上 下
21 / 119
第4章

第6話

しおりを挟む
俺の命令に従って、男は涼介の首に腕を回した。

今度ばかりはうまくいく。

ヘッドロックで固めた涼介の頭頂部を、山下は俺に差し出した。

「ほら、押さえ込んだぞ」

暴れたおす涼介を押さえ込むのに苦労していたが、問題はそこじゃない。

「そうじゃない、向きが違うだろ」

「向き?」

「後ろだ、後ろ!」

涼介が暴れるお陰で、矢はさらに深く食い込んでいる。

もう、本当に気が利かない。

「後ろって、どう後ろ向けんだよ!」

「頭の後ろ!」

「はぁ?」

男が腕を緩めた瞬間、涼介はそこから抜け出した。

「俺の後頭部がなんなんだよ!」

「こいつを押さえつけろ!」

「お前が素直に言うことを聞け!」

その言葉に、俺は立ち止まった。

「どういうことだ」

「これが俺とお前の問題なんだったら、先輩を巻き込むな」

「後ろを向け」

「足が動かない」

俺は魔法を解く。

動けるようになった涼介は、舌打ちの後で意外にも素直に後ろを向いた。

なんだよ、なんで今、俺の言うとおりにした?

「このバカがなんか余計なことをしそうになったら、すぐに教えて下さいよ!」

ようやく矢の刺さった頭が、俺の前に差し出された。

そこにそっと手を伸ばすと、俺の手は涼介の後頭部を透過する。

「えっ? ちょっ、……なに?」

それを横でみていた男は、変な声をあげた。

「え? なに? 山下さん、コイツ何してんの?」

「いいから黙ってろ。ヘンに動くな」

俺は涼介の頭部に手を突っ込むと、ゆっくりとその矢を引き抜く。

「これでいい」

抜いた父さんの矢は、すぐに粉砕しておく。

こんな魔力の強い矢を人間界に放置しておけば、どんな面倒が起きるか分からない。

「お、お前、何者だ!」

カネで簡単に操れるような人間に、名乗る名前などない。

俺は涼介に向き直った。

「今日のところは、これでお終いにしておいてやる。俺から逃れられると思うなよ」

涼介と目が合う。

俺は、今度はその顔を直視することが出来なかった。

「テメー、おいコラ、ちょっと待て、話しが終わってねーぞ!」

俺は背を向けると、その場から姿を消した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

ずっと忘れないから

宇部 松清
キャラ文芸
家には昔、パグ犬がいた。 本当の名前は拳骨。皆は『ゲンさん』って呼んでた。 皆から何て言われたって、俺は世界で一番ゲンさんが可愛いと思う。 ※全14話、28123文字です。

釣り人居酒屋『魚んちゅ~』

ツ~
キャラ文芸
主人公、小城 綾香(こじょう あやか)は、ひょんなことをキッカケに釣り人居酒屋『魚んちゅ~』(うぉんちゅ~)でアルバイトを始める。 釣り人居酒屋と言うくらいだから、大将も店員も釣り好きばかり、もちろん、お客さんも釣り好きが多かった。そんな中、ド素人のアヤカは釣りにアルバイトに奮闘していく。 果たして、アヤカはどんな成長を遂げるのか?! ほのぼのとしたお話です。料理も出てきますので、釣りにあまり興味のない方もよろしくお願いします

後宮にて、あなたを想う

じじ
キャラ文芸
真国の皇后として後宮に迎え入れられた蔡怜。美しく優しげな容姿と穏やかな物言いで、一見人当たりよく見える彼女だが、実は後宮なんて面倒なところに来たくなかった、という邪魔くさがり屋。 家柄のせいでら渋々嫁がざるを得なかった蔡怜が少しでも、自分の生活を穏やかに暮らすため、嫌々ながらも後宮のトラブルを解決します!

同居離婚はじめました

仲村來夢
恋愛
大好きだった夫の優斗と離婚した。それなのに、世間体を保つためにあたし達はまだ一緒にいる。このことは、親にさえ内緒。 なりゆきで一夜を過ごした職場の後輩の佐伯悠登に「離婚して俺と再婚してくれ」と猛アタックされて…!? 二人の「ゆうと」に悩まされ、更に職場のイケメン上司にも迫られてしまった未央の恋の行方は… 性描写はありますが、R指定を付けるほど多くはありません。性描写があるところは※を付けています。

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

だから僕は男の娘じゃないっ!

飛永英斗
キャラ文芸
流れ星高校生に通う、葉島カキナ。見た目や行動が女子っぽいから、皆から男の娘扱いされる。 そんなカキナの周りには、少し普通じゃない人達ばかり。女子力を上げる為なら何でもする、土呂辺いちご。常にチェーンソーを持っている名家の娘、法桑びわ。 学校の治安を守る為に活動する、ロリっ子校長も承認しているヤンキー集団、秋葉オデン、青森サバキ、札幌タラバ、その他諸々の「缶詰隊」。 そして、闇の力を駆使する謎の転校生、魚唄メロ。カキナもその闇の力を持っていて……。 頭を空にして読んでください。

陽香は三人の兄と幸せに暮らしています

志月さら
キャラ文芸
血の繋がらない兄妹×おもらし×ちょっとご飯ものなホームドラマ 藤本陽香(ふじもと はるか)は高校生になったばかりの女の子。 三人の兄と一緒に暮らしている。 一番上の兄、泉(いずみ)は温厚な性格で料理上手。いつも優しい。 二番目の兄、昴(すばる)は寡黙で生真面目だけど実は一番妹に甘い。 三番目の兄、明(あきら)とは同い年で一番の仲良し。 三人兄弟と、とあるコンプレックスを抱えた妹の、少しだけ歪だけれど心温まる家族のお話。 ※この作品はカクヨムにも掲載しています。

処理中です...