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子どもの頃(入学前)編
カウイの日記
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カウイ視点の話です。
---------------------------------------
僕に初めて友達ができた。
その名も「アリア」ちゃん。
お父様とお母様に今日の出来事を話し、「あ、明日、ア、アリアちゃんの家に遊びに行きます」と伝えた。
お父様は「そうですか、今日は楽しかったみたいで良かったですね」と嬉しそうだ。
お母様も「ふふ、女の子に招待されるなんて、さすが私の子供ね」と喜んでいた。
何年か前に同い年の従兄弟が遊びに来た時、僕は上手に話す事ができず、「カウイの話はつまらない」、「何を言っているか分からない」、「早く話せよ」とからかわれ、怒らせたりしてしまった。
それ以来、親以外の人と話すのが怖かった……。
けれど、アリアちゃんは僕を焦らせるような事もしなかったし、怒る事もなかった。
それどころか、僕の話に相槌を打ちながら、笑って聞いてくれた。
明日はセレスちゃんやエレくんもいるから、少しだけ不安もあるけど、アリアちゃんが「エレは天使のように可愛い弟」と言っていたし、「セレスは話は長いけど、ちゃんと話してみると面白いよ」と言っていた。
アリアちゃんがそう言うなら大丈夫だと思うけど、セレスちゃんって面白い要素あったかなあ?
---------------------------------------
次の日、僕はドキドキしながらアリアちゃんのお家に行った。
あまりの緊張に入り口で深呼吸をしていると、誰かが手を振っている。
──アリアちゃんだ!
「カウイー! いらっしゃい。セレスも来てるよ。今日は晴れているから、お庭のテラスに行こう!!」
こういう時、案内してくれるのは大抵メイドの人なんだけど、アリアちゃんは僕が来るのを待っていてくれたのかな。
「ま、待たせて、ご、ごめんね。」
「全然! 時間ピッタリだよ。セレスは来るのが早かっただけだから……」
アリアちゃんとお庭へ向かうと、セレスちゃんとエレくんがいた。
セレスちゃんが僕を見るなり、話し始める。
「先ほど、あなたがアリアとエレが心配で昨日家に来てくれたと聞いたわ。私より1日も早く来るなんて……やるじゃない。私もね、予定さえなければ、昨日の内に行っていたのよ」
僕が答える前にアリアちゃんが返事をし、2人の会話が続いていく。
「うん、うん。そうだね。ありがとう。セレス」
「なんか、心がこもっていないんじゃない?」
「そんな事ないよ。セレスが可愛いな~と思ってね(笑)。本当に今日は来てくれてありがとう」
「いいのよ、私はアリアの大切な友人ですからね」
アリアちゃんがセレスちゃんの肩をポンとたたき「うん、うん」と相槌を打っている。
セレスちゃんて、こんなに楽しそうに話す人だったかな。
僕の知っているセレスちゃんは、何をしても完璧で、少しだけ、話し掛けるのを躊躇してしまうようなイメージだったけど。
僕が2人のやり取りを眺めていると、エレくんが話し掛けてくれた。
「アリアから、昨日僕の事を心配して来てくれたと聞きました。ありがとうございます」
そう言って、にっこり笑った。
アリアちゃんが言っていた通り、可愛い顔立ちだな。
「改めて、エレです。よろしくお願い致します」
エレくんは、そう言って手を差し出してくれた。
僕も慌てて手を差し出し、エレくんと握手をすると、ぼそっと低い声で「友人って、男かよ」と聞こえた。
……あれ?
僕は改めてエレくんの顔を見た。
エレくんは変わる事なく、にっこりと笑っている。
僕の聞き間違いかな。
……うん、きっと聞き間違いだ。
アリアちゃんがみんなに向かって声を掛ける。
「みんなー、何飲む? 私は、りんごジュースにするよ」
「私も同じのを」
「僕もアリアと同じりんごジュース」
りんごジュース……?
りんごジュースって何??
アップルティーの事かな。
「ぼ、僕も」
アリアちゃんは僕が疑問に思っているのを察したのか、りんごジュースの説明をしてくれた。
「ああ、ごめんね。カウイに言ってなかったけど、りんごジュースは紅茶じゃないよ。果物のりんごってあるでしょ? そのりんごを使った甘くて冷たい飲み物の事なの」
「……???」
僕が飲んだ事のない飲み物みたいだけど、セレスちゃんやエレくんも飲むって言っていたから僕も飲んでみよう。
「う、うん。そ、それで」
メイドの人に飲み物を頼むと、アリアちゃんは僕らにある提案をしてきた。
「今日は、“お絵かきしりとり“をしましょう」
「お、絵かき、し、しりとり?」
僕が尋ねると、セレスちゃんとエレくんが続けて話し始めた。
「あら、カウイは知らないのね」
「セレスだって、つい最近まで知らなかったくせに……」
「うるさいわよ、エレ」
アリアちゃんは「説明するね」と言って、“お絵かきしりとり“のルールを教えてくれた。
「まず、絵を描く順番を決めるの。例えば、私、カウイ、エレ、セレスの順番だったとして、私がりんごの絵を描きます。次にカウイが私の絵を見て、りんごと分かれば、りんごの“ご”から始まる絵を描いて。例えば、ごぼうの絵とかね。そして、次にエレが、ごぼうの“う”から始まる絵を描くの。それを繰り返すのよ。分かった?」
僕はうなずいた。
すごい!そんな遊びがあるんだ。話をしなくても遊べるんだ。
“お絵かきしりとり“は、とても面白かった。
セレスちゃんが意外にも絵は普通で、アリアちゃんは笑いながら「これでも最初より上手になったのよ。多分、練習したのね」と教えてくれた。
エレくんの絵は、簡単に描いてはいるけど、特徴を捉えていて分かりやすかった。
僕の絵はというと、とても上手らしく、みんなに褒められた。
特にアリアちゃんは「すごい上手! 短時間でここまでクオリティー高く描けるのは本当にすごい!」と毎回、絶賛してくれた。
ただ、褒められる度にエレくんの顔が少しだけ曇るのは気のせいだろうか。
エレくんと目が合うと、にっこり笑ってる……多分、気のせいだ。
そして、アリアちゃん!
独特というか、味のあるというか、とにかく面白い絵だった。
セレスちゃんは「アリアの絵が下手くそだから、全然続かないじゃない!」と口調こそ怒っているけれど、楽しそうだった。
エレくんは「アリアは絵が下手なわけじゃない。個性的なんだ」とフォローしていた。
アリアちゃん自身は「芸術的って言ってほしいな」なんて言うものだから、絵だけじゃなく、そのやり取りすらも面白くてお腹を抱えて笑った。
「アリアちゃんって、絵が得意じゃないんだね」
「あら、カウイも言うじゃない。その通りよ」
「セレスが答えないでよ! カウイにも言われるとは……次回までに練習するかぁ」
……あれ!? 今の僕、どもってなかった?
「ぼ、僕、ふ、普通に話せた」
やっぱり、ダメだった。
「うん、うん。焦らなくて、大丈夫、大丈夫。自分の言葉に気を配っているからこそ、不安になっちゃうだけなんだよね。カウイはいつも人を傷つけないように言葉を選んでる。 言葉には人柄が出るっていうけど、 優しい人なんだね。きっと、少しずつ治っていくよ。だからカウイのペースで、ゆっくりでいいんだよ。私の絵だって、私なりのペースで少しずつ上手くなっていくよ、きっと!」
アリアちゃんは、僕を笑わそうとしてくれたのか、自分の絵を引き合いに優しい言葉を掛けてくれた。
なんでだろう、アリアちゃんと話していると不思議とそうなるって思えてくる。
この後もセレスちゃんが作ってきたマドレーヌを食べたり、初めて飲むりんごジュースが美味しすぎて感動したり……と楽しい時間を過ごした。
帰る時間になった時、『もうしばらく遊ぶ事はないんだろうな』と思うと、帰るのが少し残念だった。
アリアちゃんは、そんな気持ちを察したのか「次は私が遊びにいくね!」と言ってくれた。
エレくんとセレスちゃんも、アリアちゃんに同意してくれた。
「僕も行く!!!」
「あら、私も多忙だけど、行ってあげてもいいわよ」
「多忙なら、来なくていいよ」
「なんですって、エレ! 絶対に行くわよ!!」
みんな、遊びに来てくれるんだ。
「う、うん。ま、待ってるね!!」
アリアちゃんにもっと驚いてほしいから、次までにもっと絵の練習をしよう。
こんな風に自分から何かを頑張りたいって思うのは、初めてかもしれない。
それに、もしかしたらだけど、「どもり」が治るかもしれないと思えたのも初めてだ。
アリアちゃんが「僕のペースでいいんだよ」って言ってくれたからかな。
きっとアリアちゃんなら僕のペースに合わせて、一緒にいてくれるって思えたからかな。
実際、アリアちゃんの言った通り、僕は少しずつ、どもらず話せるようになるしね。
それは、また別な話だけど。
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僕に初めて友達ができた。
その名も「アリア」ちゃん。
お父様とお母様に今日の出来事を話し、「あ、明日、ア、アリアちゃんの家に遊びに行きます」と伝えた。
お父様は「そうですか、今日は楽しかったみたいで良かったですね」と嬉しそうだ。
お母様も「ふふ、女の子に招待されるなんて、さすが私の子供ね」と喜んでいた。
何年か前に同い年の従兄弟が遊びに来た時、僕は上手に話す事ができず、「カウイの話はつまらない」、「何を言っているか分からない」、「早く話せよ」とからかわれ、怒らせたりしてしまった。
それ以来、親以外の人と話すのが怖かった……。
けれど、アリアちゃんは僕を焦らせるような事もしなかったし、怒る事もなかった。
それどころか、僕の話に相槌を打ちながら、笑って聞いてくれた。
明日はセレスちゃんやエレくんもいるから、少しだけ不安もあるけど、アリアちゃんが「エレは天使のように可愛い弟」と言っていたし、「セレスは話は長いけど、ちゃんと話してみると面白いよ」と言っていた。
アリアちゃんがそう言うなら大丈夫だと思うけど、セレスちゃんって面白い要素あったかなあ?
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次の日、僕はドキドキしながらアリアちゃんのお家に行った。
あまりの緊張に入り口で深呼吸をしていると、誰かが手を振っている。
──アリアちゃんだ!
「カウイー! いらっしゃい。セレスも来てるよ。今日は晴れているから、お庭のテラスに行こう!!」
こういう時、案内してくれるのは大抵メイドの人なんだけど、アリアちゃんは僕が来るのを待っていてくれたのかな。
「ま、待たせて、ご、ごめんね。」
「全然! 時間ピッタリだよ。セレスは来るのが早かっただけだから……」
アリアちゃんとお庭へ向かうと、セレスちゃんとエレくんがいた。
セレスちゃんが僕を見るなり、話し始める。
「先ほど、あなたがアリアとエレが心配で昨日家に来てくれたと聞いたわ。私より1日も早く来るなんて……やるじゃない。私もね、予定さえなければ、昨日の内に行っていたのよ」
僕が答える前にアリアちゃんが返事をし、2人の会話が続いていく。
「うん、うん。そうだね。ありがとう。セレス」
「なんか、心がこもっていないんじゃない?」
「そんな事ないよ。セレスが可愛いな~と思ってね(笑)。本当に今日は来てくれてありがとう」
「いいのよ、私はアリアの大切な友人ですからね」
アリアちゃんがセレスちゃんの肩をポンとたたき「うん、うん」と相槌を打っている。
セレスちゃんて、こんなに楽しそうに話す人だったかな。
僕の知っているセレスちゃんは、何をしても完璧で、少しだけ、話し掛けるのを躊躇してしまうようなイメージだったけど。
僕が2人のやり取りを眺めていると、エレくんが話し掛けてくれた。
「アリアから、昨日僕の事を心配して来てくれたと聞きました。ありがとうございます」
そう言って、にっこり笑った。
アリアちゃんが言っていた通り、可愛い顔立ちだな。
「改めて、エレです。よろしくお願い致します」
エレくんは、そう言って手を差し出してくれた。
僕も慌てて手を差し出し、エレくんと握手をすると、ぼそっと低い声で「友人って、男かよ」と聞こえた。
……あれ?
僕は改めてエレくんの顔を見た。
エレくんは変わる事なく、にっこりと笑っている。
僕の聞き間違いかな。
……うん、きっと聞き間違いだ。
アリアちゃんがみんなに向かって声を掛ける。
「みんなー、何飲む? 私は、りんごジュースにするよ」
「私も同じのを」
「僕もアリアと同じりんごジュース」
りんごジュース……?
りんごジュースって何??
アップルティーの事かな。
「ぼ、僕も」
アリアちゃんは僕が疑問に思っているのを察したのか、りんごジュースの説明をしてくれた。
「ああ、ごめんね。カウイに言ってなかったけど、りんごジュースは紅茶じゃないよ。果物のりんごってあるでしょ? そのりんごを使った甘くて冷たい飲み物の事なの」
「……???」
僕が飲んだ事のない飲み物みたいだけど、セレスちゃんやエレくんも飲むって言っていたから僕も飲んでみよう。
「う、うん。そ、それで」
メイドの人に飲み物を頼むと、アリアちゃんは僕らにある提案をしてきた。
「今日は、“お絵かきしりとり“をしましょう」
「お、絵かき、し、しりとり?」
僕が尋ねると、セレスちゃんとエレくんが続けて話し始めた。
「あら、カウイは知らないのね」
「セレスだって、つい最近まで知らなかったくせに……」
「うるさいわよ、エレ」
アリアちゃんは「説明するね」と言って、“お絵かきしりとり“のルールを教えてくれた。
「まず、絵を描く順番を決めるの。例えば、私、カウイ、エレ、セレスの順番だったとして、私がりんごの絵を描きます。次にカウイが私の絵を見て、りんごと分かれば、りんごの“ご”から始まる絵を描いて。例えば、ごぼうの絵とかね。そして、次にエレが、ごぼうの“う”から始まる絵を描くの。それを繰り返すのよ。分かった?」
僕はうなずいた。
すごい!そんな遊びがあるんだ。話をしなくても遊べるんだ。
“お絵かきしりとり“は、とても面白かった。
セレスちゃんが意外にも絵は普通で、アリアちゃんは笑いながら「これでも最初より上手になったのよ。多分、練習したのね」と教えてくれた。
エレくんの絵は、簡単に描いてはいるけど、特徴を捉えていて分かりやすかった。
僕の絵はというと、とても上手らしく、みんなに褒められた。
特にアリアちゃんは「すごい上手! 短時間でここまでクオリティー高く描けるのは本当にすごい!」と毎回、絶賛してくれた。
ただ、褒められる度にエレくんの顔が少しだけ曇るのは気のせいだろうか。
エレくんと目が合うと、にっこり笑ってる……多分、気のせいだ。
そして、アリアちゃん!
独特というか、味のあるというか、とにかく面白い絵だった。
セレスちゃんは「アリアの絵が下手くそだから、全然続かないじゃない!」と口調こそ怒っているけれど、楽しそうだった。
エレくんは「アリアは絵が下手なわけじゃない。個性的なんだ」とフォローしていた。
アリアちゃん自身は「芸術的って言ってほしいな」なんて言うものだから、絵だけじゃなく、そのやり取りすらも面白くてお腹を抱えて笑った。
「アリアちゃんって、絵が得意じゃないんだね」
「あら、カウイも言うじゃない。その通りよ」
「セレスが答えないでよ! カウイにも言われるとは……次回までに練習するかぁ」
……あれ!? 今の僕、どもってなかった?
「ぼ、僕、ふ、普通に話せた」
やっぱり、ダメだった。
「うん、うん。焦らなくて、大丈夫、大丈夫。自分の言葉に気を配っているからこそ、不安になっちゃうだけなんだよね。カウイはいつも人を傷つけないように言葉を選んでる。 言葉には人柄が出るっていうけど、 優しい人なんだね。きっと、少しずつ治っていくよ。だからカウイのペースで、ゆっくりでいいんだよ。私の絵だって、私なりのペースで少しずつ上手くなっていくよ、きっと!」
アリアちゃんは、僕を笑わそうとしてくれたのか、自分の絵を引き合いに優しい言葉を掛けてくれた。
なんでだろう、アリアちゃんと話していると不思議とそうなるって思えてくる。
この後もセレスちゃんが作ってきたマドレーヌを食べたり、初めて飲むりんごジュースが美味しすぎて感動したり……と楽しい時間を過ごした。
帰る時間になった時、『もうしばらく遊ぶ事はないんだろうな』と思うと、帰るのが少し残念だった。
アリアちゃんは、そんな気持ちを察したのか「次は私が遊びにいくね!」と言ってくれた。
エレくんとセレスちゃんも、アリアちゃんに同意してくれた。
「僕も行く!!!」
「あら、私も多忙だけど、行ってあげてもいいわよ」
「多忙なら、来なくていいよ」
「なんですって、エレ! 絶対に行くわよ!!」
みんな、遊びに来てくれるんだ。
「う、うん。ま、待ってるね!!」
アリアちゃんにもっと驚いてほしいから、次までにもっと絵の練習をしよう。
こんな風に自分から何かを頑張りたいって思うのは、初めてかもしれない。
それに、もしかしたらだけど、「どもり」が治るかもしれないと思えたのも初めてだ。
アリアちゃんが「僕のペースでいいんだよ」って言ってくれたからかな。
きっとアリアちゃんなら僕のペースに合わせて、一緒にいてくれるって思えたからかな。
実際、アリアちゃんの言った通り、僕は少しずつ、どもらず話せるようになるしね。
それは、また別な話だけど。
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