蓬莱皇国物語Ⅵ~浮舟

翡翠

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翠煙

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「それは下河辺先生らしい言葉ですね」

 毎日帰宅して葵にその日の出来事を、報告するのが今の薫の習慣になっていた。

「私もそう思うけど、ねえ、葵。鷺沼さんの事、どう思う?」

「私は直接会ってはいませんので何とも言えませんが、少し可哀想な気もします」

「う~ん、可哀想かあ」

「ですが結局は本人が自分で望んで、特務室に転属になったのでしょう?まるで未知の部署に対する覚悟はして来たのではないでしょうか」

「どうかな?見たところ、あの人、何がしたいのかわからない」

「良岑 貴之さんの従兄でしたよね?」

「うん」

「あのように何でも器用にこなしてしまう方の身内というのは、それはそれで大変なのではないでしょうか」

「そうなの?」

「私にも経験はありませんが、それでも何かに秀でている者は、周囲からいろいろと嫉妬されるものです」

「あ…」

「そう、雅久さんもご本人は記憶を失われている為にわからないようですけど、幸久君がそのような事を言ってましたよね、前に?」

「うん」

「あの方は容姿も他の方よりも大変秀でておられるし、舞も竜笛も幼少時から天賦の才を発揮されたと聞いてます。まして母君の身分が低く正室腹ではないのですから、受ける嫉妬の念はただならぬものだったでしょう。嫉妬される側は大抵は、そのようには考えてはいないものなのですけど」

 悲しげに眼差しを伏せた葵を見て、彼も同じような想いをしたのだろうかと思う。

「そうですね、私も彼に会っておきましょう。明日、皆さまと一緒に出社します」

「でも葵、途中で帰るのは無理かもしれないよ?」

「理解しています」

 少し目を細めて微笑んだ彼を美しいと思う。

「お仕事は如何ですか?」

 自分には向かないと離れたけれど、薫がちゃんと彼らの中で仕事が出来ているのかが、今の葵には心配らしい。

「全部が得意な事ではないけれど、私はお金をいただいてるのだから、決められた時間に頑張ってお仕事をしなければと思う。お仕事をして報酬をいただく事は、甘えを許されない事なんだって感じるの。私はアルバイトをさせていただいて良かったと思う。

 周りは家族だったり先輩だったり、知り合いだったりするけれど、そうじゃない人もいるでしょう?するとマナーとか心遣いとかが必要になるの。私は武兄さまの次に身分が高いけど、あそこでは単なるアルバイトだもの」

 年配者への態度はどうあるべきか。如何に薫の身分や立場が上であっても、年長者には一日の長があるのだと教えてくれたのは夕麿だった。

 この世の中で知らない事がない人間など一人も存在しない。まして人間は経験して成長する。経験してはいないものは想像でしか計れない。だが想像は想像で本物の経験には絶対に勝る事は不可能なのだと。

「悲しい事実ですが本当に経験するまで、人間は想像が真実と同じであると信じているような気がします」

 そう言った夕麿の言葉は間違いなく、彼自身が人生という経験の中で学んだのだとわかる。

「それは言えてるな。経験した事もないのにわかったような、悟ったような事をもっともらしく言う人間はいる。自分だけ悲劇の主人公か賢者になりたいんだろうさ」

 そう応じた武の言葉もまた様々な想いを経験したから言えるのではないかと思う。葵に話すとしっかりと頷いた。

「私たちはまだまだ経験が足りません。紫霄学院という囲いの中に普段はいて、外に出てくれば武さまをはじめとした皆さまの庇護の翼に包まれています。でもついこの間までは自分の事は自分で全て出来ていると信じていました」

「あ、それ、私も同じだった」

 特に武が広げている翼は大きい。彼自身は皆を護る為にどれほど傷付いて来たのだろうと思う。同時に護りきれない何かに出会った時、彼がどの様に傷付き嘆くのかもなんとなく感じる。

「違う…私はもっと何も知らなかった。わかっているつもりでとても無神経だった」

 自分の代わりに朔耶が背負って来たものも知らず、守られている事実も知らずに、何もかもを理解しているつもりになっていた。わがままや配慮も気遣いも知らない言葉も、どれだけの人を傷付けて来たのかを考えた事がなかった。そして今更ながら昨年の夏休みに初めてここへ帰って来たあの時に、夕麿に叱られた事の本当の意味を理解出来た。

「ごめんね、葵。私はきっとあなたも傷付けたよね?」

「いいえ、そのような事はありません」

 ほっそりとした指が薫の手を握り締めた。

「私はあなたに出逢えて幸せになりました。自分にこの先に何が出来るのかが、ずっとずっとわからないまま生きて来ました。失ったものばかりで、何をどうしたいのかも見失っていました。

 でも今はたくさんの希望と愛と未来があります。我が君、あなたがみんなくださったものです」

 もし夕麿が葵のこの言葉を耳にしたならばきっと自分も、同じであったと頷いただろう事を二人は知らない。

 それぞれの人性があり経験がある。だが同時に置かれた環境が似ていると歴史が繰り返されるように、人生の色模様も繰り返され織り成されるのかもしれない。

 翌朝、知也は成美と岳大と共に、御園生邸への迎えに現れた。雅久に葵を紹介されて素直に自己紹介をした。

「私は本日だけの出社ですが、どうか我が君をお願いいたします」

 特務室のほとんどの者は武と夕麿の為に動く。別段に薫と葵との差はないが、彼らの心の優先順位のトップは武だ。葵としては薫の為に動く者が欲しい。成美も薫の為に動くだろうし、昨年末の事件の責任を感じるているのか、岳大も葵を守るという態度を示している。だがそれだけでは到底足りない。

 武ほどの危険には晒されてはいないが、薫がいつ襲撃の対象になるかわからないのだ。今現在の知也が紫霄学院に入れなくても、ずっと続くというわけではない筈だ。ならば彼に対して強固な態度はしないでおこうと考えた。

「え、あ、はい。その、至らないですが努力させていただきます」

 驚いて答える彼に、葵は頷きながら微笑んで見せた。様々な目に遭い犯人の中には友人だった者や近しい者がいた故に、武と夕麿を取り巻く者たちの警戒心もわかる。相手が身近にいればいる程、武を脅かす危険の度合いは増す。一度は心肺停止にまで陥った事もあると話してくれたのは、薫の検診の為に学院を訪れた周だった。

 彼らは手段を選ばない。

 だからこそハリネズミのように針を新参者に突き出す。特に紫霄出身者以外に対する警戒心は、余りにも過敏で神経質に作用する。気持ちはわからないわけではないが、これでは悪戯に望まない相手を敵に育ててはしないか。

 昨日の薫の話からすると雅久はわかっているように感じられた。

 だがいつも聡明な夕麿が武の事となると時折、極端な視力教唆になってしまうのが、葵には不思議で仕方がない。特に今は春に武を負傷させたのが夕麿のかつての身内だっただけに、神経質になっているのかもしれない。

 雫が雫らしくないのも、過労が原因ではないのか。これは一体、誰に相談すれば良いのだろうか。昨年の冬まで学院都市の住人だった葵には、外の知り合いは武と夕麿を通しての相手しかいないのだ。おそらくは朔耶と三日月に相談してもダメであろう。

 車窓の外を流れる風景を見詰めながら、葵はこれからの相談相手を模索し始めていた。

 

 決算が終わって一息吐く間もなく、盆休み前の業務の多忙さに執務室は包まれていた。葵は武が少しでもストレスを溜めないようにと、昨夜の内に調香した練香を取り出して焚く。

「お、良い匂いだな」

 葵の気遣いがわかっていると言うように、部屋を満たす香りに武が深く息を吸った。

「葵、いつもありがとうな」

「いえ、私にはこれくらいしか出来ませんので」

 香道は三条家が古来より得意とするものだ。ちょうど慈園院家が様々な秘薬を含めた、和漢などに通じているのと同じだ。慈園院の秘薬にあらゆる毒があるように、三条家が調香するものの中にも、人や動物に害を与えるものが存在している。その気になれば葵はここにいる全員を、傷一つ負わせることなく息の根を止められるのだ。

 無論、そんな事は皆が理解している。これは危険なものではないにしても、今焚いている香の配合はも三条の秘だ。昨年、あれほど発作を繰り返していた武が、今年は未だに軽いものですんでいるのは、この香の効果であるかもしれない。

 ここでも夕麿か雅久が時折焚くので、知也以外の者にはお馴染みの香りだった。とは言ってもまるで同じものの調合を続ければ、人間の身体は慣れてしまって余り効果が出なくなる。そこで葵は2~3ヶ月毎に微妙な配合を変えていた。もちろんそれによっての効果自体も変化するが、ストレスを溜めないという基本的な部分は保っている。

「良い香りでございますね。今回の調合は爽やかな感じがします」

 この中で香りに敏感であるのは、葵の次に武と雅久だろう。

「夏ですので涼やかな香りを添えてみました」

 穏やかに微笑む葵の美しい横顔を、薫がポーっと見詰めていると、武から紙飛礫かみつぶてが飛んで来た。

「自分の伴侶に見とれるのは、家に帰ってからにしろ、薫」

 苦笑混じりの顔で言われて葵は耳まで真っ赤になったが、薫は武に向かって思いっきりアカンべーをしてから答えた。

「兄さまに言われたくない。兄さまだって時々、夕麿兄さまをボーっと見てるじゃない」

「はあ?俺がいつそんな事を会社でしたよ?」

 問い掛けに『会社以外ではしてるのか』と内心でツッコミを入れたが、敢えて誰も言葉にはしなかった。

「皆に聞いてみれば?」

 涼しい顔で薫が言うと、武は驚いたように皆を見回した。夕麿は耳まで真っ赤になり、他の者は懸命に天井を見上げた。

「………」

 この有様に武は言葉を失い、湯気が出そうなほど真っ赤になって俯いた。

「だってさ、兄さまは仕事の手を休める時は必ず、夕麿兄さまの事をみてるよ?自分で気付いてないの?それにお互いの視線が合うと、すっごく嬉しそうだもの」

 更に畳み掛けるように言われると流石に、当の武も自覚している部分があるらしく、更に赤くなって唸り声を上げた。それを見た影暁が耐え切れずに噴出す。

「薫さま、そう兄君を虐められてはなりません。仲がおよろしいのはこれ以上なく善い事ではありませんか」

 笑いが止まらなくなった影暁の横で、苦笑を浮かべながら圭が言う。

「武さまと夕麿さまのラヴラヴぶりは、高等部在校時代からですから、私たちはもう10年以上も当たり前に見て来ましたが…本当にお変わりなくお睦まじくいらっしゃいますね」

 これ以上なく優しげな声で言った行長の顔は、とても穏やかで温かい眼差しをしていた。

 月耶は彼の気持ちを今一つ信じきれないでいるが、今の表情を見ている限りは、武への思慕はもう決着がついているのではないかと思った。

「下河辺、お前まで言うか!」

「ええ、言わせていただきますとも。何しろ2年半も私は武さまのお側におりましたから、お二人の熱々がどれ程であるかなぞ、ここに居る誰よりもよく存じさせていただいております。お望みであられるならば事細かに私の記憶を、皆さまにお披露目いたしまますが?」

「う…ぐぅ…」

 こうなると口では武は行長には勝てない。夕麿たちが卒業後、ともすれば自分の中に引き篭もってしまう武を、こうやって元気付けたのはまぎれもない行長の愛情だった。

 恋を終わらせても武への臣下としての情までは捨てはしない。その姿勢が月耶を不安にするのかもしれなかった。かつての武が長きに亘って、周と夕麿の間に不安を持っていたように。

 自分が……周の過去の相手に不安と嫉妬を感じるように…と朔耶は心の中で呟いた。

 誰かを想う。

 誰かに想われる。

 必ずしも二つの想いが合致するわけではないから、人間が織り成す模様は散々ちぢに乱れ、複雑な様相を示すのかもしれない。

 紫霄学院の都市を出て1年。朔耶は今まで知らなかった事をたくさん知り、学んだ。願わくば薫と葵にも、たくさんの事を経験して欲しいと思う。そして…初恋に揺れる弟 月耶もまた、様々な経験を積んで欲しいと思う。だが自分が先にいろんな事をもっと経験していなければならないとも思う。

 唯一、周がいらぬ心配をするのが不安ではあるが様々な家庭、様々な地方から集まった人々と大学で学び親しく交流するのは良い事であると思う。

 9月から再び大学生活が始まる。落ち着いた辺りで病院の方でアルバイトをさせてもらう事になってはいるが、周がつまらない不安で苦しんだり悲しんだりしないように、出来るだけ側にいる時間を長くしたいとも思っていた。

「ご覧の通り同性のカップルでいらっしゃいますが、お仲のお睦まじさは異性カップルと変わりはありません」

 そっと成美が耳打ちすると、目を白黒させていた知也が頷いた。

「些細な事で言い争いもされますし、ベタベタの熱々ぶりも見せていただく事が多々あります」

「言い争い?」

「されますよ、もちろん。武さまと夕麿さまの場合、大抵は夕麿さまのやきもちですけれど…」

 そう言った次の瞬間、夕麿が振り向いた。成美はギョッとして思わず後ろに下がった。

「久留島君、今、私が何だと言いました?」

「え…いえ…その…何でもございません」

 中等部から彼を知っている成美としては、怖さを知っているだけに顔から血の気が引く。

「久留島が怖がっているだろうが…本当の事を言われたくらいで目くじら立てるなよ、夕麿」

 苦笑交じりに割って入ると今度は、武に向かって柳眉りゅうびを逆立てた。

「本当の事って…私はあなたを独占しないと気がすみませんが、それのどこが悪いのです」

 ……うわっ、認めた、と誰もが目を見開く。

「あのな…恥ずかしい事言うな、ここは会社だぞ?」

 ……いや、家だったら良いのか?

 武と夕麿の会話に全員が心の中でツッコミを入れていた。

「まだ私の質問に答えてもらっていません」

「はあ?訳がわからん。俺より年上のくせにどうして時々、小さな子供が駄々をこねるみたいな事を…」

「いつ私がその様な事をしたと仰るのです、我が君?」

 夕麿の口調が変わった。

 ……あ、マズイ、と全員が心の中で呟いた。

「そういう言い方をするって事は自覚しているって事だよな?」

「自覚?それは一体何のお話でしょうか、我が君」

 いつになく食い下がる姿に武の自由が利かない状態に対して、夕麿がストレスを溜めているらしいと朔耶が気付いた。視線を巡らせると何人かが頷いた。

「武さま、そろそろ病院へいらっしゃるお時間ではございませんか」

 皆の意を汲んで通宗が声を掛けた。

「え…もう、そんな時間か?」

「はい、MRIは時間が掛かるという事で、周さまがご予約をお取りくださっております」

「あ、そうか。保さんは午後から手術が入ってるんだっけ?」

「そう伺っております」

「わかった、用意する」

 不機嫌に詰め寄る夕麿を擱いて武は席を立った。病院と言われては夕麿もそれ以上の言葉は出ないらしい。

 薫は笑いたいのを俯いて我慢していた。薫からしても実にくだらない言い争いだ。

 夕麿がやきもち妬きなのはたまに見かけるので知っている。武も実は結構妬いているのだが、わずかに表情を変えるだけなので夕麿は気付かない様子だ。いつだったか行長にそれとなく聞いてみると、二人の性格や恋愛感の違いだと言われた。だが何となくそうではないような気もする。

「夕麿さま」

 見兼ねた影暁が声を掛けた。

「武さまのお怪我の回復状態がお気になられますでしょうから、今日はご一緒にお出ましくださいませ」

 言い争いをそのままにしておくのはあまり良いとは思えなかったので、影暁の提案は薫にも葵にも頷けるものだった。

「じゃあ、行くか、夕麿?」

 武も多少は気が咎めるらしい。夕麿は不承不承といった面持ちで、行くとだけ答えた。元凶を作ってしまった成美が、急いで特務室に連絡を入れる。武と夕麿は仲が良過ぎるのだと、薫と葵は顔を見合わせて溜息吐いたのだった。

 武が夕麿と共に病院へ向かった後、執務室は一気に静かになった。警護の補助として知也も雫の命令で同行した。

「雅久君」

「何でしょう、影暁さま」

 呼ばれた雅久が歩み寄った。

「義勝君でも相談してはくれないか。夕麿さまのストレスは近年、体調不良に繋がる傾向にあるだろう?」

「そうですね…今夜にでも話してみます」

 影暁も親友の従弟という事と小等部から同じように寄宿舎に、いた縁もあって夕麿と義勝の二人の事は結構わかっている。影暁が高等部を卒業してフランスへ行くまでに、周が風邪などで寝込んだ記憶がない。同じように通常の状態で、夕麿も寝込んだのを見聞きした記憶がない。だから近年、彼が高熱を発して倒れたのは、全て武絡みだったのではと思っていた。

「今回は余計にストレスになられるのでは?」

 成美が言うと行長が同意した。

「武さまにお怪我をさせたんが、あの佐田川 和喜やから、仕方ないて言うたら仕方あらへんのやけどな」

 残って夕麿の分の仕事を行っている榊が、キィボードを叩きながら呟いた。

「あの人が武兄さまの知り合いなのはわかったけど、夕麿兄さまとも知り合いなの?」

 薫の問い掛けに葵が頷き、朔耶と幸久も同意した。

「佐田川というのは夕麿さまのお父君の元奥さまの実家です」

 不快そうに目をそらして、吐き捨てるように言ったのは行長だった。

「ん?それって……兄さまのおたあさんじゃないよね?」

「もちろんです。夕麿さまのご生母 翠子さまは、私の義母 高子の妹ですから」

 慌てて朔耶が言葉を添える。

「翠子さまがご逝去されてすぐに、ご父君の陽麿はるまさまは再婚されて、その者の名が佐田川 詠美と申したのです」

 説明を口にする行長は嫌悪も顕に、詠美の名前を言った。

「そう言えば…透麿さんが武さまを襲った後、良岑 貴之さんが口にされたのが、その姓でしたよね?」

 幸久の言葉に薫たちが頷く。

「そう、あの透麿君の母親が詠美です」

 今はまだ部外者扱いの部分がある知也がいなくなったので、普段は封印している佐田川一族の犯罪を行長は、薫たちに掻い摘んで説明した。

 当然ながら昨年の秋に死亡が伝えられた、元中等部教師 多々良の事も説明された。あの時は軽く説明されただけだった薫たちは、事実の余りの内容に蒼褪めた。

「待ってください、下河辺先生。夕麿さまのその経歴は、武さまの伴侶として問題にはならなかったのですか」

「葵!」

 葵の言葉に思わず薫が声を上げた。

「候補を選考する時に問題にはなったようです。詳しい事をお聞きになられたいのであれば、後日、成瀬室長にでも問い合わせください」

「雫さん?あ、確か、最初は雫さんが伴侶の候補だったと義兄から聞いた記憶があります」

 あれはいつだったのだろうと、朔耶は首を傾げながら言った。確かに清方の口から聞いた気がするのだ。

「ええ。ですがお母さまと翠子さまはご学友だったご縁で、是非に夕麿さまをという事に決められたと伺っています」

 穏やかに答えたのは雅久だった。

「問題になったからこそ、武さまが夕麿さまに最初に会われた後のお気持ち次第と決められたそうです」

 義勝か貴之、もしくは麗がいればもっと、上手く説明出来るのだがと雅久は言葉を紡ぐ。

「その後も武さまを狙った事件の一部で、佐田川が関わっていた事があって、夕麿さまを守る為に武さまと貴之が彼らを潰したんです」

「同時に陽麿さまが詠美を離縁されたのですが…その前に学祭で問題を起こしたのが、和喜だった訳です。彼は紫霄を退学になり、その後に佐田川の企業が全て倒産。一族は破産に追い込まれました。

 その後に貴之先輩が父親である刑事局長に、彼らの犯罪を告発したので、彼らは皆逮捕になりました。

 和喜は中学生だったのでその時には免れましたが、後に夕麿さまと武さまを襲った罪で現行犯逮捕。最近まで少年刑務所に服役していました」

 成美が警察官として事の経緯を説明する。

「傷害未遂で逮捕されたのに鑑別や院でなく刑務所だったのは、彼自身の凶暴性と狙った相手が皇家に連なる方々だったからです」

「なるほど、全てを武さまの所為として、恨んでいたのですね」

 圭が言うと成美がしっかりと頷いた。

「だから今回の武さまのお怪我に、必要上に夕麿さまは神経質になられるのか」

 影暁にしてもやっと納得が出来る説明を受けたのだろうと、薫は思った。

「複雑骨折は痛みだけでも相当なものだと聞いています。でも武さまは薫の君と葵さまを守られ、救急車で搬送される間も病院に到着して手術室に入られるまでの間も、わずかな呻き声を上げられただけだったと周から聞いています」

 その時は薫たちを気にしたのだろうと朔耶は思ったのだが、今改めて話を聞いて本当は武は夕麿の為に激痛に耐えたのではないかと思ってしまう。だとしたら何と言う愛情であろうか。

「当時、武さまはこう仰られました」

 朔耶の思考を破ったのは、静かな声でそう告げた雅久だった。

「夕麿さまのお為であれば、ご自分は鬼でも悪魔にでもなる、と」

「そんな…」

 激しいばかりの決意に薫は絶句した。

「そのようなご意志を固められるほどの事態だったのですね」

 武の気持ちが余りにも哀しいと目を伏せたのは葵だった。

「ですが私たちはあの御方のお望みであるならば、出来得る限りはその様な事態にならぬように願い、努力はして参りました。

 ですが現実は常に、私たちの予想を越えて起こるもの」

 二人に寄り添って生きて来た雅久だから言える心情だった。

「そう…ですね」

 少し苦しげに葵が答えた。自分のあの事件にしても、一体誰が予想出来たであろうか。

「あ…これは…申し訳ございません、葵さま」

 辛い事を思い出させてしまったと気付いた雅久が、蒼白になって慌てて謝罪した。

「良いのです、雅久さん。私が勝手に思い出しただけですから」

 そう、春ごろには自分の苦しみしか考えられなかった。けれども今、改めて思い直してみると武は、何度もあのような想いをした筈だと。しかも最愛の人が傷付けられ、生命を脅かされたのだ。

 武でなくても鬼か悪魔にでもなって、愛しい者を傷付ける存在を滅ぼしてしまいたくなるだろう。

 誰が武を責められる?そんな事が出来る者は大切な誰かが、深く傷付けられる痛みを知らないのだ。けれども逆の側はどのような気持ちなのだろうか。

「でも…夕麿さまがお辛くはないのでしょうか」

 口を吐いて出た言葉に、葵は自分でギョッとした。

「葵…」

 横で薫が困った顔をする。

「そんなの辛いに決まってるじゃない。だから夕麿兄さまはああして、少しでも武兄さまの御心に寄り添われようとされているんじゃないの?」

「薫…そうですね。おかしいですね。私の方があなたより年上なのに…」

 薫の方がずっと二人の想いを感じている、理解している。まだ自分はあの恐怖に心を縛られているのだと感じて、ぞわぞわと背筋を這い上がって来る感覚に身を震わせた。

「葵さま?」

 朔耶が驚いて葵に駆け寄った。

「ご気分がお悪いのですか?お顔の色がよろしくございません。少し隣でお休みになられてください」

 武と夕麿に起こった事について話すのはまだ、葵の心には影響があり過ぎるのではないか。本人にはそこまでの自覚はない様に見えるが。これは清方に話しておいた方が良いだろうと朔耶は考えた。

「ここまで深くお話をいたすつもりはなかったのですが、配慮が足りませんでした、申し訳ございません」

 そう言って頭を下げたのは行長だった。同時に横にいた成美も頭を下げた。

「私も気遣いが至りませんでした」

 雅久も深々と頭を下げる。

「いえ、本当に皆さまは悪くはございません。それに…お話を聞かせていただいた事自体は、大事であったと思います」

 隣の部屋に通じるドアの前で、葵は改めて皆を見回して弱々しい笑顔で応えた。

「さあ、葵さま」

「ありがとう、朔耶」

 朔耶に促されて彼は隣室へと姿を消した。

 結局、葵は駆け付けて来た清方の指示で、薫と共に御園生邸に帰って来た。部屋に入ってホッと一息吐く。

「葵、すぐに横になって」

 また食事が出来なくなったりしないか。ふさぎ込んで辛い想いをしないか。薫は昨年の事件の後の紫霄の特別室での彼の様子を、思い出して心配で心配で涙が出そうだった。

「その様な顔をしないで、薫。少し気分が悪くなっただけですから。清方先生も仰られていたでしょう?薬をいただいて眠りますから」

 目が覚めたらきっと今朝のように、いつもの元気な自分に戻っていると、薫よりも自分に言い聞かせて葵は薬を飲んでベッドに入った。

 薫は彼が眠るまでずっと細く美しい手を握りしめた。半分は葵を心配してだが、もう半分は薫自身が不安で堪らなかったからだ。

 PTSDは簡単には回復しない。清方自身が未だに誘拐監禁の恐怖を味わった事による、PTSDから回復してはいないのだ。夕麿は10年以上苦しんだ末に自己暗示を行う事で、症状が起こらなくなる療法をマスターして、ようやく日常生活を取り戻した。

 療法のマスターにはじっくり時間をかけなければならない。紫霄学院に在校していては難しいのだと説明されている。薫が高等部を卒業して共に学院都市を離れるまで、対処療法で症状の緩和を行っている状態だった。

 清方自身は特務室の顧問と病院の嘱託医を兼任しながら、病院で自己暗示療法を受けている最中だと言う。

 武の発作。

 皆のPTSD。

 こんなにも苦しんでいるのに、周りも悲しい想いをしているのに、どうして誰かを傷付ける人がいるのだろう。

 特に武が危険に晒され続けるのは、武自身に某かの罪があっての事ではない。ただその存在を疎ましく思う人々がいるだけ。

 そう考えてふと薫は呟いた。

「私も誰かに疎まれているのかな…」

 顔も見た事がない両親と双子の兄。彼らは薫が生きている事を、こうして閉じ込めた筈の学院都市から外に出ているのを、疎ましく思ってはいないのだろうか。困った存在だと思われているのかもしれない。

 小夜子が与えてくれる愛情を、家族と過ごす暖かさを知ってしまった今となっては、血の繋がった人々へ想いを馳せてしまう。

 自分という存在が血の繋がった彼らの生活を脅かす事はあるのだろうか。いや、そもそも武は誰かの生活を脅かしたわけではない。もとより御園生の養子でいる事を望んでいたと聞く。では何がそんなに問題であるのだろう?薫にはそこがわからない。

 武も薫も行動範囲が極端に狭く決められている。かなり前から申請して許可をもらわないと旅行にも出られず、申請しても殆ど認可が下りないと成美が言っていた。

 薫自身は旅行に出た事はない。紫霄学院には小等部から遠足も宿泊学習も存在してはいない。敷地内に閉じ込められれば、そこだけがそれぞれの世界になってしまう。外を垣間見る事が許されるのは、中等部以降の校舎が存在する学院都市に車で移される時だけだ。薫はその日を一人で迎えたのを今でも記憶している。

 その2年前には朔耶が恐らく、同じ行程を移っていったのだとも思う。

 一体自分たちに何の罪があるというのだろう。そう思った次の瞬間、薫は武が紫霄でやろうとしている様々な事の本当の意味が、ようやく胸の奥にストンと音を立てて落ちて来たのを感じた。これは自分の問題でもあり目の前で眠る葵の問題でもあり、未だに学院都市に閉じ込められる生徒の……いや最早、学院に在校する生徒全体の問題なのだ。

 薫はようやく生徒会長としての自分が何を見つめて、何をしなければならないのかの糸口を本当の意味で理解した事を知った。

 夕刻、全員が帰宅して、薫は気分が良くなった葵と居間にいた。

 希が今日の登校日でまたクラスメイトである秀たちと言い争いになったと言うのだ。

「ねえ、夕麿兄さま。皇帝陛下って偉いんだよね?蓬莱皇国には必要で大切な方なんだよね?」

 こう問い掛ける彼を質してみると、秀たちは皇帝などは廃止すればいいと言ったらしい。

「お義母さん、後の事もあります。この辺りで皇家について、希に教える時期ではありませんか」

 そう言ったのは影暁だった。彼がいう『後の事』とはいずれは、血の繋がった実兄 武とは、身分が違うのだと言う事実を告げなければならない事だった。

「そうですわね。学校のお友だちの中でそのような話が出るならば、やはりきっちりと教えるべき時が来たのですね」

 少し目を伏せて答えた小夜子の姿を武は一瞥すると、小さく首を振って悲しそうに俯いた。

 無邪気な希を可愛いと薫も思っている。たまに夕麿を取り合って言い合いをしてはいるが、武が実弟を大切に想っているのは見ていればわかる。希も本当の兄だとわかっているからこそ、夕麿を挟んであれやこれやと言い合っているのだ。

 いつかは身分の違いゆえに、兄弟でありながら分け隔てをされる。居間を重苦しい空気が包んだ。何も知らないのは希だけで、今の武には一つの救いなのではないのか。

翠煙すいえんは如何に美しくても、いつかは晴れるものです」

 葵が武の想いをわかった上で、兄弟の姿を『翠煙』に譬えた。

 翠煙とは早朝の森の霧を指す。その光景が緑に染まった煙のように見える事からそう表現される。希の幼さを早朝にたとえ、日が昇り温度が上がると霧が消えるように、人は成長するものだと言ったのだ。

 人は美しいものを美しいままで、止めておきたいと願う。だが時の流れは無常で変化するものである。葵は実の父親の姿にそういった現実を見た。人の心、特に愛情を信じないわけでも、疑うわけでもない。ましてや最初の妻である葵の母を失った父が、如何に嘆き悲しんだかを知っている。それでも後添えを迎えて歳月が流れ、新たな子供が誕生すれば人の心も移ろい変化するものだ。

 小夜子にしても私生児になるとわかっていても、愛する人の唯一の忘れ形見として武を産み、10数年も守る為に逃げ隠れして生きていた。だが有人に探し出されて結婚し、希という新しい生命が二人の間に誕生して、御園生夫人として生きている。誰もそれを責める事は出来はしない。それでも兄弟が、父親が違う為に分けられてしまうのは悲しいと思う。

「では私が」

 名乗り出たのは行長だった。

「紫霄の教育カリキュラムでは当たり前に教える事ですから、私が話すのが適任だと思いますが…よろしいでしょうか」

 行長が了承を求めたのは当然ながら、有人でも小夜子でもなかった。顔を上げて武が頷き、続いて夕麿も了承の言葉を紡いだ。薫と葵も頷いて応えた。

「では、よろしいですか、希君」

「はい」

 目をキラキラして返事をした彼は兄たちの想いは今は知らない。

「アメリカの大統領が日本や蓬莱に来た時、天皇陛下と皇帝陛下……と大統領のどちらが上座、つまり偉い人が座る席に着くと思いますか」

「え…お客さまである大統領?」

「いいえ、天皇陛下が上座に着かれます。我が皇帝陛下はその次の座に。

 ではイギリスの女王陛下では?」

「…わかりません」

 大統領と女王、どちらが偉いのかすら、現代人には区別が出来ない状態だ。

「天皇陛下、次いで皇帝陛下の方が偉いんです」

「どうして?」

 希にすれば三人とも『陛下』という敬称が付く。ならば一緒ではないのかと思う。

「欧米では天皇はそのまま天皇と表現される事もありますが、分類としては『皇帝』と同じだと考えられています。

 では希君。世界には150ヶ国以上の国がありますが、皇帝がいる国は幾つありますか」

「え?皇帝…?」

 そこが一番のネックと言って良かった。これがわからなければ何も説明出来ないのだ。

「えっと…日本と蓬莱だけ?」

「そうです。第二次世界大戦の前には、アジアにもヨーロッパにも皇帝はいました。ですが戦争を契機に日本と蓬莱以外の皇家はなくなりました。

 王家にしても現在は40ヶ国ほどしか残ってはいません」

 行長はここで話を一度切った。この話は紫霄では小等部の頃から、繰り返し聞かされる話だった。中等部編入の生徒も多い為、中等部では更に詳細な教育が行われていた。高等部編入の武は自分の出生の秘密を知ってから、夕麿にこの話を聞かされた記憶があった。

「国王よりも皇帝が偉い…うん。わかりました。でもそれと日本に天皇陛下が、蓬莱皇国に皇帝陛下が必要なのとは違うと思います」

 真っ直ぐに行長を見詰める眼差しが、やはり武に似ていると薫は思った。

 この家では雑談に企業経営や経済の話が普通に上がる。武たちがUCLAに留学して不在だった時はわからないが、少なくとも彼らの認識ではこの家で幼児言葉が使用された事はない。代わりに幾ばくかの貴族言葉が使用されてはいるが、武の意向もあって現在ではかなり控えられている。

 難しい言葉は問われれば小学生にもわかるように説明される。わかるまで問い掛け続けても、礼儀に叶わないものでない限りは、今回のように誰かがきちんと教えてくれる。だから希も自分の疑問も意見も口にする事が出来るのだった。

「それは天皇陛下と皇帝陛下の次席に誰が権威の座にいるのかを知ればわかります」

「次の座?」

「そうです。良いですか、希君。世界第三位の権威を保持しているのは、キリスト教のトップであるローマ教皇なのです。つまりもし日本の天皇及び蓬莱の皇帝が消滅したら、キリスト教自体が世界で最も権威がある宗教になってしまう可能性があります。

 しかもキリスト教は現在でも白人の天下です。教徒にはあらゆる国のあらゆる民族がいますが、バチカンを構成し動かしているのは白人であると言っても過言ではありません。

 ですがアジア圏は中東を含めて、民族も宗教も多種多様な地域です。そこにキリスト教の価値観が押し付けられかねません。実際にアフリカが飢饉に見回れた過去に、キリスト教によるボランティアが教義を彼らに押し付けようとした前例があります」

「どうしてそうなるの?」

「一神教は多神教よりも排他的だから…つまり、自分たちの神さまだけが本当の神さまだと信じる気持ちが強いのです。だから他の神や仏を信じる者は悪魔を信じていると基本的に考える傾向があるのです」

「僕たちも?」

「そう思うキリスト教徒もいます。従って世界の全人類をキリスト教徒にと考える存在が現れても不思議ではありません。実際に中世にそれを目的とした宣教師がたくさんいました。

 現在のキリスト教にはそのような傾向は見られませんが、ローマ教皇こそ世界の権威となるとそう考える人間が現れるかもしれません」

「どうしてローマ教皇よりも天皇陛下と皇帝陛下が上なの?」

 その順位の違いはどこから生まれるのか。希にはまるでわからない。

「まず日本の天皇と蓬莱の皇帝は第二次世界大戦後も存在し、現在も継承されて歴史は2千年以上続いており、他の王家もローマ教皇もこの歴史には太刀打ち出来ない事。

 また皇帝が教皇的な役目を担っている場合、さらに権威が高くなります。日本の天皇陛下は戦後に人間宣言をなされましたが、神道に於いての最高の立場にいらっしゃる事実は、今現在も何ら変わってはおられないのです。

 つまり天皇陛下は世界最古の皇帝位の継承者であり、同時に日本独自の信仰である神道の教皇でもあられるのです。

 これ以上の権威があるでしょうか。

 そして我が蓬莱の皇帝陛下も同じく、2千年以上の歴史を持っておられるのです」

 この『権威』という順位は本来、ローマ帝国の皇帝やローマ教皇の為に考え出されたものであろう。ローマ帝国が滅んでもヨーロッパでは、『神聖ローマ帝国』の名の元に皇帝が選ばれ続けていた。彼らは恐らく自分たちの歴史を越える皇帝が、東洋の島国に存在しているとは考えられなかったであろう。

「わかりました。ありがとうございます、下河辺先生」

 希の瞳が輝いていた。秀と言い合いになっても正しい説明が出来なかった事が、彼には余程悔しかったのだろうと薫は思った。



 熱に任せてお互いを求め合った後、薫と葵は指を絡めてベッドに横たわっていた。

「ねぇ、葵」

 天井を見上げたまま、薫が少し躊躇うように声を掛けた。

「何でしょう?」

 葵は何となく彼が口にしようとしている言葉を察していたが、敢えて耳を傾ける事にした。

「武兄さまは…お辛そうだったね」

「そうですね。けれどもご身分の差が大きいのは、仕方がない事でしょう?」

「…葵は兄さまに厳しいよ」

「そうでしょうか」

「何か気に入らない事でもあるの?」

「いいえ」

「私にはそんな態度をしないよね」

「当然でしょう、薫。あなたは私の大切な方ではありませんか」

「それだけじゃないんじゃないの?」

「あ…いえ…」

 わざとではないのだが、そういう態度をしてしまう心当たりが葵にはある。

「ここだけの話なんだから、正直に言ってくれない?武兄さまの事、どんな風に思ってるの、葵は?」

 薫の問い掛け対して、しばらく沈黙がその場を満たした。『ここだけ』と言われても紫霄の教育を受けている葵には、内容が内容だけに言葉にしてしまう事に強い躊躇いがある。

「葵?」

 催促されて葵はゆっくりと息を吐き出してから、少し身を起こして薫の顔を覗き込んだ。

「皆さまは常に武さまを第一に考えて行動されます。けれどご本人は稀にですがそれを好ましく思ってはいらっしゃらないご様子です。時折…ご自分が皇家のご一員であらしゃる事実を、あの方は拒否されるような態度をなさいます」

「それは気付いているけど…私も卒業して仕事とか、公務とかをしなければならなくなったら、あんな風に感じてしまうのかな…」

「それは有り得ません」

 まるで鋭利な刃物で両断するかのような口調で、葵は薫の懸念をすっぱりと否定した。

「どうしてそう思うの、葵は?」

「お育ちの経緯が明らかに違うからです」

「育ちの経緯?」

「それに今でこそ武さまが宮名をお持ちでご身分が上であらしゃいますが、お血筋から申し上げればまごう事無く薫、あなたの方が正統であるのです」

「葵…」

「本来ならばあなたは現皇太子殿下の皇子であらしゃいます。ですが武さまは崩去されたさきの皇太子殿下の御遺児であられます。直系であられても既に皇位継承権は現皇太子殿下に移っており、武さまは皇孫としてのお立場でしかあられないので『親王』ではなく、『王』の称号しかいただけないのです。

 ましてやあなたはずっと……たとえ日陰の身であっても御影家と紫霄で『宮さま』としてお育ちになりました。

 一方で武さまはご自分の父君がどこのどなたであるかも知らず、ご生母小夜子さまとお二人で余り裕福とは言えない、一般の母子家庭という環境で中学までお育ちになられました。

 この差は今更埋められるものではありません。現在の武さまが『紫霞宮』殿下としての体面を保たれていられるのは、単にやはり女系ではあられても皇家のお血筋の末裔であり、摂関家として皇家に仕えて来た近衛家と六条家のお血筋であられる、夕麿さまがあっての事であるのです」

 昨年の秋に薫と結ばれて、葵は手本とするべく夕麿の姿を見詰めて来た。結果として葵が思うのは武と夕麿の立場が逆であったならば、もう少し事態が違ったのではないだろうかという、素直で当たり前と言えば当たり前の思いだった。同時に血筋も大切ではあるが育ちというものが、如何に人間の有様を左右するのかという現実であった。

「じゃあ、葵は武兄さまにどうしていただきたいの?」

「速やかに『紫霞宮』の御名を返上されるか、薫に譲られて、皇家の血筋という一般人に戻られるべきです」

「う~ん、本当はそうされたいんだと思う」

「では何故実行されないのでしょうか」

 薫の方が血筋が正統であるのだから、宮名の移譲は許されると思われた。

「多分…そうしたら生命を狙われるのが、私と葵になるからじゃないのかな」

「え?」

「武兄さまのお生命が狙われなくなる保障はどこにもないけど、今の私たちの生命が加わるだけなんじゃないかな。どんなものであるかは葵、あなたが身に沁みて一番知っているでしょう?」

 葵のPTSDに触れる可能性があったが、薫は言わずにはいられなかった。

「武兄さまは私たちを守ってくださっているんだと私は思ってる。安易に出来るようなことじゃないと思うよ」

 武の想いと苦労の先には、彼が大切に想う人々の安全がある。葵のいう事は確かに間違ってはいないかもしれない。だが人と人の関わりと有様は、決められたルールだけで成り立っているわけではないと、今では薫は考えるようになって来ていた。

 葵には生命を狙われる話だけをしたが、薫は今一つ思う事があった。誰かに聞いたわけでもない。ただ状況を見ていて何となく感じたのだ。

 武は『皇家の一員』である事を捨てる事は許されてはいないのではないか…という事だった。それだけ外交の上で彼は必要な存在になっている、という事実が窺える。少なくとも薫が成人して公務に出られるようになるまでは、武はどんなに負担になっても今の立場でいなければならないのだと。

 そして………もしも武と夕麿の立場が逆転していたとしたら、そもそも二人の縁組みはなかっただろう。夕麿が武を出迎えに出る事も、外部編入生の彼の面倒を見る事もなかった筈だ。二人が恋に落ちる事もなく、紫霄を改革しようなどとは誰も思わなかっただろう。夕麿は小等部からの在校者ゆえに、学院の教育が骨身に染み込んでいる人間だからだ。

 武という異分子が高い身分を持って登場したからこそ、夕麿も紫霄の状況が異常だと悟れたのだと感じる。今の御園生邸の状況が成り立つのだと言える。

 第一、これまでの特別室の歴史を耳にするに、夕麿は必然的に幽閉される事になる。当然ながら薫が成長するにつれて、特別室を空室にする必要がある。つまり薫は夕麿を排除した後の特別室に入室する事になった筈だ。

 葵のいう事はもちろん同意出来る部分もある。しかしPTSDゆえか、他に理由があるのかはわからないが、様々な情報を総合して分析すれば、これは必然的に見えて来る事だ。

 実際に周と朔耶に話して見ると二人は渋い顔で頷いた。周は武と夕麿には内緒にと言って、二人目の宮が毒殺されたのは恐らく、夕麿には大伯父にあたる螢王の存在があったと言う。特別室は一つしかなく、増設するつもりも学院側にはなく、二人の皇家を住まわせる事もない。故に先にいた方が邪魔になるのだ。本来ならば皇家の血を受ける人物を害する事は、あってはならない事のはずだった。けれども紫霄のルールは外は違う。

 葵はまだ紫霄の教育の呪縛から、解放されてはいないのだろうか。武を理解するつもりはないのだろうか。

 自分たちには自分たちの在り方がある。しかしそれは道を拓いてくれた武があってこそだと思っていた。彼を否定して先の道を考える事は不可能だ。

 葵は何をしたいのだろうか。武がいなくなれば染色家になるという、葵の夢も泡沫うたかたの夢となってしまうというのに。

 武がどのような育ち方をしたとは言え、彼は彼で精一杯努力しているのを薫は知っている。それで良いのじゃないのかとも思う。少なくとも周囲は今の武をありのままに受け入れている。確かに夕麿の存在が大きくはあるが、武本人の魅力が皆を惹き付けているのは、まぎれもない事実なのだから。




 朔耶ももまた頭を抱えていた。

 葵の武に対する感情に何となく気付いていたからだった。彼の気持ちも言いたい事もわかる。だが今は宮としての名を与えられているのは武なのだ。薫が外に出られている事も葵との縁組も、朔耶がここにこうしていられる事も、全ては武の存在があっての事だ。彼という前例があり、彼が望んだからこその有様。

 アルバイトをする過程で、武の人と成りについてはいろいろと見て来た。同時に『血』を重視する貴族の有り方もわかっている。朔耶自身が味わって来た事でもあるからだ。葵は多分、継母との関わりで刷り込まれた部分があるのだろう。同じく継母との関係に苦しめられた夕麿とは、逆のパターンだけに血筋と身分への強い拘りがあるのかもしれない。

 そこにPTSDが加わった為に原因が、武の車を使って起こった事もあってどうしても、反感や反発として感情が動いてしまうのかもしれないと周に言われた。だが事はそれで済む問題ではないだろうとも思うのだ。

「お前が悩んでも仕方がないだろう?武さまも夕麿もPTSDの事は経験があるだけに、きちんと理解しているはずだ。よしんば葵さまお気持ちがこのまま変わらなかったとしても、それはお互いの皇家に対する認識の違いだ。だからお前は薫さまの為にも、葵さまが孤立しないように気を配れば良いんだ」

 人間の価値観を変えるのは容易なものではないと、周は少し寂しそうに告げた。彼にとって一番、価値観と認識を変えたい人間は、他ならぬ母 浅子の同性愛への偏見であろう。

 そして多分、夕麿の異母弟であり周には従弟だった透麿の事も。幸いにももう一人の夕麿の異母弟 静麿は、武にも薫にも六条家の跡取りに相応しい姿勢でいる。憂いは周の方が強いのかもしれないと思う。

「どちらにしても将来の揉め事に繋がらなければ良いのですが」

「そうだな。もし葵さまと武さまか夕麿が揉めたならば、間にたつ薫さまがお気の毒だ」

「正直言って私はその場合、葵さまの味方は出来ません」

「しなくて良いだろう。お前は薫さまの側近なのだから」

 と周は言う。それぞれのパートナーが自分の愛する人を一番に想うのは当たり前だとは思う。だがこのままでは何かあった時に障害となりはしないか。事態が取り返しのつかない方向へと行ってしまう原因にならないか。朔耶は先を憂いた。

「あまり考え過ぎるな、朔耶。なにも起こっていないのに心配しても意味はないと僕は思うが?世の中は時としてなるようにしかならないものだという意見もある」

 周にしては悟ったような事を言う。

「それは誰の受け売りですか、周?」

「はは…影暁だよ。もっともあいつはなり行き任せ過ぎるけれどな」

 仕事の時の顔とオフの時の顔が真逆なのが影暁だと言って周は苦笑した。

「そのように見えませんが」

「ん?僕も知らなかったんだよ、親友なのにね。教えてくれたのは麗なんだ」

 紫霄時代は遊び歩いていた周には影暁が普段、寮の部屋で何をして過ごしているかというのは、興味がなかった事もあって一切知らなかった。会長の仕事をあまりしない周に影暁は、副会長としてずっと小言を言い続けていた。だから彼を夕麿のようなくそ真面目な人間だと、いつのまにか思い込んでいた気がする。

 考えてみれば影暁には、未来への希望がなかったのかもしれないと思える。高等部を卒業すれば蓬莱皇国を追い出され、恋人とも別れ別れになる。麗がパリまで追って行ってくれたから良かったものの、彼はそのまま怠惰に生活費だけを個人トレーダーとして稼ぐだけの生活を続けていたであろう。

 そして…武がいて御園生の経営の担い手として、有人が欲して彼は今、戻って生活をしている。何一つ力になれなかった周を変わらず、親友として遇してくれている事をわざわざ言いはしないが、周は心から感謝していた。

 薫と武を比べてはいけないと思う。武はあくまでも道無き場所に道を切り開いて進んで来た。そこを進む薫には別の役目があるのではないか。そもそもの性格が違う。

 葵は一体、何を焦っているのだろうかとも、周は朔耶に言わないが思っていた。

 9月を向かえて朔耶は大学に戻った。早期入学の三日月も自分の選んだ大学へと通い始めた。

 病気だと届けが出されていたので、友人たちは心持痩せた朔耶を気遣ってくれる。彼らとの交流が周を追い詰めるのならとも思う。けれど紫霄とは違う彼らとの付き合いはいつも、朔耶に新しい『何か』をもたらしてくれる。知らなかった世界を教えてくれ、時として見せてもくれる。

 周への愛情とは違う感情、温かくて心が穏やかになる……これが友情なのだと実感する。仲間に加わっている女の子たちも最初はそういう意味で朔耶に近付いて来た。だが今は純粋に同じ医学部の仲間として交流してくれている。同性の友人たちはこの1年あまり見ていて羨ましいと思っていた、武を巡る人々と同じように屈託なく身分も関係なく接してくれている。

 ここは身分による上下関係が厳しかった紫霄とは違う。貴族も一般人も一緒にキャンパスで歩き、学ぶ。稀に自分の身分を嵩かさに着る者もいるが、そうすればする程に周囲が離れて行くだけだ。

 朔耶にとってはその方が居心地がよく感じられた。別の意味で自分の居場所ができた気持ちだった。

 周の想いに過剰に反応してしまったのは、新たにできた自分の場所が、周を失う理由になるかもしれない事への恐怖だった。

 友人と恋人を天秤にかけてはいけない。当たり前のはずの事が当たり前でなくなるのは、恋が人間の心の視野を狭めてしまう典型的な例だ。

 周はいろいろなものを失い続けて来た。彼に多大な影響を与え続けて来た清方も、失い続ける人生だった。

 朔耶は病気と立場によって、自分の在り方を考えを選択する事が許されてなかった。目の前に示されるのは常にひとつ。それ以外は捨てるべきもの。自分とは関係ないもの。もしかしたら羨ましいと思った時期もあったのかもしれないが、朔耶の記憶には存在してはいない。

 常に不安を抱えている周と示された道しかわからない朔耶。負のスパイラルの噛み合わせが合致してしまった故に、相手の望みを叶える事を自分の道にしてしまう。たくさんの選択肢から自分の道を選び、多様性の中でいくつもの場所を持って、人間は人生をある時は歩き、ある時は流されていく。

 平坦な道は少なく変化を続けるのが人生であるのだが、朔耶には決められて平坦にされた上に敷かれた道だけしかなかった。ゆえに当たり前の起伏のある人生に必要以上に戸惑ってしまう。常にこれで正解なのかと誰かに問いたくなるのだ。

 多くの人にとっての当たり前が朔耶には当たり前ではなく、彼にとっての普通が多くの人には普通ではない。そんな事に大学に入学してすぐに思い知った。と同時に御園生でアルバイトをしていて良かったとも思った。

 まずは学食の券売機で戸惑う事がなかった。夕麿が社の食堂で使い方がわからなかった時の話を聞いている。生徒証と寮の部屋のカギとクレジットカードを兼ねたもの一つで済んでいた紫霄の生活は、とても恵まれていた上に便利ではあったが外では決して通じないものであることすら知らなかった。

 それでも夕麿は休みに外へ出ていた為に、クレジットカードの使い方を心得ていた。だが朔耶はクレジットカードも現金も使った事がない。紫霄のカードにはサインはいらない。内蔵されているICチップに写真を含めた個人の身分が、レジに提示されるシステムになっている為に必要としないのだ。

 入学式の後、周が現金を小銭も含めて用意してくれた。クレジットカードは高子が家族用のカードを手渡してくれた。未成年は自分のカードを持てない事すらこの時に初めて知った。もちろん使った時は時はちゃんと高子が指定した口座に振り込む事になっている。そもそも高子のカードはブラックカードで、家族用カードにも同じように使用できる。つまり億単位の買物も可能で、豪邸やらクルーザーでもカードで購入できるものだ。

 ……というのも実は仲良くなった奴に教えられた。周のカードはゴールドで、若すぎる為にブラックやプラチナのカードは契約出来ないのだ。武と夕麿は皇家の人間であると同時に、皇国屈指の大財閥である御園生家が後ろにいる理由で、あの若さでプラチナカードを所有している。

 これらは年収によって別けられているのも朔耶は知らなかった。「すげえ箱入りだな」とあきれられたが、最近まで重い心臓病で行動に制限があった事を知ると彼らは、朔耶の世間ずれしていない様子をあっさりと納得してしまった。おかげで紫霄の特殊さを説明しなくてよくなり、内心胸をなでおろしたのは今のところは周にも話してはいない。

 紫霄以外を知らない人間にとって外の世界はカルチャーショック以外の何もでもない。夕麿はまだ休みに紫霄から出ていたし、義勝はまずアメリカでの生活が間に入った事で幾分緩和されていた。

 朔耶も半年の間に少しでもと考えた周がいろいろと考え行動したが、周自身も外の蓬莱の大学の状態を知らなかった。研修に西の島の大学の附属病院で過ごしたが、大学のキャンパスに通ったわけではない。ゆえに彼が知っている大学とは紫霄の大学部とUCLAだけだ。皇国の大学の、しかも私立のキャンパスの中は知らない。

 だから朔耶の困惑も喜びも周にも、彼の相談にのる筈の清方にもわからない。同じ医学部でありながらも校風の違いが彼らにはわからないのだ。

 朔耶が通う桜華学園大学は私立ではあるが、皇立・国公立に次ぐレベルの高さを誇っている。特に医学部は総合医育成に力を入れており、朔耶がここを選択した理由のひとつでもあった。また桜華の理事の一人に久方が名を連ねており、有事の際の護衛なのど受け入れに当たっても融通が利くという利点もあった。もちろん朔耶の学力ならば皇立大も普通に入学できただろう。

 朔耶本人の希望と周の助言と護衛の件を含めて、桜華の自由な校風が合っているのではないか。久方と高子の意見が一致した上で、下見に行って確認をした結果の選択だった。

 紫霄で学院都市内での謂わば軟禁生活を送り続けていた朔耶には、彼の特異性を受け入れる下地がある校風がある事を護院夫妻は望んだのだ。そしてその通りにキャンパスでの朔耶の世間知らずは、重い心臓病ゆえの行動制限があったからで、手術を無事に終えて健康になった彼はこれから様々な事を知っていくのだと周囲は理解した。事実の一部であるから朔耶にはありのままでいられる居場所が増えたのだ。

 高子は周の懸念に立腹したが、全ては浅子が息子に植え付けてしまった事であるのはわかっている。ここで彼を責めても決して誰も救われはせず、返って周も朔耶も……そして原因をつくったとして愛息子 清方を更に苦しめて追い詰める事になる。だからこそ彼女は今回の件は夫と共に、黙って見守って必要であるならば助力を惜しまない姿勢を貫いた。

 異母弟である三日月が同じマンションに移って来た事も幸いしたのか、朔耶は再び大学での生活を無事に再開する事が出来た。

 そして今一つ、清方が養子にした少年が周囲に与える影響もあった。

 朔耶はようやく落ち着いてその年齢に相応しい生活をおくり始めていた。
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