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第一章:ヤクザの性奴隷
ミウラツバキの正体
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「――困りましたな」
高校の応接室。
向かいのソファにいた教頭の言葉に、草薙警部は、ほうと首をかしげた。
「何か問題でも?」
立ち上がった教頭は、観葉植物の鉢の立ち並ぶ窓辺に行き、2階からグラウンドを見下ろした。
――放課後のグラウンドに生徒の姿はない。
ふたたびソファに腰を下ろした教頭は、「それはそうですよ」と深いため息をつく。
「うちの生徒が、ヤクザ相手に売春してた――なんてね」
高輪地区にある、中高一貫の私立の男子校。
ミウラ ツバキ――三浦 椿は、この学校の高等部の二年生だった。
草薙は、応接室のテーブルに置かれた学生名簿に載った三浦 椿の顔写真を見た。
ずらりと並んだ顔写真のなかでひときわ目を引く美しい少年。
小さい写真ながら、右目の下に泣きボクロがあるのが確認できる。
須長が殺された部屋のベッドカバーからは、二人分の精液が検出された。
三浦 椿と須長が性行為を行っていたことは明らかだった。
部屋を借りていた会社は、事件が報道される前に雲隠れした。
警察が家宅捜索に踏み込んだとき、事務所はもぬけのからになっていた。
その後の調査で、その会社は、ウラで風俗売春の斡旋とアダルトDVDの販売を行っていたことがわかった。
だが、草薙の関心は、組織の実体より三浦 椿――その人にあった。
この学校は、有名大学の附属校で、芸能人や医者の息子など裕福な家庭の令息が通うことで知られていた。
そんなセレブ学校に通う少年がなぜ――売春などしていたのか。
「三浦 椿はどんな生徒でしたか?」
「どういうって……ごくフツーの――目立たない生徒ですよ」
教頭の目が、わずかに泳ぐ。
「特に問題もなく?」
「――ええ、まあ。少し休みがちなところはありますが……成績も学年100位以内に入っていますし、学内で問題を起こしたことはないです」
「……わかりました。では、親御さんは? 特に捜索願いなどは出されていないようですが」
「それは……」
教頭はしばしためらってから、
「……三浦くんは親御さんを早くに亡くしていて、親戚の家に身を寄せているのです。三浦病院という総合医院を経営なさっている方です。息子さんたちも、うちの学校の卒業生ですよ」
「ほう。それはそれは……資産家なのですね」
「ええ。慈善事業もなさっている、たいへんな篤志家ですよ」
篤志家……
そんな連中が裏でアコギな商売に手を出している。
そんなケースを、草薙はいやというほど知っていた。
話を終え、校舎の外に出た草薙は空を仰いだ。
10月の夕暮れの空に、トンボが二匹、連結して飛んでいた。
この空の下のどこかに、三浦椿がいる。
そのゆくえを探すのは、あのトンボの行きつく果てを見つけるより、困難なことのように思えた。
高校の応接室。
向かいのソファにいた教頭の言葉に、草薙警部は、ほうと首をかしげた。
「何か問題でも?」
立ち上がった教頭は、観葉植物の鉢の立ち並ぶ窓辺に行き、2階からグラウンドを見下ろした。
――放課後のグラウンドに生徒の姿はない。
ふたたびソファに腰を下ろした教頭は、「それはそうですよ」と深いため息をつく。
「うちの生徒が、ヤクザ相手に売春してた――なんてね」
高輪地区にある、中高一貫の私立の男子校。
ミウラ ツバキ――三浦 椿は、この学校の高等部の二年生だった。
草薙は、応接室のテーブルに置かれた学生名簿に載った三浦 椿の顔写真を見た。
ずらりと並んだ顔写真のなかでひときわ目を引く美しい少年。
小さい写真ながら、右目の下に泣きボクロがあるのが確認できる。
須長が殺された部屋のベッドカバーからは、二人分の精液が検出された。
三浦 椿と須長が性行為を行っていたことは明らかだった。
部屋を借りていた会社は、事件が報道される前に雲隠れした。
警察が家宅捜索に踏み込んだとき、事務所はもぬけのからになっていた。
その後の調査で、その会社は、ウラで風俗売春の斡旋とアダルトDVDの販売を行っていたことがわかった。
だが、草薙の関心は、組織の実体より三浦 椿――その人にあった。
この学校は、有名大学の附属校で、芸能人や医者の息子など裕福な家庭の令息が通うことで知られていた。
そんなセレブ学校に通う少年がなぜ――売春などしていたのか。
「三浦 椿はどんな生徒でしたか?」
「どういうって……ごくフツーの――目立たない生徒ですよ」
教頭の目が、わずかに泳ぐ。
「特に問題もなく?」
「――ええ、まあ。少し休みがちなところはありますが……成績も学年100位以内に入っていますし、学内で問題を起こしたことはないです」
「……わかりました。では、親御さんは? 特に捜索願いなどは出されていないようですが」
「それは……」
教頭はしばしためらってから、
「……三浦くんは親御さんを早くに亡くしていて、親戚の家に身を寄せているのです。三浦病院という総合医院を経営なさっている方です。息子さんたちも、うちの学校の卒業生ですよ」
「ほう。それはそれは……資産家なのですね」
「ええ。慈善事業もなさっている、たいへんな篤志家ですよ」
篤志家……
そんな連中が裏でアコギな商売に手を出している。
そんなケースを、草薙はいやというほど知っていた。
話を終え、校舎の外に出た草薙は空を仰いだ。
10月の夕暮れの空に、トンボが二匹、連結して飛んでいた。
この空の下のどこかに、三浦椿がいる。
そのゆくえを探すのは、あのトンボの行きつく果てを見つけるより、困難なことのように思えた。
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