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第7章
第2話
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「急に大声だすなよ」
額を机にくっつきそうなくらい近づけて、赤くなった顔を誤魔化すくらいなら、そんな要求してこないでよね。
「美羽音は恥ずかしいヤツだな」
「快斗にそんなこと言われる筋合いないけどね」
「あはは」
イラストを描き終えた彼は、まだ真っ赤になった顔をうつむけたまま、実験に使用した器具の名前を記し始めた。
「これ書き終わったらさ、もうさっさと職員室に行って提出してこようぜ。そしたら一緒に帰ろう」
どうしてさっきからずっと、彼はうつむいてばかりなのかとか、視線が全く合わないこととか、こんな簡単なレポートを急にわざわざ放課後一緒にやろうと誘ってきたのかとか、さすがの私にだって、もう思い当たる節がないわけじゃない。
「坂下と帰れんのなら、俺とも帰れるだろ」
「遠山くんって、電車通学だっけ」
「快斗ね。やり直し」
「……。快斗は、電車通学だったっけ?」
「自転車」
「駅と反対方向なんじゃない?」
「関係ないし」
「なんか用事あんの」
「ある」
「なんの用?」
「は?」
彼はそっぽを向くと、右手でくるくるとペンを回しを始めた。
ペン回し出来る人、生で始めて見た。
「美羽音と一緒に帰るっていう用事」
彼とはやっぱり目が合わなくて、真っ赤な顔はやっと上に上がっても、視線は横を向いている。
自分でもそうなっていることに気づいてるから、恥ずかしくなってんだよね。
「いいけど、自転車停めるとこないよ。歩行者多いし、駅に自転車で来る人なんて基本いないから……」
「じゃあ今日は、そこまで歩いていく」
ほぼほぼ同じ高さにある彼のそんな顔をじっと見つめていたら、何だかもごもごと言い訳を始めた。
「あ……。ほ、本屋! 駅前に本屋あったでしょ。そこに行きたいから、ちょっと付き合って」
「ねぇ、別に本屋さんに行くのはいいんだけどさぁ……」
「あ、だったらゲーセンでも……」
不意に、誰かが近づいてきた。
館山さんだ。
「わ、私も一緒に! レポート書いていい?」
彼女はしっかりと胸に鞄を抱きしめ、必死になって私を見下ろす。
「え? あぁ、いいよ」
「ご、ゴメンね、邪魔しちゃって。わ、私も学校で済ましちゃおうかなって、思って。か……、快斗と同じ班だったし!」
私は彼女のために、隣の机を動かしてこっちにくっつけようとしたら、慌てて館山さんも手伝おうと鞄を肩から下ろした。
「館山は自分で出来るだろ」
快斗はクラスイチの優等生女子に向かって、無愛想で高飛車に背中をのけぞらせた。
「つーか実習中に、レポート書きながら実験してたの知ってるし。お前もうやり終わってんだろ」
「お、終わってるけど、どうなのかなって。ちゃんと出来てるかとうか、見てほしくって……」
快斗はなんでそんな意地悪言うんだろ。
オレ様かよ。
こんなに泣きそうになってる女の子を、黙って見過ごせる人間っている?
「見る見る、見るよ! 見ていいんだったら、私に見せて」
彼女はおずおずと控えめに、それでも抱えていたサブバックを机に置いた。
そのとたん、快斗はバサリと実習ノートを閉じる。
「なにその上から目線。自慢しに来たのかよ。お前はまだみんなから、褒めちぎってほしいんだ」
「ちが……」
「ちょっ、待って。なにその言い方!」
館山さんは開きかけていた鞄のファスナーをサッと閉じると、それにしがみつくように抱きかかえた。
「ごめん。やっぱり帰る」
館山さんが泣いている。
実際に涙は流してないけど、私にはそれが見える。
逃げ出した彼女に謝りに行くのは、私じゃない。
快斗だ。
「なんであんな可愛い子を泣かすの!」
「泣いてなかっただろ」
「泣いてたよ!」
「別に可愛くもねーし」
「ねぇ、視力いくつ」
「は?」
「あんたの視力はいくつかって聞いてんの!」
「それを知ってどうすんだよ」
「早く館山さんに謝ってきて!」
「なんで。イヤだ」
口を尖らせそっぽを向く快斗に、最高に腹が立つ。
「女の子を泣かせるような奴は、私嫌いだからね」
「だから泣いてなかったって!」
「いいから謝ってきて!」
それでも動こうとしない彼に、こんなこと言うのは卑怯だと分かっているけど、言わずにはいられない。
「じゃないともう一緒にレポートしたり、一緒に帰ったりもしない。本屋も行かない」
「なんだそれ」
「私も帰る」
広げていた筆箱とノートをバタバタと鞄に取り込む。
「あぁもう分かったよ。分かったからちょっと待って」
どれだけ呼び止められても、そんなのは無視だ。
先に彼女に謝ってこない限り、もう彼とは口利かない。
「じゃあね」
教室を出ようとしたら、いつの間にか戻っていた坂下くんとぶつかった。
「あれ。どうかした?」
「一緒に帰ろう!」
思わす彼の腕を掴む。
見せつけてやるんだ。
悔しそうにしている快斗に。
だって彼はそれほど酷いことを彼女にした。
坂下くんは流れを察して、私に付き合ってくれる。
「いいよ。行こう」
私は彼を誘い出すことに成功すると、教室を出た。
額を机にくっつきそうなくらい近づけて、赤くなった顔を誤魔化すくらいなら、そんな要求してこないでよね。
「美羽音は恥ずかしいヤツだな」
「快斗にそんなこと言われる筋合いないけどね」
「あはは」
イラストを描き終えた彼は、まだ真っ赤になった顔をうつむけたまま、実験に使用した器具の名前を記し始めた。
「これ書き終わったらさ、もうさっさと職員室に行って提出してこようぜ。そしたら一緒に帰ろう」
どうしてさっきからずっと、彼はうつむいてばかりなのかとか、視線が全く合わないこととか、こんな簡単なレポートを急にわざわざ放課後一緒にやろうと誘ってきたのかとか、さすがの私にだって、もう思い当たる節がないわけじゃない。
「坂下と帰れんのなら、俺とも帰れるだろ」
「遠山くんって、電車通学だっけ」
「快斗ね。やり直し」
「……。快斗は、電車通学だったっけ?」
「自転車」
「駅と反対方向なんじゃない?」
「関係ないし」
「なんか用事あんの」
「ある」
「なんの用?」
「は?」
彼はそっぽを向くと、右手でくるくるとペンを回しを始めた。
ペン回し出来る人、生で始めて見た。
「美羽音と一緒に帰るっていう用事」
彼とはやっぱり目が合わなくて、真っ赤な顔はやっと上に上がっても、視線は横を向いている。
自分でもそうなっていることに気づいてるから、恥ずかしくなってんだよね。
「いいけど、自転車停めるとこないよ。歩行者多いし、駅に自転車で来る人なんて基本いないから……」
「じゃあ今日は、そこまで歩いていく」
ほぼほぼ同じ高さにある彼のそんな顔をじっと見つめていたら、何だかもごもごと言い訳を始めた。
「あ……。ほ、本屋! 駅前に本屋あったでしょ。そこに行きたいから、ちょっと付き合って」
「ねぇ、別に本屋さんに行くのはいいんだけどさぁ……」
「あ、だったらゲーセンでも……」
不意に、誰かが近づいてきた。
館山さんだ。
「わ、私も一緒に! レポート書いていい?」
彼女はしっかりと胸に鞄を抱きしめ、必死になって私を見下ろす。
「え? あぁ、いいよ」
「ご、ゴメンね、邪魔しちゃって。わ、私も学校で済ましちゃおうかなって、思って。か……、快斗と同じ班だったし!」
私は彼女のために、隣の机を動かしてこっちにくっつけようとしたら、慌てて館山さんも手伝おうと鞄を肩から下ろした。
「館山は自分で出来るだろ」
快斗はクラスイチの優等生女子に向かって、無愛想で高飛車に背中をのけぞらせた。
「つーか実習中に、レポート書きながら実験してたの知ってるし。お前もうやり終わってんだろ」
「お、終わってるけど、どうなのかなって。ちゃんと出来てるかとうか、見てほしくって……」
快斗はなんでそんな意地悪言うんだろ。
オレ様かよ。
こんなに泣きそうになってる女の子を、黙って見過ごせる人間っている?
「見る見る、見るよ! 見ていいんだったら、私に見せて」
彼女はおずおずと控えめに、それでも抱えていたサブバックを机に置いた。
そのとたん、快斗はバサリと実習ノートを閉じる。
「なにその上から目線。自慢しに来たのかよ。お前はまだみんなから、褒めちぎってほしいんだ」
「ちが……」
「ちょっ、待って。なにその言い方!」
館山さんは開きかけていた鞄のファスナーをサッと閉じると、それにしがみつくように抱きかかえた。
「ごめん。やっぱり帰る」
館山さんが泣いている。
実際に涙は流してないけど、私にはそれが見える。
逃げ出した彼女に謝りに行くのは、私じゃない。
快斗だ。
「なんであんな可愛い子を泣かすの!」
「泣いてなかっただろ」
「泣いてたよ!」
「別に可愛くもねーし」
「ねぇ、視力いくつ」
「は?」
「あんたの視力はいくつかって聞いてんの!」
「それを知ってどうすんだよ」
「早く館山さんに謝ってきて!」
「なんで。イヤだ」
口を尖らせそっぽを向く快斗に、最高に腹が立つ。
「女の子を泣かせるような奴は、私嫌いだからね」
「だから泣いてなかったって!」
「いいから謝ってきて!」
それでも動こうとしない彼に、こんなこと言うのは卑怯だと分かっているけど、言わずにはいられない。
「じゃないともう一緒にレポートしたり、一緒に帰ったりもしない。本屋も行かない」
「なんだそれ」
「私も帰る」
広げていた筆箱とノートをバタバタと鞄に取り込む。
「あぁもう分かったよ。分かったからちょっと待って」
どれだけ呼び止められても、そんなのは無視だ。
先に彼女に謝ってこない限り、もう彼とは口利かない。
「じゃあね」
教室を出ようとしたら、いつの間にか戻っていた坂下くんとぶつかった。
「あれ。どうかした?」
「一緒に帰ろう!」
思わす彼の腕を掴む。
見せつけてやるんだ。
悔しそうにしている快斗に。
だって彼はそれほど酷いことを彼女にした。
坂下くんは流れを察して、私に付き合ってくれる。
「いいよ。行こう」
私は彼を誘い出すことに成功すると、教室を出た。
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