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第1章
第3話
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「この公式にはこのような意味があります。公式は意味が分からなくても使うと簡単に問題が解けて便利なものですが、意味が分かると数学の面白さが分かっていいですよ」
教室中に数学の教師の声が響いていた。決して眠くなるような声でも話し方でもないが、数学の授業というだけで眠くなってしまう。だが、新学期になってからは、状況が一変していた。教壇を見る時に、視界に入る映像が以前と違ったものになっていた。
瑞瑠の横顔が、必ず視界に入って来るのであった。瑞瑠の座席は、中央の最前列、まさに教卓の真ん前である。進治の座席は最前列の右端である。教卓の教師の顔を見るにしても、黒板の方を見るにしても、いやがおうにも瑞瑠の顔が眼に入る。でも、そのことは進治にとって迷惑のことではなかった。それどころか進治にとって嬉しいことであり、有り難いことであった。
瑞瑠とは2学年のとき体育祭や文化祭で同じグループになることがあった。体育祭や文化祭の準備で行動をともにしたり、打ち合わせのために言葉を交わしたりして、直接接する機会が多くなった。そんな中でいつの間にか進治は瑞瑠に惹かれるようになっていた。
二年から三年に進級するにあたって、受験ということもあって、クラス替えということがなかった。瑞瑠とまた同じクラスであることが、進治にはうれしいことであった。進治をいじめる鬼平たちがまた同じクラスであることは耐えられないことであったが、瑞瑠に毎日会えるということを考えたらその辛さは乗り切っていけることのように思えた。
進治は最近信じられないような異変に気がついた。鬼平たちが進治をいじめなくなったばかりではなく、進治に近づかなくなったのである。あの日鬼兵たちに『吸い魔狂の館』へ連れて行かれた。学区内に豪邸があって、空き家になっていた。そこに誰かが住んでいたことを見たことがない。だから物心付いた時からそこが空き家であると進治は思っている。いつの間にか、その家には吸血鬼が住んでいると近くに住む子どもたちが噂するようになった。それでいつのまにかその家が『吸い魔狂の館』と呼ばれるようになった。
鬼兵に『吸い魔狂の館』の中に忍び込んで、金目のものを盗んで来るように脅されて、中に入っていった。黄金色の額縁の鏡の前に来て壁から取ろうと手にした時まで覚えているが、その後の記憶が欠落していた。気がついた時進治は『吸い魔狂の館』の門扉から数メートル離れた所に立っていた。
その日家に帰って、玄関の扉を開けると、両親が粘着テープで拘束されていて、3人の目出し帽を被った男たちに脅されていた。その後のことは記憶になかった。気がついた時は両親の両腕から剥がしたばかりの粘着テープを手に持っていた。両親には3人の目出し帽を被っていた男たちの記憶は全く無く、進治が手に持っている粘着テープのことを尋ねてきた。進治はなぜ自分が粘着テープを持っているのか答えることが出来なかった。
体育祭や文化祭の準備や打ち合わせで、必要性があったときは、進治は瑞瑠と言葉を交わすことが出来たのであるが、授業だけの日は、休み時間や昼休みの時間になっても、言葉を交わすことができなかった。進治にとって、授業中に瑞瑠のことをずっと見ていられる、それだけで充分であった。今進治にとって一番幸せな時は、普通教室で授業を受けていることであった。その時間瑞瑠をじっと見ていることが出来たからである。
美術や音楽などのように普通教室でない時は苦痛であった。だから、体育も含めて普通教室での授業が少ない日は、苦痛な日であった。
さらに苦痛であったのは、瑞瑠が公欠で一日学校にいないときであった。瑞瑠は吹奏楽部に入っていた。進治と瑞瑠の通っている中学は、吹奏楽の名門校で、全国大会に出場することは珍しいことではなかった。レギュラーメンバーであった瑞瑠は大会やコンクールの度に公欠になるのであった。朝学校に出てき瑞瑠の席が空席になっているとき、胸が締め付けられるのような思いになるのである。前日から瑞瑠が公欠であることを知っている時は、その日学校を欠席したいと思うことがたびたびあった。
まだ2学年の時吹奏楽部に入部しようかという思いが頭をかすめたことがあったが、無理な話であった。音楽に関して進治には苦手意識しかない。弾ける楽器がないどころか、全くの音痴であった。楽器を素晴らしい音色で弾ける瑞瑠は女神であった。
放課後音楽室前の廊下で、瑞瑠が楽器を自主練習しているところを見かけることがよくあった。最初瑞瑠が引いている楽器はトランペットであるとおもったが、どこか普通のトランペットとは違う楽器に思えて、瑞瑠と言葉を交わす良い機会に思えて聞いてみた。コルネットであった。時々コルネットで完成した曲を独奏していることがあった。そのようなとき校舎の西端の音楽教室前の廊下から離れた東端の廊下に立って、気づかれないように聞いているのであった。何の曲であるのか分からなかったが、その美しい音色に聞き惚れて時間の経つのを忘れてしまうのであった。
教室中に数学の教師の声が響いていた。決して眠くなるような声でも話し方でもないが、数学の授業というだけで眠くなってしまう。だが、新学期になってからは、状況が一変していた。教壇を見る時に、視界に入る映像が以前と違ったものになっていた。
瑞瑠の横顔が、必ず視界に入って来るのであった。瑞瑠の座席は、中央の最前列、まさに教卓の真ん前である。進治の座席は最前列の右端である。教卓の教師の顔を見るにしても、黒板の方を見るにしても、いやがおうにも瑞瑠の顔が眼に入る。でも、そのことは進治にとって迷惑のことではなかった。それどころか進治にとって嬉しいことであり、有り難いことであった。
瑞瑠とは2学年のとき体育祭や文化祭で同じグループになることがあった。体育祭や文化祭の準備で行動をともにしたり、打ち合わせのために言葉を交わしたりして、直接接する機会が多くなった。そんな中でいつの間にか進治は瑞瑠に惹かれるようになっていた。
二年から三年に進級するにあたって、受験ということもあって、クラス替えということがなかった。瑞瑠とまた同じクラスであることが、進治にはうれしいことであった。進治をいじめる鬼平たちがまた同じクラスであることは耐えられないことであったが、瑞瑠に毎日会えるということを考えたらその辛さは乗り切っていけることのように思えた。
進治は最近信じられないような異変に気がついた。鬼平たちが進治をいじめなくなったばかりではなく、進治に近づかなくなったのである。あの日鬼兵たちに『吸い魔狂の館』へ連れて行かれた。学区内に豪邸があって、空き家になっていた。そこに誰かが住んでいたことを見たことがない。だから物心付いた時からそこが空き家であると進治は思っている。いつの間にか、その家には吸血鬼が住んでいると近くに住む子どもたちが噂するようになった。それでいつのまにかその家が『吸い魔狂の館』と呼ばれるようになった。
鬼兵に『吸い魔狂の館』の中に忍び込んで、金目のものを盗んで来るように脅されて、中に入っていった。黄金色の額縁の鏡の前に来て壁から取ろうと手にした時まで覚えているが、その後の記憶が欠落していた。気がついた時進治は『吸い魔狂の館』の門扉から数メートル離れた所に立っていた。
その日家に帰って、玄関の扉を開けると、両親が粘着テープで拘束されていて、3人の目出し帽を被った男たちに脅されていた。その後のことは記憶になかった。気がついた時は両親の両腕から剥がしたばかりの粘着テープを手に持っていた。両親には3人の目出し帽を被っていた男たちの記憶は全く無く、進治が手に持っている粘着テープのことを尋ねてきた。進治はなぜ自分が粘着テープを持っているのか答えることが出来なかった。
体育祭や文化祭の準備や打ち合わせで、必要性があったときは、進治は瑞瑠と言葉を交わすことが出来たのであるが、授業だけの日は、休み時間や昼休みの時間になっても、言葉を交わすことができなかった。進治にとって、授業中に瑞瑠のことをずっと見ていられる、それだけで充分であった。今進治にとって一番幸せな時は、普通教室で授業を受けていることであった。その時間瑞瑠をじっと見ていることが出来たからである。
美術や音楽などのように普通教室でない時は苦痛であった。だから、体育も含めて普通教室での授業が少ない日は、苦痛な日であった。
さらに苦痛であったのは、瑞瑠が公欠で一日学校にいないときであった。瑞瑠は吹奏楽部に入っていた。進治と瑞瑠の通っている中学は、吹奏楽の名門校で、全国大会に出場することは珍しいことではなかった。レギュラーメンバーであった瑞瑠は大会やコンクールの度に公欠になるのであった。朝学校に出てき瑞瑠の席が空席になっているとき、胸が締め付けられるのような思いになるのである。前日から瑞瑠が公欠であることを知っている時は、その日学校を欠席したいと思うことがたびたびあった。
まだ2学年の時吹奏楽部に入部しようかという思いが頭をかすめたことがあったが、無理な話であった。音楽に関して進治には苦手意識しかない。弾ける楽器がないどころか、全くの音痴であった。楽器を素晴らしい音色で弾ける瑞瑠は女神であった。
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