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人間界編

21話 光明

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「ところでイーナ、どうするんだ?」

 シータは冷静に俺に問いかけてきた。

「これ以上は危険じゃない?一度戻った方がいいと思う」

 事実、原始の森とやらがここからどの位離れているかも分からないし、夜である以上これ以上の探索は止めた方が良いだろう。またルドラにでも出くわしたらたまったものではない。

「そうだな」

 シータは笑顔で答えた。ルートは少し不満そうではあったが、同意してくれたようだ。
それよりも問題はナーシェである。さっきから騒がしくてたまったものではない。

「な、ナーシェ……そんなに珍しいの……?」

 じっーと俺の身体を観察するナーシェに話しかけた。

「それはもう!皆さんモンスターだとは!!皆さんの生態に興味津々です!」

「そ、そう……」

 すっかりナーシェの勢いに負けてしまった俺達はナーシェの観察対象となってしまった。

 それよりも、気になったのは、サクヤの力が落ちていたと言うことである。やはり体調がだんだんと悪くなっているのであろう。

「しかし、このままだとまずいな……」

「なにがまずいんだ?」

 ルートが疑問を呈してきた。

「九尾の力が落ちてるんだ、おそらく、サクヤの体調が良くないんだろう。早く治療法を見つけないとまずい」

「治療法? まさか九尾も……!」

 ナーシェは察したようだ。

「で、でもなんでイーナちゃんが!それにサクヤってなんなんですか?」

 俺はナーシェに九尾の身体に何が起きているかを説明した。

「なるほど、イーナちゃんもお医者様だったんですね!私と同じです!しかもモンスターのお医者さんなんてすごいです!」

「い、いや、それはいいんだけど、私の正体いったよね? なんでイーナちゃんなの……」

「見た目が可愛いからいいんです!イーナちゃんはイーナちゃんなんです!」

 よくわからない理論で押し切られてしまった。

「じつは、私達もまだ奇病の治療法は分かっていないんです。原因はなにやら臓器に、虫が感染する事によるみたいなのですが……」

「そこまで分かってるの!?」

「はい、ただ、摘出が難しくて……綺麗に癒着していて、無理矢理取ると亡くなってしまうので……現状の医学ではどうしようもないのです。必死に研究はしているのですが……」

「もしかしたらイーナちゃんなら取れるかも知れないですけど……」

「ね、ねえ……この世界の医療はどの位まで発展しているの?麻酔とかは使えるの?医療機器は?」

 俺の怒濤の質問ラッシュにナーシェは答えてくれた。

「麻酔はもう浸透しています。ただ、現状課題も多く、麻酔のかけ過ぎによる心停止という問題があるので、安全性はまだまだですが」

 もしかしたら、サクヤの病気をこの目で見られるかも知れない。少しの希望が見えた。

「しかし、狐の手術なんて、受け入れてくれるのかな?」

 一番の問題である。

「私の知り合いのお医者様に内密に頼んでましょうか?」

「いや、でも大騒ぎになるかも知れないよ?」

 ここで、俺は一つの考えが思いつく。

「夜叉のコネクションなら……」

「夜叉? 伝説の夜叉も実在するんですか……?」

「そう!1回フリスディカに戻ろう!」

「どちらにしても、ギルドへの報告は必要ですから、ちょうど良いですね!」

 こうして、俺達は一度フリスディカに戻ることにした。

 ギルドへの報告は、受付のおねえさんに伝えるだけでスムーズに終わった。ただし、ルドラの乱入はなかなかにギルドを騒がせたが。謝礼は月ごとにまとめて払われるとのことだ。

 ギルドへの報告を終えた俺達は、前に案内された酒場の奥へと向かった。都合良く、今日はミドウもここにいたようだ。俺達は再びミドウの前へと案内された。

「九尾よ!なんだ?願いとは?」

 ミドウは笑いながら、こちらの願いを聞いてきた。

「ミドウさん!狐の治療が出来る病院を知りませんか?場所だけ貸してくれれば大丈夫なんです!医者はこちらで用意します。」

「それくらいはたやすいことだ、ここに行け。紹介はしておこう!」

 そう言って紹介された病院はなかなかに闇病院であったが。その方が都合が良い。路地裏の一般人が近寄らなさそうな場所に、その病院はあった。

「おまえさんがたが、温羅の紹介かい?」

 闇病院のドアを開けると、怪しいおじさんが出てきた。

「そうです、手術室をお貸し頂きたい。お願いします」

 そんなこんなで、手術の準備は整った。麻酔もある、メスも、薬も。流石に心電図みたいなのものはなかったが。あとは、麻酔にサクヤ自身が耐えきれるかどうかだ。これは検査のしようがないので何とも言えない。しかし、現状これ以上の環境は望めないであろう。やるなら今しか無い。

 手術室には、俺とルカと、ナーシェではいることになった。

「サクヤ、憑依をとけるか?」

 そういうと、目の前に、前よりも衰弱したのが明らかであろうサクヤが現れた。そして、久方ぶりの男の身体である。むしろ違和感を感じる。

「イーナ様!そんなお姿だったの!何となく似てるね!」

 ルカ自身俺の本当の姿を見るのははじめてだった。

「ほえー!!イーナちゃんがイーナさんになりました!」

 ナーシェも驚いているようだ。

「イーナよ……頼むぞ」

「任せてよ」

 こうして、俺達はついにサクヤをむしばむ病気の正体へと近づくのであった。
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