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スピンオフ:サンシャイン~ザーメン搾り隊ミキの恋~
壁の向こうに①
しおりを挟むカーテンレールに吊るされた釣り鐘型の風鈴が、チリーン、と鳴る。
夜通し客をとらされ、疲れ果てて眠っていたミキは、その鈴の音で目を覚ました。
エアコンを入れる前に換気しようと窓を開け――閉めるのを忘れて寝てしまっていたのだ。
布団から起き上がり、冷蔵庫の炭酸水を飲む。
ザーメンの味の残る喉に冷たい水がすうっと流れていく。
壁時計を見上げる。
昼の1時。
ぐーっ、とお腹が鳴り、
「お腹……すいたな」
とつぶやく。
そのとき、ピンポーンッ、とインターフォンが鳴った。
「はっ……あっ……いっ――」
慌てて床に転がっていたショートパンツとTシャツを着る。
玄関ドアを開けると、見知らぬ若い男が廊下に立っていた。
すらっとした長身を折り曲げ、頭を下げた男は、
「隣に引っ越してきた三井田です。どうかよろしくお願いします」
包装紙で梱包されたフェイスタオルをミキに差し出した。
「――ど、どうもありがとう――」
タオルを受け取る。
顔を上げた男と目が合う。
(うわっ……)
瞬間、ミキは、大きな目をパチッ、と瞬かせた。
(うそぉ……めっちゃイケメ~ン♡)
サラサラしたストレートのマッシュルームヘアーに、かたちのいい二重瞼。
頬の小さなニキビ跡が、少年の面影を残している。
黒いランニングシャツから伸びた細マッチョな二の腕。
スリムなブルージーンズの股間に目を落としたミキは、
(ヤだぁ……おちんぽ――おっきそぉ……♡♡♡)
おもわず、舌なめずりする。
ガッチリしたクマ体型の、小顔のベビーフェイス。
隣に越してきた男は、ミキのドドドストライクだった。
(あーん、食べちゃいた~~い)
目を♡マークにし、両手を組んでモジモジするミキに、
「あ……あの……?」
戸惑ったように首をかしげる隣の三井田。
そのとき、ミキのお腹が大きく鳴った。
「あっ……!」
慌てて両手でお腹をおさえる。それでもお腹の音は鳴りやまない。
「えっ、へへっ……ごっ、ごめんなさいっ……。お昼まだ食べてなくておなかすいちゃってぇ」
「い、いえ――気にしないでください。ぼくも片付けが終わらなくて――お昼まだです」
「ほんとう? じゃあもしよかったら、一緒にごはん食べにいかない?」
「えっ……?」
「10分――ううん、20分経ったらまたピンポンしに来て! よろしくねっ」
ミキと三井田がランチに向かったのは、近所のハンバーガーショップだった。
「うわっ、可愛い~」
テーブルの花瓶に生けられていた一輪のミニひまわりに、ミキは声をはずませる。
「フレッシュネスバーガーっていつもお花飾ってあるよね。ステキ♡」
パフスリーブがシースルーになった、白のレースブラウス。
ふんわりした小花柄のスカート。
ツインテールの髪をお姫さまのようにカールしたミキが、ばっちりアイメイクした目で三井田を見つめる。
――三井田は都内の大学1年生。
夏休みに入ったタイミングで、実家から、大学近くのアパートに越してきた。
いくつか不動産を回り、駅近で、家賃がいちばん安いことで決めたアパート。
安いぶん、多少住民の民度が低いのは覚悟していたが――
(……こんな可愛い女の子があんな汚いところで一人暮らしを……?)
ニコニコしながらハンバーガーを頬ばるミキを、三井田はじっと見つめる。
身長193センチの三井田から見て、身長158センチ、体重42キロしかないミキは、まるで森の妖精のように可憐で小さかった。
「みい……たん?」
「……えっ?」
「みいたん――下の名前なんていうの?」
「あっ……ワタル――航空機の「航」って書いてワタル」
「ふーん……やっぱり、みいたんがいいかなぁ――みいたんって呼んでいい?」
「み……? い、いい――よ」
「やったぁ! ありがとう、みいたん♡」
クルクルよく動くどんぐりみたいな瞳と、つやつやしたピンク色のリップ。
まるでちがう星から来た、不思議な異星人みたいだと三井田は思った。
「……みいたん、何かスポーツしてるの?」
「あ――ああ、ずっとラグビーしてる」
「へぇ、だからそんなにガッチリしてるんだぁ~胸とかすごい厚いもんね」
「その――ミキ……ちゃんは?」
「ん? ミキ? なにもしてない。体動かすのきらいだから」
「そ、そうなんだ……」
「あ、でも、セックスは好きだよぉ♡ 騎乗位で腰振り100回できる~」
「……ッ!? ……ごっ……! ブッ……!」
飲んでいたコーラをおもわず噴きだす三井田。
「だいじょーぶ? みーたん」
「そ――そんなことっ……! おっ、女のコが口にしたらダメだよっ……!」
「えー? だってミキ――男のコだよ」
「えっ……!?」
オレンジジュースのストローをくわえながら首をかしげるミキの顔を、三井田は穴があきそうなほど凝視した。
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