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第4章
第6話
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「まぁ僕的にも、詩織さんがカップをなくしてしまったこと自体は、特に気にしてないんですけどね」
一触即発のにらみ合いを始めてしまった父娘二人に、佐山CMOは苦笑いを浮かべる。
「でも、彼女は残念がっているかも。ね?」
そう言うと佐山CMOは、私の肩を抱き寄せ、髪にチュッとキスをした。
は? なにやってんのこの人!
そのまま肩に腕を置いて、もたれかかってくる。
確かに父娘喧嘩はその瞬間消えてなくなったけど、また違う衝撃が部屋全体に走ってますけど!?
だから私にかまうなと、あれほど注意しておいたのに!
CMOは完全に痴情のもつれに、私を巻き込むつもりだ。
最悪。
「だ、だったら、みんなでカップを探しません? そのために私たちは来たんですもの。ねぇ? 佐山CMO」
肩から腕を下ろそうとしない佐山CMOを、力ずくで押し退ける。
てゆーか、カップの存在が本気で危うくなっているいま、私は何をしにここまでやってきたのか分からないじゃない。
本気で泣きそう。
その雰囲気をようやく察したのか、佐山CMOが賛同した。
「そうだね。じゃあ紗和子さんと僕は、一緒に探そうか。てゆーか、他の人のお家を探るだなんて失礼だから、僕と君はここで大人しくしていた方がいいんじゃないかな」
「いいえ! 私はカップが見たくて来たんですもの。佐山CMOも真剣に探してください」
このバカ男!
佐山CMOじゃなかったら、本気で噛みついてやったのに!
泣きそうになるのをグッと我慢した私に、詩織さんも味方してくれた。
「そうよね。本来の目的はそれだったんですもの、私はリビングをもう一度探すから、颯斗さんと紗和子さんは、どうぞこの家の中のお好きなところを探してください。ね、お父さん。構わないでしょう?」
「あ、あぁ。詩織がそう言うのなら……」
「お父さんたちは、それぞれご自分のお部屋を。もしかしたら、どこかにうっかり紛れ込んで入ってしまったのかもしれないし。そういうことも、あるでしょう? 自分の部屋の中こそ、他人には見られたくないでしょうから」
詩織さんと父孝良氏の間に火花が再発する。
叔父の篤広氏はおろおろとし、兄の学さんはやれやれとため息をついた。
「じゃ、僕たちは先に行ってようか!」
佐山CMOが珍しく空気を読んだのか、それとも読まなすぎるせいなのか、私の腰に腕を回した。
その瞬間、居た全員の視線が一斉に集まる。
彼は硬直する私をリビングから連れ出した。
廊下に出て、背後で扉が閉まった瞬間、彼の腕を振り払う。
「ちょっと! 真面目にカップを探す気あるんですか!」
「はぁ~。それは君の仕事だろ」
彼はぐったりと疲れ果てた様子でうなだれる。
「俺はもうさっきからずっとお父さんの自慢話を聞かされて、うんざりなんだ。どこかでちょっと休憩しよう。疲れたよ」
彼は天窓から西日のさす薄暗いリビング前の廊下で、彼はキョロキョロと辺りを見渡す。
そんなことより、カップの行方だ。
本当になくしたの?
「さっきまで私は詩織さんの部屋にいたんですけど、あそこにカップはなさそうですね」
「え? 彼女の部屋を漁ったの?」
「それはさすがに出来ませんでした」
「じゃあ普通に考えて、一番怪しいのは彼女の部屋だろ」
「違います」
さっきのお父さんと詩織さんのやりとりを見て、確信した。
カップは最初っからなくなったりなんかしていない。
そして今も、なくしてはいないんだ。
誰かが持っている。
「どういうこと?」
「カップを隠したのはお父さんです。佐山CMOをこの家に呼び出すための口実なので、なくなってないことなんて、詩織さんも知っていたんです」
「なるほど。それで彼はさっき俺にカップを見せようとして、本当になくなっていることに気づいた」
「カップの行方を知っているのは、詩織さんです」
そして彼女の部屋にもない。
私がこの家に来てから、ずっと彼女と一緒だった。
彼女はリビングルームにカップがあることを知っていただろうし、もし彼女の部屋にあるのなら、私をあの部屋に一人で置いたりはしなかっただろう。
そして一度部屋を出て戻って来た彼女は、再び部屋を出るまでにカップを自室に隠したりしていない。
「じゃあ彼女に直接聞くのが、一番手っ取り早いってこと?」
不意に背後でリビングルームの扉が開いた。
宇野家の男性三人が、それぞれの部屋へと向かう。
結局、詩織さんに全員説得されたらしい。
ブツブツと文句を言いながらも、そこから出て行くことを受け入れたようだ。
素直に立ち去る派手な格好をした叔父と、兄の後ろ姿を見送る。
最後にリビングから出てきたお父さんの厳しい視線を感じて、私はぴったりとくっついていた佐山CMOから、慌てて距離をとった。
「さ、さぁ、佐山CMO! 詩織さんとの愛のために、頑張って大切なカップを探しますよ! 私もお手伝いしますから!」
お父さまに聞こえるよう、ワザと大きな声を出してアピールしておく。
CMOはムッとしたみたいだけど、私にはカップの方が大事だ。
その佐山CMOが、急にすたすたと歩き出した。
私は慌てて彼を追う。
「ねぇ、どこに行くんですか? 置いていかないでくださいよ」
「さっきは俺を置いて行ったくせに」
それは仕方ないしょーが!
彼はダラダラと続く廊下を進み、庭に面した壁の一部がガラス張りになっている、応接間のようなところに来た。
ここは廊下と床が一続きになっていて、視界を遮る扉もない。
ソファとローテーブル、ちょっとした小物入れが置かれているだけだ。
「ほら。ここから庭が見えるんだよ。立派な庭じゃないか」
砂利の敷かれた庭の所々に、立派な松の木が植えられている。
佐山CMOはソファにドカリと腰を下ろし、動かなくなってしまった。
仕方なく私もその向かいに落ち着く。
カップの行方はきっと、詩織さんが知っている。
ただ見せてもらうだけでいいんだけど。
彼女にとってそれは、佐山CMOと父と自分を繋ぐ、大切なものなのだろう。
それをいくら見つけ出し、佐山CMOからあげると言われていても、欲しいですとはやっぱり言い出せない。
一触即発のにらみ合いを始めてしまった父娘二人に、佐山CMOは苦笑いを浮かべる。
「でも、彼女は残念がっているかも。ね?」
そう言うと佐山CMOは、私の肩を抱き寄せ、髪にチュッとキスをした。
は? なにやってんのこの人!
そのまま肩に腕を置いて、もたれかかってくる。
確かに父娘喧嘩はその瞬間消えてなくなったけど、また違う衝撃が部屋全体に走ってますけど!?
だから私にかまうなと、あれほど注意しておいたのに!
CMOは完全に痴情のもつれに、私を巻き込むつもりだ。
最悪。
「だ、だったら、みんなでカップを探しません? そのために私たちは来たんですもの。ねぇ? 佐山CMO」
肩から腕を下ろそうとしない佐山CMOを、力ずくで押し退ける。
てゆーか、カップの存在が本気で危うくなっているいま、私は何をしにここまでやってきたのか分からないじゃない。
本気で泣きそう。
その雰囲気をようやく察したのか、佐山CMOが賛同した。
「そうだね。じゃあ紗和子さんと僕は、一緒に探そうか。てゆーか、他の人のお家を探るだなんて失礼だから、僕と君はここで大人しくしていた方がいいんじゃないかな」
「いいえ! 私はカップが見たくて来たんですもの。佐山CMOも真剣に探してください」
このバカ男!
佐山CMOじゃなかったら、本気で噛みついてやったのに!
泣きそうになるのをグッと我慢した私に、詩織さんも味方してくれた。
「そうよね。本来の目的はそれだったんですもの、私はリビングをもう一度探すから、颯斗さんと紗和子さんは、どうぞこの家の中のお好きなところを探してください。ね、お父さん。構わないでしょう?」
「あ、あぁ。詩織がそう言うのなら……」
「お父さんたちは、それぞれご自分のお部屋を。もしかしたら、どこかにうっかり紛れ込んで入ってしまったのかもしれないし。そういうことも、あるでしょう? 自分の部屋の中こそ、他人には見られたくないでしょうから」
詩織さんと父孝良氏の間に火花が再発する。
叔父の篤広氏はおろおろとし、兄の学さんはやれやれとため息をついた。
「じゃ、僕たちは先に行ってようか!」
佐山CMOが珍しく空気を読んだのか、それとも読まなすぎるせいなのか、私の腰に腕を回した。
その瞬間、居た全員の視線が一斉に集まる。
彼は硬直する私をリビングから連れ出した。
廊下に出て、背後で扉が閉まった瞬間、彼の腕を振り払う。
「ちょっと! 真面目にカップを探す気あるんですか!」
「はぁ~。それは君の仕事だろ」
彼はぐったりと疲れ果てた様子でうなだれる。
「俺はもうさっきからずっとお父さんの自慢話を聞かされて、うんざりなんだ。どこかでちょっと休憩しよう。疲れたよ」
彼は天窓から西日のさす薄暗いリビング前の廊下で、彼はキョロキョロと辺りを見渡す。
そんなことより、カップの行方だ。
本当になくしたの?
「さっきまで私は詩織さんの部屋にいたんですけど、あそこにカップはなさそうですね」
「え? 彼女の部屋を漁ったの?」
「それはさすがに出来ませんでした」
「じゃあ普通に考えて、一番怪しいのは彼女の部屋だろ」
「違います」
さっきのお父さんと詩織さんのやりとりを見て、確信した。
カップは最初っからなくなったりなんかしていない。
そして今も、なくしてはいないんだ。
誰かが持っている。
「どういうこと?」
「カップを隠したのはお父さんです。佐山CMOをこの家に呼び出すための口実なので、なくなってないことなんて、詩織さんも知っていたんです」
「なるほど。それで彼はさっき俺にカップを見せようとして、本当になくなっていることに気づいた」
「カップの行方を知っているのは、詩織さんです」
そして彼女の部屋にもない。
私がこの家に来てから、ずっと彼女と一緒だった。
彼女はリビングルームにカップがあることを知っていただろうし、もし彼女の部屋にあるのなら、私をあの部屋に一人で置いたりはしなかっただろう。
そして一度部屋を出て戻って来た彼女は、再び部屋を出るまでにカップを自室に隠したりしていない。
「じゃあ彼女に直接聞くのが、一番手っ取り早いってこと?」
不意に背後でリビングルームの扉が開いた。
宇野家の男性三人が、それぞれの部屋へと向かう。
結局、詩織さんに全員説得されたらしい。
ブツブツと文句を言いながらも、そこから出て行くことを受け入れたようだ。
素直に立ち去る派手な格好をした叔父と、兄の後ろ姿を見送る。
最後にリビングから出てきたお父さんの厳しい視線を感じて、私はぴったりとくっついていた佐山CMOから、慌てて距離をとった。
「さ、さぁ、佐山CMO! 詩織さんとの愛のために、頑張って大切なカップを探しますよ! 私もお手伝いしますから!」
お父さまに聞こえるよう、ワザと大きな声を出してアピールしておく。
CMOはムッとしたみたいだけど、私にはカップの方が大事だ。
その佐山CMOが、急にすたすたと歩き出した。
私は慌てて彼を追う。
「ねぇ、どこに行くんですか? 置いていかないでくださいよ」
「さっきは俺を置いて行ったくせに」
それは仕方ないしょーが!
彼はダラダラと続く廊下を進み、庭に面した壁の一部がガラス張りになっている、応接間のようなところに来た。
ここは廊下と床が一続きになっていて、視界を遮る扉もない。
ソファとローテーブル、ちょっとした小物入れが置かれているだけだ。
「ほら。ここから庭が見えるんだよ。立派な庭じゃないか」
砂利の敷かれた庭の所々に、立派な松の木が植えられている。
佐山CMOはソファにドカリと腰を下ろし、動かなくなってしまった。
仕方なく私もその向かいに落ち着く。
カップの行方はきっと、詩織さんが知っている。
ただ見せてもらうだけでいいんだけど。
彼女にとってそれは、佐山CMOと父と自分を繋ぐ、大切なものなのだろう。
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