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第1章
第4話
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入社から半年過ぎた。自社での玩具部門のホームページの管理が安定したものとなったので、響子は定時で仕事を終えるようになった。駅の反対側のいくつかの店でウィンドウショピングを楽しんだ。その日彼女は列車の時間を気にすることなしに乗車した。列車は座席に座れるくらいの混み具合であった。
商品のリニューアルに合わせて変更したホームページのHTMLを印字したコピー用紙の綴を鞄の中から取り出した。網掛けした変更箇所を入念にチェックしていた。響子は以前帰りの列車の中で感じた異様な気配のことは全く忘れていた。HTML文のチェックに没頭していた。
HTML文のチェックに没頭している意識を一瞬中断させるものがあった。最初一瞬だけのことであったのでやり過ごしていた。その一瞬が何度となく訪れ、時間の経過とともに頻繁になってきたとき意識せざるにはいられなくなった。この列車の中でも、友梨と妙とで行ったレストランの中でも、同様に感じたあの異様な気配であることは疑いようもなかった。
響子はコピー用紙を見て俯いていた顔を上げて、正面を見た。彼女の向かい側に座っていた男性が俯いていたが、今まで正面を見ていた顔を突然俯かせたような感じがした。体全体が冷たくなり固くなっていくのを感じた。微かに震えを感じ始め、少しずつ震えが激しくなっていくように感じた。コピー用紙の綴を鞄の中に仕舞い、膝を覆うようにして鞄を膝の上に置いた。顔を鞄の中に埋めるようにした。傍目から見て寝ていると思われることを意図してのことであった。
駅から自宅に向かって歩道を歩いているとき、異様な気配を感じることはなかった。それでも駅から自宅まで歩いていく間気がきでならなかった。あの男性が自宅まで後をつけているのではないかと思わずにはいられなかった。何度も立ち止まっては後ろを振り向いた。一瞬あの男性ではないかと思ったことがあったが、人違いであった。
カードキーを翳してマンションの玄関を通り、最後に自宅のドアにカードキーを翳して中に入ったとき安堵のため息をついた。
商品のリニューアルに合わせて変更したホームページのHTMLを印字したコピー用紙の綴を鞄の中から取り出した。網掛けした変更箇所を入念にチェックしていた。響子は以前帰りの列車の中で感じた異様な気配のことは全く忘れていた。HTML文のチェックに没頭していた。
HTML文のチェックに没頭している意識を一瞬中断させるものがあった。最初一瞬だけのことであったのでやり過ごしていた。その一瞬が何度となく訪れ、時間の経過とともに頻繁になってきたとき意識せざるにはいられなくなった。この列車の中でも、友梨と妙とで行ったレストランの中でも、同様に感じたあの異様な気配であることは疑いようもなかった。
響子はコピー用紙を見て俯いていた顔を上げて、正面を見た。彼女の向かい側に座っていた男性が俯いていたが、今まで正面を見ていた顔を突然俯かせたような感じがした。体全体が冷たくなり固くなっていくのを感じた。微かに震えを感じ始め、少しずつ震えが激しくなっていくように感じた。コピー用紙の綴を鞄の中に仕舞い、膝を覆うようにして鞄を膝の上に置いた。顔を鞄の中に埋めるようにした。傍目から見て寝ていると思われることを意図してのことであった。
駅から自宅に向かって歩道を歩いているとき、異様な気配を感じることはなかった。それでも駅から自宅まで歩いていく間気がきでならなかった。あの男性が自宅まで後をつけているのではないかと思わずにはいられなかった。何度も立ち止まっては後ろを振り向いた。一瞬あの男性ではないかと思ったことがあったが、人違いであった。
カードキーを翳してマンションの玄関を通り、最後に自宅のドアにカードキーを翳して中に入ったとき安堵のため息をついた。
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