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20XX.10.26 11:00AM
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狼男の怒号のような声に驚いて高井はその元に走ったーーそして後悔した。
「高井、てめぇ、どういうつもりだ」
「何がですか?」
「カミに決まってんだろ!!」
カミとは。髪か神かーーいやここはトイレであるーーすなわち紙でありトイレットペーパーだ。
「この前買い足したんで。中にあるでしょ」
「なんでダブルなんだ?!」
「はぁ?」
「トイレットペーパーはシングルに決まってんだろ」
「は? ダブルでいいでしょ。手も守られる気がするし」
「バーカ。シングルは巻くほど、トリプルにもカルテットにも、五重、六重にもなるんだぞ!」
「……」
ーーそれはダブルでも同じだろうが!
高井はため息をついた。それにしても村瀬の姿は酷い。寝起きままの髪は爆発しており、左側にだけはいっている金色のメッシュも重力に逆らっている。無精ひげも見苦しい。小豆色のくたくたのジャージのズボンと共に紫に光沢があるやたら面積が小さいパンツが足元に落ちていて局部が露出されている。特徴的なその瞳、右がくっきりとした二重、左がすっきりとした一重......は両眼とも半目で高井を睨んでいた。
「さっき依頼人から電話があって、あと1時間くらいで到着するみたいですので用意してくださいよ」
高井は唸り声をあげる村瀬に声かけて事務所を掃除するべく戻った。
村瀬探偵事務所は繁盛しているとは言い難い。しかし探偵事務所が千客万来だと世も末だろうと応接室を片づけながら高井航介は考える。近年、政令指定都市となった宝口市は宝口駅を中心に発展を遂げていた。宝口駅は南に真新しいオフィス街を、北に古くからの歓楽街を携える新旧混在したスポットだ。事務所は駅から北に徒歩5分という好立地を生かし、依頼をうけて細々と食いつないでいる。主にOLやビジネスマンからの浮気調査や浮気調査や浮気調査だ。浮気調査以外だと猫探しか。儲かっているとは言い難いが、村瀬弘明は脱サラしたあとの道楽で探偵事務所を運営し始め、利益を追求してはいなかった。大学卒業後に就活に失敗した高井は村瀬に雑用兼探偵助手として拾われた。
恐る恐る事務所のドアをあけた依頼人はボブカットの小柄なかわいらしい女性だった。ジャケット姿の爽やかな高井がほほ笑んで中に入るように促すと少し表情を緩める。ソファに誘導し、お茶を配する。その時がつがつと足音を響かせて村瀬が登場した。
ーー最低だ。
高井は村瀬の姿を見てげんなりした。今日も最悪だ。紅い竜が右腕に巻き付いた柄の上着に黒のレザーパンツ、左側にだけ金のメッシュが入っている髪をワックスで立たして、腕時計は金のロレックス。人間は対称性のあるものを美しいと感じて安心する傾向があるといわれているが、村瀬の特徴的な瞳は左右の大きさが非対称にみえ、それを増強するかのように髪型、アクセサリー、服装にいたるまで全てを最低男はアシメントリーにコーディネートする。まして、その左右非対称の眼で睨みつける悪癖をもつ。村瀬は対峙する者に不安と不快を抱かせる男だ。
依頼人が目に見えて怯えた。高井は村瀬からタバコを奪い取り、自分が面談することにした。高井が話しはじめると彼女は村瀬を完全に無視して縋るように高井と対峙した。村瀬が椅子に座って貧乏ゆすりをする。
依頼はーー結論的に、浮気調査だった。動揺して要領を得ない彼女の話を高井は優しく、根気強く聞き出した。
「高井、てめぇ、どういうつもりだ」
「何がですか?」
「カミに決まってんだろ!!」
カミとは。髪か神かーーいやここはトイレであるーーすなわち紙でありトイレットペーパーだ。
「この前買い足したんで。中にあるでしょ」
「なんでダブルなんだ?!」
「はぁ?」
「トイレットペーパーはシングルに決まってんだろ」
「は? ダブルでいいでしょ。手も守られる気がするし」
「バーカ。シングルは巻くほど、トリプルにもカルテットにも、五重、六重にもなるんだぞ!」
「……」
ーーそれはダブルでも同じだろうが!
高井はため息をついた。それにしても村瀬の姿は酷い。寝起きままの髪は爆発しており、左側にだけはいっている金色のメッシュも重力に逆らっている。無精ひげも見苦しい。小豆色のくたくたのジャージのズボンと共に紫に光沢があるやたら面積が小さいパンツが足元に落ちていて局部が露出されている。特徴的なその瞳、右がくっきりとした二重、左がすっきりとした一重......は両眼とも半目で高井を睨んでいた。
「さっき依頼人から電話があって、あと1時間くらいで到着するみたいですので用意してくださいよ」
高井は唸り声をあげる村瀬に声かけて事務所を掃除するべく戻った。
村瀬探偵事務所は繁盛しているとは言い難い。しかし探偵事務所が千客万来だと世も末だろうと応接室を片づけながら高井航介は考える。近年、政令指定都市となった宝口市は宝口駅を中心に発展を遂げていた。宝口駅は南に真新しいオフィス街を、北に古くからの歓楽街を携える新旧混在したスポットだ。事務所は駅から北に徒歩5分という好立地を生かし、依頼をうけて細々と食いつないでいる。主にOLやビジネスマンからの浮気調査や浮気調査や浮気調査だ。浮気調査以外だと猫探しか。儲かっているとは言い難いが、村瀬弘明は脱サラしたあとの道楽で探偵事務所を運営し始め、利益を追求してはいなかった。大学卒業後に就活に失敗した高井は村瀬に雑用兼探偵助手として拾われた。
恐る恐る事務所のドアをあけた依頼人はボブカットの小柄なかわいらしい女性だった。ジャケット姿の爽やかな高井がほほ笑んで中に入るように促すと少し表情を緩める。ソファに誘導し、お茶を配する。その時がつがつと足音を響かせて村瀬が登場した。
ーー最低だ。
高井は村瀬の姿を見てげんなりした。今日も最悪だ。紅い竜が右腕に巻き付いた柄の上着に黒のレザーパンツ、左側にだけ金のメッシュが入っている髪をワックスで立たして、腕時計は金のロレックス。人間は対称性のあるものを美しいと感じて安心する傾向があるといわれているが、村瀬の特徴的な瞳は左右の大きさが非対称にみえ、それを増強するかのように髪型、アクセサリー、服装にいたるまで全てを最低男はアシメントリーにコーディネートする。まして、その左右非対称の眼で睨みつける悪癖をもつ。村瀬は対峙する者に不安と不快を抱かせる男だ。
依頼人が目に見えて怯えた。高井は村瀬からタバコを奪い取り、自分が面談することにした。高井が話しはじめると彼女は村瀬を完全に無視して縋るように高井と対峙した。村瀬が椅子に座って貧乏ゆすりをする。
依頼はーー結論的に、浮気調査だった。動揺して要領を得ない彼女の話を高井は優しく、根気強く聞き出した。
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