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悪役令嬢と話し合いました2

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 暗転した意識。
 私の身体は眠っている。

 しかし、私の中では、2人の人物が対立していた。

「こうやって話すのは初めてだね。私は鈴木麗奈。こことは別の世界で学生をしていたよ」

 レイナは私を忌々いまいまし気に見て、

「人の身体を不意打ちで乗っ取った邪魔者、あなたはここで一生おとなしくしていなさい。もう2度と主導権は渡さないわ」

 と、言い放った。
 彼女は、自分の身体にとつぜん憑依ひょういした私を、敵だと思っているみたいだ。

「悪気があってあなたの身体を乗っ取っていたわけじゃないの。とつぜん意識がこちらの世界にトリップしていて。特殊エリアの攻略ができたら、おそらく元の世界に戻れるわ。それまで協力してくれないかな?」

 私が地球に帰れば、レイナの身体はレイナだけのものに戻るのだ。

「ふん。どうして私があなたに協力しなきゃいけないのよ。まして、あなたの仲間は私を裏切った者たちなのよ」

 憎々し気にレイナが言う。

「これまでの私たちの行動を見ていたでしょ? 彼らの中身はあなたの敵とは別人よ」

「それが何? 私はあの顔を見るだけで虫唾むしずが走るの!」

 ……まいったな。何を言っても拒絶される。
 正面からの説得は無理かもしれない。

 私がそうやって悩んでいる間に、“スリープ”の効果時間が切れて、レイナの身体が動くようになった。
 だが、目覚めてすぐに再び騒いだレイナは、また“スリープ”をかけられて私の前に戻ってきた。

「……ねぇ、学習したら? レベルに5以上差があったら“スリープ”が100%決まるんだから。レイナに勝ち目はないよ?」

「うるさいわね!」

 うーん。
 レイナ、感情的でおバカさんみたいだな。
 ゲームの設定通りなら、彼女は同情の余地のない悪役令嬢だ。ゲームのクエストは開始時にヒロイン側か公爵令嬢側か立場を選べて、プレイヤーが選択したのと逆の側が完全な悪者になっていた。
 これが、公爵令嬢側の話なら、愚か者はエイトール王子たちで、公爵令嬢は被害者なんだけど。ヒロインのシナリオの場合、レイナは傲慢で残酷な悪役令嬢だ。

 彼女を正論で説得するのは無理なのかなぁ。
 うーん……。

 そうだ! その場しのぎになるけど――

「ねえ。私や悠真君、英人君の意識を元の世界に返さない限り、あなたに勝ち目はないよ?」

「何ですって!?」

 レイナが苛立った表情を私に向けた。レイナと私の顔はほぼ同じ。ということは、私、本気で怒るとこんな顔になるのか。嫌だな。

「今だって“スリープ”に手も足も出ないじゃない。それに、仮にあなたがレベル70まで上げたとしても、あちらは2人いて、どちらも廃ゲーマー。戦闘センスはあなたよりずっと上なんだよ」

「それは……」

「冷静に考えてよ。あの2人が使っているジョブは、元の世界の彼らのもの。私がレベル70まで魔導士を強化して、彼らと一緒に元の世界に帰ったら、残るのはレベル70魔導士のあなたと、レベル50台の魔法剣士と姫巫女だよ」

 そう言うと、レイナはハッとして、私の話を真剣に聞きだした。……ゲンキンだなぁ。でも、コツをつかめばかえって動かしやすいのかも。

「レベル70の魔導士の本気の攻撃を、盾職でもない2人が防ぐ手はないわ。そして、お城にいる他の人たちも、みんなレベルの上限は50よ。あなたに敵う人はいなくなっている」

「…………」

 私の話にレイナはだいぶん心を揺さぶられているようだった。
 でも、実際には、今のパーティーで特殊エリアの攻略が終わった時には、アンジェラさんとラビリオ君もレベル70になっているはずだ。
 アンジェラさんがおバカなレイナに後れを取るとは思えない。レイナの思い通りにはならないだろうけど、それは言わないでおこう。

「……いいの? そんな提案をして。私があなたに従って強くなったら、大混乱が起きるわよ」

「今も悪魔の呪いのせいで大ピンチだからね。問題は1個ずつ解決しなくちゃ」

 まずは呪いを何とかする。そのために、悠真君と英人君の特殊エリア攻略を成功させるんだ。

「……いいわ。あなたの提案に乗って、しばらくおとなしくしておいてあげる」

 スッとレイナの意識が後ろに引き、私に身体の主導権が戻ってくるのが分かった。
 それと同時に、“スリープ”の魔法が解け、私は目を覚ました。


 視界に、金箔をあしらった豪華な天井が見える。王宮に戻っているようだ。

「目が覚めた、レナちゃん?」

「……うん。麗奈だよ」

 私が答えると、皆、ホッとした雰囲気になった。

「ユウマたちから、大まかなことは聞いたけど、さっき暴れていたのが、レナの中のもう1人だったのかい?」

「はい。私のもとの身体の持ち主は、公爵令嬢レイナ。彼女を説得して、身体の主導権を私に戻してもらいました」

 私がアンジェラさんに答えると、

「主導権と言うが、公爵令嬢の気分次第でまた入れ替わることもあり得るのか?」

 と、疑わし気に悠真君が問いただしてきた。

「うん。レベルが関係してたみたい。魔導士のレベルが上がって、私よりレイナの力が強くなってる」

「そうか。今、レナが前に出ているのは、公爵令嬢が譲歩しているからってことか?」

「うん」

 周囲に緊張が走る。またいつ私が暴走してもおかしくないと思われたかな。
 そんな中で、悠真君は淡々と話を続けた。

「……公爵令嬢に俺の性別は知られているか?」

「たぶん」

 レイナは“スリープ”に何度も引っ掛かってたから不安になるけど、一応、私が来てからの流れは理解しているみたいだった。

「ユウナが男だということ、エイトール王子は知っていた。ユウナはエイトール王子の乳母の子で、身分は低いが王子と兄弟同然に育てられていたんだ」

「へ? エイトール王子はもともと男の子が好きだったってこと??」

 それじゃあ、レイナがどんなに頑張っても厳しかっただろうと思った。
 しかし、悠真君は首を左右に振る。

「違う。王子に少しでも近づく令嬢がいると、公爵令嬢が影で酷い嫌がらせをしていたから、弾避けになるためにユウナが女装して目立った標的になっていたんだ」

 あれま。レイナ、しっかり悪役令嬢しすぎだよ。

「ユウナは覚悟していたから耐えられたが、それは酷い嫌がらせを受けていたぞ。身分を笠に着て、周囲への態度も悪かった。それを見て、国王も王太子も、レイナでは王太子妃に不適と判断したんだ」

 悠真君の話をそこまで聞いたところで、私はまた意識が後ろに引っ張られるのを感じた。

「あ、ヤバ……。英人君、“スリープ”お願い……」

 再び私の身体は眠りに落ちていった。

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