輝く樹木

振矢 留以洲

文字の大きさ
上 下
3 / 71
第1章

第3話

しおりを挟む
 輝夫は東京での狭い部屋と古くなって時々軋むベッドに比べて、あまりにも広すぎる部屋と、届いたばかりの新しいベッドに横になってなかなか寝付けなかった。ベッドから起き上がり、部屋の明かりを点けてから、窓のカーテンを開けた。曇った夜空は月の明かりも星の明かりもなく、輝夫の部屋から漏れる明かりが、広大な前庭の光景をおぼろげに映していた。輝夫の部屋の明かりで照らされた薄暗い中でも、道路沿いの3本の木々が風で揺らめいているのが分かった。
 輝夫が窓を開けると、風で揺らめいて葉が擦れる音が聞こえてきた。その音にしばらく耳を傾けていると、とても心地よい音に聞こえてきた。葉が擦れる音に交じって、枝が軋む音が聞こえてきた。葉が擦れる音と枝の軋む音が音楽を奏でているかのようであった。枝の軋む音の伴奏で葉が擦れる音で旋律が奏でられているかのようであった。
 木々の葉と枝が奏でる音楽で眠気を感じた輝夫は、再び床につこうと部屋の電気を消した。カーテンを閉めようと窓に目をやると、茶色の光が窓から差し込んできた。輝夫は窓際まで行って外を見た。3本の木の中で中央にある木だけが暗闇の中ではっきりとした輪郭を表していた。その中央にある木の幹に光るものがあった。茶色の眩しい光が暗闇の中で輝いていた。
  階段を降りていくと、1階のホールは小さなランプの光だけで薄暗く静かだった。両親はもうすでに眠っているようであった。輝夫は玄関の扉を開けて、前庭の中に足を踏み入れた。中央の木の幹の茶色の光が、前庭全体を照らしていた。家と庭が薄暗い茶色の世界に包まれていた。
 輝夫は茶色の光を放つ中央の木に、数歩手前まで近づいた。あまりにも眩しい光のため目を細めた。さらに、すぐに手で触れられるところまで近づいた。急に体中が温まり軽くなっていくのを感じた。体が少しずつ浮いているような感じがした。いままで感じたことのないような心地よさを体全体で感じた。自分の意識がその心地よさに溶け込んで少しずつなくなっていくのを感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...