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第十二話 ユウレスカ視点
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クラウス様がモンスター討伐に向かった。
そう聞いて、心が踊った。騎士のクラウス様が長剣で闘う。想像しただけでとてもかっこいい。あの仮面なら、ラスボスかダークヒーローが似合う。そう思っていたこともあったけど、正義の味方も悪くない。これはこれでいい。ファンタジー万歳!……なんて私は調子にのっていた。
その日の午後、クラウス様はご友人のシヴァンさんに担ぎ込まれるようにして帰宅した。
「怪我をして血を流しすぎたんだ。応急処置は済んでいるが、発熱がひどい」
シヴァンさんはそう言って、クラウス様を部屋まで運んだ。意識がないようで、ベッドに寝かされてもピクリとも動かない。
「こいつの熱が下がるまでは、私が泊まり込んで看病をする。君は下がっていてくれ」
彼は、寝所を整えた使用人だけでなく、私まで追い出そうとする。
「看病なら私がします」
クラウス様が目を覚まさなかったらどうしよう。そう思うと、いても立ってもいられない。部屋に戻ったところで何も手につかないだろう。
「そういう訳にはいかない。私はこいつの友人だ。君には任せられない」
私のことを信用できないと、彼は言いたいのだ。昨日会ったばかりだから、仕方がないけれど。
「絶対に死なせたりしません」
クラウス様を救いたい。私が彼と同じ思いを抱いていることを知ってもらいたい。
「……君は奴隷だ。その首輪、主人が死ねば外れると思うが……それでもそう言うのか?」
──私が奴隷身分から解放される?
考えたこともなかった。……屋敷の外の世界は確かに魅力的だけれど。そもそも、私が外に出たかったのは、街の巡回をする騎士のクラウス様を見てみたかったからだ。
「この先ずっと外れなくても構いません」
例え自由になれたって、クラウス様がいなければ、意味がない。今の生活だってそれなりに気に入っている。
私の覚悟を感じとったのか、シヴァンさんは懐から小瓶を取り出した。中には黄緑色の液体が入っている。
「ここに痛み止めがある。看病をしたいと言うのならば、君が飲ませてあげるといい」
見慣れない薬だ。安全なのか、そして副作用はないのか心配だ。しかし、今はこれしかないのだ。
「でもどうやって……」
意識のない人に薬を飲ませたことなどない。注射や点滴などの道具もない。
「口移ししかないだろうね」
衛生的に……とか言ってる場合ではないか。そうしよう。クラウス様には悪いけれど、時間が惜しい。私は「ごめんなさい」と心の中で謝って仮面に手をかけた。
そこから現れたのは、端正な顔立ち。柔らかな金髪に彩られた輪郭はシュッとしており、高い鼻筋と形の良い唇が神のごとき配置で置かれている。驚きと感動で言葉もない。……落ち着こう。私がこれからすることは医療行為だ。人命救助だ。
……だけど、本当にいいんですか?このお顔に?
シヴァンさんに視線をやっても、彼は何も言ってくれない。
小瓶の中身を少し口に含んで、顔を近づける。頬に手を当てると、熱い熱が伝わってくる。そして……。そう、これは医療行為。口内も熱い。零さないようにゆっくりと注ぐ。そして、私の舌をクラウス様の舌に絡ませて、嚥下を促す。……役得だなんて、ちょっとしか思ってませんからね。
「この瓶の中身、全部飲ませるんですか?」
やれと言われたら喜んでやりますが。
シヴァンさんを見ると、彼は呆気にとられたような顔をしている。……冗談だったとか、言わないよね?もうやってしまった後なので、ものすごく困ります。
「あ、いや、少量でも十分効果がある。……君はクラウスの顔を見たことがあったのか?」
確かに、見てはいけないものを見てしまった、その自覚はある。クラウス様の芸術作品のごときご尊顔は、国の宝だと言われても納得だ。
「いいえ。……あの、私が顔を見てしまったこと、そして薬を飲ませたことを黙っていてはくれないでしょうか」
クラウス様が顔面国宝だとしたら、私の命が危険だ。屋敷から出られない私を消すために国が動くとは思わないけど。
「元より、言いふらす気はないが……それはクラウスにも?」
できれば言わないでいただきたい。今もじわじわと羞恥心が込み上げてきている。クラウス様に知られたら、あの顔で問い詰められたら、私は多分爆発して死ぬ。
「……はい。お願いします」
シヴァンさんは不可解だと言いたげな顔で了承した。
「それじゃあ、私はもう帰るよ。……後は君に任せた」
仮面は避けておいて、おでこや首元を冷そう。同時に、濡らした布で汗や血の跡、泥などの汚れを拭き取る。左肩を負傷しているようなので、そちらには触れないように気をつける。
薬が効いてきたのか、次第にクラウス様の表情が和らいできた。本当によかった。早く目を覚ましてください、クラウス様。
そう聞いて、心が踊った。騎士のクラウス様が長剣で闘う。想像しただけでとてもかっこいい。あの仮面なら、ラスボスかダークヒーローが似合う。そう思っていたこともあったけど、正義の味方も悪くない。これはこれでいい。ファンタジー万歳!……なんて私は調子にのっていた。
その日の午後、クラウス様はご友人のシヴァンさんに担ぎ込まれるようにして帰宅した。
「怪我をして血を流しすぎたんだ。応急処置は済んでいるが、発熱がひどい」
シヴァンさんはそう言って、クラウス様を部屋まで運んだ。意識がないようで、ベッドに寝かされてもピクリとも動かない。
「こいつの熱が下がるまでは、私が泊まり込んで看病をする。君は下がっていてくれ」
彼は、寝所を整えた使用人だけでなく、私まで追い出そうとする。
「看病なら私がします」
クラウス様が目を覚まさなかったらどうしよう。そう思うと、いても立ってもいられない。部屋に戻ったところで何も手につかないだろう。
「そういう訳にはいかない。私はこいつの友人だ。君には任せられない」
私のことを信用できないと、彼は言いたいのだ。昨日会ったばかりだから、仕方がないけれど。
「絶対に死なせたりしません」
クラウス様を救いたい。私が彼と同じ思いを抱いていることを知ってもらいたい。
「……君は奴隷だ。その首輪、主人が死ねば外れると思うが……それでもそう言うのか?」
──私が奴隷身分から解放される?
考えたこともなかった。……屋敷の外の世界は確かに魅力的だけれど。そもそも、私が外に出たかったのは、街の巡回をする騎士のクラウス様を見てみたかったからだ。
「この先ずっと外れなくても構いません」
例え自由になれたって、クラウス様がいなければ、意味がない。今の生活だってそれなりに気に入っている。
私の覚悟を感じとったのか、シヴァンさんは懐から小瓶を取り出した。中には黄緑色の液体が入っている。
「ここに痛み止めがある。看病をしたいと言うのならば、君が飲ませてあげるといい」
見慣れない薬だ。安全なのか、そして副作用はないのか心配だ。しかし、今はこれしかないのだ。
「でもどうやって……」
意識のない人に薬を飲ませたことなどない。注射や点滴などの道具もない。
「口移ししかないだろうね」
衛生的に……とか言ってる場合ではないか。そうしよう。クラウス様には悪いけれど、時間が惜しい。私は「ごめんなさい」と心の中で謝って仮面に手をかけた。
そこから現れたのは、端正な顔立ち。柔らかな金髪に彩られた輪郭はシュッとしており、高い鼻筋と形の良い唇が神のごとき配置で置かれている。驚きと感動で言葉もない。……落ち着こう。私がこれからすることは医療行為だ。人命救助だ。
……だけど、本当にいいんですか?このお顔に?
シヴァンさんに視線をやっても、彼は何も言ってくれない。
小瓶の中身を少し口に含んで、顔を近づける。頬に手を当てると、熱い熱が伝わってくる。そして……。そう、これは医療行為。口内も熱い。零さないようにゆっくりと注ぐ。そして、私の舌をクラウス様の舌に絡ませて、嚥下を促す。……役得だなんて、ちょっとしか思ってませんからね。
「この瓶の中身、全部飲ませるんですか?」
やれと言われたら喜んでやりますが。
シヴァンさんを見ると、彼は呆気にとられたような顔をしている。……冗談だったとか、言わないよね?もうやってしまった後なので、ものすごく困ります。
「あ、いや、少量でも十分効果がある。……君はクラウスの顔を見たことがあったのか?」
確かに、見てはいけないものを見てしまった、その自覚はある。クラウス様の芸術作品のごときご尊顔は、国の宝だと言われても納得だ。
「いいえ。……あの、私が顔を見てしまったこと、そして薬を飲ませたことを黙っていてはくれないでしょうか」
クラウス様が顔面国宝だとしたら、私の命が危険だ。屋敷から出られない私を消すために国が動くとは思わないけど。
「元より、言いふらす気はないが……それはクラウスにも?」
できれば言わないでいただきたい。今もじわじわと羞恥心が込み上げてきている。クラウス様に知られたら、あの顔で問い詰められたら、私は多分爆発して死ぬ。
「……はい。お願いします」
シヴァンさんは不可解だと言いたげな顔で了承した。
「それじゃあ、私はもう帰るよ。……後は君に任せた」
仮面は避けておいて、おでこや首元を冷そう。同時に、濡らした布で汗や血の跡、泥などの汚れを拭き取る。左肩を負傷しているようなので、そちらには触れないように気をつける。
薬が効いてきたのか、次第にクラウス様の表情が和らいできた。本当によかった。早く目を覚ましてください、クラウス様。
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