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第14話 お見合いの返事は
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やっぱり土曜日にするべきだった。お日柄とか、そんなものは別にいいではないか。今度からは土曜日を指定しよう――。
優里はお見合いを終えて帰宅し、最初にそう思った。骨休めする間もなく翌日から会社かと考えただけで、夜勤明けのような体の強張りを感じてしまう。
優里はホテルでの会食が終わった後、化粧直しのついでに母親の景子にLINEを入れておいた。急遽、高木家に行くことになったと。ご家族に挨拶だけして帰るつもりだから心配しないで――と。
そんな訳で、高木邸で発生した事件をニュースで見た景子は卒倒しそうになったらしい。優里に何度連絡しても繋がらないため、すぐさま仲人に連絡し、事の次第を確かめたというのだ。
高木家からは仲人に、「お騒がせしました」と連絡があったらしい。それを受けて、仲人が畑野家に連絡をしようとしていた矢先に、景子の方から連絡をもらったのだという。
仲人からはお見舞いを言われたらしいが、そんな気休めでは景子の動揺は収まらなかったようだ。
優里が帰宅し玄関を開けると、景子が珍しく廊下を走ってきて、「お帰りなさい」も言わずに、いきなり彼女を責めたてた。
「あなた、大丈夫なの? ねえ、ニュースを見た? どうして電話に出てくれないの!」
優里は景子に両腕を掴まれながらも、必死に言い訳を考えてみたが、どれもイマイチだったので、ひとまず逃げることにした。吉岡のことは言いたくない。
「まあ、ね。先に手を洗ってくる」とバスルームへ直行した。
手を洗ってうがいをして、鏡を見ながら心を落ち着かせる。優里は覚悟を決めてバスルームから出た。
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
「うん。ごめん。警察の人に色々聞かれてて――」
廊下を歩く優里を追いかけながら、景子は愚痴が止まらない。
「どうしてあなたが聞かれるの? まだあちらのご家族とは関係ないのに。事件が起きた家にだって、騙し打ちで連れていかれたんでしょ? だいたい今日は二人で会うだけって約束だったのに。どういうつもりなのかしら」
優里がリビングに入りソファーに座ったので、景子も隣に座った。
「それがさ。ホテルでご飯食をべ終えたら、『実家が近いので寄ってみませんか』って言われて。なんか、あっちは早々に私のことを品定めしたかったみたい」
「なんですって! いくら何でもひどいじゃない。向こうの両親が来られるなら、こっちだって私たちが行かないと。あんまりよ。それに、あなた――手土産も持っていなかったでしょう」
景子は、自分たち夫婦抜きで優里一人を高木家の面々に会わせた道長に腹を立てている。まあ、ここまではお見合いの話なのだが、肝心なのは――。
「そんなことより。あなた、事件が起きた後に、何も知らずにあの家に入ったの?」
景子は軽く身震いをして優里を見た。
「もう、最悪。一緒に死体を発見しちゃったよ」
「ああああっ」
景子が、悲鳴のような言葉にならない声をあげたため優里の方が慌てた。
「落ち着いて! 私は無関係なんだから。警察も『帰っていい』って、言ってくれたし」
「そんなこと、仲人さんは言ってなかったわよ」
それは仕方がない。仲人だって詳細を知らないはずだ。
「それにしてもひどいじゃない。両家の顔合わせについては、仲人さんと相談してからのはずなのに。それを急に、一方的に呼びつけるなんて。旧華族の良識のあるご家族だって仰っていたのに。こんな事件を起こして、しかも優里まで巻き込むなんて――」
景子の話が微妙にループし始めている。
「それに、どうしてうちにはお詫びの一つもない訳? せめてあちらのご家族からは説明や謝罪があってもいいはずよ」
「いや、向こうは家族が亡くなっているんだし。仲人さんに対しても、今日はさすがに詳細を説明するような余裕もないだろうし――」
景子は優里の話を聞いていなかった。
「やっぱり家柄とかは関係ないのよ。逆に、古くから続く家は家名にこだわる分、碌でもないかもしれないじゃない。次からはもういい加減、人柄重視でいきましょう」
景子は、高木家にお断りの連絡を入れると決めたらしい。優里は今日の事件にショックを受けたせいか、お見合いの返事については全く考えていなかった。
「明日、仲人さんに正式に苦情を申し入れてお断りしていただくから」
景子は、目をつり上げて怒気を発していた。
「もう、お父さんはこんな日に限ってゴルフで遅くなるんだから」
それでいいのだろうか。優里は、自分が断りたいと思っているのか自問した。
道長は決定的といえるようなミスは犯していない。小さな不満はいくつかあるが、二回目に繋がらないほどのものではなかったと思う。
(いや、今日はもう頭が働かないな。今判断したら間違える気がする……)
「それにしても死体を見ただなんて。本当に大丈夫なの? あれだったら、今から病院に行った方が――」
「もう平気だって。それより疲れたから、ちょっと部屋で休むね」
優里はそう言うと自分の部屋に引っ込んだ。
優里はお見合いを終えて帰宅し、最初にそう思った。骨休めする間もなく翌日から会社かと考えただけで、夜勤明けのような体の強張りを感じてしまう。
優里はホテルでの会食が終わった後、化粧直しのついでに母親の景子にLINEを入れておいた。急遽、高木家に行くことになったと。ご家族に挨拶だけして帰るつもりだから心配しないで――と。
そんな訳で、高木邸で発生した事件をニュースで見た景子は卒倒しそうになったらしい。優里に何度連絡しても繋がらないため、すぐさま仲人に連絡し、事の次第を確かめたというのだ。
高木家からは仲人に、「お騒がせしました」と連絡があったらしい。それを受けて、仲人が畑野家に連絡をしようとしていた矢先に、景子の方から連絡をもらったのだという。
仲人からはお見舞いを言われたらしいが、そんな気休めでは景子の動揺は収まらなかったようだ。
優里が帰宅し玄関を開けると、景子が珍しく廊下を走ってきて、「お帰りなさい」も言わずに、いきなり彼女を責めたてた。
「あなた、大丈夫なの? ねえ、ニュースを見た? どうして電話に出てくれないの!」
優里は景子に両腕を掴まれながらも、必死に言い訳を考えてみたが、どれもイマイチだったので、ひとまず逃げることにした。吉岡のことは言いたくない。
「まあ、ね。先に手を洗ってくる」とバスルームへ直行した。
手を洗ってうがいをして、鏡を見ながら心を落ち着かせる。優里は覚悟を決めてバスルームから出た。
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
「うん。ごめん。警察の人に色々聞かれてて――」
廊下を歩く優里を追いかけながら、景子は愚痴が止まらない。
「どうしてあなたが聞かれるの? まだあちらのご家族とは関係ないのに。事件が起きた家にだって、騙し打ちで連れていかれたんでしょ? だいたい今日は二人で会うだけって約束だったのに。どういうつもりなのかしら」
優里がリビングに入りソファーに座ったので、景子も隣に座った。
「それがさ。ホテルでご飯食をべ終えたら、『実家が近いので寄ってみませんか』って言われて。なんか、あっちは早々に私のことを品定めしたかったみたい」
「なんですって! いくら何でもひどいじゃない。向こうの両親が来られるなら、こっちだって私たちが行かないと。あんまりよ。それに、あなた――手土産も持っていなかったでしょう」
景子は、自分たち夫婦抜きで優里一人を高木家の面々に会わせた道長に腹を立てている。まあ、ここまではお見合いの話なのだが、肝心なのは――。
「そんなことより。あなた、事件が起きた後に、何も知らずにあの家に入ったの?」
景子は軽く身震いをして優里を見た。
「もう、最悪。一緒に死体を発見しちゃったよ」
「ああああっ」
景子が、悲鳴のような言葉にならない声をあげたため優里の方が慌てた。
「落ち着いて! 私は無関係なんだから。警察も『帰っていい』って、言ってくれたし」
「そんなこと、仲人さんは言ってなかったわよ」
それは仕方がない。仲人だって詳細を知らないはずだ。
「それにしてもひどいじゃない。両家の顔合わせについては、仲人さんと相談してからのはずなのに。それを急に、一方的に呼びつけるなんて。旧華族の良識のあるご家族だって仰っていたのに。こんな事件を起こして、しかも優里まで巻き込むなんて――」
景子の話が微妙にループし始めている。
「それに、どうしてうちにはお詫びの一つもない訳? せめてあちらのご家族からは説明や謝罪があってもいいはずよ」
「いや、向こうは家族が亡くなっているんだし。仲人さんに対しても、今日はさすがに詳細を説明するような余裕もないだろうし――」
景子は優里の話を聞いていなかった。
「やっぱり家柄とかは関係ないのよ。逆に、古くから続く家は家名にこだわる分、碌でもないかもしれないじゃない。次からはもういい加減、人柄重視でいきましょう」
景子は、高木家にお断りの連絡を入れると決めたらしい。優里は今日の事件にショックを受けたせいか、お見合いの返事については全く考えていなかった。
「明日、仲人さんに正式に苦情を申し入れてお断りしていただくから」
景子は、目をつり上げて怒気を発していた。
「もう、お父さんはこんな日に限ってゴルフで遅くなるんだから」
それでいいのだろうか。優里は、自分が断りたいと思っているのか自問した。
道長は決定的といえるようなミスは犯していない。小さな不満はいくつかあるが、二回目に繋がらないほどのものではなかったと思う。
(いや、今日はもう頭が働かないな。今判断したら間違える気がする……)
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