冒険者ギルド受付の癒し枠~ネコ娘は追放系主人公が気になるようです

八華

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とある追放系主人公のテンプレ話1

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 ルイスの父は画家だった。
 白い漆喰しっくい塗りの建物が並ぶ海辺のアトリエで、彼はいつも絵を描いていた。
 部屋には、無造作に置かれたいくつものキャンバス。それらを通して、ルイスは父と母が旅してきた世界の景色を眺めた。

 ルイスの母は冒険者だった。
 世界に数名しかいないS級と呼ばれる特別な存在だ。その圧倒的な力は、ダンジョンボスを単独で討伐できるほどだった。
 ルイスを身籠みごもって、夫とともに海辺の街に定住したころには、彼女はすでに名声をほしいままにしていた。だから、彼女を知らない若い冒険者たちは、彼女のことをもっと昔の伝説の中の偉人だと思っている。

 ルイスの両親はずっと仲が良かった。
 2人はいつまで経っても新婚夫婦みたいだと言われていた。ラブラブの両親を見て育ったルイスは、世間を知るまで、夫婦というのはどこも同じように愛情にあふれたものだと思っていた。

 そんな両親だったが、ルイスが12歳のときに父親が病気で亡くなった。彼はもともと身体が弱く、長生きはできないと言われていた。
 悲しみに暮れる母子のもとに、父親の実家から遣いが来た。ルイスの父は貴族で、母と駆け落ちしていたのだ。

 ルイスの祖父が当主を務める侯爵家では、嫡男に子どもができず、ルイスを迎えたいということだった。
 ルイスは拒否するつもりだったが、間が悪く、母親に大きな仕事の要請が入ってしまった。そのころ、世界中で凶悪なダンジョンがたて続けに発生し、各地でダンジョンブレイクの危機だったのだ。ルイスの母親はこれを放っておけず、家に1人で残すくらいならと、ルイスを侯爵家にやることを認めてしまった。

「あなたのお父さんの家は由緒正しいところなの。行けば、他では経験できない歴史や文化に触れることができるわ。学んできなさい」

 母の言いつけ通り、ルイスは祖父の家の流儀に従って、さまざまなことを学んだ。
 侯爵家の書庫の本を読みつくし、出された料理を食べればすべてのレシピを記憶した。貴族の家にある多種多様な魔道具の構造を覚え、貴重な薬品の製法も理解した。

 そういう点で、祖父の家での暮らしは充実していた。

 しかし、人には恵まれなかった。
 侯爵家のあるヒュムニナ王国はヒューム至上主義の国だ。ルイスは獣人との混ざりものとさげすまれた。
 伯父夫婦に遅い子どもが産まれると、ルイスへの風当たりはさらに強くなった。

 ルイスは15歳になると、王都の学園に通うことになった。そこで、彼はヒュムニナ王国の王女に一目惚れされてしまう。王女はすぐにルイスを婚約者と決め、彼の祖父も勝手に婚約を認めてしまった。
 ルイスは王女に婚約の解消を求めたが、ヒステリックに怒鳴られるだけで聞いてもらえなかった。

 王国ではダンジョンの攻略が貴族の義務になっていた。学園に入ると同時に、ダンジョン攻略のパーティーを組まされる。王女と婚約していたルイスは、王女のパーティーに組み込まれた。

 王女の攻略パーティーで、ルイスは特に弱かったわけではない。しかし、貴族のダンジョン攻略には、強力な魔道具が使われる。侯爵家で混ざりものと差別されていたルイスは、高価な魔道具を貸してもらえず、他のメンバーと差が開いていった。

 そうこうしているうちに、王女のパーティーは快進撃を続けた。彼らはいくつものダンジョンのボスを討伐し、A級冒険者の称号も得た。
 王女は英雄となり、次の国王と目されるようになった。

 次期女王である王女の周りには、その婿を狙う男が集まりだした。王女には婚約者のルイスがいたが、王女は名声を得るにつれて、高望みするようになった。ルイスの見た目は美しいが、彼は混ざりもので純粋なヒュームではない。王女はそれが気に入らなかった。

 そんな折、隣国のダンジョンに、ボス討伐に行くことになった。

 隣国は獣人の多い他民族国家だ。敵対してはいないが、王国は彼らを見下していた。しかし、ボス討伐で王族の力を見せつけるために、王女はジャジャメリカのダンジョンにおもむいた。
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