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第10章
第1話
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2年になってクラスが分かれても、体育の授業だけは3クラス合同でやるから仕方がない。
同じ科の同じコースである以上、この運命からは逃れられないように出来ているのだ。
「どうだ、新しいクラスには慣れたか」
庭木は腕を組み、他のチームがドッチボールをしているのを、上から目線で眺めている。
俺はその飛び出た左の頬骨を見上げた。
何か言おうかとも思ったけど、どっちにしろ面倒くさいことには変わりないので、そのまま無視することにする。
庭木は、満足げに続けた。
「まぁ、お前の場合、無口で取っつきにくいところはあるが、それでもクラスの人間と挨拶だけはするからな。今は誰も友達がいなくても、そのうち少しくらいは話しが出来るようになるだろ。それまではしばらく、我慢だな」
3クラスの男子が、クラスごとに2チームに分かれ、2コートでドッチボールをしている。
山崎の投げたボールが、相手チームを一人、外野に追いだした。
「気にすることはないぞ。なにか問題があったら、すぐに俺に相談すればいい。何とかはしてやる。何とかはな」
ガッツポーズで喜ぶ山崎は、内野組とハイタッチを交わす。
相手チームの内野にボールが渡った。
「だから、安心して学校生活を送ってほしい」
浮かれている山崎が狙われている。
背中に当たったボールを、仲間が受け止めた。
それを速攻で相手チームに投げ返す。
外野と内野で入り乱れる銃撃戦に、見ている方も白熱してくる。
「そこでボール、取れよ!」
ついそう叫んでしまった。
足元を狙われる。
団子状に一箇所に固められた内野に、鋭いボールが打ち込まれる。
山崎のスネに当たったボールは、地面に落ちて跳ね上がった。
ピー!
終了の笛が鳴る。
内野の残存兵9対7で、負けた。
山崎が転がり込むようにして、俺の隣に座り込む。
「痛って~。負けたし」
同じクラスのメンバーがなんとなく陣取っている場所に、さっきまでの試合の出場メンバーが集まってきた。
「あれ、庭木、なんでここに居んの?」
次の試合の準備が始まっている。
出場メンバーは、なんとなくAチームとBチームという2チームで作られてはいるけど、出たい奴が勝手に出てるって感じだ。
「吉永、次の出ないの?」
「もう最初に1回出たから、それでいい」
主要なメンバーはちゃんと入れ替わっている。
あとは、何とか体育の授業を真面目にやらないで、誤魔化そうとしている俺みたいな連中が、ちょろちょろと出たいメンバーの残りの枠で、入れ替わっているだけだ。
遠くで庭木を呼ぶ声が聞こえた。
「おい、お前まだ一回も出てないから、出ろって言われてっぞ」
俺がそう言ったら、眉間にしわを寄せた、太いだけの眉がぴくりと動く。
「いいから行ってこいよ」
山崎に言われて、庭木は怒ったように歩き出す。
あいつ、運動は苦手なんだよな。
山崎はその場に寝転んだ。
「あっち~。やっぱ動くと暑いな」
よく晴れた午後の運動場、わずかな校舎の影に、ほとんどの人間が群がっていた。
山崎はさっきまで一緒に試合をしていたメンバーと、ぎゃあぎゃあ騒いでいる。
体育の授業は楽でいい。
このまま流れる雲でも見上げながら、ずっと寝ていたい。
同じ科の同じコースである以上、この運命からは逃れられないように出来ているのだ。
「どうだ、新しいクラスには慣れたか」
庭木は腕を組み、他のチームがドッチボールをしているのを、上から目線で眺めている。
俺はその飛び出た左の頬骨を見上げた。
何か言おうかとも思ったけど、どっちにしろ面倒くさいことには変わりないので、そのまま無視することにする。
庭木は、満足げに続けた。
「まぁ、お前の場合、無口で取っつきにくいところはあるが、それでもクラスの人間と挨拶だけはするからな。今は誰も友達がいなくても、そのうち少しくらいは話しが出来るようになるだろ。それまではしばらく、我慢だな」
3クラスの男子が、クラスごとに2チームに分かれ、2コートでドッチボールをしている。
山崎の投げたボールが、相手チームを一人、外野に追いだした。
「気にすることはないぞ。なにか問題があったら、すぐに俺に相談すればいい。何とかはしてやる。何とかはな」
ガッツポーズで喜ぶ山崎は、内野組とハイタッチを交わす。
相手チームの内野にボールが渡った。
「だから、安心して学校生活を送ってほしい」
浮かれている山崎が狙われている。
背中に当たったボールを、仲間が受け止めた。
それを速攻で相手チームに投げ返す。
外野と内野で入り乱れる銃撃戦に、見ている方も白熱してくる。
「そこでボール、取れよ!」
ついそう叫んでしまった。
足元を狙われる。
団子状に一箇所に固められた内野に、鋭いボールが打ち込まれる。
山崎のスネに当たったボールは、地面に落ちて跳ね上がった。
ピー!
終了の笛が鳴る。
内野の残存兵9対7で、負けた。
山崎が転がり込むようにして、俺の隣に座り込む。
「痛って~。負けたし」
同じクラスのメンバーがなんとなく陣取っている場所に、さっきまでの試合の出場メンバーが集まってきた。
「あれ、庭木、なんでここに居んの?」
次の試合の準備が始まっている。
出場メンバーは、なんとなくAチームとBチームという2チームで作られてはいるけど、出たい奴が勝手に出てるって感じだ。
「吉永、次の出ないの?」
「もう最初に1回出たから、それでいい」
主要なメンバーはちゃんと入れ替わっている。
あとは、何とか体育の授業を真面目にやらないで、誤魔化そうとしている俺みたいな連中が、ちょろちょろと出たいメンバーの残りの枠で、入れ替わっているだけだ。
遠くで庭木を呼ぶ声が聞こえた。
「おい、お前まだ一回も出てないから、出ろって言われてっぞ」
俺がそう言ったら、眉間にしわを寄せた、太いだけの眉がぴくりと動く。
「いいから行ってこいよ」
山崎に言われて、庭木は怒ったように歩き出す。
あいつ、運動は苦手なんだよな。
山崎はその場に寝転んだ。
「あっち~。やっぱ動くと暑いな」
よく晴れた午後の運動場、わずかな校舎の影に、ほとんどの人間が群がっていた。
山崎はさっきまで一緒に試合をしていたメンバーと、ぎゃあぎゃあ騒いでいる。
体育の授業は楽でいい。
このまま流れる雲でも見上げながら、ずっと寝ていたい。
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