冒険者ギルド受付の癒し枠~ネコ娘は追放系主人公が気になるようです

八華

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ネコ娘、姉と再会する

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 休みの日、アザレア大姐おおねえさんの家に顔をだす。
 大姐さんにそっと、金の入った袋を渡した。

「いつもすまないね。アンタの子どもを預かっているわけでもないのに」
「アタイが育ててもらった分の、後払いだから」

 保育料を払ってアタイを大姐さんに預けていた両親が死んだ後も、大姐さんはアタイを捨てずに育て続けてくれた。そうでなければ、アタイはこんな元気に育たなかっただろう。

「エルザは律義者りちぎものだ。うちが親のなくなった子もそのまま置くのは、それが冒険者にとって保険みたいなものだからだよ。だから、みんな分かっていて、高い代金を支払ってくれてるんだ」

 そうやって、アザレア大姐さんはずっと、働きに行く冒険者に安心を与え、多くの子どもを救ってきた。

「うん。それが続くように、アタイも出せるうちは金を出すよ」

 大姐さんは爬虫類はちゅうるいの鋭い目を細めて笑った。

「今日は晩飯を食っていきな。あのヒュームの兄さんが来て、豪勢な料理を作ってくれるみたいだから」
「ルイスが!?」
「あぁ。ギルドの受付は、昼間にヒマがあるみたいだね。最近はしょっちゅう、菓子を持ってきて、子どもたちと遊んでいるよ。そのときに話して、休みの日に晩飯を作ってくれることになったんだ」
「マジか……」

 知らないうちに、ルイスは着々と街に馴染んでいた。

「飯ができるまでここで待っていな。アンタが家事を一切できないのは身に染みて知ってる。飯の準備がおわるまで、子どもたちと遊んでてくれ」

 大姐さんが厨房に行くのを見送って、アタイは大姐さんの広い庭で、子どもたちのボール遊びに付き合った。


 空がオレンジ色になる頃、門の前に大きな人影が現れた。

「久しぶりね、エルザ。元気にしてた?」
「レトリー姉ちゃん、……何でここに?」

 3歳年上の実の姉だった。
 彼女は3年前、A級冒険者に弟子入りして街を出ていた。

「レトリーさん!?」
「え、めっちゃ久しぶり」

 年長の子ども数名が姉ちゃんに反応してる。
 小さい子にとっては知らない大人なので、何が何がとなっていた。

「レトリーさん、A級になったんでしょ?」
「ギルドカード見せて、見せて」

 興奮気味に姉ちゃんに話しかけているのは、この家で最年長の子ども2人。
 すでに冒険者登録をしていて、もうすぐ独立する子たちだ。

「はい」

 姉ちゃんがポケットからギルドカードを取り出して2人に見せる。

「すげぇ、金色だ! 俺たちのなんて、ただの紙なのに」

 2人は大はしゃぎだった。

 A級冒険者は、ヒーローだ。
 彼らは危険なダンジョンのボスを倒してくれる、人々の守護者だから。
 ゴロツキと変わらない魔石取りの冒険者とは大違いなのだ。

 A級になった姉ちゃんは、各地のダンジョンで引っ張りだこなはずだ。
 急にどうして帰省してきたんだろう。
 姉ちゃんは話をしていた年長の子らに、他の子どもたちの相手を頼んだ。心得たように彼らは固まって庭の奥へ走っていった。

 玄関前には、アタイと姉ちゃんの2人だけになった。
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