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第40話
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午後が近づいてきていた。
芹奈さんにぴったりとくっついたまま仕事の説明を受ける愛菜の後ろに、私は立つ。
「そろそろお昼にしませんか?」
愛菜は緊張の糸が途切れたかのように深く息を吐き出し、芹奈さんは私を見上げるた。
「そうね、休憩しましょう」
「愛菜、一緒に社食に行こう、すっごくおいしいんだよ。私が案内してあげる」
「今日は、自分でお弁当を作ってきたの」
愛菜はキーボードの上に手を置いた。
「だから、このまま続ける。早く仕事を覚えたいの。芹奈さん、続きをお願いします」
「食事に行きましょう。私も少し休みます」
パソコン操作を続ける愛菜に、芹奈さんは言った。
「あまり根を詰めても、作業効率がよくなるとは限らない。適度な休憩は必要よ」
芹奈さんをキッとにらみ上げる愛菜の視線に、しかし彼女は一ミリも動かされることなく、真顔で答えた。
「一緒に、食事にしましょう」
廊下に出て、先頭を歩く芹奈さんの後ろを愛菜が歩く。
通路に響く三足のヒールの音が、それぞれの思いを乗せたリズムを刻む。
芹奈さんと愛菜のそれは、戦場へ向かう兵士を鼓舞する軍歌のようだ。
そんな二人の背中を見ながら歩くことになるとは、思いもしなかった。
私も芹奈さんはちょっと苦手だけど、そこまで喧嘩を売る気はない。
戦っても勝てないと分かってる相手に、どうして挑む必要がありましょうか、いやない。
「明穂さんは何を食べるの?」
社食についてすぐ、芹奈さんがメニューの画面を開く。
「あ、私は個人メニューの日替わりなんです、いつも」
「じゃあ私もそうしてみようかしら」
「いつもは、どうなさってたんですか?」
私の質問に、芹奈さんが答えた。
「いつもは、食べたり食べなかったり。気が向いたときに気が向いたものを口にいれてるの」
そんな会話の横で、愛菜はテーブルの上にドンッと弁当箱を置いた。
可愛らしい包みを開くと、お料理サイトに乗っている、『みんな大好き! 手作りのお弁当』みたいな特集の、代表格ばかりでラインナップが組まれた、全く欠陥のないおかずのコンボだ。
「あら、愛菜さんは料理も得意なのね」
芹奈さんは片肘をついて、にっこりと微笑む。
愛菜はそれ以上の愛嬌でもって、にっこりと微笑んだ。
「得意っていうか、普通ですけどね」
色とりどりの野菜に、色違いの俵型のおにぎり、串にさしたミートボールときんぴらゴボウ。
「すごーい、かわいい!」
「芹奈さんも、これくらいは普通にしてますよね」
愛菜の今の知覚の範疇に、私の存在は全くない。
芹奈さんは何も答えず立ち上がった。
「失礼、お手洗いに行ってくるわね」
芹奈さんが背を向けた瞬間、愛菜は素早くスマホを取り出すと、彼女の背にカメラを向けた。
芹奈さんのPPは2265。
愛菜は自分のPPも確認する。
愛菜のPP1802。
「わ、愛菜、すごい上がってるね」
「当然よ。ここにいるんだもん、これくらい普通でしょ」
愛菜はカメラを私にも向ける。
私のPPは1685。
彼女は吐き捨てるような息をこぼして、スマホを置いた。
「ねぇ、そんな数字で、よく外を歩けるよね」
「どうして?」
「別に」
彼女は自分で用意した弁当の中から、とても綺麗で端正な野菜の切れ端を口に入れる。
それをしっかりとよく噛んでから、ごくりと飲み込んだ。
「私は、やっとここに入れたのよ。今は余計なことをしている時間はないの。気安く話しかけないでくれる?」
芹奈さんが戻ってきた。
愛菜は淡々とプラスチックの箱から箸で食材を口に運び、芹奈さんはカロリー補助ドリンクを飲んでいる。
この三人の、共通の話題が見つからない。
私たちは、黙って食事を済ませた。
芹奈さんにぴったりとくっついたまま仕事の説明を受ける愛菜の後ろに、私は立つ。
「そろそろお昼にしませんか?」
愛菜は緊張の糸が途切れたかのように深く息を吐き出し、芹奈さんは私を見上げるた。
「そうね、休憩しましょう」
「愛菜、一緒に社食に行こう、すっごくおいしいんだよ。私が案内してあげる」
「今日は、自分でお弁当を作ってきたの」
愛菜はキーボードの上に手を置いた。
「だから、このまま続ける。早く仕事を覚えたいの。芹奈さん、続きをお願いします」
「食事に行きましょう。私も少し休みます」
パソコン操作を続ける愛菜に、芹奈さんは言った。
「あまり根を詰めても、作業効率がよくなるとは限らない。適度な休憩は必要よ」
芹奈さんをキッとにらみ上げる愛菜の視線に、しかし彼女は一ミリも動かされることなく、真顔で答えた。
「一緒に、食事にしましょう」
廊下に出て、先頭を歩く芹奈さんの後ろを愛菜が歩く。
通路に響く三足のヒールの音が、それぞれの思いを乗せたリズムを刻む。
芹奈さんと愛菜のそれは、戦場へ向かう兵士を鼓舞する軍歌のようだ。
そんな二人の背中を見ながら歩くことになるとは、思いもしなかった。
私も芹奈さんはちょっと苦手だけど、そこまで喧嘩を売る気はない。
戦っても勝てないと分かってる相手に、どうして挑む必要がありましょうか、いやない。
「明穂さんは何を食べるの?」
社食についてすぐ、芹奈さんがメニューの画面を開く。
「あ、私は個人メニューの日替わりなんです、いつも」
「じゃあ私もそうしてみようかしら」
「いつもは、どうなさってたんですか?」
私の質問に、芹奈さんが答えた。
「いつもは、食べたり食べなかったり。気が向いたときに気が向いたものを口にいれてるの」
そんな会話の横で、愛菜はテーブルの上にドンッと弁当箱を置いた。
可愛らしい包みを開くと、お料理サイトに乗っている、『みんな大好き! 手作りのお弁当』みたいな特集の、代表格ばかりでラインナップが組まれた、全く欠陥のないおかずのコンボだ。
「あら、愛菜さんは料理も得意なのね」
芹奈さんは片肘をついて、にっこりと微笑む。
愛菜はそれ以上の愛嬌でもって、にっこりと微笑んだ。
「得意っていうか、普通ですけどね」
色とりどりの野菜に、色違いの俵型のおにぎり、串にさしたミートボールときんぴらゴボウ。
「すごーい、かわいい!」
「芹奈さんも、これくらいは普通にしてますよね」
愛菜の今の知覚の範疇に、私の存在は全くない。
芹奈さんは何も答えず立ち上がった。
「失礼、お手洗いに行ってくるわね」
芹奈さんが背を向けた瞬間、愛菜は素早くスマホを取り出すと、彼女の背にカメラを向けた。
芹奈さんのPPは2265。
愛菜は自分のPPも確認する。
愛菜のPP1802。
「わ、愛菜、すごい上がってるね」
「当然よ。ここにいるんだもん、これくらい普通でしょ」
愛菜はカメラを私にも向ける。
私のPPは1685。
彼女は吐き捨てるような息をこぼして、スマホを置いた。
「ねぇ、そんな数字で、よく外を歩けるよね」
「どうして?」
「別に」
彼女は自分で用意した弁当の中から、とても綺麗で端正な野菜の切れ端を口に入れる。
それをしっかりとよく噛んでから、ごくりと飲み込んだ。
「私は、やっとここに入れたのよ。今は余計なことをしている時間はないの。気安く話しかけないでくれる?」
芹奈さんが戻ってきた。
愛菜は淡々とプラスチックの箱から箸で食材を口に運び、芹奈さんはカロリー補助ドリンクを飲んでいる。
この三人の、共通の話題が見つからない。
私たちは、黙って食事を済ませた。
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