6 / 86
第3章
第1話
しおりを挟む
朝は起きると、一番に食事の支度をする。
それが済んだら、掃除に裁縫。
お義母さまの花やお唄の稽古にも付き合って、私も一緒にやったりなんかする。
買い物をしたり、たまにはお茶もしたりなんかして、夕飯を作り、寝る。
お義母さまは優しかったし、お祖母さまもいつもにこにことしていた。
しょっちゅうおはぎや羊羹なんかもくれたりして、みんなで一緒に食べた。
お義父さまも穏やかで、にこやかに笑うよい人だ。
私はすっかりこの家に満足していた。
夜になると、自分の部屋へ戻って布団に入り横になる。
いつも私がそうしてから、しばらく経って晋太郎さんはやってきた。
嫁に来た翌日自分で布団を敷いた時、なんとなく気恥ずかしくなって、少し離して二つの布団を敷いた。
その夜はなかなか晋太郎さんは現れなくて、いつの間にか私は眠ってしまっていた。
翌朝目を覚ますと、その人はもういなくて、もっと離された布団と布団の間に、間仕切りとして大きな一枚板の衝立が置かれていた。
晋太郎さんの布団にはほんのりと体温が残っていて、ここで寝ていたことは間違いない。
それ以来なんとなく、ずっとそうやって床を整えている。
晋太郎さんは思っていたよりも、ずっと静かな人だった。
会話はほとんどない。
用があって外に出かける以外は、ほとんど全ての時間を、屋敷の北の奥で過ごしていた。
私は家の中で時折すれ違うこの人の姿を、遠くから見上げるだけの日々を過ごしている。
それを寂しいとか意外だとは思わない。
父親同士が家のためを思い、本人の意思とは無関係に決めた結婚だ。
見ず知らずの者同士の結婚なんて、最初はきっとこんなものなのだろう。
それが済んだら、掃除に裁縫。
お義母さまの花やお唄の稽古にも付き合って、私も一緒にやったりなんかする。
買い物をしたり、たまにはお茶もしたりなんかして、夕飯を作り、寝る。
お義母さまは優しかったし、お祖母さまもいつもにこにことしていた。
しょっちゅうおはぎや羊羹なんかもくれたりして、みんなで一緒に食べた。
お義父さまも穏やかで、にこやかに笑うよい人だ。
私はすっかりこの家に満足していた。
夜になると、自分の部屋へ戻って布団に入り横になる。
いつも私がそうしてから、しばらく経って晋太郎さんはやってきた。
嫁に来た翌日自分で布団を敷いた時、なんとなく気恥ずかしくなって、少し離して二つの布団を敷いた。
その夜はなかなか晋太郎さんは現れなくて、いつの間にか私は眠ってしまっていた。
翌朝目を覚ますと、その人はもういなくて、もっと離された布団と布団の間に、間仕切りとして大きな一枚板の衝立が置かれていた。
晋太郎さんの布団にはほんのりと体温が残っていて、ここで寝ていたことは間違いない。
それ以来なんとなく、ずっとそうやって床を整えている。
晋太郎さんは思っていたよりも、ずっと静かな人だった。
会話はほとんどない。
用があって外に出かける以外は、ほとんど全ての時間を、屋敷の北の奥で過ごしていた。
私は家の中で時折すれ違うこの人の姿を、遠くから見上げるだけの日々を過ごしている。
それを寂しいとか意外だとは思わない。
父親同士が家のためを思い、本人の意思とは無関係に決めた結婚だ。
見ず知らずの者同士の結婚なんて、最初はきっとこんなものなのだろう。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
仏の顔
akira
歴史・時代
江戸時代
宿場町の廓で売れっ子芸者だったある女のお話
唄よし三味よし踊りよし、オマケに器量もよしと人気は当然だったが、ある旦那に身受けされ店を出る
幸せに暮らしていたが数年ももたず親ほど年の離れた亭主は他界、忽然と姿を消していたその女はある日ふらっと帰ってくる……
TAKAFUSA
伊藤真一
歴史・時代
TAKAFUSAとは陶隆房のことである。陶隆房の名は有名ではないが、主君大内義隆を殺害し、のち厳島の合戦で毛利元就に討たれた陶晴賢といえば知っている人も多いだろう。その陶晴賢の歩みを歴史の大筋には沿いながらフィクションで描いていきます。
全く初めての小説執筆なので、小説の体はなしていないと思います。また、時代考証なども大嘘がたくさん入ってしまうと思いますがお許しください。少数の方にでも読んでいただければありがたいです。
*小説家になろう にも掲載しています。
*時間、長さなどは、わかりやすいと思うので現代のものを使用しています。
陸のくじら侍 -元禄の竜-
陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた……
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
大奥~牡丹の綻び~
翔子
歴史・時代
*この話は、もしも江戸幕府が永久に続き、幕末の流血の争いが起こらず、平和な時代が続いたら……と想定して書かれたフィクションとなっております。
大正時代・昭和時代を省き、元号が「平成」になる前に候補とされてた元号を使用しています。
映像化された数ある大奥関連作品を敬愛し、踏襲して書いております。
リアルな大奥を再現するため、性的描写を用いております。苦手な方はご注意ください。
時は17代将軍の治世。
公家・鷹司家の姫宮、藤子は大奥に入り御台所となった。
京の都から、慣れない江戸での生活は驚き続きだったが、夫となった徳川家正とは仲睦まじく、百鬼繚乱な大奥において幸せな生活を送る。
ところが、時が経つにつれ、藤子に様々な困難が襲い掛かる。
祖母の死
鷹司家の断絶
実父の突然の死
嫁姑争い
姉妹間の軋轢
壮絶で波乱な人生が藤子に待ち構えていたのであった。
2023.01.13
修正加筆のため一括非公開
2023.04.20
修正加筆 完成
2023.04.23
推敲完成 再公開
2023.08.09
「小説家になろう」にも投稿開始。
西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
座頭の石《ざとうのいし》
とおのかげふみ
歴史・時代
盲目の男『石』は、《つる》という女性と二人で旅を続けている。
旅の途中で出会った女性《よし》と娘の《たえ》の親子。
二人と懇意になり、町に留まることにした二人。
その町は、尾張藩の代官、和久家の管理下にあったが、実質的には一人のヤクザが支配していた。
《タノヤスケゴロウ》表向き商人を装うこの男に目を付けられてしまった石。
町は幕府からの大事業の河川工事の真っ只中。
棟梁を務める《さだよし》は、《よし》に執着する《スケゴロウ》と対立を深めていく。
和久家の跡取り問題が引き金となり《スケゴロウ》は、子分の《やキり》の忠告にも耳を貸さず、暴走し始める。
それは、《さだよし》や《よし》の親子、そして、《つる》がいる集落を破壊するということだった。
その事を知った石は、《つる》を、《よし》親子を、そして町で出会った人々を守るために、たった一人で立ち向かう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる