上 下
24 / 261
中等部 編

10歳、死んでませんよ、生きてます(後編)

しおりを挟む
オーンが「すぐに帰るよ」と言っていた通り、みんなは長居する事もなく「お大事に」の言葉とともに帰って行った。

父親が来るまで待とうか悩んでいたマイヤも、結局は「私がいても治療の邪魔になっちゃうし、アリアちゃんが気を遣っちゃうといけないから帰るね」と言って、オーン達について行った。

セレスだけは最後まで名残惜しそうにしていたけど、セレスもセレスなりに気を遣ってくれたんだと思う。

涙の跡が残る顔を私に向けながら「今日のところは帰るわ。アリアのケガが落ち着いたら、会いに行くから」と言ってくれた。

医務室にはカウイとエレ、治療をしてくれたお医者さんの3人だけが残った。
カウイも私と同じく、ご両親が学校に呼び出されたようで、今は先生方と話しをしている最中らしい。

暫くすると、マイヤの父であるパンナさんが来てくれた。
すぐに治療を始めるのかと思いきや、まずはカウイとエレに声を掛けている。

「これから治療を始めるから、悪いけどカウイとエレは外に出ていてくれるかな?」
「分かりました。よろしくお願いします」
「は、はい!」

パンナさんに深々とお辞儀をすると、2人は医務室から出て行った。

「さて、治療を開始するかな。アリア、女の子なのに申し訳ないけど、治療の為に傷口を見せてもらうよ」
「はい、お願いします」

私に負担を掛けないよう注意しつつ、パンナさんが背中の傷口を確認する。

「アリアにケガをさせた子は、魔法を使う事はできるけど、まだ自分では制御しきれていないみたいだね。まあ、年齢的に魔法を完璧に使える子なんて、ごく僅かだから当たり前か」

「パンナさんの診断を学校側にもご報告致します」

「そうだね、お願いします。自分が思った通りに魔法を使える子だったら、言い方は悪いけど殺そうと思わない限り、こんな威力で魔法を使ったりはしないだろうからね。自分で魔法を制御をできない子が攻撃魔法を使うのは、本来であれば大問題だからね」

パンナさんとお医者さんは私の傷口を診ながら、色々とやり取りしている。
オリュンは自分の事を優秀だとか言って偉そうにしてたけど、魔法を使いこなせていたわけじゃないんだ。

「アリアごめんね。すぐにでも治療をしてあげたいんだけど、診察が終わるまでもう少し待っててね」
「だ、大丈夫です」
「ありがとう、いい子だね」

それから5分ほど診察した後、パンナさんは《癒しの魔法》で治療を始めてくれた。

背中だからどんな風に魔法を使っているのか見えなくて残念だけど、これが《癒しの魔法》なんだ! 
さっきより、背中の痛みが引いていくのが分かる。

実はずっと気になっている事があるんだけど、今は治療中だし、終わってからパンナさんに確認しよう。

治療自体は10分ほどで終わった。
パンナさんが疲れ切ったような口調で私に話し掛けてくる。

「ふう、ごめんね。今日はここまでしか治せないよ」
「いえ、先ほどよりも痛みがなくなりました。ありがとうございます」

うつ伏せのまま、パンナさんにお礼を伝える。

「多少痛みが引いたからといって、痛い事には変わりないと思うから無理しないようにね。そうだ、カウイとエレにもう入ってきてもいいよって伝えてくれるかな?」
「分かりました」

お医者さんが、医務室の外にいるカウイとエレを呼びに行く。
戻って来るのを待っている間、私はパンナさんに気になっていた事を尋ねた。

「あの、パンナさんに聞いていい事か分からないんですが、お聞きしたいことがあるんです」
「どうしたの?」

「さっき、魔法を制御できない人が攻撃魔法を使うことは問題だって言ってましたけど……カウイは大丈夫ですか? 問題になりませんか? もちろん攻撃はしていないですけど、多分、攻撃魔法を出したと思うんです。 でも、カウイの場合は初めて使った魔法だし、様子もいつもと違ってたし……何より私を守ろうとして魔法が出てしまっただけなんです。カウイの従兄弟とは理由が全然違うんです!」

うっ! せ、背中が痛い。
話している内にどんどん力が入ってしまい、また背中が痛くなってきた。

「……アリアは本当にお父さん、お母さんに似ているね。優しいところがそっくりだ。私が判断できる事ではないけれど、カウイが相手を傷つけたりはしていないのなら、そんなに問題にはならないと思うよ。アリアのケガが落ち着いたら、今のお話を先生方にしてごらん。きっとカウイは大丈夫だから」

私の不安を掻き消すかのように、パンナさんがハンカチで顔の汗を拭きながらにっこりと微笑む。

どうなるかは分からないけど、言われた通り、先生方にもちゃんと伝えよう。カウイは悪くないって。

パンナさんとの話が終わったタイミングで、エレとカウイが医務室へと戻って来る。
さっきよりも背中の痛みが引いた事を伝えると、2人揃って安堵の表情を浮かべた。

「さて、私はそろそろ帰るかな。明日以降は、別な《癒しの魔法》を使える人が治療してくれるからね。アリア、くれぐれもお大事にね」
「パンナさん、ありがとうございました」
「本当にありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」

私がパンナさんにお礼を言うと、エレとカウイもならうようにして頭を下げた。
笑顔のまま軽く手を振り、パンナさんが帰って行く。
暫くすると、私の両親とカウイの両親が医務室に入ってきた。

「遅くなってごめんね。今回の経緯について先生方と話した後、アリアの治療期間についても相談してきたよ。2~3週間は学校を休む事になるかな。 アリアにとっては残念かもしれないけど、まずは治療に専念しよう」

入学してからまだ1週間しか経っていないのに、そんなに休まないといけないのか……。

「……はい、お父様。2、3週間かぁ。勉強ついていけるかなぁ」

魔法の勉強するの、楽しみにしてたんだけどなぁ。

「それとカウイくんの従兄弟と友人の子たちは、処分が決まるまでの間は休学という扱いになったよ。カウイくんは普通に登校していいって」

お父様がカウイに今後の説明をしている。

「あ、ありがとうございます。アリアちゃん、休んだ分の勉強は僕が教えるから。今はゆっくり休んで、早く良くなってね」
「ありがとう、カウイ」

処分が決まる間は休学か……これからどうなるか分からないけど、まずは一安心。
お父様とカウイが言う通り、私は治療に専念する事にしよう。


ケガが治らない限り、カウイがずっとケガの事を気にしちゃうしね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

なりすまされた令嬢 〜健気に働く王室の寵姫〜

瀬乃アンナ
恋愛
国内随一の名門に生まれたセシル。しかし姉は選ばれし子に与えられる瞳を手に入れるために、赤ん坊のセシルを生贄として捨て、成り代わってしまう。順風満帆に人望を手に入れる姉とは別の場所で、奇しくも助けられたセシルは妖精も悪魔をも魅了する不思議な能力に助けられながら、平民として美しく成長する。 ひょんな事件をきっかけに皇族と接することになり、森と動物と育った世間知らずセシルは皇太子から名門貴族まで、素直関わる度に人の興味を惹いては何かと構われ始める。 何に対しても興味を持たなかった皇太子に慌てる周りと、無垢なセシルのお話 小説家になろう様でも掲載しております。 (更新は深夜か土日が多くなるかとおもいます!)

攻略なんてしませんから!

梛桜
恋愛
乙女ゲームの二人のヒロインのうちの一人として異世界の侯爵令嬢として転生したけれど、攻略難度設定が難しい方のヒロインだった!しかも、攻略相手には特に興味もない主人公。目的はゲームの中でのモフモフです! 【閑話】は此方→http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/808099598/ 閑話は最初本編の一番下に置き、その後閑話集へと移動しますので、ご注意ください。 此方はベリーズカフェ様でも掲載しております。 *攻略なんてしませんから!別ルート始めました。 【別ルート】は『攻略より楽しみたい!』の題名に変更いたしました

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

処理中です...