32 / 44
お節介姐さんとアイス
しおりを挟む
たこ焼きパーティーの日の夜、シェアハウスに住むメリー、ササミ、オンセン、ポコの4人は共用スペースで酒を飲んでいた。
料理のできない彼らのつまみは市販の乾きものばかり。たこ焼きで腹が膨れた彼らの晩飯はそれだけだった。
「しっかしエルザちゃん、恋してたねぇ」
しみじみとポコが呟く。
「あれって、初恋なんじゃない、メリー?」
「たぶんそうです」
「だよねぇ。まさかエルザちゃんの理想通りの男の子が現れるとは、私も想像できなかったよ」
酒に酔ったポコの瞳はキラキラとうるんでいた。
「ルイスの方はどう? まんざらでもないかなって、私は見てたんだけど」
オンセンの言葉に、メリーとササミが同意した。
「ルイス、エルザ姐さんには常に優しいけど、実は他の女の誘いにはドライな反応してるときあったっス」
こっそり人間観察が趣味のササミが言う。
「でも、何で彼からもっと接近しないの? エルザちゃん分かりやすいのに」
ポコは不審げだ。
「あの顔だよ、余裕がありまくりなのさ。エルザの初心な反応をのんびり楽しんでんだよ」
酒に酔ったオンセンの目が据わってきた。ちょっと不穏な空気だ。
「がっつかない、気が長いタイプね。二股してるわけじゃないし、悪い男じゃないけど。でも、エルザと進展しないうちに他に乗り換える可能性はあるわよ」
「ああ、オンセン姐さんが昔、モジモジしてるうちにアバズレに好きな男をとられたときと同じになる危険があるっスね」
ガンッと、オンセンがグラスをテーブルに叩きつけた。
「サーサーミー、アンタ、先輩の失恋話を小馬鹿にしたように語りやがって」
「いやいや、ウチほど、姐さんの愚痴にきちんと付き合う良い後輩いないでしょ」
「アンタは、人の不幸話をニヤニヤニヤニヤ聞いてるだけでしょうが!!!」
オンセンがササミの首を絞めるのを、慌てて周囲が止めた。
「ちょっと、落ち着いて、姐さんっ」
「水、水、水飲んで~。酔いをさまそうね」
メリーとポコがオンセンを落ち着かせる。
「……ふぅ。ごめん、興奮した。でも、このままエルザを私の二の舞にするのは嫌ね」
水を飲んだオンセンが、少し冷静さを取り戻して言う。
「なになに、恋のキューピッドでもするの?」
ポコが身を乗り出した。
「ああ。かわいいエルザのためだもの、応援するわ。メリー、アンタにも動いてもらうよ」
先輩2人の命令を受けながら、メリーはふと、
――エルザが育ちのわりに夢見がちに成人したのって、姐さんたちが過保護だからだよねぇ。
いつまで経ってもフワフワしたところのある友人を思うのだった。
* * *
ここ最近のダンジョン発生ラッシュは、大変だけどお金稼ぎにはなっていた。冒険者が潤えば、ギルドも潤う。
「たくさんダンジョンが出現して、みなさんが稼いでくれたので、ギルドの福利厚生予算が増えました」
副ギルドマスターは、ほくほく顔になっていた。
その結果、ギルド併設のカフェに、ガラスケース張りの冷凍庫の魔道具が設置された。
中には、いろんな種類のアイスクリームが入っている。
「冒険者さん向けに、夏場のアイスクリームの販売を始めます」
アイスクリーム屋開店の初日には、冒険者たちが行列を作った。
「イチゴと、パチパチソーダと、デラックスオレンジ」
アタイが注文したアイスクリームを、ルイスがポンポンポンっとコーンの上に乗せていく。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
彼から受け取ったアイスクリームを食べる席を探すけど、ギルド内は混み合っていた。
いつもは人の少ない昼間の時間帯も大賑わいだ。
アタイは外に出て、ギルドの建物に寄りかかってアイスを食べた。
「エルザちゃんもアイス食べにきたんだ?」
通りかかったチュウキチに声をかけられた。横にモウスケもいる。
「ああ。チュウキチ、この間はありがとうな。モウスケも、怪我は治った?」
ルイス救出で、アタイたちより先に止めに入ったモウスケは、けっこう痛めつけられたそうだ。
「だいたい治った。相手はA級冒険者だったんだろ? 今思うと、酒飲んでてよかったわ。奴らにボコボコにされる前に、自分でふらついて倒れたから」
モウスケはフラフラと酔っ払いの真似をして、おどけてみせた。
「ギルドのアイスクリームを食いにきたんだ。言っとくが、俺は乳製品にはうるさいからな」
決め顔でモウスケが言うので、アタイはケラケラと笑った。
2人は手を振ってギルドの中に入っていった。
「うん。このアイス、おいしいわ~」
あとでカップに入れてもらって、アザレア大姐さんの家の子どもたちに持って行く分も注文しよう。
料理のできない彼らのつまみは市販の乾きものばかり。たこ焼きで腹が膨れた彼らの晩飯はそれだけだった。
「しっかしエルザちゃん、恋してたねぇ」
しみじみとポコが呟く。
「あれって、初恋なんじゃない、メリー?」
「たぶんそうです」
「だよねぇ。まさかエルザちゃんの理想通りの男の子が現れるとは、私も想像できなかったよ」
酒に酔ったポコの瞳はキラキラとうるんでいた。
「ルイスの方はどう? まんざらでもないかなって、私は見てたんだけど」
オンセンの言葉に、メリーとササミが同意した。
「ルイス、エルザ姐さんには常に優しいけど、実は他の女の誘いにはドライな反応してるときあったっス」
こっそり人間観察が趣味のササミが言う。
「でも、何で彼からもっと接近しないの? エルザちゃん分かりやすいのに」
ポコは不審げだ。
「あの顔だよ、余裕がありまくりなのさ。エルザの初心な反応をのんびり楽しんでんだよ」
酒に酔ったオンセンの目が据わってきた。ちょっと不穏な空気だ。
「がっつかない、気が長いタイプね。二股してるわけじゃないし、悪い男じゃないけど。でも、エルザと進展しないうちに他に乗り換える可能性はあるわよ」
「ああ、オンセン姐さんが昔、モジモジしてるうちにアバズレに好きな男をとられたときと同じになる危険があるっスね」
ガンッと、オンセンがグラスをテーブルに叩きつけた。
「サーサーミー、アンタ、先輩の失恋話を小馬鹿にしたように語りやがって」
「いやいや、ウチほど、姐さんの愚痴にきちんと付き合う良い後輩いないでしょ」
「アンタは、人の不幸話をニヤニヤニヤニヤ聞いてるだけでしょうが!!!」
オンセンがササミの首を絞めるのを、慌てて周囲が止めた。
「ちょっと、落ち着いて、姐さんっ」
「水、水、水飲んで~。酔いをさまそうね」
メリーとポコがオンセンを落ち着かせる。
「……ふぅ。ごめん、興奮した。でも、このままエルザを私の二の舞にするのは嫌ね」
水を飲んだオンセンが、少し冷静さを取り戻して言う。
「なになに、恋のキューピッドでもするの?」
ポコが身を乗り出した。
「ああ。かわいいエルザのためだもの、応援するわ。メリー、アンタにも動いてもらうよ」
先輩2人の命令を受けながら、メリーはふと、
――エルザが育ちのわりに夢見がちに成人したのって、姐さんたちが過保護だからだよねぇ。
いつまで経ってもフワフワしたところのある友人を思うのだった。
* * *
ここ最近のダンジョン発生ラッシュは、大変だけどお金稼ぎにはなっていた。冒険者が潤えば、ギルドも潤う。
「たくさんダンジョンが出現して、みなさんが稼いでくれたので、ギルドの福利厚生予算が増えました」
副ギルドマスターは、ほくほく顔になっていた。
その結果、ギルド併設のカフェに、ガラスケース張りの冷凍庫の魔道具が設置された。
中には、いろんな種類のアイスクリームが入っている。
「冒険者さん向けに、夏場のアイスクリームの販売を始めます」
アイスクリーム屋開店の初日には、冒険者たちが行列を作った。
「イチゴと、パチパチソーダと、デラックスオレンジ」
アタイが注文したアイスクリームを、ルイスがポンポンポンっとコーンの上に乗せていく。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
彼から受け取ったアイスクリームを食べる席を探すけど、ギルド内は混み合っていた。
いつもは人の少ない昼間の時間帯も大賑わいだ。
アタイは外に出て、ギルドの建物に寄りかかってアイスを食べた。
「エルザちゃんもアイス食べにきたんだ?」
通りかかったチュウキチに声をかけられた。横にモウスケもいる。
「ああ。チュウキチ、この間はありがとうな。モウスケも、怪我は治った?」
ルイス救出で、アタイたちより先に止めに入ったモウスケは、けっこう痛めつけられたそうだ。
「だいたい治った。相手はA級冒険者だったんだろ? 今思うと、酒飲んでてよかったわ。奴らにボコボコにされる前に、自分でふらついて倒れたから」
モウスケはフラフラと酔っ払いの真似をして、おどけてみせた。
「ギルドのアイスクリームを食いにきたんだ。言っとくが、俺は乳製品にはうるさいからな」
決め顔でモウスケが言うので、アタイはケラケラと笑った。
2人は手を振ってギルドの中に入っていった。
「うん。このアイス、おいしいわ~」
あとでカップに入れてもらって、アザレア大姐さんの家の子どもたちに持って行く分も注文しよう。
0
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説

私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。
転生少女、運の良さだけで生き抜きます!
足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】
ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。
女神はミナの体を創造して問う。
「要望はありますか?」
ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。
迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる