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第一章:ヤクザの性奴隷
愛されなかった少年
しおりを挟む――仙頭組の幹部、須長が殺害された事件から、2カ月が過ぎようとしていた。
以前として容疑者は割れず、捜査は進展しなかった。
須長相手に売春していた三浦 椿の行方もいまだわからない。
そんなある日、事件を担当する草薙警部は、三浦 椿の伯父の経営する総合病院を訪れた。
東京の一等地にそびえるその病院は、ホテルのようにゴージャスな最先端の設備を備えていた。
「椿には、ほとほと手を焼いていましてね」
都心のビルディングを一望する最上階の院長室で、椿の伯父の三浦 薫は、白衣姿で大きくため息をついた。
「男のくせに売春など、三浦家の恥でしかありませんよ」
「……椿くんが自ら商売をしていたとお思いですか」
「おそらくそうでしょう。なにせ母親も17で妊娠した、ふしだらな女でしたからね」
「………」
実の妹である椿の母親をなぜそんなに蔑むのか、草薙には理解できなかった。
そこで、
「椿くんのお母さんは3年前、事故死していますね。あなたは当時14才だった椿くんを引き取った。……椿くんのお母さんは、10代のとき、留学先のロシアで椿くんのお父さんになる学生と出会い、椿くんを出産したのち破局。帰国し、ひとりで椿くんを育てていた。…‥‥そのあいだ、一切援助しなかったのは、あなたのご両親のお考えなのでしょうか?」
下調べしていた事実を単刀直入にぶつけてみた。
すると、薫は、ちがいます、と首を振った。
「……椿の母親――雅が我々の援助を拒んだのです。子どもは自分ひとりの力で育ててみせると。仕事のしすぎで疲れて運転を誤ったというのが警察の見解でしたが――けっきょく、最後にあんなお荷物を残して死んだ」
「雅さんは――写真を拝見しましたが――とてもキレイな女性でしたね。椿くんによく似ている。都営住宅で質素な生活をしながら、ひとり息子である椿くんをけんめいに育てていた。…‥立派な方だったのでは――と思いますよ」
「……何をおっしゃりたいのですか?」
薫の眉が、ピクッ、と苛立ったように動く。
いや、と首を振った草薙は、
「ただ私は――椿くんは周りが思うほど性に奔放な少年ではないと思うのです。もしかしたら根はピュアなのかもしれない。ただ――お母さん譲りの類まれな美貌ゆえに、誰かに利用されてしまったのかもしれない――と」
「ふん……」
いまいましげに首を振った薫は、
「椿の話はもうけっこうです。どこで野垂れ死にしようか知ったこっちゃない。警察の方の手を煩わせるのも申し訳ありませんからね。捜索願いも出しませんよ」
そう吐き捨てるようにいった。
……ひどいな……。
署に戻る車中、運転しながら、草薙はずっと胸糞悪い思いを抱いていた。
なぜあそこまで身内に冷酷になれるのか。
椿の母親と薫のあいだにどんな確執があったのかはわからない。
ふたりは、20も年の離れた兄妹だった。
その年齢差も、何か相容れない原因のひとつだったのかもしれない。
が――それにしても――――
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……それとも――
最悪の想像が、草薙の脳裏を駆け巡った。
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