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ダンジョンに行きました3

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 突然現れたミノタウロス型のモンスターに対応できたのは、アンジェラさんだけだった。急襲され吹き飛ばされたジョンさんは、鎧の上からとは思えない深さで肩から腹までを切り裂かれて意識を失っている。

「レナ、ジョンを治療して3人で逃げろ。急げ! 長くはもたない」

 ミノタウロスの斧をアンジェラさんの大剣が弾き返す。
 A級モンスターの巨体がくりだす一撃をうまく受け流しながら防ぐアンジェラさんの技量は見事だけど、彼女は義足だ。足元のバランスの悪さから、いつまでも上手くはいかないだろう。

「ジョン、ジョン……」

 ローラさんは顔面蒼白になりながら、ジョンさんの手を握っている。
 ジョンさんは即死に近いダメージを受けていた。でも、……うん、息はあるから、蘇生までは要らないか。

「治療します。“フルケア”!」

 MP1万を消費する大技、フルケアを発動した。ジョンさんの傷口は、ダメージを逆再生するみたいに、みるみる塞がっていった。良かった。血とか流れないゲーム世界で使っていた魔法だけど、こっちでもちゃんと使えた。ゲームならHPが全回復する技だから、これで大丈夫のはず。
 私はすぐにアンジェラさんのサポートに回ることにした。

「“マジックバリア”」

 まずは、アンジェラさんと自分に、最大HPの半分までのダメージを肩代わりしてくれるバリアを張る。それから、

「“集中スキル”っと」

 MPの回復速度を上げるスキルを使った。そして、

「“毒魔法ポイズン”、“細胞破壊サイトサイダル”、“細胞破壊サイトサイダル”……」

 ゲームだとクエストでソロバトルがあるので、一応、ヒーラーにもしょぼい攻撃魔法があった。……弱い攻撃魔法とスリップダメージでチクチク削るから時間がかかるんだけどね。
 耐えればいずれ勝てるって戦法。回復のMPに余裕がないのが不安だな……。

 私はチラリと後ろを確認した。
 ジョンさんは倒れたまま。ローラさんも茫然として動かない。できれば、ジョンさんを起こしてきて欲しいんだけどな。アンジェラさんはA級モンスターに対抗できるレベルとはいえ、タンクジョブじゃないから、攻撃を防ぐのには向かないよ。

「ちょっとレナ、何してるんだい。さっさと逃げな」

 ミノタウロスと戦いながら、アンジェラさんが咎めるように私に言った。

「1人をおとりにしてですか? いえ、戦いましょう」

「レナ……!」

 ミノタウロスの力任せの攻撃は、受けるだけでアンジェラさんの身体を破壊していく。ダメージを肩代わりしているマジックバリアは数十秒おきに張り直しが必要だった。
 現実のバトルの緊張感は、集中力をどんどん削っていく。スリップダメージだけで削りきるのは時間がかかりすぎる。何か手は……。使えるアイテムなかったっけ……。

『グオォォォッ!!!』

 ミノタウロスが雄叫びをあげた。
 突然のことに、一瞬、身体が硬直する。状態異常系のスキルを使われたらしい。
 間髪入れず、横なぎにされた斧がアンジェラさんをとらえた。彼女の身体が吹き飛ぶ。

「“フルケア”……!」

 確認せずすぐに最上位回復魔法を飛ばした。あれは、マジックバリアで耐えられるダメージじゃないし、私に確認している余裕はすでにない。

「ぐっ……」

 アンジェラさんを排除した敵は、邪魔なヒーラーの私を潰しにきた。
 斧が私の身体に叩きつけられる。だが、アンジェラさんやジョンさんの受けたダメージに比べれば浅い。

「“ハイヒール”……、“自己結界”、“ヒール”……、“ヒール”……」

 防御力の低いヒーラーでも、レベルを上げれば耐久力が上がる。防具もそろえている。さらに、ソロ用の自己結界を使って――

 ジリ貧だ。いずれMP切れか集中力切れで負ける。

 そう思った時だった。ミノタウロスの身体がグラリと揺れた。

「敵に背を向けてんじゃないよ」

 アンジェラさんだ。背中の攻撃にバランスを崩したミノタウロスの首に、跳躍した彼女の全力の一撃が叩き込まれた。
 ミノタウロスは首から大量の血を吹き出しながら倒れた。

「……勝った……」

 放心する私に、アンジェラさんが笑いながら近づいてくる。彼女がゆっくりと眼帯を外すと、隠れていた金色の綺麗な瞳が見えた。装備は血で汚れてボロボロになっていたが、敵から受けた傷は全て治療できていた。それどころか、以前見られた古傷までなくなっている。片足だけ素足で……

「へ……? アンジェラさん、義足……??」

 彼女は自分の両足で立っていた。

「まさか、ミノタウロスの首を一発で斬れるとはね。全盛期の会心の一撃なら何とかってところだ。身体が嘘みたいに軽い」

 笑顔のままどんどん私に近づいてくるアンジェラさん。……何か、怖い。

「いろいろと聞きたいことはあるけど、ダンジョンの中で話し込むのは危険だね。いったん出るよ」

 私はコクコクと頷くしかなかった。
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