴたりと足を止めた。
「大会の詳細は追って連絡するから、参加希望者はまずペア探しから頑張れ!」
そう言い残し、先生はそのまま教室を出て行った。
ドアが閉まった途端、女子たちが一斉にエウロの周りへと群がってくる。
「エウロくんは参加するの?」
「マイヤさんがいないから、ペア誘っても構わないよね?」
す、すごい。クラスにいる半数以上の女子からの質問攻め。
予想通り、エウロ大人気!!
私もペアになってくれる人を探さないとな……と思っていると、エウロから「アリア!」と大声で名前を呼ばれる。
何だろう? と首をかしげていると、女子たちをかき分け、エウロがすがるような表情で私の元へやってきた。
「ペアになろう!」
女子たちから逃れる為にすぐにでもペアを決めたいんだろうな……。エウロの必死さが、目に見えて伝わってくる。
うーん、ここで私が「いいよ」って言うと、同じクラスで友人を作るのは難しくなるかもなぁ。
でもそんな理由で友人が出来る、出来ないっていうのもおかしいよね?
それに大会に出るからには優勝したいし、ペア相手としてエウロは完璧かもしれない。
「うん、エウロよろしく!」
私がエウロの誘いを受けた事で、周りの女子たちの表情が見るからに険しくなった。
小さいながらも聞こえる程度の声で「なんで?」「幼なじみってだけでしょ」「なんか弱み握ってるんじゃない?」と騒いでいる。
エウロにも聞こえたのか、私に近づき、片手で軽く謝るポーズをした。
「なんか、ごめんな」
「全然、気にする事ないよ。それより優勝を狙うよ!!」
「ゆ、優勝!? 5年生もいるし、それは難しいだろ。サウロ兄様も4年の時は、5位入賞だったらしいし……」
意外だな。エウロなら『そうだな。優勝目指そうぜ!』くらい言ってくれると思ってたけど。
そういえば、交換留学の時も選ばれなかった事を残念がってはいたけど、そこまでがっかりした様子でもなかったな。
お兄さんから色々と話を聞いてるから、どこか現実的なのかな? それとも最初から諦めてるとか……?
「確かに優勝は厳しいかもしれないけど、先生が『知力、体力、協力、時の運を競い合う大会』って言ってたから、可能性はゼロじゃないと思うよ? 協力や時の運は、年齢なんて関係ないからね! 出場するからには優勝したいし、大会自体も楽しみたいしね! エウロは?」
やる気に満ち溢れた顔で問いかけると、最初は弱気だったエウロの表情も少しずつ明るくなってくる。
「確かに。どうせ出場するなら楽しみたいな」
エウロがニッと笑ったので、私もニコッと笑い返す。
大会での優勝を目指し、私達はガシッと硬い握手を交わした。
今日は新学期初日、クラス発表がある日だ。
校舎へと続く道を歩きながら、ふと、これからの2年間はカウイやマイヤがいないのだと実感した。
癒し系の2人がいないのは寂しいなぁ……。
一緒に登校していたエレとは校舎に入ると同時に別れ、私は4年生の教室へと向かった。
例年通り、新しいクラスは教室の近くに貼り出されているはずだ。
確認しようと廊下を進んでいると、目の前によく知る幼なじみの姿を見つけた。
「ルナー!」
大きな声で名前を呼ぶ。
ぱっと振り向くと、ルナは歩みを止め、私が追いつくまで待っていてくれた。
「おはよう、ルナ」
「おはよう」
「クラス替えだね。今年も一緒のクラスになれるといいね!」
「うん……なりたい」
去年ルナと仲良くなった事で、素顔が分かってきたからかな?
私と同じクラスになりたいっていう気持ちが痛いほど伝わってきて、可愛く思える。
自分に見向きもしなかったネコがなついてくれたような感覚に似てるかも。
例えとして正しいのかは分からないけど……。
ルナと他愛もない話をしながら歩いていると、隣から慣れ親しんだ声が聞こえてくる。
「アリアは前に僕から『一緒のクラスになれるといいね』って言われて困ってたのに」
予想だにしなかった言葉に驚き、勢いよく顔を向けると、そこにはオーンがいた。
そういえば、以前オーンに『一緒のクラスになれるといいね』と言われて、返答に困った事があったっけ。
うーん……多分、その事を言ってるよね……。
「おはよう、オーン。……よく覚えてるね」
「おはよう。あっ、ルナもおはよう」
オーンがルナに気がつき、声を掛ける。ルナは一言も話さず、ぺこっと会釈だけを返した。
えっ! 今ので挨拶終わり!?
あまりにもあっさりとした対応に衝撃を受ける私とは違い、オーンはルナの態度を気にする事もなく話し続ける。
「そうだね、ショックだったからかな? 覚えているよ」
こちらを見てにっこりと笑う。全然ショックを受けている顔じゃない。
出会った頃のオーンは、誰にでも平等に優しくて周りに気を遣う人っていうイメージだったけど、いざ仲良くなってみると──
「オーンって、意外にいじわるだよね」
「えっ? 僕が?」
「うん。人をからかうのが好きというか、困らせるのが好きというか……」
「…………」
……? どうしたんだろう?
急にオーンが黙り込んでしまった。
何か考え込んでいる? いや、驚いてる??
「どうかした?」
「……いや、自分でも気がついていなかったな」
「???」
な、何に!? と不思議に思っていたら、いつの間にか普段と変わらぬ穏やかなオーンに戻ってる。
さっきのは一体、何だったんだろう……? 気になるなぁ。
疑問に思いつつ、そのまま3人でクラスを確認しに行くと、掲示場所にはすでにセレスとミネルがいた。
声を掛けようと2人に近づいた瞬間、セレスがこの世の終わりみたいな表情で叫びだした。
……去年も見たな、この顔。
「ま、また今年もアリアとクラスが離れたわぁぁ。私ほど優秀な人はアリアと同じクラスがちょうどいいはずなのに……」
「おーい、セレス。本人を目の前に失礼だよー。素直に同じクラスになりたかったって言えばいいのに……。私はセレスと同じクラスになりたかったよ」
「それは……まあ、当然ね」
セレスの顔が、急に得意げな表情へと変わる。相変わらず、表情豊かだなぁ。
私達の横ではミネルとオーンが挨拶を交わしている。
ルナは……ここでも会釈だけなんだ。一応、ミネルって婚約者のはずなんだけど……。
「ところで、セレスは誰と一緒のクラスになったの?」
「私」
私とセレスのやり取りを見ていたルナが静かに答える。
セレスとルナが一緒のクラス!
いいなぁ、私も2人と同じクラスになりたかった。
「同じクラスになれなくて残念だったね」
ルナが“こくん”と小さくうなずいた。
他の人から見たら無表情に感じると思うんだけど、私にはルナの表情がどこか寂しそうに見える。
セレスの分かりやすい感情豊かな表情も可愛いけど、ルナの分かりづらい表情も可愛らしいなぁ。
それにしても性格が正反対の2人が同じクラスか……。
どんな会話をするんだろう? とか考えるだけで面白いな。
ところで、私は誰と同じクラスなんだろう?
クラス替えの掲示に目を向けると、そこに書かれていたのは……エウロと同じDクラス!
ミネルはBクラスで、オーンはCクラスかぁ。
それにしても、これは友人を増やすチャンスなんじゃ!?
なんだかんだで幼なじみ達以外、友人が出来ていないからなぁ。
是非ともエウロのコミュニュケーション能力の高さを真似て、友人を作るコツを教えてもらいたい!!
ついでに、留学に行ってしまったマイヤと進展があるのかもちょっと知りたいな。
「今年はアリアと一緒のクラスか。よろしくな」
「うん! よろしくね」
遅れてやって来たエウロが私の近くまで来て、爽やかに笑ってみせる。
エウロはいつも明るいなぁ。
これがたくさん友人が出来る秘訣なのかもしれない。
話している間に始業時間となった為、その場でみんなと別れ、私とエウロは一緒に教室へと向かった。
「俺アリアとは同じクラスになってみたかったんだ」
「な、なんで?」
思いもよらないエウロの言葉に驚く。
「そうだなぁ。色々あるけど、ミネルとのケンカやカウイの従兄弟との事で一目置いたっていうか、興味を持ったというか……仲良くなってみたいなって思ってたんだよな」
……私の事をそういう風に思ってくれてたんだ。
出会った時から、エウロとはいい友人になれそうだなぁって思ってたから嬉しいかも。
「そういえば、アリアってもう髪伸ばさないのか?」
そう、私は“カウイの従兄弟との事件”で髪が短くなって以来、ミディアムヘアが楽すぎて伸ばすのをやめてしまったのだ。
最初は注目を浴びていたけど、時間が経つにつれ、誰も気にしなくなったし……。
今では入学したばかりの新入生から「えっ!?」というビックリした顔や白い目で見られる事もあるけど、毎年の事なので慣れてきた。数ヶ月後には何も言われなくなるし。
「うん、当分は伸ばさなくてもいいかなーって思ってる。楽だし、エレも“アリアに似合ってる”って言ってくれてるから」
「俺でも分かる事だけど、エレはアリアに関してはなんでも褒めるから、あまり信用しない方がいいぞ」
「えっ! エレに気を遣わせてたの!?」
「いや、そういうわけではないけど……。多分本心だとは思うけど、エレって、かなりのシスコンだろ?」
“シスコン”かぁ……。嬉しい気持ちになる反面、直接言われるとちょっと照れちゃうな。
明らかにエウロは苦笑しているけど。
「いや、アリアが嬉しいならそれでいいけどさ……。うん、やっぱりマイヤ達と話すときは気を遣うというかちょっと緊張するんだけど、なぜかアリアは大丈夫なんだよなー」
エウロが何かを確信したように「あはは」と悪気のない笑顔を見せる。
……それって、暗に私を女扱いしていないだけなのでは?
そう考えると女としてちょっと微妙な気持ちにはなるけど、話しやすいと思ってくれてるなら嬉しい……かな?
「俺たち4年になったから、今年からは“例の大会”があるなー」
エウロがぼそっと呟く。
……ん? 今、大会って言った?
1週間後、エウロの言っていた大会の意味が分かった。
朝のホームルームで担任の先生が、大会について話し始めたからだ。
「我が校では、4年生、5年生のみ出場する“テスタコーポ”という大会を毎年行っている! 今まで授業で習った問題や武術、剣術の技術を生かした競技など、知力、体力、協力、そして、時の運を競い合う大会だ!!」
明らかにいつもよりテンションが高いというか、張り切った口調だ。
3年間学校に通っていたけど、そんな大会があるなんて今まで知らなかった。
……これって魔法を使える人が有利なんじゃ!? と思っていると、先生がタイミングよく、詳しいルールについても説明してくれる。
「この大会では平等を期すため、魔法は一切使わない事がルールの1つになっている。またもう1つのルールとして、2人一組の男女ペアで参加してもらう。開催は1ヶ月後! 2日間に渡って行う大会だ!!」
魔法は使わないと聞いて、ひとまず私の不安は払拭された。良かった……。
生徒の1人が手を挙げ、先生に質問する。
「男女ペアはどうやって決めるんですか?」
「クラスに関係なく、好きな人とペアになってくれ。学年も関係ないので、5年生とペアになっても構わないぞ」
「学校で行うんですか?」
「“テスタコーポ”は、高等部の敷地を使って行う。大会の2日間は敷地内にテントを張って泊まり込むんだ。高等部の先輩方も、大会中は運営側として手伝ってもらう」
と、泊まり込み!
サバイバル的な大会なのかな?
過去の大会はどうだったのか、あとでエウロに聞いてみよう。
それにしても、高等部の先輩方が手伝ってくれるなら、ルナのお兄さん、リーセさんもいるはずだ。
ルナ喜んでるだろうな。
……あれ? なんか、クラスの女子たちがざわざわとしているような……。
周りを見渡すと、女子たちがみんなエウロをチラチラと見ている。
そうか! 好きな人とペアって先生が言ってたから、みんなエウロとペアになりたいんだ。
婚約者のマイヤは留学中だし、幼なじみ達の中でも必然的にエウロは誘いやすいのかもしれない。
「ペアが決まり次第、大会参加の登録を行ってもらう。不参加でもいいが、その場合、5年生になった時には必ず参加してもらうからな! みんな、特に俺のクラスは、上位入賞8位以内を目指して頑張れよ!!」
8位以内が上位入賞なんだ。
5年生はどれくらい参加するんだろう? なかなか厳しい戦いになりそうだな。
でもテントを張って泊まり込みとか、ちょっと楽しみかも。
ホームルームが終わり、先生がドアの方へと歩き出す。すると、何かを思い出したようにぴたりと足を止めた。
「大会の詳細は追って連絡するから、参加希望者はまずペア探しから頑張れ!」
そう言い残し、先生はそのまま教室を出て行った。
ドアが閉まった途端、女子たちが一斉にエウロの周りへと群がってくる。
「エウロくんは参加するの?」
「マイヤさんがいないから、ペア誘っても構わないよね?」
す、すごい。クラスにいる半数以上の女子からの質問攻め。
予想通り、エウロ大人気!!
私もペアになってくれる人を探さないとな……と思っていると、エウロから「アリア!」と大声で名前を呼ばれる。
何だろう? と首をかしげていると、女子たちをかき分け、エウロがすがるような表情で私の元へやってきた。
「ペアになろう!」
女子たちから逃れる為にすぐにでもペアを決めたいんだろうな……。エウロの必死さが、目に見えて伝わってくる。
うーん、ここで私が「いいよ」って言うと、同じクラスで友人を作るのは難しくなるかもなぁ。
でもそんな理由で友人が出来る、出来ないっていうのもおかしいよね?
それに大会に出るからには優勝したいし、ペア相手としてエウロは完璧かもしれない。
「うん、エウロよろしく!」
私がエウロの誘いを受けた事で、周りの女子たちの表情が見るからに険しくなった。
小さいながらも聞こえる程度の声で「なんで?」「幼なじみってだけでしょ」「なんか弱み握ってるんじゃない?」と騒いでいる。
エウロにも聞こえたのか、私に近づき、片手で軽く謝るポーズをした。
「なんか、ごめんな」
「全然、気にする事ないよ。それより優勝を狙うよ!!」
「ゆ、優勝!? 5年生もいるし、それは難しいだろ。サウロ兄様も4年の時は、5位入賞だったらしいし……」
意外だな。エウロなら『そうだな。優勝目指そうぜ!』くらい言ってくれると思ってたけど。
そういえば、交換留学の時も選ばれなかった事を残念がってはいたけど、そこまでがっかりした様子でもなかったな。
お兄さんから色々と話を聞いてるから、どこか現実的なのかな? それとも最初から諦めてるとか……?
「確かに優勝は厳しいかもしれないけど、先生が『知力、体力、協力、時の運を競い合う大会』って言ってたから、可能性はゼロじゃないと思うよ? 協力や時の運は、年齢なんて関係ないからね! 出場するからには優勝したいし、大会自体も楽しみたいしね! エウロは?」
やる気に満ち溢れた顔で問いかけると、最初は弱気だったエウロの表情も少しずつ明るくなってくる。
「確かに。どうせ出場するなら楽しみたいな」
エウロがニッと笑ったので、私もニコッと笑い返す。
大会での優勝を目指し、私達はガシッと硬い握手を交わした。
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