冒険者ギルド受付の癒し枠~ネコ娘は追放系主人公が気になるようです

八華

文字の大きさ
上 下
9 / 44

ネコ娘、イヌ姉とケンカになる

しおりを挟む
 アタイを見つめる姉ちゃんには、とがった耳と、ふさふさの尻尾。
 姉ちゃんは狼獣人だった。
 ちがう種類の獣人が結婚すると、子どもの見た目には片方の親の特徴だけがでる。姉ちゃんは父親似で、アタイは母親似。

 犬と猫だ。
 性格は昔からかなり違った。
 姉ちゃんは濃い金髪のストレートを、少しの乱れもなくまとめて高い位置でくくっている。背筋は常に真っ直ぐ。
 一方のアタイは茶色い猫っ毛をてきとうにはねさせ、大人になってもじっと立っていられなかった。

「エルザ、ちょうど良かった。あなたに話があったの。師匠への弟子入りを認めてもらったわ。あなたも、A級冒険者になりなさい」
「へ!?」

 突然の話に、アタイは面食らった。
 同じ冒険者でも、A級とB級は全然ちがう。
 A級が相手にするダンジョンのボスは雑魚よりはるかに強い。

「私がそろそろ師匠の手を離れるから、代わりにあなたを弟子入りさせられないかって頼んだのよ」
「マジか……」

 ボス戦は命がけだ。だから、A級に上がる冒険者は、ベテランに弟子入りして技術を身に着けてから独立する。
 それだけに、A級は特別で、とても強い。
 小さいときは、すごく憧れてたなぁ。自分がA級冒険者になれるなんて、飛び跳ねて喜ぶべきところだ。でも……

「何? 嫌なの? こんなチャンス、なかなかないのよ。若いうちしかチャレンジできないし」

 アタイの薄いリアクションに、姉ちゃんが首を傾げた。

「んー……。今はいいかな。地元の仲間とうまくやってるし」

 なんていうか、アタイは姉ちゃんほど出世欲がないんだ。
 犬気質な姉ちゃんとちがって、アタイは気ままな猫だから。

 気のないアタイの答えに、姉ちゃんがムッとした表情になった。

「A級冒険者は数が少ないの。そうそう成れるものじゃないし。A級がいなくて、ダンジョンブレイクを起こしたら、どれだけ悲惨か知っているでしょ?」

 ダンジョンは放置するとモンスターが増えすぎてブレイクを起こす。そうなると、危険なモンスターが陸に出て人々を襲ってしまう。

「うん、それはそうなんだけど……」

 姉ちゃんの師匠の拠点は東部だから、ジスゴロスの街を出なきゃいけない。そうしたら、ルイスと会えなくなるんだよ。

 姉ちゃんがアタイをにらむ。
 育ての親の家の門の前で、久しぶりに再会した姉ちゃんと気まずくなってしまった。

 空気の読める子どもたちは、さっきから距離をとってこっちに近付いてこない。
 その時、家のドアが開いた。

「ご飯ができましたよ。みんな、来てください」

 エプロン姿のルイスだった。
 夕食の知らせに、子どもたちはいっせいに食堂目指して家の中に入っていった。
 ルイスがアタイの姿を見つけて、手を振ってくれた。アタイもほほ笑んで振り返す。

 子どもたちがはけた後、ゆっくりと家に入ろうとしていると、レトリー姉ちゃんが口をあけて固まっていた。

「姉ちゃんも、飯、食ってくだろ?」

 たずねると、両肩をがしっとつかまれた。

「……彼、誰?」
「ルイスのことか?」

 各地を旅する姉ちゃんでも、ルイスほどの美形は見たことがなかったようだ。すごい衝撃を受けていた。

「エルザ、さっき、地元でうまくやってるって言ったわよね」
「あ…あぁ……」
「そう……」

 姉ちゃんは、ぐぬぬぬ……と、すごい形相になった。

「あなたは、私がダンジョンで泥と血まみれになって戦っているときも、あんなイケメンと楽しく遊んで……」
「いやいや、ルイスは冒険者ギルドの受付だよ。仲は良い方だけど、しょっちゅう遊びに行くほどじゃないって!」

 姉に勘違いされていると思うと、アタイはちょっと赤面してしまった。

「……ハァ。アザレアさんに挨拶あいさつしなくちゃ。それから、ご飯、私もいただいていくわ」

 しばらくして、姉ちゃんは溜息一つで気持ちを切り替えると、家の中へ入っていった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

配信者ルミ、バズる~超難関ダンジョンだと知らず、初級ダンジョンだと思ってクリアしてしまいました~

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)
ファンタジー
女主人公です(主人公は恋愛しません)。18歳。ダンジョンのある現代社会で、探索者としてデビューしたルミは、ダンジョン配信を始めることにした。近くの町に初級ダンジョンがあると聞いてやってきたが、ルミが発見したのは超難関ダンジョンだった。しかしそうとは知らずに、ルミはダンジョン攻略を開始し、ハイランクの魔物たちを相手に無双する。その様子は全て生配信でネットに流され、SNSでバズりまくり、同接とチャンネル登録数は青天井に伸び続けるのだった。

処理中です...