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第十六話 ユウレスカ視点
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私は今後どうすればいいのだろう……。
思い悩んでいると、リファナさんがやってきた。
「ユウレスカ様。屋敷を出られると伺いましたが、それは本当でしょうか」
……きっとクラウス様が知らせたのだ。胸がズキリと痛む。
「はい。私がここに留まる理由はもうないんです……」
屋敷の人達には本当によくしてもらったから、出て行くのがつらい。首元の違和感にさえも寂しさを覚えるのは変だろうか?……外れた首輪を持って行こうか。これも思い出の品だし。
リファナさんはすっと跪いて、私に頭を垂れた。
「でしたら、私にお供させてください。本日よりお暇をいただきました」
えっ!?お暇って、クビってこと……?
「どういうことですか!私のせいでリファナさんまで……」
私を庇ってクラウス様の不興を買ったのだろうか。それとも──。
「いいえ。ユウレスカ様について行きたいという私の気持ちを、旦那様が汲んでくださったのです」
だから連れていってください、と優しげに微笑む。なんて素敵な人なんだ……。
「リファナさんが一緒ならとても心強いです」
そして、私たちは今後の生活プランを立てることにした。
「まずは、以前私がいた奴隷商店に行きたいです」
今の私が頼れる人は、屋敷を除けばオーナーだけだ。オーナーはそう悪い人ではない。誘拐犯から私を買って、クラウス様に売っただけ。
「……賛成いたします。そちらでユウレスカ様の国民権を得るための方法をご教授いただきましょう」
人を商品として扱う店だし、反対されるかもしれないと思ったけれど。力強く答えてくれたリファナさんに笑顔を見せて、私は言った。
「お昼過ぎに屋敷を出ましょう。最後にまたジーンさんのご飯が食べたいです」
奴隷商店『パラディ』。そこは人道に反する商売だと囁かれながらも、王都で堂々と店を構える奴隷専門店だ。良くも悪くも有名だったため、私とリファナさんは迷うことなくそこに辿り着いた。
「リファナさんは外で待っていてください」
少し前まで奴隷だった私にお付きの人がいるのは不自然だ。話をスムーズに進めるために、待っていてもらおう。
「わかりました。どうかご無事でお戻りください」
リファナさんは祈るように私を見送った。
店番に言伝を頼むと、すぐにオーナーが姿を見せた。
「ユウレスカ!何故お前が……?」
驚きと困惑が綯い交ぜになった表情をしている。
「オーナー、お久しぶりです」
「……上手くやったようだな。それで、ここへは何の用だ?」
首輪の無いのを見てとって、オーナーは私の状況を察したらしい。
「国民権を得て、働きたいのです。お力を貸していただけないでしょうか」
当面の生活資金はリファナさんが持っているとのことだったが、就活は早い方がいい。
「働くのか?お前程美しければ、愛人として迎えてくれるところがいくらでもあるだろう」
容姿を褒められるのは久しぶりだ。屋敷では誰も私の外見に触れなかった。……そもそも、オーナーの言葉で自分が美しいと思い込んでいたけれど、実際はそうでもないのかも。
「オーナーはそう言ってくれますけどね。私は今クラウス様に追い出されて傷心中なんです。他の男性を愛せる自信もありません」
「追い出されただと?お前は一体何をしたんだ」
それ聞きます?オーナーの瞳が正直に言えと語っている。
「誰にも言わないでくださいよ。クラウス様に許可を得ずに口付けたんです。その、怪我をしていて意識がなかったものだから、口移しで薬を……」
恥ずかしい……。これを聞いたからには、絶対に協力させてやる。
「なんだって!」
オーナーは私の顔を穴があくほどに、まじまじと見つめた。言いたいことは分かります。
「やっぱり不味かったですよね。医療行為のつもりでしたが、下心が無かったとも言い切れず……。今は反省しています」
だからそんな、変人を見るような目で見ないでください。
「……お前はもう自由の身だ。だが、お前が望むならまたあの屋敷に戻れるように協力してやるぞ」
そう言われても……。
「私に落ち度があって、追い出されたのです。受け入れてもらえるでしょうか」
なにか良い案があるならば教えてほしい。
「贈り物でもすればいい。あの手の男はそれで落ちる」
得意げにそう言うが、オーナーにクラウス様の何が分かるというのか。あんなにイケメンなんだから、プレゼントなんて掃いて捨てるほど貰ってるはず。
「……検討してみます。ですが、まずは国民権を得る方法を教えてください」
奴隷でも国民でもない今の状態は落ち着かない。
「それなら、私が国に申請してやれる。3日もすれば発行されるだろう」
本当ですか!今まで、偉そうなだけの人だと思っていてごめんなさい。
「ありがとうございます。……厚かましいことはご承知ですが、もう一つだけお願いがあります」
こちらも結構重要。今後の私の身の振り方が決まるので。
「シヴァンさんという方に連絡を取りたいのです。騎士だということしか分からないのですが、難しいでしょうか?」
オーナーには可愛く見えてるこの顔で、拝み倒す所存。
「……まあ、お前には感謝してるからな。なんとかしてやろう」
感謝?心当たりがないんですが。
「お前がいくらで買われたか知りたいか?」
ふふふ、と笑う様は気味が悪い。
「……いいえ、聞かないでおきます」
就職して生活が安定したら、クラウス様にお金を返したい。しかし無職の今、その金額を知ってしまったら……。プレッシャーに耐えられる自信が無い。
「それで、なんと伝えればいいのだ?」
「先日はたいへんお世話になりました。近日中にお会いしたいです、と」
シヴァンさんには責任を取ってもらおうと思う。私を誘惑したり、口を滑らせたりした責任は重いのだ。
お待たせいたしました。
お気に入り追加やブックマーク等、たいへん励みになっております。
引き続きお楽しみいただけるよう、努めてまいります。
思い悩んでいると、リファナさんがやってきた。
「ユウレスカ様。屋敷を出られると伺いましたが、それは本当でしょうか」
……きっとクラウス様が知らせたのだ。胸がズキリと痛む。
「はい。私がここに留まる理由はもうないんです……」
屋敷の人達には本当によくしてもらったから、出て行くのがつらい。首元の違和感にさえも寂しさを覚えるのは変だろうか?……外れた首輪を持って行こうか。これも思い出の品だし。
リファナさんはすっと跪いて、私に頭を垂れた。
「でしたら、私にお供させてください。本日よりお暇をいただきました」
えっ!?お暇って、クビってこと……?
「どういうことですか!私のせいでリファナさんまで……」
私を庇ってクラウス様の不興を買ったのだろうか。それとも──。
「いいえ。ユウレスカ様について行きたいという私の気持ちを、旦那様が汲んでくださったのです」
だから連れていってください、と優しげに微笑む。なんて素敵な人なんだ……。
「リファナさんが一緒ならとても心強いです」
そして、私たちは今後の生活プランを立てることにした。
「まずは、以前私がいた奴隷商店に行きたいです」
今の私が頼れる人は、屋敷を除けばオーナーだけだ。オーナーはそう悪い人ではない。誘拐犯から私を買って、クラウス様に売っただけ。
「……賛成いたします。そちらでユウレスカ様の国民権を得るための方法をご教授いただきましょう」
人を商品として扱う店だし、反対されるかもしれないと思ったけれど。力強く答えてくれたリファナさんに笑顔を見せて、私は言った。
「お昼過ぎに屋敷を出ましょう。最後にまたジーンさんのご飯が食べたいです」
奴隷商店『パラディ』。そこは人道に反する商売だと囁かれながらも、王都で堂々と店を構える奴隷専門店だ。良くも悪くも有名だったため、私とリファナさんは迷うことなくそこに辿り着いた。
「リファナさんは外で待っていてください」
少し前まで奴隷だった私にお付きの人がいるのは不自然だ。話をスムーズに進めるために、待っていてもらおう。
「わかりました。どうかご無事でお戻りください」
リファナさんは祈るように私を見送った。
店番に言伝を頼むと、すぐにオーナーが姿を見せた。
「ユウレスカ!何故お前が……?」
驚きと困惑が綯い交ぜになった表情をしている。
「オーナー、お久しぶりです」
「……上手くやったようだな。それで、ここへは何の用だ?」
首輪の無いのを見てとって、オーナーは私の状況を察したらしい。
「国民権を得て、働きたいのです。お力を貸していただけないでしょうか」
当面の生活資金はリファナさんが持っているとのことだったが、就活は早い方がいい。
「働くのか?お前程美しければ、愛人として迎えてくれるところがいくらでもあるだろう」
容姿を褒められるのは久しぶりだ。屋敷では誰も私の外見に触れなかった。……そもそも、オーナーの言葉で自分が美しいと思い込んでいたけれど、実際はそうでもないのかも。
「オーナーはそう言ってくれますけどね。私は今クラウス様に追い出されて傷心中なんです。他の男性を愛せる自信もありません」
「追い出されただと?お前は一体何をしたんだ」
それ聞きます?オーナーの瞳が正直に言えと語っている。
「誰にも言わないでくださいよ。クラウス様に許可を得ずに口付けたんです。その、怪我をしていて意識がなかったものだから、口移しで薬を……」
恥ずかしい……。これを聞いたからには、絶対に協力させてやる。
「なんだって!」
オーナーは私の顔を穴があくほどに、まじまじと見つめた。言いたいことは分かります。
「やっぱり不味かったですよね。医療行為のつもりでしたが、下心が無かったとも言い切れず……。今は反省しています」
だからそんな、変人を見るような目で見ないでください。
「……お前はもう自由の身だ。だが、お前が望むならまたあの屋敷に戻れるように協力してやるぞ」
そう言われても……。
「私に落ち度があって、追い出されたのです。受け入れてもらえるでしょうか」
なにか良い案があるならば教えてほしい。
「贈り物でもすればいい。あの手の男はそれで落ちる」
得意げにそう言うが、オーナーにクラウス様の何が分かるというのか。あんなにイケメンなんだから、プレゼントなんて掃いて捨てるほど貰ってるはず。
「……検討してみます。ですが、まずは国民権を得る方法を教えてください」
奴隷でも国民でもない今の状態は落ち着かない。
「それなら、私が国に申請してやれる。3日もすれば発行されるだろう」
本当ですか!今まで、偉そうなだけの人だと思っていてごめんなさい。
「ありがとうございます。……厚かましいことはご承知ですが、もう一つだけお願いがあります」
こちらも結構重要。今後の私の身の振り方が決まるので。
「シヴァンさんという方に連絡を取りたいのです。騎士だということしか分からないのですが、難しいでしょうか?」
オーナーには可愛く見えてるこの顔で、拝み倒す所存。
「……まあ、お前には感謝してるからな。なんとかしてやろう」
感謝?心当たりがないんですが。
「お前がいくらで買われたか知りたいか?」
ふふふ、と笑う様は気味が悪い。
「……いいえ、聞かないでおきます」
就職して生活が安定したら、クラウス様にお金を返したい。しかし無職の今、その金額を知ってしまったら……。プレッシャーに耐えられる自信が無い。
「それで、なんと伝えればいいのだ?」
「先日はたいへんお世話になりました。近日中にお会いしたいです、と」
シヴァンさんには責任を取ってもらおうと思う。私を誘惑したり、口を滑らせたりした責任は重いのだ。
お待たせいたしました。
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