上 下
100 / 120
第34章

第2話

しおりを挟む
「じゃ、吉永からね。用意はいい?」

「いいよ」

山崎は片手を上げる。

「スタート!」

正式ルールでは、セッティングのための時間にも制限がつけられている。

3人で5分。

その時間内に全てを用意して、OKの合図を審判に出さなければ、それだけで失格になる。

俺は一人で、的からの至近距離、規定ラインすれすれにレールを敷いた。

本番では、これをきちんと固定する予定だが、理科室の実験テーブルの上に、くぎ付けするわけにもいかない。

挙動範囲外のレールを、養生テープで固定する。

マシンにピンポン玉を充填して、俺は山崎に合図を出した。

「それでは、準備が出来たようなので、カウントダウンに入ります」

2台の携帯が並ぶ。

カウントダウン用に5秒に設定されたものと、競技時間を測定する、120秒用のものだ。

山崎がスタートボタンを押した。

握りしめるコントローラーが、じんわりと汗ばむ。

的にスイッチが入れられた。

1年の作った的マシンが動き出す。

こいつらのは俺の原始的なものとは違って、工学部教授の手が入った、完全電子制御の公式マシンだ。

「3、2、1、スタート!」

一本目の的が顔を出した。

俺の指がピクリと動く。

だがそれは、射程範囲外の上段の的だった。

たった3秒であるはずの、的の出現時間がとてつもなく長く感じる。

全く動こうとしない俺とマシンに対して、周囲がざわつき始めた。

「ねぇ、なにやってんの?」

「故障? トラブルとかなのかな」

次の的が顔を出す。

今度は下段左側。

俺はさっとコントローラーのスティックを左に倒した。

マシンがレールの上を滑る。

そこで突然、ガクンと動きを止めた。

タイヤの回転数、つまり移動距離はあらかじめ制御してある。

一定以上の距離を、コイツが移動することは出来ない。

つまり、中央から的までの距離を、正確に移動することが決められているのだ。

止まったその位置で、俺はシリンダーの作動ボタンを押した。

押し出された弾はガシャンと飛び出し、見事に的の中央に当たった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたのやり方で抱きしめて!

小林汐希
ライト文芸
2年2組の生徒:原田結花(16歳 高校2年生) 2年2組の担任:小島陽人(25歳 教師歴3年目)  小さな頃から自分に自信を持つことができなかった原田結花。  周囲が恋愛話に盛り上がっていても自分には関係がないといつも蚊帳の外。学級委員という肩書も、それは他に立候補する人がいないから、自分が引き受ければ事が進むという消極的な理由。  そんな彼女が高校2年生の始業式の日の放課後、偶然に教室に忘れものを取りに来た陽人を人生で初めて意識してしまう。一方の陽人も結花には他の生徒とはどこか一線を越えたもの感じていた。  そんな毎日を送る結花に、高校2年生の冬に治療をしなければ命にかかわってしまう病気を告げられてしまう。  手術は成功するものの、根拠もない噂を流された結花は孤立して追い詰められてしまう。  そんな彼女の味方でいたのは一人の親友と、担任の陽人だった。  陽人は結花を絶対に自らの手で卒業させると決意をするも、周囲の環境に耐えきれなくなった結花は自らの学生としての道を閉ざし、その事実を知った陽人も彼女を追うように教職を辞めた。  そんな二人が再会したのは、結花の母親の友人が開いているカフェレストラン。  お互いの気持ちは同じ。言葉には出ないけれど「今度こそ失敗したくない」。  「教師と生徒」というタブーとも言われてしまう関係を、互いに身を引くことで結果的に突き破った。  それでも、二人の前には乗り越えなくてはいけない問題がいくつも立ちはだかる。  初めての恋心に何度も自信を失いかけた結花の手を陽人は引き続ける一方、陽人にも誰にも話していない過去を持っており、唯一それを話せたのは彼女だけ。  それでも、結花は「中卒では先生の隣に立つには申し訳ない」と奮起。  陽人の海外転勤を機に、二人は一時の寂しさを抱えながらも一つの約束を交わした……。  途切れそうな儚い赤い糸を何度も必死に守り抜いた不器用な二人の物語です。 (表紙画像はCanva様よりフリー素材を使用しております)

金字塔の夏

阿波野治
ライト文芸
中学一年生のナツキは、一学期の終業式があった日の放課後、駅ビルの屋上から眺めた景色の中に一基のピラミッドを発見する。親友のチグサとともにピラミッドを見に行くことにしたが、様々な困難が二人の前に立ちはだかる。

Rain man

朋藤チルヲ
ライト文芸
少女はある日、ヒットマン【殺し屋】と出会った。 少女は誰からも愛されなかった。そんな少女が出会ったのは、アコースティックギターを奏でる殺し屋。殺し方しか教えられていない彼は、それゆえにとても純真だった。孤独な少女と、猫と音楽を愛する心優しい殺し屋との、切なく美しい、たった三日間の短い交流の物語。 ※タグにもあります通り、作中、暴力的な描写がございます。苦手な方はご遠慮くださいませ。 ※作品はフィクションです。登場人物、建物、名称諸々は全て作者のねつ造でございます。ご了承くださいませ。表紙はフリー素材を加工して使わせて頂いております。フリー素材は神様です。ありがとうございます。

家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多
ライト文芸
 恋人に振られて独立を決心!  尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!  庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。  さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!  そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!  古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。  見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!  見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート! **************************************************************** 第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました! 沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました! ****************************************************************

しんおに。~新説・鬼遊戯~

幹谷セイ
ライト文芸
オカルト好きな女子高生・談子の通う学校には、鬼が封印されているという伝説がある。 その謎を解き明かそうと、幼女の姿をした謎の生徒会長・綺羅姫と行動を共にするうちに、本当に封印された鬼を蘇らせてしまった。 学校は結界によって閉鎖され、中に閉じ込められた生徒たちは次々と魂を食われてゆく。 唯一、鬼を再び封印できる可能性を秘めた談子は、鬼を監視するために選び抜かれた、特殊能力を持つ生徒会役員たちと力を合わせてリアル鬼ごっこを繰り広げる!

放課後砂時計部!

甘露蜜柑
ライト文芸
高校一年生の田中未来は焦っていた。校則により部活に所属しなければいけないのにも関わらず、まだ部活を決めていなかったからだ。そんな折、幼馴染である一之瀬華子からある部活に誘われ―― 「砂時計部!?」 美人な先輩ばかりに囲まれ、未来の不思議で不可思議な部活ライフが始まるのだった。

想ひ出のアヂサヰ亭

七海美桜
ライト文芸
令和の大学生、平塚恭志は突然明治時代の少年の蕗谷恭介となってしまう。彼の双子の妹柊乃と母のそよを、何よりも自分の身を護る為この知らぬ明治時代の地で暮らす事になる。 歴史を変えないように、動き始める恭介。生活のため、アルバイトをしていた洋食屋の経験を生かして店を開こうと、先祖代々語られていた『宝の場所』を捜索すると、そこには―― 近所の陸軍駐屯地にいる、華族の薬研尊とその取り巻き達や常連たちとの、『アヂサヰ亭』での日々。恭介になった恭志は、現代に戻れるのか。その日を願いながら、恭介は柊乃と共に明治時代と大正時代に生きて『アヂサヰ亭』で料理を作る。 どこか懐かしく、愛おしい日々。思い出の、あの料理を―― この物語はフィクションです。時代考証など、調べられる範囲できちんと調べています。ですが、「当時生きてないと分からない事情」を「こうだ」と指摘するのはご遠慮ください。また主人公目線なので、主人公が分からない事は分からない。そう理解の上読んで下さるようお願いします。 表紙イラスト:カリカリ様 背景:黒獅様(pixiv) タイトルフレーム:きっち様(pixiv) 参考文献 日本陸軍の基礎知識(昭和生活編):藤田昌雄 写真で見る日本陸軍兵舎の生活:藤田昌雄 日本陸軍基礎知識 昭和の戦場編:藤田昌雄 値段の明治・大正・昭和風俗史(上・下):週刊朝日 三百六十五日毎日のお惣菜:桜井ちか子 洋食のおけいこ:メェリー・エム・ウヰルソン、大町禎子 明治大正史 世相篇:柳田 国男 鬼滅の刃をもっと楽しむための大正時代便覧:大正はいから同人会 食道楽:村井弦斎、村井米子

殺人鬼(サイコパス)との鬼ごっこ

アメ
ライト文芸
ある日、私の家の近くに30代半ばほどの男性がいた。その人、実は、連続殺人犯!!天然な私は、そんなこと 知らずに殺人鬼と遊んでいて・・・。そんな、殺人鬼と気づかない私の話。

処理中です...