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ネコ娘、イヌ姉とケンカになる
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アタイを見つめる姉ちゃんには、とがった耳と、ふさふさの尻尾。
姉ちゃんは狼獣人だった。
ちがう種類の獣人が結婚すると、子どもの見た目には片方の親の特徴だけがでる。姉ちゃんは父親似で、アタイは母親似。
犬と猫だ。
性格は昔からかなり違った。
姉ちゃんは濃い金髪のストレートを、少しの乱れもなくまとめて高い位置でくくっている。背筋は常に真っ直ぐ。
一方のアタイは茶色い猫っ毛をてきとうにはねさせ、大人になってもじっと立っていられなかった。
「エルザ、ちょうど良かった。あなたに話があったの。師匠への弟子入りを認めてもらったわ。あなたも、A級冒険者になりなさい」
「へ!?」
突然の話に、アタイは面食らった。
同じ冒険者でも、A級とB級は全然ちがう。
A級が相手にするダンジョンのボスは雑魚よりはるかに強い。
「私がそろそろ師匠の手を離れるから、代わりにあなたを弟子入りさせられないかって頼んだのよ」
「マジか……」
ボス戦は命がけだ。だから、A級に上がる冒険者は、ベテランに弟子入りして技術を身に着けてから独立する。
それだけに、A級は特別で、とても強い。
小さいときは、すごく憧れてたなぁ。自分がA級冒険者になれるなんて、飛び跳ねて喜ぶべきところだ。でも……
「何? 嫌なの? こんなチャンス、なかなかないのよ。若いうちしかチャレンジできないし」
アタイの薄いリアクションに、姉ちゃんが首を傾げた。
「んー……。今はいいかな。地元の仲間とうまくやってるし」
なんていうか、アタイは姉ちゃんほど出世欲がないんだ。
犬気質な姉ちゃんとちがって、アタイは気ままな猫だから。
気のないアタイの答えに、姉ちゃんがムッとした表情になった。
「A級冒険者は数が少ないの。そうそう成れるものじゃないし。A級がいなくて、ダンジョンブレイクを起こしたら、どれだけ悲惨か知っているでしょ?」
ダンジョンは放置するとモンスターが増えすぎてブレイクを起こす。そうなると、危険なモンスターが陸に出て人々を襲ってしまう。
「うん、それはそうなんだけど……」
姉ちゃんの師匠の拠点は東部だから、ジスゴロスの街を出なきゃいけない。そうしたら、ルイスと会えなくなるんだよ。
姉ちゃんがアタイをにらむ。
育ての親の家の門の前で、久しぶりに再会した姉ちゃんと気まずくなってしまった。
空気の読める子どもたちは、さっきから距離をとってこっちに近付いてこない。
その時、家のドアが開いた。
「ご飯ができましたよ。みんな、来てください」
エプロン姿のルイスだった。
夕食の知らせに、子どもたちはいっせいに食堂目指して家の中に入っていった。
ルイスがアタイの姿を見つけて、手を振ってくれた。アタイもほほ笑んで振り返す。
子どもたちがはけた後、ゆっくりと家に入ろうとしていると、レトリー姉ちゃんが口をあけて固まっていた。
「姉ちゃんも、飯、食ってくだろ?」
たずねると、両肩をがしっとつかまれた。
「……彼、誰?」
「ルイスのことか?」
各地を旅する姉ちゃんでも、ルイスほどの美形は見たことがなかったようだ。すごい衝撃を受けていた。
「エルザ、さっき、地元でうまくやってるって言ったわよね」
「あ…あぁ……」
「そう……」
姉ちゃんは、ぐぬぬぬ……と、すごい形相になった。
「あなたは、私がダンジョンで泥と血まみれになって戦っているときも、あんなイケメンと楽しく遊んで……」
「いやいや、ルイスは冒険者ギルドの受付だよ。仲は良い方だけど、しょっちゅう遊びに行くほどじゃないって!」
姉に勘違いされていると思うと、アタイはちょっと赤面してしまった。
「……ハァ。アザレアさんに挨拶しなくちゃ。それから、ご飯、私もいただいていくわ」
しばらくして、姉ちゃんは溜息一つで気持ちを切り替えると、家の中へ入っていった。
姉ちゃんは狼獣人だった。
ちがう種類の獣人が結婚すると、子どもの見た目には片方の親の特徴だけがでる。姉ちゃんは父親似で、アタイは母親似。
犬と猫だ。
性格は昔からかなり違った。
姉ちゃんは濃い金髪のストレートを、少しの乱れもなくまとめて高い位置でくくっている。背筋は常に真っ直ぐ。
一方のアタイは茶色い猫っ毛をてきとうにはねさせ、大人になってもじっと立っていられなかった。
「エルザ、ちょうど良かった。あなたに話があったの。師匠への弟子入りを認めてもらったわ。あなたも、A級冒険者になりなさい」
「へ!?」
突然の話に、アタイは面食らった。
同じ冒険者でも、A級とB級は全然ちがう。
A級が相手にするダンジョンのボスは雑魚よりはるかに強い。
「私がそろそろ師匠の手を離れるから、代わりにあなたを弟子入りさせられないかって頼んだのよ」
「マジか……」
ボス戦は命がけだ。だから、A級に上がる冒険者は、ベテランに弟子入りして技術を身に着けてから独立する。
それだけに、A級は特別で、とても強い。
小さいときは、すごく憧れてたなぁ。自分がA級冒険者になれるなんて、飛び跳ねて喜ぶべきところだ。でも……
「何? 嫌なの? こんなチャンス、なかなかないのよ。若いうちしかチャレンジできないし」
アタイの薄いリアクションに、姉ちゃんが首を傾げた。
「んー……。今はいいかな。地元の仲間とうまくやってるし」
なんていうか、アタイは姉ちゃんほど出世欲がないんだ。
犬気質な姉ちゃんとちがって、アタイは気ままな猫だから。
気のないアタイの答えに、姉ちゃんがムッとした表情になった。
「A級冒険者は数が少ないの。そうそう成れるものじゃないし。A級がいなくて、ダンジョンブレイクを起こしたら、どれだけ悲惨か知っているでしょ?」
ダンジョンは放置するとモンスターが増えすぎてブレイクを起こす。そうなると、危険なモンスターが陸に出て人々を襲ってしまう。
「うん、それはそうなんだけど……」
姉ちゃんの師匠の拠点は東部だから、ジスゴロスの街を出なきゃいけない。そうしたら、ルイスと会えなくなるんだよ。
姉ちゃんがアタイをにらむ。
育ての親の家の門の前で、久しぶりに再会した姉ちゃんと気まずくなってしまった。
空気の読める子どもたちは、さっきから距離をとってこっちに近付いてこない。
その時、家のドアが開いた。
「ご飯ができましたよ。みんな、来てください」
エプロン姿のルイスだった。
夕食の知らせに、子どもたちはいっせいに食堂目指して家の中に入っていった。
ルイスがアタイの姿を見つけて、手を振ってくれた。アタイもほほ笑んで振り返す。
子どもたちがはけた後、ゆっくりと家に入ろうとしていると、レトリー姉ちゃんが口をあけて固まっていた。
「姉ちゃんも、飯、食ってくだろ?」
たずねると、両肩をがしっとつかまれた。
「……彼、誰?」
「ルイスのことか?」
各地を旅する姉ちゃんでも、ルイスほどの美形は見たことがなかったようだ。すごい衝撃を受けていた。
「エルザ、さっき、地元でうまくやってるって言ったわよね」
「あ…あぁ……」
「そう……」
姉ちゃんは、ぐぬぬぬ……と、すごい形相になった。
「あなたは、私がダンジョンで泥と血まみれになって戦っているときも、あんなイケメンと楽しく遊んで……」
「いやいや、ルイスは冒険者ギルドの受付だよ。仲は良い方だけど、しょっちゅう遊びに行くほどじゃないって!」
姉に勘違いされていると思うと、アタイはちょっと赤面してしまった。
「……ハァ。アザレアさんに挨拶しなくちゃ。それから、ご飯、私もいただいていくわ」
しばらくして、姉ちゃんは溜息一つで気持ちを切り替えると、家の中へ入っていった。
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