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20XX.11.01 03:00AM
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事務所のソファにどかりと座って村瀬はタバコに火をつけた。灰を落とすとまた高井に怒られるのだろうか。そんな明日は間違いなく訪れるのだろうか。先の見えない綱渡りを村瀬はずっと続けている。
抱き潰して気を失ったまま高井は寝ている。彼が暗闇を怖がるから居住スペースは電気を煌々とつけたままだった。対照的に事務所は真暗だ。村瀬のタバコの光だけが暗闇に揺れる。窓の外の歓楽街も寝ついたようで静かだ。
散々な一日だった。モニターで頭のおかしい仮面野郎を見たときにさっさと警察に押し付けようとしたのだが、高井が飛び出してしまった。あいつは女が危険に合うことを恐れる。玉木の報告によると今回の事件は二組の男女の痴情のもつれ、いつもの浮気と不倫の話だった。そんなクソみたいな内容で高井を危険な目に合わせたことが悔やまれる。スマホでクローゼットの中からトイレまで走るように指示したが、犯人をひきつけ、トイレットペーパーを撒いて対峙するとは思わなかった。村瀬はただ高井を安全なところに逃したかっただけなのに。
招かれざる客は夜中に訪れる。
「Trick or Treat」
「帰れ」
「そんな言い方ある? 後始末したのに」
足音も、気配すらなく客は現れた。古馴染みだ。
「ちゃんと消せたんだろうな」
肩をすくめる気配がする。
「もちろん。というか、ほぼ映っていなかった。どれも死角。どうなってんのさ。あーあ。スカートの中身が見えなくて残念」
村瀬が舌打ちをする。
「本当に監視カメラの位置がわかってるんだねぇ」
村瀬はカメラの位置、画角がわかる。修羅場で身につけた特技であり感覚だ。セックスしないと出れない部屋で高井に手を出すのをやめたのもカメラ越しの視線を感じたのだ。今回の事件の最も大きな問題は監視カメラだった。ラブホの従業員は部屋にカメラを仕掛け、ハロウィンで浮かれたコスプレプレイを盗撮しようとしていた。警察によって押収されるだろうそれらに自分と高井の姿を残すわけにはいかなかった。このいけすかない野郎の手を借りた理由だ。
「村瀬。いい加減、あの子なんて放って帰ってきなよ」
「うるせぇ。用は終いだ」
「これで何回目? あの子は死神に愛されている」
気障な言い回しに村瀬は殺気を放った。
「こっわ。まぁ、組織が待ってくれているうちにさ。考えときなって。じゃあね」
現れた時と同様に何の音もなく気配は消えた。
ーー死神に愛されてる? くそったれ。俺の方が愛している。
大学生高井の彼女が惨たらしく殺された事件で二人は出会った。高井は心に大きな傷を負い、今でも不眠やトラウマに苦しんでいる。そして彼は魔性の魅力が備わった。殺人犯、サイコパスーー何故か高井はそれらを惹きつける。自らも含めて。今日の犯人だって高井を追った。村瀬はずっと死神と愛した男を取り合っている。
当時の村瀬は裏組織に属していたが、どうにか折り合いをつけて高井を守るために表社会に戻った。しかし組織から勧誘が耐えず、協力関係を盾に誤魔化している。いつまで続けられるか。
まるで呼び寄せているかのように高井の周りで事件が起こる。高井の姿を盗撮、ましてや裏ビデオとして流通させるわけにはいかなかった。狂人に見つけられてしまう。自分の知らないところで高井が無惨に嬲られる、それが怖くて村瀬はその手を離せなかった。裏社会とズブズブな己の身勝手だが。
村瀬はだらしなくソファに沈んだ。このまま仮眠をとるつもりだ。
冬至に向かって夜は徐々に長くなっている。
夜明けは未だみえない。
To be continued…
抱き潰して気を失ったまま高井は寝ている。彼が暗闇を怖がるから居住スペースは電気を煌々とつけたままだった。対照的に事務所は真暗だ。村瀬のタバコの光だけが暗闇に揺れる。窓の外の歓楽街も寝ついたようで静かだ。
散々な一日だった。モニターで頭のおかしい仮面野郎を見たときにさっさと警察に押し付けようとしたのだが、高井が飛び出してしまった。あいつは女が危険に合うことを恐れる。玉木の報告によると今回の事件は二組の男女の痴情のもつれ、いつもの浮気と不倫の話だった。そんなクソみたいな内容で高井を危険な目に合わせたことが悔やまれる。スマホでクローゼットの中からトイレまで走るように指示したが、犯人をひきつけ、トイレットペーパーを撒いて対峙するとは思わなかった。村瀬はただ高井を安全なところに逃したかっただけなのに。
招かれざる客は夜中に訪れる。
「Trick or Treat」
「帰れ」
「そんな言い方ある? 後始末したのに」
足音も、気配すらなく客は現れた。古馴染みだ。
「ちゃんと消せたんだろうな」
肩をすくめる気配がする。
「もちろん。というか、ほぼ映っていなかった。どれも死角。どうなってんのさ。あーあ。スカートの中身が見えなくて残念」
村瀬が舌打ちをする。
「本当に監視カメラの位置がわかってるんだねぇ」
村瀬はカメラの位置、画角がわかる。修羅場で身につけた特技であり感覚だ。セックスしないと出れない部屋で高井に手を出すのをやめたのもカメラ越しの視線を感じたのだ。今回の事件の最も大きな問題は監視カメラだった。ラブホの従業員は部屋にカメラを仕掛け、ハロウィンで浮かれたコスプレプレイを盗撮しようとしていた。警察によって押収されるだろうそれらに自分と高井の姿を残すわけにはいかなかった。このいけすかない野郎の手を借りた理由だ。
「村瀬。いい加減、あの子なんて放って帰ってきなよ」
「うるせぇ。用は終いだ」
「これで何回目? あの子は死神に愛されている」
気障な言い回しに村瀬は殺気を放った。
「こっわ。まぁ、組織が待ってくれているうちにさ。考えときなって。じゃあね」
現れた時と同様に何の音もなく気配は消えた。
ーー死神に愛されてる? くそったれ。俺の方が愛している。
大学生高井の彼女が惨たらしく殺された事件で二人は出会った。高井は心に大きな傷を負い、今でも不眠やトラウマに苦しんでいる。そして彼は魔性の魅力が備わった。殺人犯、サイコパスーー何故か高井はそれらを惹きつける。自らも含めて。今日の犯人だって高井を追った。村瀬はずっと死神と愛した男を取り合っている。
当時の村瀬は裏組織に属していたが、どうにか折り合いをつけて高井を守るために表社会に戻った。しかし組織から勧誘が耐えず、協力関係を盾に誤魔化している。いつまで続けられるか。
まるで呼び寄せているかのように高井の周りで事件が起こる。高井の姿を盗撮、ましてや裏ビデオとして流通させるわけにはいかなかった。狂人に見つけられてしまう。自分の知らないところで高井が無惨に嬲られる、それが怖くて村瀬はその手を離せなかった。裏社会とズブズブな己の身勝手だが。
村瀬はだらしなくソファに沈んだ。このまま仮眠をとるつもりだ。
冬至に向かって夜は徐々に長くなっている。
夜明けは未だみえない。
To be continued…
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