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第九話 クラウス視点

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 ユウレスカとは、数日おきに会うようになった。

 彼女は案外お喋りで、庭のどの花が咲いたとか、美味しいアップルパイの作り方とか、他にも使用人から聞いた噂話とか、様々なことを話題にあげる。そして、庭に連れ出してくれたり、お手製のアップルパイを振舞ってくれたりする。

 俺はその一つ一つに驚かされ、彼女に振り回されながら、それが嫌だとは微塵も思わなかった。むしろ嬉しい。次は何をしてくれるのだろうと、次回のお茶会に思いを馳せているほどだ。今まで生きてきた中で今が最も幸せだと感じている。

 茶会の発端は俺の我儘だというのに、俺自身は口下手なので、案の定「何か困ったことはないか」を連発している。彼女からは心配性だと言われた。この言葉が俺自身が話題に困って持ち出したものだと分かると、クスクスと笑われた。自分の瑕疵を人に笑われて喜びを感じるのは初めての経験だ。なにより、彼女が笑うと可愛くて困る。

 対話を重ね、多少は俺に気を許してくれたらしい彼女は、俺の身分について尋ねた。誰にも教えられないから、聞いてはいけないものだと思っていたらしい。

 俺が貴族で、王家の血を引く公爵家の当主だと言ったら驚いていた。そして真剣な顔で「ただのお金持ちではなかったのですね……」と呟いた。また、俺の仕事が騎士だと伝えたら、「ダークサイドでなくてもこれはこれで……」などと言っていた。よく分からないが、彼女が楽しそうなので構わない。

 その後は騎士について根掘り葉掘り尋ねられた。どんな任務があって、どんな人と関わるのか。隊服は貸与なのか支給なのか。街の巡回とはいつどのようにしているのか。そして、自分も街に行きたいと言った。ものすごい熱量で。きっと彼女は外の世界を、自由を渇望しているのだ。

 攫われて、売られて、今は閉じ込められている。いくら彼女の周りの環境を良くしても、息苦しいに違いない。申し訳ないとは思う。だが、しかし……。

「君を屋敷の外に出すことはできない。諦めてくれ」

 彼女は目に見えてガッカリした。罪悪感は増すばかり。俺は心の中で、思いつく限りの言葉で自分を罵倒した。彼女のためには解放すべきだと分かっている。それでも、どうしても手放せないのだ。

「無理なことは仕方がありません。……先程、モンスターを討伐したと言いましたよね。それについて詳しく教えてくれたら諦めましょう」

 自己嫌悪で死にたくなっていたところで、彼女は明るく話題を変えてくれた。にこりと微笑みまでして、こんなにも最低な俺のことを励まそうとしてくれている。

「そんなことなら、いくらでも話そう」

 君がそばにいてくれるなら、なんだってしよう。この鳥籠をよりよくするために、金も時間もこの身もすべて捧げよう。君の唯一の願いは叶えられないけれど、それでも。

 どうか、俺を嫌わないでくれ。


 
投稿お待たせいたしました。
本作は一話が短いため、読み応えがないのではないでしょうか。そんな心配をしつつ、皆様の応援に励まされ執筆しております。
亀の歩みではありますが、もう暫く続きますので最後まで見守っていただけますと幸いです。
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