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王子様に会いました1

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 客室を出て連れて行かれたのは、宮殿のさらに奥の方だった。
 装飾が豪華すぎて落下しないか不安になるようなシャンデリアの下を歩いていくと、金で縁取られた重厚な扉が現れた。それを、悠真君が無造作に開ける。

「入るぞ」

 と、入りながら言って、ずかずかと部屋の中を進む悠真君に従って、私たちも中へ入った。学校の柔道場くらいありそうな広い部屋の奥に、天蓋付きのベッドが置いてあって、中で誰かが丸まっていた。

「起きろ」

 悠真君がその人物の着ていた寝間着を引っ張って、無理やり背中を起こした。その人の黒い髪の毛はボサボサに伸びており、無精ひげが生えている。俯いた表情は見えないが、まだ目を閉じて、意地でも寝続けようとしているみたいだった。

 バシィッ!

 悠真君がその男性の頭を思いきり叩いた。

「痛っ……、何しやがる!」

 顔を上げた彼の頭をつかんで、悠真君が私たちの方に向けさせた。

「客人だ。起きろ」

 黒髪の彼の目が見開かれる。

「あ……。えっ!?? ちょ……、起きる。起きます、起きます。着替え、着替えです、着替えますから、えっと、ちょっと出ててぇ~。すぐ行く、すぐ行くよ~!!!」

 突然テンパりだした彼に部屋から追い出された。

 それからしばらく、あーだこーだわめく声が、分厚い扉からもれ聞こえて、再びドアが開いた。


「ようこそ、レイナ。久しぶりだね」

 目の前にキラッキラの王子様が立っていた。
 見た目のイメージだけでなく、本当に王子様。レイナの元婚約者、この国の王太子、エイトール・ゴールデン様である。

 彼はすごーく優雅な仕草で、私を部屋のソファーまでエスコートしてくれた。そして、座った私の前に跪く。

「すまなかった、レイナ。私が間違っていたんだ。あんな鬼畜にだまされて、君を牢に入れてしまうなんて。猛省する。どうか、許して、もう一度私と婚約を……へぶぅ」

 横から悠真君が王子を蹴った。

「話しづらい。座れ」

 命令口調で一国の王子様を着席させた。

「レイナは俺らと同じだ。元、ゲームユーザー」

 何となく予想できたけど、悠真君がこういう紹介をするってことは、エイトール王子も中身は日本人か。

「えっと、鈴木麗奈です。今はレナと名乗ってます」

 私が自己紹介すると、エイトール王子は目を丸くして、

「マジデスか……。そうか、日本人の女の子……。いつからこちらにイラシタので?」

 当然聞かれる質問をしてきた。悠真君は、私の事情を全く聞かずに、最短で自分の要求だけ通したけどね。

「牢から脱出した日です。王宮での断罪は全部終わった後だったので、逃げるしかなくて……」

「そうデスか。それだと、俺たちの意識がこちらに来たのと同じ日デスネ。私は藤崎英人。ヒデトじゃなくて、エイトなのデス」

 ニコッとしてこちらに握手を求めてくる英人くんの頭を、また悠真君が叩いた。

「使い慣れない敬語で喋んな。気持ち悪い」

 さっきから王子様を殴りまくってるよね、悠真君。この2人の気安い関係性って、元からの知り合いだったりするのかな?

「仲が良さそうだけど、2人は元の世界でも友だちだったの?」

 言葉遣いを崩して聞いてみた。悠真君にはもともと敬語なんて使ってなかったし。

「ああ。小学校から高校まで同じ、幼馴染だ。俺が高校2年でコイツが3年生なんだけど、俺は4月生まれ、コイツは3月生まれだから、ほとんど同い年だ」

 と、悠真君は何てことないように説明してくれた。でも、隣に座る英人君はすごく嫌そうだった。

「腐れ縁ってやつだな。幼馴染なら、可愛い女の子が良かったよ」

 仏頂面の英人君が言う。

「そうか? 俺、並みの女より可愛いだろ?」

「自分で言うな!」

 苛立った声をあげる英人君に、悠真君はニヤニヤ笑って、

「ああ、お前は俺の顔なんて、ちゃんと覚えてもいなかったんだもんなぁ。こっちの世界に来た初日の夜に、寝室で。あれは面白かったなぁ……」

 と、爆弾を落とした。

「うわぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」

 英人君が頭を抱えて絶叫する。
 ……地獄絵図だねぇ。

 この会話からすると、2人とも、元の世界とだいたい同じ顔なのかな。
 だとすると、英人君は相当なイケメンのはずなんだけど、残念なイケメン臭がすごいなぁ。この短時間で、彼の性格をだいたい把握できた気がする。


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