月のない夜 終わらないダンスを

薊野ざわり

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#32

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 ぬるい湯に浸かっているような気分だった。
 無重力空間というのはこんな感じかしら。極彩色の上も下もない空間にわたしは座っていた。

 はっとして自分の両手を見る。そして安堵した。大丈夫、ちゃんとまだ『わたし』だった。『わたし』の境界線は残っている。同化なんかしてない。

 わたしはあの肉色天使に取り込まれてしまったのだろう。でもまだ完全には同化されていない。

 それにしても、気持ちの悪い場所。水に油膜が張っているように移り変わる色に目が回りそう。ここでうっかり自分を見失ったら、きっとこの流れに溶け込んでしまうのだろう。

 まわりを見回すと、窓のようにぽっかり開いた部分を見つけた。のぞき込んでみる。

「ユリアンっ」

 見覚えのある金色頭が見えた。身を乗り出すと、ぐいと引力が働いて、わたしは窓の中に落ちた。

「あいたっ」

 尻をさすりながら立ち上がる。ぼんやりと立っているユリアンがいた。

「なにをぼんやりとしているの! こんなところ、早く出ないと」

 しかし、ユリアンのヘーゼル色の瞳はわたしを見ない。虚空を見つめている。焦燥に駆られて、その腕をつかんで揺すったが、

「なにっ?!」

 ずぶずぶと、まるで境界を失ったようにわたしの手がユリアンの腕にめりこんだ。

 ぞっとして手を放そうとしたが、それより早く腕を伝って脳髄がしびれるほどの強烈な感情が流れ込んできた。

 ――怖い、怖い、怖い!
 何か大きな黒い影が迫ってくる。
 ――痛い、痛い、痛い!
 刺された脇腹、くるぶし、背中。
 ――寂しい、寂しい、寂しい……。
 両親の笑顔、老神父の優しい声、終わりの見えない未来。
 ――つらい、重たい、苦しい……!
 残されたもの、自分という存在。

 そして訪れる、かすかな安寧。

 どっと押し寄せたとても受け止めきれない波は、ちかちかと幻像を見せる。あまりの重みにわたしは膝をついた。脳裏にコントラストの強い映像が広がる。

 くるくるまわる仮面の色の波。ドレス姿の少女が面を差し出して微笑む。わたしがそれを受け取ると突如現れた金色の人が、部屋中に烈風を巻き起こし、人がなぎ倒されていった。
 飛び散る血しぶきに目を背けると、その先にうつろな目をした老神父の姿があった。腹部に大穴を開けて、ただ淡々と祈りの言葉を口ずさんでいる。その横にずらりとならんだキャソックの群れは、飽き飽きした顔で高説を聞く振りをしている。降ってくる声は、爆音に変わった。
 赤と黒の爆風が視界を占領する。肌に熱が叩きつけられ、体が宙を舞う。次々と降って来る雨のような爆弾の動きが、妙にゆっくりになった。黒光りする爆弾にまぎれて軍服を纏った女が、ふわりと空から降りてくる。それは故郷に残してきた妻だ。幼い息子とともに自分の帰りを待っているはずの妻がなぜここにいるのか。わからないが、彼は手を伸ばす。遺体だらけの戦場に、女神が舞い降りる。
 豪奢で厳かな宗教画に囲まれた部屋の床に何人もの影が伸びている。それは中心の彼らを囲む聖職者らの円陣だ。彼はキャソックの群れの視線を意識しながら、向かい合った男に問う。お前は悪魔と契約したのか、と。男はおびえた様子で、いいえ違います女神にめぐり合いました、と答えた。素朴な顔立ちの男は、ただの農夫だ。しかし疑いがあった。魔女と通じ合ったという疑いが。彼は再び問う。その女は何か怪しい技を使わなかったか。男は答える。女神様は俺に祝福をくださいました。周りのキャソックの群れが、十字を切る。彼もそれに倣った。引っ立てられた男は怯えた悲鳴をあげて彼のキャソックにすがった。屠殺される前の子牛に似ている。彼の胸に小さな痛みが走る。それこそ悪魔に付け入られる隙だと、心を戒めた。キャソックの端が破れる音がした。悲鳴と絡んで音が響く。

 目を開けるとわたしの手の輪郭が揺らいでユリアンの腕にとけ込んでいた。荒い息のリズムを無理やり深呼吸で整えて、強く自分の腕を意識する。
 わたしの手はこんな形。わたしの手はこんな色。爪の形。爪の色。小さなころ鉛筆を刺してしまって、残ってしまった傷跡の位置。

 すると、わたしの手は彼の腕からぐっと押し出された。額に浮いた汗を手の甲でぬぐって、彼から一歩離れる。ユリアンは依然としてその場に立ち竦んでいる。

 今のは、ユリアンの心中? 記憶と感情の波? それにしては一貫性のない映像だったし、流れ込んでくる彼の感情は、これがあの自信家のものかと思うほど不安定でおびえていた。

 入り乱れた映像には、気になる部分があった。明らかに戦場、しかも近代の戦場とわかる映像と、まるで裁判のような映像。あれは、クラウディオとレオの記憶なのではないだろうか。クラウディオは刻印を受けたのは戦場だったと言っていたし、レオは異端審問を行っていた。それがまるでユリアン自身が体験したように主観で鮮明だったのは、ユリアンが二人と記憶を共有したからに違いない。

 ユリアンのヘーゼルの色の瞳を見つめる。焦点があっていないそれはいつになく頼りなく、まるで彼がただの人であるかのように錯覚させる。途方も無い時間と記憶、それから処理しきれない感情に飲み込まれて茫然と立ちすくんでいる迷子。

 いや、ユリアンもやはり、人なのだろう。
 何年生きようが、何年神を追及しようが、体が狭間の者だったとしても彼は人だ。

 痛みに、未来に、自分に。口には出さずとも、彼も怖いのだ。いつか自分が揺らいで、精神世界に溶けていってしまうことが。己を失うことが。それを必死にほかのことで押し込めて、余裕のある振りをしてきた。それはあまりに人間らしくないか。己をよく知るレオを、わざと泳がせているのもそのせいに違いない。

 自分を見失うこと――同化してしまうこと。

 それを恐れているくせに、なぜ今彼は同化しつつあるのかしら。

 心地よいから。痛みすら、同化してしまえば己だけの苦しみではなくなる。薄まった自我には、痛みはなんの意味もない。

(でも、そんなのらしくない)

 高いところにあるヘーゼル色の宝石をにらみつけた。ぼやっとしている宝石は、美しいと思えなかった。あの生気がみなぎった強さこそ、この目にふさわしい。それを取り戻すために、わたしができることが一つだけあった。

 腕を回して、強く抱きしめる。
 めりこみ始めた皮膚に向けて、強く、強く強く念じた。

「ちょっとユリアン、いい加減しっかりしなさいよ! わたし、あなたなんかと同化したくない。わたしの歴史はわたしのもの。あなたの歴史はあなたのものよ。ちゃんと死んでピリオドが打たれるまで、絶対に放棄しちゃいけないわ」

 またあの映像が頭の中に広がる。共有部分を強く意識する。
 共有できるのは体と記憶だけじゃない。感情だって共有できるはずだ。

「それともあの生ソーセージ野郎に全部譲っていいの」

 ぴくりと、解け合った部分が脈動した気がした。

「今まで積み上げてきたものを簡単に放棄しちゃうようなひとなの、あなた」

 そうじゃないだろう。ユリアンは誰よりもそんな人間じゃない。
 わたしの思いを否定するように、共有部分が押し返される。わたしはとにかくその力に逆らった。反対にユリアンを取り込むイメージ。わたしの気持ちが伝わるように。

 しかしそれは共有状態を維持することより難しかった。レオが言っていたことの意味が今ならわかる。同化によって自分が相手を取り込みながら戦うのは難しい。体中で、異物が暴れまわるのは、身体的な痛みではない苦痛が伴った。血管中を砂が流れているみたい。

 強制的に思考が散漫となる。ばらばらになりそうな意識をやっとの思いで繋ぎとめて、わたしは叫んだ。

「年代記も完成させないで、レオとの決着もつけないで、わたしのこと守るって言ったのも忘れて、取り込まれちゃうってわけ? ユリアン・アルホフ、ダサすぎるわよ!」

 だめかもしれない。
 ユリアンはぴくりともしない。
 わたしの意識は限界だ。体もぐずぐずになって、自分の――自分がよく思い出せない。
 わたしの中のユリアンが、叫んでいる。長い長い生の苦しみから解放されることを喜んでいる。泣きながら喜んでいる。嬉しいのに悲しい。
 わたしは彼に問いかける。

(かみさま、ちゃんとみつけていたくせに、それもわすれちゃうの……)

 意識が、白い粒となって弾ける瞬間、ヘーゼルの色の目の残像を見た。



 蝶は羽化するとき、こんな気持ちなのだろうか。背筋が歓喜でふるえるような解放感。それはすぐ背筋がぞわっとする浮遊感に変わった。そして硬いものに叩きつけられた衝撃。

 驚愕の表情のレオとクラウディオが目に入った。

 わたしは埃まみれの床に這いつくばる。全身の感覚が鈍い。同じ体勢のユリアンが隣にいる。彼の両目はしっかり開かれ、いつになく輝いていた。そこに、すさまじい光が差し込んだ。ヘーゼル色の目が黄金に染まる。
 肉色のさなぎが浮いていた。それがあの天使の姿だとすぐにわかった。

『おおおおぉぉおおおぉっ』

 蛹は、背中が裂けていた。身悶えする体の内は、共有のときに見られるあの極彩色の色の洪水だ。体液は一滴もこぼれないが、あふれる光によって、そいつの力が傷口から流れ出しているのがわかった。

 ここで、こいつとの決着をつけなければ。確信を持って、四つん這いで床に転がっていたベレッタに手を伸ばす。針のように細くなった触手が邪魔をするように、わたしの手の甲めがけて伸びる。だが目に見えてそれは遅くなっていた。
 横合いから投げられたレオの剣の片割れが、旋回しながらそれを切りとばす。しかし、切り口から木の枝のようにもう一本の槍が生まれ、ベレッタを弾き飛ばした。

「イノリ! 受け取れ!」

 クラウディオが、わたしに向かって自分の拳銃を滑らせる。触手の槍が彼の頬をかすめ、空中に小さな血の珠を飛散させた。

 わたしはいつになく落ち着いた気持ちで、手の内の銃を蛹に向けていた。
 トリガーは、あの日、あのユリアンに攫われた夜ほど重くない。

 弾丸が、吐き出される。

 音が耳に届くたび、蛹の表面にひびが入った。硝子に小石をぶつけたように。

『おのれ、おのれっ……!』

 耳が痛くなるような怨嗟の声。
 トリガーが軽くなる。弾切れだ。渾身の力で、銃本体を金ぴかに投げつけてやる。ぼが、と間の抜けた音がした。

「おう、さっきまでの勢いはどうしたよ、半身様。それともやっぱり昼間じゃ、オレ達には敵わねえか?」

 ゆらり、とユリアンが立ち上がっていた。その手には、なぜか、わたしの杖。

「ちょ、それ、わたしの」
『吾の、われの、はん、しんっ』

 再びユリアンを取り込もうというのか。蛹の口ががばりと開いた。

「残念。次の新月まで、お預けだ!」

 どこの野球選手だろう。ジャケットの袖を肘までたくしあげたユリアンは、思いっきり杖を振りかぶると、迫っていた肉色のアメーバを打ち据えた。
 固いものが砕ける音が聖堂内に響く。

『ああああああああああああああああああああああああああああああ』

 耳が痛くなるような絶叫を残して、蛹は虚空に霧散した。
 その欠片は、黎明の陽光を浴びると、まるでダイヤモンドのようにきらきらと輝いた。そしてすうっと透明になり、消えた。

 その様を、わたしは這い蹲ったまま眺めていた。

 陽光が、どんどん強くなっていく。
 長い新月の夜が明けようとしていた。

「どーにか、退けたな」
「そのようね」

 ユリアンは、どさりと腰を下ろした。うつぶせのわたしに向けて、杖を放ってくる。小汚いといいたくなるほど、満身創痍だ。わたしも、彼も。そして、他の二人も。

「イノリ! 無事だったのか。よかった……!」
「アルホフ、相変わらずしぶといな。そのまま召されてしまえばよかったのだ」

 レオとクラウディオに、温かな言葉をもらい、もみくちゃにされた。立つのも精一杯なのか、レオはクラウディオに支えられている。
 ユリアンと顔を見合わせると、笑みと安堵の息が同時に漏れた。

「焦ったわ、とても。だって、あなた、存外簡単に同化されそうになっているんだもの」

「いやいやいやいや。オレは抵抗してたぞ、激しく。そりゃもう全力で」
「ふうん……。否定はしないけれど……。ユリアンって、意外とナイーブだったのね」

 いつもからかわれているので、意趣返しだ。これが思いのほか効果が大きかった。

「オレがナイーブ? 違うね、イノリがガサツなんだ。おい、クラウディオ、信じられるか? こいつ、オレがダサいから同化したくないとか酷いこと言うんだぜ」

 両手をついて脱力して座っていたクラウディオだが、ユリアンに話かけられると片方の眉をつりあげた。

「あたりまえだ。なぜ、お前とイノリが同化しなければならない」
「あーあーあーあー! オレ、知ってる。これ、中国じゃあ『四面楚歌』って言うんだぜ」
「よく知っているじゃない」

 くすりと笑うと、ユリアンは憮然とした顔で肩をすくめ、首を振った。血を吸った髪がぱさぱさと音をたてる。

「そういえば。わたし達、どうして出てこられたの? もう、駄目かと思ったのに」

 問うと、彼は驚いた顔をした。

「覚えてねえのか、あんた」
「何を?」
「……はあ。ま、そんなもんかな。オレとしては、結構感動の瞬間だったんだけど」

 少し落胆したような、安堵したような顔でユリアンは、聖母のステンドグラスをながめた。こぼれる色とりどりの光が美しい。

「なんつーか、オレ、神様に愛されてるわ」
「意味不明……。大丈夫? やっぱり具合悪い? 頭も打った?」

 すると、ユリアンは流石にかちんときたのか、口元に意地悪な笑みを浮かべてわたしの額を指で弾いた。ばちんとものすごい音がした。衝撃も十分。

「い、痛い! 何するの!」
「これから何年経ってもあんたと同化するのは勘弁だな。あんな朝寝坊の子供をたたき起こすような、ロマンのない助け方、あんまりだ」
「それはこっちのせりふよ。ふつう、こういうのって、ピンチに陥ったプリンセスをヒーローが格好よく助けるものでしょう。逆じゃない!」
「恋愛小説の読みすぎじゃねえの」
「歴史小説ばかり読むなって言ったの、誰」
「おおっと、そうだった。せいぜいオレの本を熟読して、勉強してればいいさ」
「なんであなたの本なのよ。言っとくけれどね、わたしの敬愛するチャンはね、あなたみたいなちゃらんぽらんじゃなくて、奥深い歴史観と見てきたようなリアリティ溢れる描写の、……見てきたような……、……え、うそ、まさか?」
「やっぱり、あんたばっかだよなー。今頃気づいてやんのー」

 せせら笑うその横腹につついてやる。
 痛がるユリアンは見ものだが、自分も怪我に響いてうずくまるはめになった。
 涙目でにらみ合い、同時にそっぽをむく。

「……ところで、そろそろ救急車を呼ばないと、彼、死ぬぞ」

 クラウディオの言葉に振り返ると、大の字で倒れたレオがいた。完全に意識がない。
 さっきから静かだと思ったら……!

「ユリアン、スマホ!」
「放っとけ、そんなの」
「いいから、寄越しなさいよ! そうじゃないと、あなたがチャンだって触れ回ってやるんだから!」
「あーもうわかったよ! 絶対言うなよ!」
「イノリ、ほら、ハンカチだ。変な菌がついていたら困るから、拭いてから使うんだぞ」
「おいおいおいおいそれ、酷くない?」
「ああもう、うるさい! とにかく、レオっ、しっかり!」

 そして、日が昇り、慌しく一日が始まった。
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