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第一章:竜生始動篇

第5話『下宿仲間』

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 タワーズドラゴン候補生。ホノンはそう言った。
 なんのことかさっぱり分からない。
 ただ言えるのは、リタは恐らく強い。

 対する俺は、魔術を習いたてで戦い方なんて知らない。
 相手の攻撃を避けられなくて怪我を負いかねない。
 ならば、受け身の姿勢を維持してはいけない。

 攻める気でいく。

「両者、用意......」

 ホノンの声に腰を落とすリタ。
 俺は目を見開く。

「はじめ!」

 軽快な声と同時にリタが動く。
 あっという間に距離を詰められ、拳が握られた。
 風が吹く。ホノンの使っていた風魔術だ。

「"対術防御エスクード"」

 俺の展開した防御魔術とリタの拳がぶつかる。
 この魔術は魔法のみを防ぐ。
 すぐにリタの拳は振りぬかれる。

 展開した防御魔術を捩じり、上方へ拳を誘導。
 俺は腰を深く落とし、リタの腹の横を駆ける。
 振り向きざまに見下ろすリタの視線を捉え、詠唱。

「"烈焔斬リアマ・フィロ"!」

 木を切り倒す火力の炎がリタへ飛ぶ。
 体を反転させたリタは勢いを殺さず拳を振るい、炎をかき消す。
 優勢。1手先を打てている。

 だが......

「甘い。"暴風鞭エアロ・ウィップ"!」

 リタが攻撃を放った。
 それは明らかだ。
 だが、見えなかった。

対術エスk......!?」

 詠唱中に強い衝撃を受け、空中に放られる。
 風の鞭。不可視の攻撃に激痛が走る。
 胃液が口端から滴る。

「勝負あり!」

 気が付けばホノンが片手を挙げ、
 気が付けばリタが俺の目の前におり、
 気が付けば勝敗が決していた。

 早すぎる。速すぎる。

「まあ、割と動けるみたいだね」
「まだ魔力が見えてないっぽいねー。
 リタ相手にこれだけ動けるなら十分だよね?」
「ええ。伸びしろと可能性は十分ある」

 ホノンに手を引かれ、俺は立ち上がる。

「シンも、一週間後のタワーズドラゴン選定戦に出てみない?」

 だから、タワーズドラゴンってなんなんだよ。


  ★★★


 タワーズドラゴン。それは竜族の頂点に位置する存在。
 塔を根城とする最強の十名が平和を維持する。
 彼らが存在しなければ、竜族は滅んでもおかしくないとか。

 先日、二名の塔主タワーズドラゴンが引退した。
 全主の塔主リディオ=ヴァレンスと、雪原の塔主レイラ=ヴァレンスだ。
 二つの空席を巡り、候補生が実力を実演する。

 タワーズドラゴン選定戦。数百のドラゴンが競い合う武闘大会。
 ホノンやリタのような腕利きがひしめく大会だ。

「で、俺に最強の十名を目指せと?
 魔術習って間もない俺に?」
「うん! だってシンならできそうなんだもん。
 ボクには勝てなさそうだけど!」

 ここはタワーズドラゴンを志す者たちが下宿する場所。
 皆が皆、十の塔主に憧れて日々訓練しているのだ。

 さて、俺はホノンの金魚のフンだ。
 命を助けられ、この世界のことを教わり、魔術を教わった。
 塔主に憧れてここに来たわけじゃない。

 だが、興味はある。
 ホノンとリタの目標とする、"最強"。
 無謀であろうと憧れてしまうのが童心というものであろう。

 珍しく芽生えた童心は成就させたい。
 俺は話を聞き、最終的には首を縦に振った。

「じゃあ、今日からシンもライバルだね!
 リタに続き、強力なヤツが増えちゃったよ!」
「私は絶対負ける気ないから。
 目指すなら本気でぶつかりに来い」

 前世では全く触れてこなかった領域に踏み入れる。
 肺を通る空気が新鮮だ。


  ===


 昼食時になった。

 エドナの設ける総勢12名の塔主タワーズドラゴン候補生下宿のシステムは単純だ。
 衣食住の提供をエドナが行い、候補生は雑事で返す。
 ホノンのやったお使いなどがそれに該当する。

「ほら、残さず食べて大きくなるんだよ!」

 山盛りの飯、和気あいあいとした食堂。
 汗臭さというか、スポーツ系のサークルのような雰囲気。
 今まで一度も触れたことないものだ。

 飯は思ったより美味しかった。
 少しワイルドな肉・パン・スープの食事。
 肉はリタが朝に狩ったものらしい。

「シン=ルザースです。よろしく」

 食事中に改めて自己紹介をした。
 リタ相手に善戦したことで、俺は注目されていた。
 この中でもホノンとリタは頭一つ抜けて強いらしい。

「次は俺! 俺ぜってー勝つ!」
「おいリタ! 新人の相手やんなら俺とやれ!」
「アンタ弱いから手ごたえ無くてつまんない」
「あっ、シン! そこのパン二個取って!」
「ほらほら! 遠慮せずたくさん食べるんだよ!」

 うん。ホノンがエネルギッシュな理由が分かったわ。
 みんなめちゃくちゃ元気だな。

「てかホノン。もっと即時性のある上級魔術教えてくれよ。
 烈焔斬だと若干ラグい」

 俺はホノンにパンを投げつつそう言う。

「え!? シンの烈焔斬は十分早いと思うけど?」
「あれじゃリタの体勢を崩すこともできない。
 てか、リタのさっき使ってたやつ教えてくれよ」
「風の鞭? あれはボクよりリタの方が上手いー」
「あとで教えたげる」
「ありがとう、リタ」
「ボクもボクもー!」
「アンタはダメ」
「ええ!?」

 耳が痛くなるほど騒がしく、楽しい食事だ。


  ===


 昼食を終え、休憩時間の時。
 俺はリタに風魔術を教わり、的に向かって放っていた。

「魔力の偏りが少なすぎる。
 刃に集中させて、一息に放つ」
「こんな感じか?」
「そう......シンは魔力の出力が綺麗すぎるね。
 繊細な術はそれでいいけど、普段はもっと雑でいい」
「雑って......リタは魔力が見えるのか?」
「いや、ボクもリタも魔力を感じ取ってるだけ」

 リタの裏拳が空を薙いだ。
 ホノンはそれを軽く避け、ニヤッと笑う。

「あたしのアドバンテージが無くなるでしょ、ホノン」
「いや、風魔術の解説は聞いてないよ?
 ただシンに魔術を教えたいだけ」
「よしホノン、一回殺す」
「うん、受けて立つよ!」

 リタがホノンに殴り掛かり、ホノンが魔術で妨害する。
 鍛錬だか喧嘩だか殺し合いだか分からないものが始まった。
 俺は目をつむる。

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