3 / 6
3.
しおりを挟む
目が覚めると真横に人が寝ていて驚いた。さらさらの癖のない黒髪にすっきりとした鼻筋。寝ている顔までイケメンってどういうことだ。
1時間くらいは寝てしまったのか。
どうしたらいいんだこれ。
さっきもそう思った気がすると考えると同時に、めくるめくアレやコレやが思い浮かんであたふたした。
どうしたのかというと。
ーー逃げました。
いや、だって、完全にキャパオーバー。
ホテル代もアルファを買った代金ももう前払いしてるし。追加料金はないって言ってたし。
あみだくじのメモに、チェックアウトのときにカードキーをフロントに返してほしいとだけ書いてぐっすり眠っているイケメンを置いて俺は去った。
家に帰ると熱っぽくて。
これはヒートの前兆だと思って会社に休暇申請の連絡をいれた。
ヒート中は何回も相楽さんをオカズにしてしまって落ち込む。だって29年間で一番刺激的だったんだから。
ちょっと心配していたが追加料金の請求はなかった。
これで俺は30歳を迎える前に非処女になりました。
めでたしめでたし。
ーーと、ならないんだな、現実は。
仕事をしていても、食事をとっていても、家でぼんやりしている時なんか特に、相楽さんのことが忘れられないんだ。
彼の声とか笑い方とかが思い出されて。
手を繋いだらとか、キスできたらとか妄想ばっかりしてしまう。
なんだこれ。
『体調崩して休んだって聞いたけど大丈夫? 無理じゃないなら一緒に飯食いに行かない?』
同僚の山川から連絡が入った。部署は違うが男のオメガ同士ということもあって仲良くさせてもらっている。
最近、番ができた彼に相談してみようか。山川は俺と違って非童貞非処女のリア充だ。
会社近くの個室の居酒屋で集まることにした。
「この、バカ!!」
俺の話を聞いた途端、山川が眦をつりあげて怒った。
「危なかったかもしれないんだぞ?!」
犬っぽくて愛嬌があって誰からも好かれるこいつがこんなに怒るの初めて見た。
「ほいほいとよく知りもしないアルファについて行ったらいけないんだ」
ふっと山川の眼差しが翳る。本気で俺のことを心配してくれている声音。
「ごめん」
山川がはぁっとため息をついた。
「それで、そのアルファのことが忘れられないと」
「……うん」
「ああもう、バカ。体を近づけたら、心も近づくんだ。初めてなんてなおさらだ」
「そうなのか」
「ヒートもきたの?」
「うん。急に。バランス崩れたのかな」
「そう、かもな。気になるんなら医者いけよ」
このあとも何度も酒が入った山川は俺に説教をした。俺は甘んじてそれを受け入れた。
でも、さすがに、あみだくじで決めた勢いとは言えなかった。
「水族館?」
山川が俺を飲みに誘った本当の目的はそれだった。番が行けなくなったらしい、水族館のペアチケット。
友達の多い山川なら陰キャの俺を誘わなくてもいい気がするけどーーなんとなく、こいつはアルファやベータであっても体が大きい男と二人きりになるのを避けていると思う。俺が一緒に行くことを了承すると、ほっとしたように表情を緩めた。
「玄人の商売アルファなんて忘れて楽しもうぜ」
ーー商売。
つきんと胸が痛んだ。
偶然次の休みのお互い空いていて、さっそく水族館に行くことにした。
1時間くらいは寝てしまったのか。
どうしたらいいんだこれ。
さっきもそう思った気がすると考えると同時に、めくるめくアレやコレやが思い浮かんであたふたした。
どうしたのかというと。
ーー逃げました。
いや、だって、完全にキャパオーバー。
ホテル代もアルファを買った代金ももう前払いしてるし。追加料金はないって言ってたし。
あみだくじのメモに、チェックアウトのときにカードキーをフロントに返してほしいとだけ書いてぐっすり眠っているイケメンを置いて俺は去った。
家に帰ると熱っぽくて。
これはヒートの前兆だと思って会社に休暇申請の連絡をいれた。
ヒート中は何回も相楽さんをオカズにしてしまって落ち込む。だって29年間で一番刺激的だったんだから。
ちょっと心配していたが追加料金の請求はなかった。
これで俺は30歳を迎える前に非処女になりました。
めでたしめでたし。
ーーと、ならないんだな、現実は。
仕事をしていても、食事をとっていても、家でぼんやりしている時なんか特に、相楽さんのことが忘れられないんだ。
彼の声とか笑い方とかが思い出されて。
手を繋いだらとか、キスできたらとか妄想ばっかりしてしまう。
なんだこれ。
『体調崩して休んだって聞いたけど大丈夫? 無理じゃないなら一緒に飯食いに行かない?』
同僚の山川から連絡が入った。部署は違うが男のオメガ同士ということもあって仲良くさせてもらっている。
最近、番ができた彼に相談してみようか。山川は俺と違って非童貞非処女のリア充だ。
会社近くの個室の居酒屋で集まることにした。
「この、バカ!!」
俺の話を聞いた途端、山川が眦をつりあげて怒った。
「危なかったかもしれないんだぞ?!」
犬っぽくて愛嬌があって誰からも好かれるこいつがこんなに怒るの初めて見た。
「ほいほいとよく知りもしないアルファについて行ったらいけないんだ」
ふっと山川の眼差しが翳る。本気で俺のことを心配してくれている声音。
「ごめん」
山川がはぁっとため息をついた。
「それで、そのアルファのことが忘れられないと」
「……うん」
「ああもう、バカ。体を近づけたら、心も近づくんだ。初めてなんてなおさらだ」
「そうなのか」
「ヒートもきたの?」
「うん。急に。バランス崩れたのかな」
「そう、かもな。気になるんなら医者いけよ」
このあとも何度も酒が入った山川は俺に説教をした。俺は甘んじてそれを受け入れた。
でも、さすがに、あみだくじで決めた勢いとは言えなかった。
「水族館?」
山川が俺を飲みに誘った本当の目的はそれだった。番が行けなくなったらしい、水族館のペアチケット。
友達の多い山川なら陰キャの俺を誘わなくてもいい気がするけどーーなんとなく、こいつはアルファやベータであっても体が大きい男と二人きりになるのを避けていると思う。俺が一緒に行くことを了承すると、ほっとしたように表情を緩めた。
「玄人の商売アルファなんて忘れて楽しもうぜ」
ーー商売。
つきんと胸が痛んだ。
偶然次の休みのお互い空いていて、さっそく水族館に行くことにした。
0
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭

嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

運命の人じゃないけど。
加地トモカズ
BL
αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。
しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。
※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。

欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる