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人間界編

17話 ギルド

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 いっけなーーい遅刻遅刻!

 私はお医者をやっているナーシェ!今日はお仕事の日なのに寝坊しちゃった!てへっ!

 早くギルドに向かわないと!大変!

 そして、街角を曲がったとき、ナーシェは通行人にぶつかった。

「だ、大丈夫ですか!?すいません!急いでいたもので……!」

 ぶつかったのは女の子であった。

    ああ、こんなかわいい女の子を傷つけてしまうだなんて……私……お医者さん失格だわ……

……………………………………………………………………

「いたた……」

 朝から人にぶつかってしまうだなんてついてないな……

「すいま……」

 謝ろうとして、顔を上げると、目の前では、壁に頭を打ち付けている女性がいた。その女性は白衣を着ている。医者か……?

「ごめんなさーーーい!こんな可愛い子にぶつかってしまうだなんて……ああ神様……!私はとんでもない罪を犯してしまいました!!」

「なんだこの人……?」

――変な奴らが多い街じゃの……

「お、おい、こっちは大丈夫だから……! 落ち着いて……!」

 そう言うと、女の人は額から血を出しながら、こちらの顔の目の前まで近づいてきた。ホラーだ。

「本当に大丈夫ですか……!私を許して頂けますか……!」

「こ、こわい……」

 俺よりも、白衣を着た女性の方がよっぽど重症であろう。額から血が垂れている。

「それより!おねえさん……!血!血でてる!」

 俺は持っていたハンカチでお姉さんの額を拭いた。お姉さんはなにやら赤面していた。

「ありがとう!優しいね!君!」

「それより、そんな急いでどうしたの?大丈夫?」

 俺がそう聞くと、お姉さんは思い出したようで、急に慌て出した。

「そうだった!ギルドで!今日はモンスター調査のお仕事が!」

 俺はその言葉に興味を持った。モンスター調査? なんて楽しそうな響きだ…… 獣医師としての血が騒いだ。

「お姉さん!お…… いや、わたしたちもついていって良い!?」

「いいけど…… 急いで行くわよ!」

 というわけで、俺達はお姉さんと共に走ってギルドへと向かった。


……………………………………………………………………


「ええ~!もう行っちゃったの……!」

 どうやら、お姉さんの仲間は先に出発してしまったようだ。

「はい、遅刻してくるような奴はいらん……お前はクビだと……言付けを」

「がびーーん!」

 お姉さんは凹んでいる。

「だ、大丈夫……?」

「だ、だいじょばないかも……」

 お姉さんは凹んでいる。

 なんとか、この空気を変えねばならない!ということで、俺はギルドについてお姉さんに聞いた。

「ね、ねえ……お姉さん!わっ……私ギルドについて知りたいなーー」

 そう言うと、お姉さんはピッと立ち上がり、笑顔でこちらに来た。

「良いよ!お姉さんが案内してあげる!」

 ち、近い……
 お姉さんは俺の手を握り、ギルド内の説明をはじめてくれた。

「まずここね!ここは受付!いろんな依頼とかが来るところで……」

「ま、待って!ギルドについての仕組みから……教えて!」

「あなたギルドの事知らないの!?」

 お姉さんは驚いていた。人間界では知らないものがいないらしい。

「じゃあ、ギルドって何ってとこから始めるね!まず、モンスターは知ってる?」

「知ってるよ!」

 流石にそのくらいは分かる。
 
「普段は、人間と離れたところに住んでて、基本的には干渉し合うことはないんだけど、たまに人を襲ってしまうやつとかが出てきてね!それと戦って、人の生活を守る組織がギルドなんだよ!」

 なるほど……いわば害獣処理か……

「それで、この国シャウン王国のギルドはこの街にあるんだ!他にも、アーストリア連邦に属している国にはそれぞれギルドがあって、連携もしあってるんだよ!」

 アーストリア連邦とは、今で言うEUみたいなものらしいな…… この国、シャウンも連邦に所属している国の一つのようだ。

「それで、私はこのギルドに医者として登録してるナーシェ!人間のお医者さんだけど、生物学にも興味があって……モンスターの生態とか……そういうのの調査がメインかな!」

「お姉さん、お医者様だったんだね!」

「そうなの……失敗続きなんだけどね……」

 俺はギルドに興味が湧いた。無駄な討伐はしたくないが、やはり、獣医師としての仕事柄、害獣対策などは沢山学んでいたし、何よりモンスターの生態には非常に興味がある。

「ねえ……お姉さん!お……いや、わたしたちもギルドに登録って出来る!?」

「ええ…… 大丈夫……? 調査と言ってもモンスターに襲われることもあるのよ……!」

 お姉さんは心配そうにこちらを見ている。

「大丈夫大丈夫!この2人……シータもルートもどっちも強いし!」

 いきなりふられたからだろうか、ルートもシータも戸惑っていた。すまん。てへっ

「おっ……おい」
「こいつ……」

「そ、そうね…… 大丈夫そうね! 分かったわ……!」

 お姉さんはまだ心配していそうだったが、俺の熱意についに諦めたのだろうか、ギルドの登録場所に案内してくれた。

「ここで登録するの! すいませーん!3人新規登録希望者がいるのですが!はい!紹介者はナーシェです!はい!」

「紹介者が必要なんだね」

 俺がそう聞くと、受付のお姉さんが答えた。

「はい、身上の不明なものをいれるわけにはいきませんので、誰かの紹介でのみ入れることが決まっているんです!一応連邦の組織ですので!」

 お姉さんは続けた。

「ここに名前と出身地をお願いします!」

 出身地……?どうしようか…… レェーヴ平野でいいか

「あなたレェーヴから来たんですか!?」

 お姉さんもナーシェも驚いているようだ

「そ、そんなに驚くことなの……?」

「レェーヴからの来訪者はなかなかいませんからね……珍しいですよ!」

 な、なるほど、確かに人の文明から離れて生きている民族らしかったしな

「はい、ではこちらお渡ししますね。仮ギルドパスです」

「仮ギルドパス?」

「ギルドパスはギルドに所属していることを証明するカードですね!身分証明としても使えます!ただし、まだ本登録は出来ていないので、仮のものになります!登録希望者には講習を受けて頂いて、試験に合格すればギルドパスをお渡しする仕組みになっているんです!一部を除いては!」

「一部?」

「例えば、ナーシェさんのように医学を王立学校で学んできたような場合は、免除されます!」

「まあ講習と試験って言ってもそんなに難しくはないから大丈夫だよ!」
ナーシェはこちらを励ますように笑顔で言う。

 なるほどね……試験かおもしろい、5年ぶりくらいか?

 俺達はナーシェの案内にしたがって、ギルド登録のための講習へと向かった。
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