夢の中

ソフトウェアー会社に勤務する時夫は奇妙な夢を見る。夢の中で羽が生えている生き物になって、夢から覚める瞬間に頭痛が起こる。時夫は大学病院で精密検査をするが異常なし。精神科でも診てもらうが、医師が夢と頭痛の関連を見出せず見放される。
 時夫には勇というロンドンへ長期出張中の友人がいるが、彼の家の管理を任されて住んでいる。ある日帰宅すると玄関に鏡が掛けてあった。鏡は時夫の知らぬ間に留守の間に置かれていた。時夫は玄関に鏡が置かれた不気味さよりも鏡も持つ神秘さに魅かれた。その鏡に近寄ると鏡の中に吸い込まれてしまう。そこは闇であった。が、鏡が明かりを放っていた。闇の中でこれは夢ではないと確信しつつ、鏡から脱出するためもがいた。
 鏡はロンドンに居る勇が骨董店で買ったものを、時夫が住んでいる日本の自宅に送ったものだった。勇の話によると鏡は二つ組らしい。あまりに高額のため片方の鏡だけしか買えなかったらしい。もう片方はそのままロンドンにあるということだ。不思議な鏡だ。奇妙だ。鏡は反対側を映すのだ。そればかりか勇はこの不思議な鏡を通って日本とロンドンを行き来した。勇は頻繁に時夫のもとにやってくるのだった。時夫はこの不思議な鏡をヒントにゲームを開発した。鏡のおかげで仕事に成功を収めた。
 一方、いつも通勤中に出会う少女がいた。ある朝二人がすれ違うまさにその時、少女が突如として倒れた。時夫が助けたことで少女の名を武田晴絵と知り、やがて二人は結婚する。一年が過ぎた結婚記念日に晴絵は再び倒れた。脳に腫瘍が見つかり治療のすべがなかった。晴絵の残された時間を時夫はともに過ごしたかった。晴絵の希望でイタリアへ旅する。旅の最後で時夫はロンドンへ向かう。あの骨董店のもう片方の鏡が見たかった。晴絵に見せたかった。
 晴絵は鏡を見つめた。そして触れた。晴絵は鏡に吸い込まれた。時夫が鏡の中の晴絵を追う。気がつくと二人はかつて時夫が住んでいた勇の家にいた。驚いたことにこの体験で晴絵の腫瘍は消えた。晴絵の病の完治は鏡と深く関係することを時夫と勇は悟る。二人は決めた。互いの命が危険にさらされないために、このことは二人だけの秘密にしようと。
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